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カテーテル関連感染症の知識

カテ感染について

  • いわゆる「カテ感染」すなわち「血管内カテーテルの感染症」は、正式な医学用語ではない。
  • 概念としては、catheter‒related bloodstream infection(CRBSI)とcentral line‒associated bloodstream infection(CLABSI)がある。
  • CRBSIは、血管内留置カテーテル関連血流感染症のこと。
  • CLABSIは、中心ライン関連血流感染症のこと。中心ラインとは、カテーテルの先端が大動脈,肺動脈,下大静脈,腕頭静脈,内頸静脈,鎖骨下静脈,外腸骨静脈,総腸骨静脈,大腿静脈などに留置されているものをいう。
  • CRBSI の原因は、中心静脈カテーテル以外にも、末梢静脈カテーテル、動脈カテーテルなどもある。
  • 4つの主な汚染経路は、①皮膚細菌叢の挿入部位からの汚染(患者の皮膚および医療従事者の手指)、②カテーテルおよびハブ(接続部)の汚染(医療従事者の手指、汚染された器具との接触、輸液ラインの不適切な取り扱いなど)、③輸液の汚染、④他の感染巣からの血行性播種が挙げられる。
  • 中心静脈に留置されるカテーテルについては、観察研究の結果では、感染発症頻度がもっとも低いのは鎖骨下静脈であり、次いで内頸静脈、もっとも頻度が高いのは大腿静脈とされている。
  • 原因菌で多いのは、CNS,Staphylococcus aureus,Enterococcus species,Candida species,Escherichia coli,Klebsiella species,Pseudomonas aeruginosa,Enterobacter species,Serratia species,Acinetobacter baumanniiなど。
  • CRBSIは、入院期間の延長をもたらし、播種性感染巣(化膿性脊椎炎,腸腰筋膿瘍,化膿性血栓性静脈炎)や細菌性心内膜炎,眼内炎による失明(特にカンジダ・セレウス菌)などの合併症のリスクがある。
  • 熱源不明の発熱、カテーテル刺入部の発赤,圧痛,腫脹,膿の分泌など、白血球数の増加、桿状核好中球の増加、CRP上昇などがあれば、CRBSIを疑う。
  • 感染を疑うときにカテーテルを抜去せず、温存して治療を継続する「抗菌薬ロック療法(antibiotic lock therapy:ALT)」が現在注目を集めている(エビデンスは弱い)。抗菌薬ロック療法では、EDTA,minocycline,エタノールの3 つを使用する。EDTAはフィブリン形成阻害、minocyclineはバイオフィルム透過性が良好、エタノールはカンジダや緑膿菌に有効。
  • カテーテル関連血流感染症(CRBSI)を疑うのは、カテーテル留置中の患者で,① 熱源不明の発熱がある場合、または、②カテーテル刺入部・周囲の炎症徴候(発赤・圧痛・膿の分泌)を認める場合。ただし、CRBSIでは局所の発赤,熱感,腫脹などの所見を伴うものは全体の3% しかなく)、実際には、培養採取
    まで至らずに見逃されている症例も多いと考えられている。
  • CRBSIの診断のための検査では、抜去したカテーテルの先端培養に加えて、血液培養2 セット以上が必須。カテーテルを抜去しない場合は、DTP(differential time to positivity)が有用。
  • DTPは、血液培養の経皮採取(最低1 セット)のほかに、患者に留置されている血管内カテーテル類(中心静脈カテーテル,動脈ライン,ポートなど)から同時に採取する方法であり、後者が前者よりも2 時間以上早く培養陽性反応を示したときに判定が「陽性」となる(DTPは日本版敗血症診療ガイドライン(日本集中治療医学会)においても推奨されている)。血液培養ボトルに分注する血液量を等しくすることに注意が必要。

