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医療

アールノート(Ro)と集団免疫

アールノートの定義

感染症の感染性(伝播能力)の指標に,「基本再生産数」と呼ばれるものがあります。

集団にいる全ての人間が感染症にかかる可能性のある(感受性者)状態で、1人の患者が何人に感染させうるかを示す数字です。

この「基本再生産数」は、英訳すると、basic reproduction number となります。

R0で表されます。

Rは、reproduction の頭文字で、0はドイツ語でnull(ヌル)であり、その発音を受けて、アールノートと読まれます。

Roは,Ro≧1であれば,一定の確率で大規模流行が起こりえ、一方、Ro<1であれば、世代を経るごとに感染者数がしだいに減衰するので感染者の発生はごく少数に留まるそうです。

集団免疫

集団において、抗体保有率が高いと、感染症の伝播を防ぐことができます。

これにより、集団感染が防がれます。

この効果を集団免疫といいます。

ちなみに、集団免疫に対する言葉に、個人免疫という言葉があります。

ワクチンによる個人免疫は、予防接種を受けた人を感染から守ります。

なお、ワクチンのスケジュールは、国立感染症研究所のウェブサイトで見ることができます。

日本の予防接種スケジュール

集団免疫閾値(H)とは

集団免疫を獲得するためには、達成すべき、集団内における抗体保有者の割合があります。

それは、Roから求めることができます。

計算式はつぎのとおりです。

H={(Ro−1)/Ro}× 100

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医療従事者向け

A群β溶血性連鎖球菌とは

A群β溶血性連鎖球菌

A群β溶血性連鎖球菌は、Streptococcus pyogenesを代表とするグラム陽性の連鎖球菌です。

A群β溶血性連鎖球菌は、Group A β-hemolytic streptococcus (略してGABHS)とも呼ばれます。

病態

GABHSは主に咽頭扁桃炎を引き起こします。

突然の発熱、咽頭痛で受診することが多いです。

診断

臨床所見のみからでも診断は可能ですが、現在は迅速診断が可能です。
鼻汁、咳、結膜炎などの症状は、GABHSによるものではないため、注意を要し、ウイルス感染についても考慮すべきです。

治療

抗菌薬の使用により1日で解熱する疾患です。

抗菌薬は、ペニシリン系よりもセフェム系の薬の方が、治療成績が高いと言われています。

咽頭扁桃炎の原因

参考に、咽頭扁桃炎の原因となる原因微生物を列挙します。

ライノウイルス

コロナウイルス

アデノウイルス

エンテロウイルス

単純ヘルペスウイルス

パラインフルエンザウイルス

インフルエンザウイルス

EBウイルス

サイトメガロウイルス

A群β溶血性連鎖球菌

C群β溶血性連鎖球菌

F群β溶血性連鎖球菌

G群β溶血性連鎖球菌

溶血性アルカノバクテリア

エルシニア

黄色ブドウ球菌

インフルエンザ菌

淋菌

ジフテリア菌

コリネバクテリウム・ウルセランス

クラミドフィラ・ニューモニエ(クラミジア)

マイコプラズマ・ニューモニエ

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医療従事者向け

内毒素と外毒素の違い

細菌がヒトに感染したときに、直接病気を引き起こす物質として、毒素があります。

毒素は、内毒素と外毒素に分類されます。

内毒素

内毒素は、細胞壁の構成成分の一部で、リポ多糖類(LPS)です。

LPSは、ほとんどのグラム陰性菌が産生しています。

LPSには、発熱作用や、血小板を凝固される働き、補体を活性化させる働きなどがあります。

LPSは、細菌が細胞分裂するときや、死滅するときに、菌から放出されます。

LPSが高濃度に放出されると、エンドトキシンショックとなり、発熱や血圧低下をもたらします。

外毒素

外毒素は、多くのグラム陽性菌と、一部のグラム陰性菌が合成・産生する毒素です。

外毒素は、毒性が強いです。

分類としては、腸毒素(例:コレラ毒素)や、神経毒素(例:ボツリヌス毒素)などがあります。

なお、ほとんどがポリペプチドなので、熱、紫外線、ホルマリンなどにより失活します。

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医療

表在性真菌症と深在性真菌症の違いとは?

