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臨床的ブレイクポイントとは

定義

臨床的ブレイクポイントとは、希釈法により測定したMIC値において、臨床的に治療効果が期待できるMIC値と、期待できないMIC値との分岐点を意味します。

また、ディスク拡散法により阻止円直径を測定した場合では、臨床的に治療効果が期待できる阻止円直径と、期待できない阻止円直径との分岐点を意味します。

補足

検査室では、マイクロプレートなどを用いた希釈法により、抗菌薬のMIC(最小発育阻止濃度)を測定したり、あるいは、ディスクを用いたディスク拡散法により、発育阻止円直径を測定しますが、これは、in vitro (試験管内)条件での測定結果にすぎず、簡単には、in vivo(臨床)に適用できません。

なぜなら、ヒトの組織中での細菌および薬剤の挙動は、in vitroと同一では無いため、感染部位において抗菌薬の濃度をMIC値と同じ濃度にしたからといって、組織内での発育が阻止できるとは限らないからです。

そこで、臨床試験などの結果を基に、臨床的な観点からブレイクポイントを決定します。

臨床的ブレイクポイントは、希釈法で設定する場合は、MIC値(μg/ml)で表されます。また、ディスク拡散法で設定された場合は、阻止円直径(mm)で表されます。

なお、臨床的ブレイクポイントの数値を提唱する団体として有名なものに、EUCASTがあります。

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微生物学的ブレイクポイントとは

定義

微生物学的ブレイクポイント(細菌学的ブレイクポイント)とは、希釈法により測定したMIC値において、抗菌薬の効果が期待できるMIC値と、期待できないMIC値との分岐点を意味します。

微生物学的ブレイクポイントは、臨床微生物の分野では、CLSIがブレイクポイントの設定に参考にしていることで知られています。

補足

微生物学的ブレイクポイントの設定するときは、まず、特定の菌種の菌株を多数用意し、抗菌薬のMIC値を、各株について詳細に測定します。

そして、MIC値を横軸にし、菌株の数を縦軸にして棒グラフを作成すると、原則として、MICの分布は、二峰性を示します。

原則的には、この分岐点を、感性側と耐性側を分けるブレイクポイントとして設定します。

なお、MIC値の分布が連続的になる場合(二峰性を示さない場合)は、薬剤耐性の原因を調べ、その結果を考慮してブレイクポイントを設定します。

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CLSIとEUCASTの違いとは?

EUCAST(European committee on Antimicrobial Susceptibility Testing)と、CLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute)は、ともに、薬剤感受性試験成績を解釈するための基準(= ブレイクポイント:BP)を提唱する団体です。

ここで、ブレイクポイント(BP)とは、抗菌薬の薬剤感受性試験によって得られる最小発育阻止濃度(MIC)などから、抗菌薬の治療効果を予測するために使用する基準値です。

ブレイクポイントには、「微生物学的ブレイクポイント」と「臨床的ブレイクポイント」とがあります。

EUCASTとCLSIの違いは?

さまざまな違いがありますが、たとえば以下のものがあります。

BPの設定方法

EUCASTの内容は、臨床的ブレイクポイントが主体であるのに対し、CLSIの内容は、微生物学的ブレイクポイントが主体です。

すなわち、両者はブレイクポイントの設定方法が異なります。

判定結果

EUCASTは、薬剤感受性試験結果を、ブレイクポイントによって、有効(S)、中間(I)あるいは無効(R)に分類します。

一方、CLSIは、薬剤感受性試験結果を、ブレイクポイントによって、感性(S)、中間(I)、用量依存(S-DD)、あるいは、耐性(R)に分類します。

費用

EUCASTは情報を全て無料で公開していますが、CLSIは有料です。

耐性菌か否かの判定

菌種によりスクリーニング方法が異なる場合があります。

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エンピリック治療とは?(enperic therapy)

定義

エンピリック治療(enperic therapy)とは、「経験的治療」とも呼ばれ、医師が経験に基づいて行う治療のことを意味し、特に感染症に対して、原因菌が判明する前に実施されるものです。

すなわち、微生物検査の結果が出る前に、想定する起因微生物をカバーする抗菌薬で治療することを意味します。

解説

一般に、医師は、患者の症状、病歴、年齢、性別などから、患者が細菌性の感染症に罹っていると疑ったとき、生化学検査や画像検査などの必要な検査を実施し、さらに、感染を疑う部位から検体を採取して細菌検査(塗抹•培養•同定•感受性)を実施します。

ここで、理想的には、全ての検査結果が出揃ってから、検出菌の中から起炎菌を推定し、その菌に対して効果がある抗菌薬を選択して投与できれば、最も確実な治療が行えることでしょう。

しかし、大半のケースでは、患者の回復を優先する必要があるため、検査結果が出揃う前に、経験則をもとに、早急に抗菌薬を選択・投与して、治療が開始されます。

たとえば、細菌による感染性胃腸炎を疑う場合は、検出頻度の高い菌(下痢原生大腸菌、キャンピロバクター、サルモネラなど)に対応可能なホスホマイシンやニューキノロンを処方します。

また、フォーカス(感染源)が不明な敗血症のように、起因菌の推測が困難な重症例のときは、第三世代セフェム系やカルバペネム系などの様々な微生物に効く抗菌薬(広域スペクトルの抗菌薬)を投与して治療が開始されます。

