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法律

審判書における理由記載の程度(昭和59年(行ツ)第134号、昭和59年3月13日第1小法廷判決)

昭和59年3月13日第1小法廷判決

論点

審決書に書く審決の理由は、どの程度詳しく書けばよいのか。

事実関係

・特許権者(甲)は、「非水溶性モノアゾ染料」の発明について、特許をとった。

明細書には、化合式中、
は、水素、臭素、シアン、トリフルオロメチルまたはニトロと開示され、
は、水素、・・・・・・、アシルアミノと開示されていた。

・乙は、無効審判を請求

・特許庁は、無効とする審決をした。
(先行技術に、「がシアンで、かつ、がアシルアミノ基のもの」が開示されていました。この製法を記載した請求項では、XやYの化学式を、とくに限定していなかったので、その製法の発明は、先行技術から新規性なしとされました。
そして、請求項には、「がシアンで、かつ、がアシルアミノ基のもの」以外のものが含まれているのですが、この先行技術にない部分については、XやY成分は、明細書に書いてあるその余の成分と容易に置換でき、特別な価値も認められないとしました。)

・甲は、無効審決の取消訴訟を提起

・甲は、無効審決の審決取り消し訴訟の係属中、がニトロ基で、がアシルアミノ基である発明に訂正する訂正審判を請求し、それが認められて確定しました。

・東京高裁は、無効審決を取り消しました。
(先行技術を含まない発明に訂正されたこと、それにより審理の対象が変わったこと、審決書には具体的に、容易に置換できる根拠が示されておらず、特別な価値を否定する根拠もない、というようなことを理由に述べました。)

・乙(審判請求人)が上告

本判決の結論

・棄却

・判旨

「特許法は、特許に無効原因がある場合について、直接に当該特許の取消ないしは無効確認を求めて訴訟を提起することを認めず、
特許を無効にするための手続として、民事訴訟手続に準じた審判手続を設け、特許無効の審判を請求した者と特許権者とを当事者として関与させ、
特許の無効原因の存否について専門的知識経験を有する審判官による審理判断を経由することを要求するとともに、
その審決に対しては取消訴訟において専ら審決の適法違法のみを争わせ、特許の適否は審決の適否を通じてのみ間接にこれを争わせるにとどめている。

その趣旨とするところは、

特許に無効原因があるかどうかについては、右審判手続において法律上及び事実上の争点について十分な審理判断をすべきものとするにあると解される。

また、特許法は、右取消訴訟を東京高等裁判所の専属管轄として事実審を一審級省略しているのであるが、このことは、特許の無効原因の存否については、すでに審判手続において当事者の関与のもとに十分な審理判断がされていることを前提としているからにほかならないと解されるのである。

これらの点に鑑みると、 特許法157条2項4号が審決をする場合には審決書に理由を記載すべき旨定めている趣旨は、

①審判官の判断の慎重、合理性を担保しその恣意を抑制して審決の公正を保障すること、

②当事者が審決に対する取消訴訟を提起するかどうかを考慮するのに便宜を与えること

及び

③審決の適否に関する裁判所の審査の対象を明確にすることにある。

したがつて、審決書に記載すべき理由としては、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者技術上の常識又は技術水準とされる事実など、これらの者にとつて顕著な事実について判断を示す場合であるなど特段の事由かない限り

前示のような審判における最終的な判断として、その判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示することを要するものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、原審の適法に確定したところによれば、本件審決書には、・・・・・・についての特許が特許法29条2項の規定に違反し無効であるとする理由としては、「・・・・・・」との記載があるにすぎないというのであり、

これを原判示の本件審決書のその余の記載に照らして考察しても、右理由の記載は、・・・・・・引用例の発明とは成分の置換が容易であり、また、生成染料も同程度の価値のものであるということをいわば結論的に示すにとどまり

そのように.判断した根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示するものとはいえないから、

特段の事由が認められない本件においては

・・・・本件第一発明のような染料の技術分野における発明についての
特許が右規定に違反し無効であるとする判断を示すについて、右程度の記載をもつて法の要求する審決理由を記載したものと解することはできず、

したがつて、本件審決中本件第一発明に関する部分は違法であるといわなければならない。

右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。

また、原審の適法に確定したところによれば、本件審決書には、本件第二発明についての特許が前記規定に違反し無効であるとする理由の記載としては、本件第一発明に関する前記理由の記載をうけたうえ、本件第二発明と本件第一発明との相違点に格別の技術的意義はない旨の説示を付加しているにすぎないというのであるから、本件審決中本件第二発明についての特許を無効にした部分も、適法な理由の記載を欠く違法があるものというほかはなく、これと同旨の原審の判断もまた、正当として是認することができる。

原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

解説

審決書に理由が全く記載されていない場合は、もちろん違法になるのですが、

本判決は、

その「審決書に理由が全く記載されていない場合」 だけでなく、

「審決書の記載の不備」があるときにも、審決の違法理由(取り消し事由)になることを示しました。