デング熱,チクングニア熱、および、ジカウイルス感染症は、アフリカを起源とする蚊が媒介する感染症である。
- 発熱と全身の発疹を特徴とし、鑑別が難しいことで知られる。
- 近年では,アジア,中南米を中心に流行している。
- デング熱,チクングニア熱といった蚊媒介ウイルス感染症の輸入症例は,増加傾向にある。
- 日本では輸入感染症として捉えられていたが、デング熱は2014年に国内感染例が報告され、近い将来、国内で大きく拡散する可能性がある
デング熱
デング熱はフラビウイルス科フラビウイルス属のデングウイルスによって起こる発熱性疾患で,4つの血清型がある。
ネッタイシマカ(Aedes aegypti)やヒトスジシマカ(Aedes albopictus)などのヤブ蚊属(Aedes spp. )の蚊が媒介する。
20-50%が、3-7日の潜伏期間を経る。
典型的なデング熱は突然の発熱と関節痛,筋肉痛,頭痛などの痛み。
痛みは激しく,流行地ではbreakbone feverとよばれることもある。
およそ半数の症例で発病後やや遅れて発疹が出現。
発疹は体幹から顔面および四肢に出現し、激しい場合は島状に白く抜ける紅斑とな
る。
発熱はしばしば二峰性を示し3~4日間持続し解熱するが、再度発熱する.
発病数日後に、血小板減少、白血球減少をきたし、しばしば肝機能異常がみられる。
通常は1週間前後の経過で回復する。
少数の症例は,重度な出血傾向,血漿漏出傾向,臓器不全傾向を示し,こうしたケースは重症型デング(SDF)と呼ばれる。
顕著な血小板減少及び血管透過性充進(血漿漏出)を伴うものがデング出血熱(DHF),特にショック症状を伴うものがデングショック症候群(DSS)である。
診断するための保険適用の検査は、つぎのものがある。
- ELISA法(材料は血清) デングウイルス抗原定性〈デングウイルス非構造タンパク(NSl)抗原〉
- イムノクロマト法(材料は血清) デングウイルス抗原及び抗体同時測定定性〈デングウイルスlgM抗体・NSl抗原〉
地方衛生研究所や国立感染症研究所では,ウイルス分離,中和抗体試験,RT-PCR法なども行われる。
チクングニア熱
チクングニア熱は、トガウイルス科アルファウイルス属のチクングニアウイルスによって起こる熱性疾患である。
チクングニアウイルスは、1952年にタンザニアにて初めて分離された。
「チクングニア」の語源は、タンザニアのマコンデ語で、体を折り曲げるという意味で、患者が関節の痛みで腰をかがめる姿を表しているとされる。
デングウイルスとは異なり単一血清型のウイルスである。
潜伏期間は多くは3~7日。
突然の発熱、多発性関節痛、発疹筋肉痛、頭痛などのデング熱と似た急性症状を示す。
ネッタイシマカや、ヒトスジシマカが、チクングニァウイルス感染を媒介する。
チクングニアウイルスに対するワクチンはまだ実用化されていない。
チクングニアウイルス感染症の検査については、まだ、国内に製造販売承認されたチクングニアウイルスの抗原検査試薬はない。
地方衛生研究所又は国立感染症研究所において,ウイルス分離,中和抗体試験,RT-PCR法,特異的lgM抗体検出等で診断される。
ジカウイルス感染症
ジカウイルス感染症はフラビウイルス科フラビウイルス属のジカウイルスによって起こる疾患で、チクングニア熱同様、単一の血清型である。
ジカウイルスは、1947年にウガンダのジカ森林のアカゲザルから初めて分離され、ヒトからは1968年にナイジェリアで分離されたとされる。
ジカウイルス感染症を媒介する蚊は,主にネッタイシマカ(Aedes aegypti)とヒトスジシマカ(Aedes albopictus)である。
多くの症例で皮疹が認められる。
発熱は38.5度以下である場合や、認められない場合が多く、患者の多くは後遺症なく治癒する。
母体から胎児への経胎盤感染により小頭症などの先天異常をきたす場合がある(先天性ジカウイルス感染症)。
先天性ジカウイルス感染症に関し、2016年2月1日にWHOは「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態(PHEIC)」を宣言した。
現時点で,国内で製造販売承認された検査試薬はない。
確定診断には地方衛生研究所や、国立感染症研究所などの専門機関でのウイルス分離、中和抗体試験、RT-PCR法、特異的lgM抗体検出等の検査が必要である。
治療法は対症療法しかなく、ワクチンは開発中である。