電話ボックスに金魚を入れた作品に関する著作権の裁判例です(奈良地裁)。
●判決文(https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/837/088837_hanrei.pdf)
●原告訴状(https://narapress.jp/message/2018-09-19_complaint.pdf)
原告作品
被告作品
2作品は、電話ボックスや電話の色や形などが異なりますが、金魚を入れている点と、気泡が出る受話器が水中に浮いている点が共通しています。
裁判所は、原告作品について、以下の2点については著作物性は無いと述べています。
①公衆電話ボックス様の造形物を水槽に仕立て,その内部に公衆電話機を設置した状態で金魚を泳がせていること,②金魚の生育環境を維持するために,公衆電話機の受話器部分を利用して気泡を出す仕組みであること
一方で、裁判所は、原告作品について、以下のように『著作物』と認めている部分があります。
「公衆電話ボックス様の造作物の色・形状,内部に設置された公衆電話機の種類・色・配置等の具体的な表現においては,作者独自の思想又は感情が表現されている」
この奈良地裁の裁判では、両作品に同一性はないとして、原告は負けました。
原告は、大阪高裁に控訴しているようです。
所感
両作品は、コンセプトは同じですが、一般的な感覚からすれば、パッと見たときの印象は大きく違うでしょう。
あくまでも具体的な表現の模倣を規制する著作権法の枠組みでいえば、原告の敗訴という結果は妥当に思います。
もちろん、無断でアイデアを実行することが良いか悪いかは別問題ですが。
奈良地裁の判断についていえば、受話器から気泡を出すことについての創作性を『もともと穴が開いている受話器から発生させるのが合理的かつ自然な発想である。』として創作性を否定していますが、これは無理やり感があり、この点は控訴審で、創作性を主張する価値はあるでしょう。
また、受話器を水中に浮かべている点は、一応、「検討」の説示部分で、奈良地裁は『具体的表現』と認め、そこは両作品で共通していると認めていますが、原告側は、この点を主張していなかったように見えるので、控訴審では、主張してよいのかもしれませんね。
なお、このような、いわゆる「コンセプチュアル・アート」は、現行の著作権法と相性が悪いです。
「コンセプチュアル・アート」を法的に保護すべきかどうか、保護するとしたら著作権法でやるのかなどを含めて、今後の議論の対象になっていくかもしれません。