これがエンピリック治療です。

なお、広域スペクトルの抗菌薬でエンピリック治療を行う際に選択する抗菌薬は、通常、病院の抗菌薬の使用方針や、各種学会の抗菌薬の使用ガイドラインなどの選択基準を参考にします。

原因菌が同定された場合には、アンチバイオグラムを参考に、あるいは、感受性試験の結果が出た場合には、その結果を基に、狭域スペクトルの抗菌薬に変更されることが望ましいです。

これは、抗菌薬のデエスカレーションと呼ばれます。

これにより、広域スペクトル薬に対する耐性菌が出現する確率を減らすことができ、また、より安価な薬に変更できれば、医療費が抑えられます。

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アンチバイオグラムとは?

定義

アンチバイオグラムとは、細菌ごとの抗菌薬感受性率表のことです。

解説

病院などの施設では、微生物検査室が、検体から検出された菌に対して、どのような薬が効果があるのかを検証しています(感受性試験;antimicrobial susceptibility test data;antimicrobial susceptibility testing)。

なお、検証方法には、ディスク拡散法や、微量液体希釈法、Etest®などがあります。

その結果を基に、薬に対する感受性を、S(感性)、I(中間)、あるいはR(耐性)で判定し、臨床側に提供しています。

S、I、Rの判定基準は、CLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute、臨床・検査標準協会)の設定した基準(ブレイクポイント:BP)が用いられることがほとんどで、一部、日本化学療法学会(JSC)の設定するBPを用いる施設もあります。

また、施設によっては、EUCAST(European committee on Antimicrobial Susceptibility Testing)の設定したBPを用いて、S(有効)、I(中間)あるいはR(無効)で判定しています。

その判定結果を、施設ごとに(施設によっては更に診療科ごとに)、統計処理してまとめた表が、アンチバイオグラムです。

この表では、特定の菌種が、抗菌薬に対し、S(感性/有効)、I(中間)、またはR(耐性/無効)を示す確率(%)を記載しています。

たとえばの話ですが、新規外来患者を対象に実施した細菌検査において、一定期間の間に、黄色ブドウ球菌を100検体から検出した場合に、そのうちの95菌株がアルベカシン(ABK)にS(感性)を示し、4菌株がI(中間)を示し、1菌株がR(耐性)を示したとすれば、Sは95%、Iは4%、Rは1%と記載されます。

アンチバイオグラムを見れば、検出菌の同定試験の結果が報告された後から感受性試験の結果が報告される前までの間に、有効な抗菌薬を選択したり、投与計画を練ったりするための有用な参考情報となります。

とくに、第三世代セフェムや、カルバペネムなどの広域スペクトルの抗菌薬から、狭域スペクトルの薬に変更するとき(デ・エスカレーション)の参考情報となる点がメリットです。

アンチバイオグラムを参考に、より効果の高い抗菌薬に変更することで早期に治療が完了したり、耐性菌の出現を抑制したりすることが可能です。加えて、より安価な薬に変更できれば、医療費を下げることもできます。

つまり、アンチバイオグラムを用いて治療すれば、従来の経験的治療(エンピリック治療、エンピリックセラピーとも呼ばれる)に比べて、適切な抗菌薬を選べる確率が高まります。

さらに、毎年のアンチバイオグラムを作成することによって、薬剤耐性菌の動向を把握することもできます。

なお、近年は、質量分析装置(MALDI/TOFMS)や遺伝子検査により迅速に菌名が同定できる環境が整い、敗血症などの重症例にアンチバイオグラムが極めて大きな貢献をするようになりました。

課題

施設間でアンチバイオグラムを比較すること、ならびに、地域レベルのアンチバイオグラムを作成することに難しさがあります。

その原因は、アンチバイオグラムを作成するときのデータの抽出方法です。

ひとりの患者の複数部位から同一菌種が検出された場合の処理方法や、治療後に一定期間経過した後に同じ菌が患者(特に入院患者)から検出された場合の処理方法などに、色々な考え方があり、施設ごとに採用している方法が、完全に同一ではないためです。

よって、地域の施設間で、アンチバイオグラムを作成する際の統計処理方法を統一することが重要と言われています。

なお、CLSIは、アンチバイオグラムの作成方法に関し、ガイドラインを打ち出しています。

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AST-抗菌薬適正使用支援チームとは?

ASTとは、抗菌薬適正使用支援(Antimicrobial Stewardship:AS)を行うチームのことです。

このチームは、医師、看護師、薬剤師、検査技師などから構成されています。

ASTは、感染症を発症した患者が、適切な抗菌薬治療をされているかどうかを専門的にチェックし、必要に応じて、処方医への支援を行います。

目的は治療効果の向上ですが、デエスカレーションの提案などを通じて、耐性菌の出現を防いだり遅らせたりできる副次的効果も期待できます。

一方、AST以外にも、感染に関するチームが存在します。

感染制御チーム(Infection Control Team:ICT)」と呼ばるチームで、耐性菌が拡散しないように取り組む活動をしています。

ICTは、感染防止対策加算という保険診療上で評価される仕組みが導入されています。