治療

  • 原因菌が判明するまでの第一選択薬は、empiric 治療(初期治療)として、MRSAのカバー目的でvancomycin が必要。
  • 発症後1時間以内に抗菌薬投与を開始すべきとされている。
  • 基本的には、①ダプトマイシンor バンコマイシン でグラム陽性菌をカバー、②タゾバクタム/ピペラシリンor カルバペネム系 or 第4世代セフェム系でグラム陰性菌をカバー、③免疫低下、長期抗菌薬使用、カンジダ属菌の検出歴がある(喀痰や尿など)、中心静脈カテーテル留置中(とくに鼠径部)などの背景があれば、さらに抗真菌薬も併用でカンジダ属菌をカバー(日本感染症学会/日本化学療法学会の感染症治療ガイドラインなどを参考)。
  • フォローとして、抗菌薬開始から72時間以内に血液培養2 セットを採取し,陰性化が確認できるまで繰り返す。また、菌種によって合併症検索が必要。
  • 合併症は、黄色ブドウ球菌では、感染性心内膜炎や化膿性脊椎炎が多い。黄色ブドウ球菌菌血症では心エコー(72 時間以内に血液培養が陰性化しないときは経食道エコーも)が推奨。経胸壁心エコーの感染性心内膜炎に対する感度
    は十分でなく、確実な検索には経食道心エコーが必要。
  • 黄色ブドウ球菌(MRSAを含む)では、感染性心内膜炎や化膿性脊椎炎が多い(いずれも予後悪い)。検出された場合、発熱持続・血培が陰性化しないとき、心エコーなどを実施。
  • カンジダ属菌では、眼内炎が多い(失明に至るケースも)。検出された場合、眼科受診必須。
  • 感染性心内膜炎(IE)の場合、経胸壁断層心エコーで最も多く認められる異常所見は疵贅であり50~60%の症例で認められる。他には、頻度の低い異常所見として、弁穿孔、腱索断裂、心筋内膿瘍などがある。
  • 感染性心内膜炎(IE)の治療は、殺菌的抗菌薬を長期間投与する(4週間以上)。短期間での投与終了は再発の危険が高くなる。疵贅内の細菌は多数であるうえ、フィブリンに覆われており白血球による貧食が妨げられている。実際の抗菌薬の投与方法は、起炎菌の種類と抗菌薬感受性により細分化されている。なお、抗菌薬療法でコントロールできないときは外科手術を要する場合がある(早期に外科手術を施行したほうが予後良好であるという報告もある)。
  • カンジダ血流感染のリスクが高いと考えられるときは、β-D-グルカン検査の実施を考慮する。
  • 黄色ブドウ球菌の心内膜炎は、全身に播種して(高率に頭蓋内に播種)、予後が悪い(多発脳梗塞、感染性動脈瘤破裂によるくも膜下出血)。化膿性脊椎炎では脊柱管内へ進展すると対麻痺になり予後が悪い。カンジダ眼内炎が見逃され失明になったケースもある。
  • なお、CNS の中でもStaphylococcus lugdunensisは病原性が高く、感染性心内膜炎など血行性播種病変を発症する可能性も高いため注意が必要。IDSA ガイドラインでは、S. aureus と同様、カテーテルの抜去と、最低2 週間の抗菌薬投与を行うように推奨されている。
  • また、腸球菌によるCRBSI でも、感染性心内膜炎は、合併症としてのリスクは比較的低いが、① 新規に心雑音を認める,② 塞栓の所見がある,③ 適切な抗菌薬治療後72 時間経っても解熱しない,④ 人工弁などの人工物を留置している,などの条件があれば、感染性心内膜炎の検索が推奨される。
  • Serratia 属が起因菌の場合は、輸液セットの管理やカテーテル留置部位の管理に問題がある可能性もある。
  • 体内に人工物が挿入されている場合(人工弁,人工血管,人工関節,脊椎固定術後など)は、菌血症を発症後、しばらく経ってから人工物感染をきたすことがある。
  • 菌血症により、感染性塞栓症(septic emboli)になることもある。早期の発症例では虚血(梗塞)を起こすことが多く、それ以降は深部感染(膿瘍)となることが多い。病変は肺,脳,腎臓,脾臓など多岐にわたる。
  • Candida 属や黄色ブドウ球菌以外の起因菌によるCRBSI の場合、血液培養の再検は必須ではない。
  • 眼内炎がある場合は、アムホテリシンB,フルコナゾールなど中枢移行性のある抗真菌薬が必要となる。
  • カテーテルの抜去にもかかわらず72時間以上、菌血症が続く場合や、転移病巣が出現した場合などでは、4~6週間の治療が必要となる場合もある。
