急性呼吸器感染症である「百日咳」について解説します。
原因微生物
百日咳の原因微生物は、百日咳菌(Bordetella pertussis)です。
病原因子
主な病原因子は、接着因子として、線維状赤血球凝集素(filamentous hemagglutinin:FHA)、線毛、パータクチンなどがあります。また、毒素として、百口咳毒素(pertussis toxin:PT)、アデニル酸サイクラーゼ毒素(ACT)、壊死毒素などがあります。
感染経路
百日咳菌は、患者の上気道分泌物の飛沫や直接の接触によって経気道的に感染します。
免疫のない濃厚接触者では80%は罹患するとされています。
親から新生児・早期乳児への伝播や、集団生活での伝播が問題視されています。
潜伏期間
潜伏期間は、およそ7〜10日間と言われます。
症状
小児では特徴的な激しい咳を主症状とします。
成人では慢性的な咳を主症状としますが、その症状は非定型で軽いことが多いです。
以下では小児の症状を解説します。
カタル期
発症から1〜2週間では、かぜ症状で発症し、咳は次第に強くなります。この時期は、飛沫菌量が多く、家族内感染や集団感染を起こしやすい時期です。
なお、痰を伴わない咳で発症し、通常の鎮咳薬では咳が治まりせん。
痙咳期
発症から3〜6週間では、顕著な咳がみられます。
乾性咳嗽が激しくなり、1呼気の間に5〜10回の連続的な咳き込み(staccato)、あえぐような吸気性笛声(whooping)を繰り返します。
乳幼児では、継続的な咳発作のなかで呼吸停止、嘔吐、チアノーゼ、痙攣などを起こし、まれに肺高血圧や脳出血、低酸素状態が続いて死に至ることがあります。
回復期
その後の数週間は回復期となりますが、このときにも咳は続きます。
診断
2週間以上の咳があり、かつ、①発作性の咳き込み、②吸気性笛声、③咳き込み後の嘔吐、の少なくとも1つを伴う場合に本症を疑います。
検査
遺伝子診断ではPCR法やLAMP(loop-mediated isothermal amplification)法が用いられます。
また、時間はかかりますが、培養検査によっても診断可能です。
治療
抗菌薬は、特徴的な咳が出る前であれば、症状の軽症化に有効です。
ただし、百日咳は、典型的な咳が出始める痙咳期に疑われることが多いため、この時期の抗菌薬の投与は、症状改善の目的よりも、除菌による周囲への伝搬防止が目的となります。
抗菌薬としては、マクロライド系抗菌薬の内服が第1選択薬となります。すなわち、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシンなどです。
内服できない場合や、重症入院患児では、ピペラシリン、セフォペラゾンなどの静注を行います。
乳児などの重症例では、静注用γ-グロブリン製剤の大量療法が著効を示すことがあるとの報告があります。
なお、咳嗽発作に対しては、去痰薬やβ2-刺激薬を併用するなどして、対症療法を行います。