表在性真菌症とは、皮膚、爪、毛などが侵される疾患です。

これに対し、深在性真菌症とは、皮下組織および深部臓器が侵される疾患です。

深在性真菌症の診断には、β-D-グルカンの測定が有用です。

 

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医療従事者向け

院内肺炎の起因菌•原因菌と頻度について

院内肺炎の原因菌(起因菌)としては、緑膿菌、ブドウ球菌(MRSAなど)、インフルエンザ菌、肺炎球菌などが主なものです。

また、頻度は少ないですが、サイトメガロウイルスや、カリニ原虫なども原因となる場合があります。

なお、院内肺炎の主な起因菌の分離頻度は、下記の通りとする報告があります。

もちろん、一つの検体から、複数菌が検出される場合もあります。

黄色ブドウ球菌 13%
表皮ブドウ球菌 10%
肺炎球菌 10%
エンテロコッカス•フェカーリス 10%
インフルエンザ菌 20%
緑膿菌 17%
モラクセラ・カタラーリス 7%
E.coli:エシェリキア・コリ 7%
S.maltophilia:ステノトロフォモナス•マルトフィリア 7%

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病気

百日咳の原因、感染経路、症状、診断、治療

急性呼吸器感染症である「百日咳」について解説します。

原因微生物

百日咳の原因微生物は、百日咳菌(Bordetella pertussis)です。

病原因子

主な病原因子は、接着因子として、線維状赤血球凝集素(filamentous hemagglutinin:FHA)、線毛、パータクチンなどがあります。また、毒素として、百口咳毒素(pertussis toxin:PT)、アデニル酸サイクラーゼ毒素(ACT)、壊死毒素などがあります。

感染経路

百日咳菌は、患者の上気道分泌物の飛沫や直接の接触によって経気道的に感染します。

免疫のない濃厚接触者では80%は罹患するとされています。

親から新生児・早期乳児への伝播や、集団生活での伝播が問題視されています。

潜伏期間

潜伏期間は、およそ7〜10日間と言われます。

症状

小児では特徴的な激しい咳を主症状とします。

成人では慢性的な咳を主症状としますが、その症状は非定型で軽いことが多いです。

以下では小児の症状を解説します。

カタル期

発症から1〜2週間では、かぜ症状で発症し、咳は次第に強くなります。この時期は、飛沫菌量が多く、家族内感染や集団感染を起こしやすい時期です。

なお、痰を伴わない咳で発症し、通常の鎮咳薬では咳が治まりせん。

痙咳期

発症から3〜6週間では、顕著な咳がみられます。

乾性咳嗽が激しくなり、1呼気の間に5〜10回の連続的な咳き込み(staccato)、あえぐような吸気性笛声(whooping)を繰り返します。

乳幼児では、継続的な咳発作のなかで呼吸停止、嘔吐、チアノーゼ、痙攣などを起こし、まれに肺高血圧や脳出血、低酸素状態が続いて死に至ることがあります。

回復期

その後の数週間は回復期となりますが、このときにも咳は続きます。

診断

2週間以上の咳があり、かつ、①発作性の咳き込み、②吸気性笛声、③咳き込み後の嘔吐、の少なくとも1つを伴う場合に本症を疑います。

検査

遺伝子診断ではPCR法やLAMP(loop-mediated isothermal amplification)法が用いられます。

また、時間はかかりますが、培養検査によっても診断可能です。

治療

抗菌薬は、特徴的な咳が出る前であれば、症状の軽症化に有効です。

ただし、百日咳は、典型的な咳が出始める痙咳期に疑われることが多いため、この時期の抗菌薬の投与は、症状改善の目的よりも、除菌による周囲への伝搬防止が目的となります。

抗菌薬としては、マクロライド系抗菌薬の内服が第1選択薬となります。すなわち、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシンなどです。

内服できない場合や、重症入院患児では、ピペラシリン、セフォペラゾンなどの静注を行います。

乳児などの重症例では、静注用γ-グロブリン製剤の大量療法が著効を示すことがあるとの報告があります。

なお、咳嗽発作に対しては、去痰薬やβ2-刺激薬を併用するなどして、対症療法を行います。

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医療従事者向け

微生物の生物型と血清型との違いとは?

同一の菌種または菌型に属する細菌を菌株といいます。

そして、その中で、生物学的性状の異なるものを生物型biotypeといい、また、血清学的性状で抗原性の異なるものを血清型serotypeといいます。

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医療従事者向け

感染症サーベイランスシステム(NESID)とは?

