食中毒統計の正確性〜信じてはいけない理由〜

数ヶ月前に,厚生労働省の毎月勤労統計についての不正問題がありましたね.

国の統計を信じていいのか分からない…

そんな印象を抱いた人は多かったんじゃないかと思います.

さて,今日の話です.

不正とは違うのですが,私の仕事に関連する話で,信じてはいけない統計をひとつ紹介します.

それが食中毒統計です.

(非常にマイナーな統計で申し訳ないです)

食中毒統計

厚労省は,食中毒の統計を出しています.

この統計の元データは,食中毒と診断した医師が,保健所に届け出ることで収集されます.

根拠法は食品衛生法です.

食品衛生法第58条第1項

食品、添加物、器具若しくは容器包装に起因して中毒した患者若しくはその疑いのある者(以下「食中毒患者等」という。)を診断し、又はその死体を検案した医師は、直ちに最寄りの保健所長にその旨を届け出なければならない。

食中毒というのは,細菌,ウイルス,自然毒,化学物質,寄生虫などが原因となります.
このうち,多いのは細菌とウイルスによるものです.

病名としては「感染性胃腸炎」となるものです.

この感染性胃腸炎,実際に起きている件数のほとんどが,届出されていません(と思っています).

その理由として,感染性胃腸炎の食中毒というのは,とても判断が難しいからです.

たとえば,食中毒の原因となる細菌で多いものに,カンピロバクターがあります.

このカンピロバクターは,経口で体内に入って感染してから発症するまでの期間(潜伏期)が数日あるんですね.

そうすると,仮に飲食店でカンピロバクターに感染したとしても,病院に来たのが数日後だと,その飲食店で本当に感染したのか否か,判断がつかないわけです.

それは,仮に患者が「絶対にあの飲食店で感染した!」と主張しても,それは考慮できないということでもあります.

では,実務上はどうなっているのかというと,

同じものを食べた別人が,同じ症状になっている

こういう客観的な証拠があるときに,「食中毒」と判断するわけです.

実際の食中毒統計(たとえば令和元年)を見たときに,カンピロバクターの事例で患者数「1」というものが全然ないのは,こういう理由なのです.

他方で,寄生虫アニサキスの場合,患者数「1」というのが多々あります.

これは,アニサキスの潜伏期が短いことが理由です.

食べた後にすぐに発症するから,原因が特定できる

たから患者数が一人でも,届け出ることができるというわけですね.

◆ 急性胃アニサキス症  
食後数時間後から十数時間後に、みぞおちの激しい痛み、悪心、嘔吐を生じます。
◆ 急性腸アニサキス症
食後十数時間後から数日後に、激しい下腹部痛、腹膜炎症状を生じます。
参考
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000042953.html

さらに言えば,複数人が食中毒の症状であっても,きちんと届け出されていないケースも多々あります.

…ゆえに「食中毒統計を信じてはい」となるわけです.