アルブミンと栄養評価の解釈の変遷について、時系列でまとめます。
アルブミンと栄養評価の変遷
2010年:栄養サポートチーム加算の新設
2010年の診療報酬改定において、栄養サポートチーム(NST)加算が新設されました。この加算の対象患者の一つとして、「血中アルブミン値が3.0 g/dL以下であって、栄養障害を有すると判定された患者」が含まれていました。この時点では、アルブミン値が栄養状態を反映する指標として広く認識されていたことがわかります。
2012年:ASPENとANDの共同報告
2012年、米国静脈経腸栄養学会(ASPEN)と米国栄養士会(AND)の共同報告において、血清アルブミンやプレアルブミンは栄養状態を示す指標ではなく、炎症の重症度を反映する指標であるとの見解が示されました。この報告は、アルブミンの栄養指標としての役割に疑問を投げかける重要な転換点となりました。
2016年:ASPENとSCCMの共同報告
2016年には、ASPENと米国集中治療医学会(SCCM)の共同報告で、重症患者や術後患者の栄養評価にアルブミンなどの血清タンパク質マーカーを用いないことが推奨されました。これにより、アルブミンの栄養指標としての使用に対する批判がさらに強まりました。
2020年:ASPENのポジションペーパー
2020年10月、ASPENは重要なポジションペーパーを発表しました。このペーパーでは、「アルブミンは栄養状態を示すものではなく炎症を示すものである」と明確に述べられています。具体的には以下の点が強調されました。
- 血清アルブミンやプレアルブミンは現在認められている栄養不良の定義の構成要素ではない
- 血清アルブミンやプレアルブミンは総タンパク質や総筋肉量の代理測定値として機能しない
- したがって栄養マーカーとして用いるべきではない
- 血清アルブミンやプレアルブミンの低下は炎症マーカーである
このポジションペーパーは、アルブミンを栄養評価に用いることへの批判的見解を決定的なものとしました。
2024年:令和6年の診療報酬改定とGLIM基準の採用
令和6年(2024年)の診療報酬改定において、GLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準が採用されました。GLIM基準は、低栄養の診断及び栄養治療における世界的な基準のニーズに応えるものです。この基準の採用により、アルブミン値のみに依存しない、より包括的な栄養評価方法が推奨されるようになりました。
結論
この変遷を通じて、アルブミンの栄養指標としての役割は大きく変化しました。当初は栄養状態を反映する重要な指標とされていましたが、現在では炎症マーカーとしての役割が強調されています。栄養評価においては、アルブミン値だけでなく、摂取量、体重変化、筋肉量、身体機能など、多面的な評価が重要であるという認識が広まっています。今後の栄養管理においては、これらの新しい知見を踏まえた包括的なアプローチが求められるでしょう。