臨床検査の許容誤差限界について、いくつか。
臨床検査の許容誤差限界に対する考え方
臨床検査の許容誤差限界に対する考え方は、3つに分類される(資料1および2)。
- 臨床的有用性に基づき医学的意思決定濃度における限界値を経験的に定める方法(Medical Usefulness)
- 現在の技術水準に基づき,精度が優れた検査室の測定誤差の大きさに目標を求める方法(State of the Art)
- 測定誤差を健常者の生理的変動と比較して評価する方法 (Biological Variation)
従前、測定上の誤差の許容限界としては、正常範囲から求めるTonksの式や、臨床医や臨床検査専門家などからの意見をまとめたBarnettの医学的に有意な許容幅、あるいは個人の生理的変動幅から算出した北村やCotloveなどの許容誤差限界などがあったところ、現在の技術水準における測定上の誤差を臨床医はどの程度まで許容しているかを把握するためにアンケート調査を実施した報告がある(資料3)。
資料3では、つぎのように結論付けられている。
- 酵素項目の許容誤差限界は±5%以内が望まれていること
- 多くの定量成分項目の許容誤差限界は±3%以内が望まれていること
- 測定値が小さく,小数点1桁まで測定している項目は±0.2単位以内の許容誤差幅が望まれていること
- Na,Clは、±2mEq/1以上の許容誤差幅が望まれていること
また、臨床化学会クオリティマネジメント専門委員会が、生理的変動に基づく許容誤差限界としての基準を報告している(資料4)。
- 資料1:「外部精度評価の許容誤差限界に関する国内外の動向 」臨床病理53:6・2005
- 資料2:会報 JAMT 平成 20 年 11 月 1 日発行「医学検査」第 57 巻第 11 号付録
- 資料3:「臨床医からみた測定誤差の許容限界-アンケート調査より-」医学検査 47(2): 145-151, 1998.
- 資料4:「生理的変動に基づいた臨床化学検査 36 項目における測定の許容誤差限界」臨床化学2006 35:144-153)臨床化学会クオリティマネジメント専門委員会(https://ci.nii.ac.jp/naid/80019201560)
外部精度評価(精度管理調査)と施設間許容誤差限界
上記は、主に施設内での臨床検査の許容誤差限界についての話であったが、臨床検査の許容誤差限界については、異なる施設の間でも問題となる。
ここで、社団法人日本臨床衛生検査技師会の精度管理調査評価法検討・試料検討ワーキンググループは、外部精度評価の適切な企画と実施を目的に、測定値の施設間差を調査する共通の試料を配布し測定した施設測定値の評価方法および調査用試料に要求される事項に関する日本臨床衛生検査技師会(日臨技)の指針を提示している(資料5)。
- 資料5 「臨床検査精度管理調査の定量検査評価法と試料に関する日臨技指針」医学検査 (Japanese Journal of Medical Technology) 巻: 57 号: 1 ページ: 109-117 発行年: 2008年01月25日
この資料5の中で、日臨技は、現在の技術水準に基づく許容誤差限界を設定している。
ISO
ちなみに、許容誤差限界を含む臨床検査の精度については、ISOの認定に係る問題でもある。
日本では、日本適合性認定協会が、唯一の臨床検査室認定機関として、国際規格「ISO 15189(臨床検査室-品質と能力に関する特定要求事項)」に基づき、臨床検査室の審査を行い、臨床検査を行う能力を有していることを認定する。
ISO 15189は、「品質マネジメントシステムの要求事項」と「臨床検査室が請け負う臨床検査の種類に応じた技術能力に関する要求事項」の2つから構成されている。
別途 参考文献
- 「福岡県における臨床化学28項 目の基準範囲 と標準化-「臨 床化学検査及び基準範囲の統一化プロジェクト」 プ ロ ジェク ト報告-」臨床化学 第30巻 第3号 2001年9月
- ISO 15195: Laboratory medicine – Requirements for reference measurement laboratory. 2003