酵素の検査の目的と、血液検査で測定される血中酵素のAST,ALT,γ-GT,LDついて解説します。
酵素と疾患
臓器の役割は,酵素によって支えられています.
それぞれの臓器には,特有の酵素があり,また,各種臓器に共通する酵素でも,濃度が異なります.
もしも,臓器疾患になったときは,組織細胞の状態の変化,あるいは,壊死により細胞中の酵素が血液中に遊出したり,放出が減少したりします.
つまり,血中の酵素の変動は,疾患臓器の特定と程度を知る目安となります.
また,代謝のほとんどすべてのステップで,酵素が関与しています.
酵素の欠損や,機能低下・機能冗進をきたすと,代謝異常(代謝疾患)となります.
酵素活性の単位
酵素活性を表す単位として,世界保健機構(WHO)は,酵素にSI単位系を設定し, μmol・min-1と表現しています.
カタール(kat)は,mol・s-1と表します.
AST,ALTについて
ASTは,アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(L-aspartate:2-oxoglutarateaminotransferase)の略称です.
また,ALTは,アラニンアミノトランスフェラーゼ(L-alanine:2-oxoglutarateaminotransfbrase)の略称です.
体内分布
ASTは心筋,肝臓に多く分泌し,ALTは肝臓や腎臓に多く分布しています。
臨床的意義
細胞の損傷程度に応じ,組織内の酵素が逸脱します.
ASTは心臓や肝臓に多く,ALTは肝臓に多いので,それぞれの臓器の損傷時に血中に増加します.
基準範囲
JSCC常用基準法における正常範囲は,ASTが「5~25U/L」,ALTが「3~30U/L」です.
検体について
ASTは溶血の影響を大きく受けるのに対し,ALTはそれほどでもありません.
γ-GTについて
γ-GTは,アミノ酸転移酵素の1つであり,ペプチドの末端アミノ基に結合したグルタミン酸のγ-カルボキシル基を加水分解して他のアミノ酸に転移させる反応を触媒します.
体内分布
γ-GTは,腎臓に最も多く分布しています.次いで,膵臓,肝臓,脾臓に存在しています.
γ-GTは,刷子縁の膜の脂質二重層に結合しているため,結合が切断されると,血中に出てきます.
一般に,肝臓での解毒機能活性時に,γ-GTの血中活性が上昇することが知られています.
なお、血清中に存在するγ-GTは,ほとんどが肝臓由来です.
ちなみに,分子量は約86,000と大きいものであるため,通常は,尿中へは排出されません.ただし,腎障害があると,尿中へ排泄されます.
臨床的意義
胆管閉塞症では,高値となります.このとき,ALPやLAP(ロイシンアミノペプチダーゼ)も同時に高値になります.
肝硬変症では,肝臓の線維化の活発な時期に高値となります.
アルコール性肝障害では,高値を示します.
基準値
男性の正常範囲は12~55U/Lです(JSCC法).
女性のほうが低い傾向があります.
なお,アルコール摂取量の多い人は高値となります.
LD(乳酸デヒドロゲナーゼ)
LDは,嫌気的解糖系の最終段階であるピルビン酸と乳酸の変化を触媒する酵素です.
LDは,嫌気的解糖系の最終段階に働く酵素であり,広く全身組織に分布しています.
心筋,肝臓,骨格筋,肺などの組織や,赤血球,白血球,血小板などにも存在します.
なお,LD1~LD5のアイソザイムが知られています.
臨床診断的意義
血液疾患などで,血球が過剰に生産される病気では,LD1やLD2が上昇します.
また,心筋梗塞では,発作発生から3~4日日後に,心筋由来アイソザイム(LD1)が遊出してピークに達し,6日経過したころに正常化します.
さらに,肝炎では骨格筋型アイソザイム(LD5)が遊出されます.
肺疾患のときには,LD3やLD4が上昇します.
なお,LD1が多いのは心筋・膵臓・腎臓・甲状腺です.
LD1やLD2が高いのが血球や血清で,LD3が高いのが肺,さらに,LD4やLD5が高いのが肝臓や骨格菌です.
測定原理と基準値
測定方法は,(1)ピルビン酸から乳酸へ反応させて測定する方法と,(2)乳酸からピルビン酸に反応させて測定する方法の2つがあります.
後者を採用する日本臨床化学会OSCC)勧告法では,基準値は60~120U/Lです.
測定原理としては,まず,LDに補酵素であるNADHが結合し,このNADHに,基質であるピルビン酸が結合し,ピルビン酸のケト基がNADHの水素を取ります.
結果,ピルビン酸は乳酸に変わり,複合体からはずれます.
次に,NADがLDからはずれることで,一連の反応が終了します.
この反応は、オーダーBiBi反応と呼ばれます.
検体について
血球中のLD活性は,血清中の活性と比較して約160倍ありますので,溶血試料は測定に注意する必要があります.