基準範囲とは
基準範囲(reference interval)とは、基準個体(reference individual)が示す検査値の分布が正規分布する時に、中央値+2標準偏差を上限値、中央値-2標準偏差を下限値とした区間である。
基準個体を選ぶための明確な基準は存在しない。
したがって、個々の診療施設で、独自の基準範囲を定めるとすれば、基準個体をどのように選ぶかが、基準範囲に大きく影響する。
現在では、米国臨床検査標準協会(Clinical Laboratory Standard Institute:CLSI)の定義に従って、一定の基準を満たす個体(基準個体)を抽出して基準範囲を求める方法が推奨されている。
基準範囲のピットフォール
基準範囲は、あくまでも、統計的に導き出されたものであり、疾患とは、まったく関係がない。
また、基準範囲は、それを策定した時点(過去)のものである。集団に、検査データに影響するような変化が起きた場合には、その基準範囲は、妥当なものとは言えなくなる。現在または将来において、その基準範囲が妥当するかどうか、定期的に確かめる必要がある。
共用基準範囲
日本臨床検査標準協議会(JCCLS)基準範囲共用化委員会は、検査関連学会などと協力し、全国で共通して使用できる「共用基準範囲」を設定した(2014年)。
共用基準範囲は、3つのプロジェクト(IFCCアジア地域共有基準
範囲設定プロジェクト、日本臨床衛生検査技師会、福岡県5病院会)で集めた、3つの母集団(合計約六千人分)の健常者をもとに策定されたため、信頼性が高い。
臨床判断値
臨床判断値は特定の病態に対して定められたものである。
つまり、特定の病態の診断・予防や治療・予後について判定する基準となる。
臨床判断値の分類であるが、おおまかには、
- いわゆるカットオフ値(診断閾値(diagnostic threshold:疾患群と非疾患群を区別する検査値))
- 治療閾値(treatment threshold:治療介入を必要とするかを判断する臨界値)
- 予防医学的閾値あるいは健診基準値(prophylactic threshold:発症予防の観点から発症前に早期に介入を行う目安とする検査値)
がある。
基準値と臨床診断値をめぐる混乱
病院などで行われる検査について、検査結果の報告書には、基準範囲と臨床判断値のどちらを記載するか、施設間で統一されていない。
基準範囲が「判断の物差しとして使える」という誤解がある可能性がある。
reference interval の現在の訳語“基準範囲”よりも、“参照範囲”という別の訳語をあてたほうがよいかもしれない、という識者もいる。
なお、疾患をスクリーニングするのであれば、基準範囲を適用するのではなく、病態ごとの臨床判断値を適用するほうがよいと思われる。