さて、今回は、まず、仮想通貨を盗んでも窃盗罪にならないことを解説します。
さっそく、
「え!? 窃盗罪にならないの!?」
と思われた方もいるかもしれませんが、そうなのです。
その理由を、下に解説します。
ただし、他の罪には問えるため、こちらも解説します。
ついでに、国外からのハッキングで盗まれた場合についても言及します。
窃盗とは
窃盗は、モーゼの十戒や、仏教の五戒にもみられる破戒行為の一つです。
窃盗は、古くから「罪」と考えられ、それを犯すことは共同体からの排除(罰を与える)を意味しました。
日本の刑法でも、罪として規定されています。
刑法
第235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
ただし、冒頭に述べたように、仮想通貨を盗んでも、この窃盗罪にはなりません。
窃盗罪にならない理由
実は、上記の刑法235条にいう「財物」は、有体物を意味します。
有体物とは、空間の一部を占めるもの(有形的存在)のことです。
有体物以外のものは、無体物と呼ばれ区別されています。
仮想通貨は無体物です。
したがって、仮想通貨を盗んでも、窃盗罪にはなりません。
ちなみに…
仮想通貨を盗む行為が、未来永劫、窃盗罪にならないことが確定しているわけではありません。
国会による立法があれば、窃盗罪になります。
たとえば、「仮想通貨は、財物とみなす」という規定が、刑法の中に新設されれば良いわけです。
不正アクセス行為を罰することはできる
では、現行法では、仮想通貨を盗んだ人(ハッカーなど)を、罪に問えないのでしょうか。
実は、そんなことはありません。
他人のウォレットに、不正アクセスしていたり、秘密鍵を手に入れて送金しているので、不正アクセス禁止法(不正アクセス行為の禁止等に関する法律)によって、処罰の対象になります。
不正アクセス禁止法
第3条 何人も、不正アクセス行為をしてはならない。
(省略)
第11条 第3条の規定に違反した者は、三年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
懲役刑については、窃盗罪の「十年以下」と比べて少ない「三年以下」ですが、一応、それなりの罰則となっています。
というわけで、仮想通貨の盗難事件があったときは、犯人が特定できれば、不正アクセス禁止法にのっとって、逮捕→勾留→起訴→裁判の手続きを経て、処罰されることになります。
国外からの不正アクセスの場合
ちなみに、やっかいなのは、日本国外からのハッキングなどによる場合です。
国境を越えて行われるサイバー犯罪の捜査は、ものすごく難しいからです。
一応、そのようなとき、警察は、ICPOなどの国際捜査協力の枠組みを活用して対処しています。
ただし、仮に犯人が特定できても、それで解決というわけにはいきません。
なぜなら、日本の刑事訴訟法(刑事手続について定めた法律)は、国外では適用できないので、外国にいる犯人を、日本の警察が捕まえることが出来ないからです(なので、犯人が日本に来たときに捕まえることになります)。
なお、他国に犯人の引き渡しを要請することは可能ではあるものの、基本的には、世界の各国は、他国からの要求があっても、犯罪人を引き渡す義務はありませんので、それが、より一層、逮捕を困難にしています。