  • CRBSIの予防策の詳細については、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の『Guidelines for the Prevention
    of Intravascular Catheter-Related Infections』や、国公立大学附属病院感染対策協議会の『病院感染対策ガイドライン』が参考になる。
  • 血液培養を採取するときは、採取部位の皮膚の汚れを丁寧に拭い取り、消毒は1%クロルヘキシジンアルコール(CHG-AL)で行うことが望ましいとされる(常在菌の混入を最小限にするため)。
  • なお、CRBSI予防を目的として、抗菌薬含浸中心静脈カテーテルが上市されているが、カテーテル培養の偽陰性につながりうるため、結果の解釈に注意が必要である。
  • ちなみに、中心静脈カテーテルを留置する際は、滅菌ガウン、滅菌手袋、キャップ、マスクを着用し、滅菌ドレープを使用して無菌操作で行う(高度バリアプレコーション)。末梢静脈カテーテルの挿入時は、刺入部に触れないのであ
    れば、未滅菌手袋で構わないとされる。
  • カテーテル留置の継続必要性は、毎日評価する(不要なら抜去する)。刺入
    部の感染徴候の有無は毎日評価する。中心静脈カテーテルのドレッシング材は最低でも1 週間に1 回は交換する。末梢静脈カテーテルについては、感染徴候がなければ72~96 時間より頻繁にカテーテルを交換する必要はないとされる。
  • 中心静脈栄養施行時には脂肪乳剤投与が推奨されてるものの、脂肪乳剤は細菌感染の増殖を促進するとのデータがある。他方、適切な静脈カテーテル管理
    下ならば脂肪乳剤投与の有無で血流感染の発生頻度に差はみられなかったとする報告もあり、コンセンサスは得られていない。そもそも、脂肪乳剤を投与する症例は、低アルブミン血症を合併あうるなど免疫機能が低下して感染リスクが上昇していることが多いたり、薬剤の影響があったりして、検証には限界がある。
  • “脂肪乳剤とCRBSI発症についてはいまだ一定のコンセンサスは得られていない。適切な静脈カテーテル管理下では脂肪乳剤投与の有無で血流感染の発生頻度に差はみられなかったとする報告がある一方、脂肪乳剤を投与した人呼吸器管理下の集中治療室の患者では有意にCRBSIが増加するとの報告がある。” 出典:『脂肪乳剤投与に伴うカテーテル関連血流感染の検討』日本医療マネジメント学会雑誌 Vol 21 No2(2020)
  • “脂肪乳剤は、単独でも、アミノ酸や糖と混合した形でも、輸液自体が汚染すると微生物が急速に増殖することが知られている(脂肪乳剤単独の方が増殖しやすい)。したがって、脂肪乳剤を含まないアミノ酸加糖電解質液と同様の輸液ライン交換頻度では感染率が高まるのではないかという危惧があるのである。そのため、脂肪乳剤を含む輸液を投与する場合には24時間毎の輸液ラインの交換が推奨されている。” 出典:静脈経腸栄養ガイドライン第3版より
  • カンジダ属菌によるCRBSI(カンジダ菌血症:侵襲性真菌症)の補助診断に、血中β-D-グルカンの測定(pg/mL)が有用。ただし、偽陽性を引き起こす因子に注意が必要。環境中のβ-D-グルカンによる汚染、セルロース素材の透析膜を用いた血液透析、セルロース膜で精製した血液製剤などの投与、Β-D-グルカン含有の抗悪性腫瘍剤(クレスチン,レンチナン,シゾフィラン)、手術でのガーゼ使用、非特異反応の出現(多発性骨髄腫・高γ-グロブリン血症など) などが偽陽性を引き起こす。

参考に、カテーテルごとの CRBSI 発生割合

カテーテルごとの CRBSI 発生割合
カテーテルごとの CRBSI 発生割合

上図の出典:200件の公開された前向き研究のシステマティックレビュー

Maki DG, Kluger DM, Crnich CJThe risk of bloodstream infection in adults with different intravascular devicesa systematic review of 200 published prospective studies. Mayo Clin Proc 811159-1171, 2006