事件名
トレラーの駆動装置事件
論点
訂正審判の審決に対する審決取消訴訟の最中に、無効審決が確定したら、その訂正審判の審決取り消し訴訟は、どうなるのか。
事実関係
昭和43年
無効審判請求
昭和45年
特許権者が訂正審判を請求した
昭和48年
特許庁で、訂正不成立の審決がされた
昭和49年
特許庁で、無効にすべき旨の審決がされた
昭和??年
特許権者が訂正不成立審決に対する取消訴訟を提起
昭和??年
特許権者が無効審決に対する審決取消訴訟を提起
昭和52年の同日
無効審決に対する審決取消訴訟で、棄却判決がされ、
訂正不成立審決に対する取消訴訟で、一部認容、一部棄却の判決がされた。
昭和??年
特許権者が、無効審決に対する審決取消訴訟の棄却判決に対して上告
昭和??年
特許庁長官が、訂正不成立審決に対する取消訴訟の一部認容、一部棄却の判決に対して上告。
昭和55年の同日
最高裁は、無効審決に対する審決取消訴訟の棄却判決に対する上告を棄却した。
最高裁は、訂正不成立審決に対する審決取消訴訟の一部認容、一部棄却の判決にする上告について破棄差し戻し判決をした。
昭和??年
無効審決が確定した
昭和56年
東京高裁は、棄却判決をした。
(事件を差し戻された東京高裁での審理で、特許庁は、無効が確定したら、訂正審判の請求の利益が失われると主張したが、東京高裁は、無効が確定することは、確定以前にした訂正審判の請求の利益を失わせるものではないとして、訴えの適法性を肯定した。)
この差戻後の判決について特許庁長官が上告したのが、本件である。
本判決の結論
・破棄自判
・判旨(この事件は実案ですが、特許の事件と考えて、言葉を置き換えました)
「一般に、訂正審判の係属中に、特許を無効にする審決が確定した場合は、
特許法125条の規定により、同条ただし書にあたるときでない限り、特許権は初めから存在しなかつたものとみなされる。
よって、もはや願書に添附した明細書等を訂正する余地はないものとなる。
よって訂正審判の請求はその目的を失い不適法になる。
ここで特許法126条6項の規定は、その本文において、
特許権の消滅後における訂正審判の請求を許し、ただし書において、審判により特許が無効にされた後は訂正審判の請求を許さないものとしている。
その趣旨とするところは、123条3項の規定が、過去において有効に存在するものとされていた特許権の消滅後も無効審判の請求を許すこととしているので、これに対応して、特許権者に対し、特許権が消滅した場合にも無効審判の請求に対する対抗手段としての訂正審判の請求をすることができるものとしたことにある。
特許を無効にする審決の確定により特許権が初めから存在しなかつたものとみなされる場合については、訂正審判の請求はその目的を失うので、右ただし書は、このような場合について訂正審判の請求を許さないことを明らかにしたものと解されるのである。
してみれば、右ただし書の規定は、無効審決が確定した後に新たに訂正審判の請求をする場合にその適用があるのはもとより、
特許権者の請求した訂正審判の係属中に無効審決が確定した場合であつてもその適用が排除されるものではない(適用される)というべきである。
したがつて、訂正審判の請求について、請求が成り立たない旨の審決があり、これに対し特許権者が提起した取消訴訟の係属中に、当該特許を無効にする解決が確定した場合には、特許権者は、右取消訴訟において勝訴判決を得たとしても訂正審判の請求が認容されることはありえないのであるから、
右審決の取消を求めるにつき法律上の利益を失うに至つたものというべきである。
これを本件についてみると、上告人は、本件特許権者としてその出願の願書に添附した明細書の訂正の審判を請求したが、その請求が成り立たないとする本件審決を受け、本訴によりその取消を求めているものであるところ、
記録によれば、本件特許権については、特許法29条の規定に違反してされたものであり、同法123条1項一号の規定に該当するとしてその登録を無効にする審決が昭和55年5月1日に確定したことが明らかであるから、これによつて、上告人は、本件審決の取消を求めるにつき法律上の利益を失うに至つたものというべきである。
そうすると、本件訴えは、不適法として却下すべきであり、これを適法として本案につき判断をした原判決は、破棄を免れない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
解説
・この判決は、無効審決が確定したら、そのとき、継続している訂正審判や、訂正審判の審決取り消し訴訟は、却下されるということを言っています。
・最高裁は、とりうる解釈としては二つありました。
ひとつは、本判決のような解釈です。
もうひとつは、無効審決の確定後でも、訂正審判の請求を適法と認めて、訂正がされた場合、再審事由とする解釈です。
しかし、最高裁はこのような、いたずらに法律関係を錯綜させる救済ルートは承認しませんでした。
補足
このようなダブルトラック制からくる問題を、
平成5年改正で、解決を図りました。
① 無効審判が特許庁に継続しているときの訂正審判の請求を防ぐ
② 無効審判での訂正請求を創設
ところが、無効審判の審決取消訴訟に継続しているときに、訂正審判を請求する事案が増えるという問題がありました。
そこで、平成15年改正で、
① 無効審決の確定まで、訂正審判の請求を防ぐ
② 審決取消訴訟の提起から90日は、訂正審判の請求を認める
③ 審決取消しの決定を裁量で行うことを可能にする
という内容に変更しました。
H15改正以後は、この判例のような事案が実際に起きるこは、少ないだろうと思われます。