感染症サーベイランスシステム(NESID)は、感染症の予防・拡大防止、国民に正確な情報を提供することを目的として、日常的に種々の感染症の発生動向を監視するための電子的システムであり、感染症を診断した医療機関からの発生報告を基本としています。

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医療従事者向け

仮性菌糸とは?

仮性菌糸とは、酵母において、出芽した細胞が長く伸びたものを指します。

別名で、偽菌糸ともいいます。

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検査

クオンティフェロン(QFT)とTスポット(T-spot.TB)の違いとは?

IGRA検査である、クォンティフェロン検査(QFT検査)とTスポット検査(T−spot)について解説します。

IGRA

IGRAは、インターフェロン-γ遊離試験(interferon-gamma release assays)の略語です。

IGRA検査は、結核感染の診断に使用されています。

QFT

クォンティフェロン検査は、全血中のリンパ球を、結核菌群の特異抗原(ESAT-6、CFP-10、TB7.7)で刺激し、血漿中に産生されたインターフェロン-γ(IFN-γ)の濃度を、ELISA法により定量します。

陽性

IFN-γの分泌量が0.35以上の場合、「陽性」となります。この場合、結核感染を疑います。

ただし、いつごろ感染したか判断できないため、病歴や所見から総合的に判断する必要があります。

陰性

0.1未満は、「陰性」と判断されます。 この場合、結核に感染したことがないと判断されます。

疑陽性

0.1から0.34は、「疑陽性」であり、判定保留となります。この場合、通常は感染していないと判断されますが、経過観察し、再検査などして総合的に判断されます。

判定不可

QFT検査では、リンパ球がIFN-γを産生する能力を確認する目的で、上記の試験と平行して、リンパ球を「マイトジェン」という物質で刺激して反応をみる検査も行います。

特異抗原刺激が陽性以外の場合で、マイトジェン刺激が0.5以下の場合は、免疫抑制状態と考えられ、判定不可となり、この場合、 結核感染の有無を判定できません。免疫不全などでない場合、再び採血して再検査することが推奨されます。

Tスポット検査(T−spot)

Tスポット検査では、ELISPOT法によって、IFN-γ産生細胞の個数を測定することが特徴です。

具体的には、Tスポット検査は、まず、全血から末梢単核球(PBMC)を精製し、これを、IFN-γ抗体を固相したマイクロプレートのウェルに加え、結核菌群特異抗原( ESAT-6およびCFP-10)と16~20時間ほど反応させます。

そして、ウェルを洗浄した後、標識抗体試薬を加え、さらにウェルを洗浄することにより非結合の抗体を除去します。

そこに基質試薬を加えると、IFN-γを産生したエフェクターT細胞の痕跡が「スポット」として観察できますので、反応したリンパ球のSPOT数と、抗原刺激のないコントロールの SPOT数との差から、感染の有無を判定します。

すなわち、(1)パネル Aウェル(ESAT-6)のスポット数 – 陰 性コントロールウェルのスポット数および(2)パネル B ウェル(CFP-10)のスポット数 – 陰 性コントロールウェルのスポット数を算出し、以下の基準で判定します。

判定保留や判定不可の場合は、再検査となります。

陽性

(1)および(2)の一方または両方が 6 スポット以上

陰性

(1)および(2)の両方が 5 スポット以下

判定保留

(1)および(2)の両方の最大値が 5〜7の場合

判定不可

陰性コントロールのスポット数>10の場合、および、陽性コントロールのスポット数<20の場合

QFT検査とTスポット検査の異同

両者は、結核の感染診断を行うための血液検査(IGRA検査)であり、特異抗原(ESAT-6、CFP-10)を用いてT細胞の刺激を行う点で共通しています。

また、両者ともに、高い感度と特異度を有する点では同じで、同等の検査性能と評価されています。

ただし、T-SPOTはリンパ球を分離して数を調整するため、特にHIV感染症のようにリンパ球が減少するような状況では、QFTよりも感度低下が少なくなります。

また、検体採取から検査の実施まで、QFT検査では最大16時間の猶予しかないのに対し、Tスポット検査は最大で32時間の猶予がありますので、配送コストが低く済む(特別便が不要)という点で、Tスポットのほうが優れます。