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権利濫用の法理とは?

権利濫用の法理について解説します。

権利濫用とは?

民法1条3項は、「権利の濫用は、これを許さない。」と定めています。

権利の濫用とは、外形上は権利の行使のように見えるが、その実態が権利の社会性に反し、権利の行使として認めることのできない場合をいいいます。

すなわち、法律上は権利行使が否定されます。

この原則は、民法のみならず、広く民事法全体に適用される原則です。

権利濫用の意義とは?

権利濫用の法理はなぜ必要なのでしょうか。

端的に言えば、制定法などで解決できない事例を解決するために必要とされます。

制定法で権利を規定するとき、細かい場面の全てに適合するような規定を設けることは困難です。

その上、現代のような変化の激しい社会では、制定法を常にその変化に対応して直ちに改正することは、実際には不可能です。

そのため、制定法と、権利の実現との問には、溝があり、不合理な結果をもたらすことがあります。

もちろん制定法では不十分なところは、判例法、慣習法などの不文法がそれを補うことになりますが、それで十分というわけではありません。

そこで、個別的・具体的な規定や法理論とは別に、法の次元外の、道徳原理の導入により問題を解決することが必要となります。

民法1条3項は、そのような制定法の個別的規定の欠缺を補充し、不合理を是正する機能を果たすためのいわゆる「一般条項」としての意義をもち、私人間の利害の調節を目的とするものです。

権利濫用の要件

いかなる権利の行使が濫用となるかについての要件は、民法1条3項の条文自体からは明らかではありません。

従って、個別具体的に、行使される権利の種類、権利行使の際の状況などから濫用かどうかが判断されることになります。

沿革的には、もともと相手方を害する意図のような主観的事情のある権利行使は否定されていました。

しかし、その後は、加害意図のような事情は必要とされなくなりました。

これは、加害の目的といった権利者の主観を重視して、個人の意識まで探ることは、実際上、困難だからです。

それから、客観的な利益の比較衡量により権利濫用の判断をすることができる、とされるようになりました。

日本の判例は、比較的、初期の頃から、権利行使者とその相手方との間の、客観的な利益の比較衡量により、濫用かどうかを判定できることを認めてきました。

例えば、発電用トンネル撤去請求事件(大判昭11・7・10民集15巻1481頁)、板付基地事件(最判昭40年3月9日民集19巻2号233頁) などです。

なお、判例の中には、主観的事情を判断の一つの要素としているもの(最判昭47年6月27日民集26巻5号1067頁) 、それを全く問題としないもの(最判昭50年2月28日民集29巻2号193頁)と、いずれも存在しているようです。主観的事情の存在は、権利濫用の適用に必要というわけではなく、適用を容易にする事情というべきでしょう。

上記の客観的利益衡量説に対しては、学説においては有力な批判があります。

それは、濫用の意図など主観的要件が満たされるなど特別の事情が認められて初めて、権利濫用が成立するべきである、というものです(末川博「判批」民商53巻4号123頁、鈴木禄弥「財産法における「権利濫用」理論の機能」法時30巻)。

たとえば、土地の無権原使用者に対する所有者の妨害排除請求につき、双方の客観的な利益の比較衡量によりこれを権利濫用とする判例に対しては、既成事実を作った者が勝つことになり妥当でないとしています。

最近では、権利行使者の主観的事情、及び、権利行使者の権利行使により得られる利益とその相手方や社会一般が被る不利益との比較衡量などを総合して、権利濫用にあたるかどうかを判定すべしとする説が多いようです(幾代『民法総則〔第2版〕』18頁、四宮『民法総則〔第4版〕』31頁)。

権利濫用の効果

権利濫用の効果は、一般的には、当該の権利行使に本来与えられるべき法的効果が生じないというものです。

この場合、その権利自体は消滅せず、単にその行使が許されないにとどまります(ただし、親権濫用の場合のごとく例外的に法律の規定により(民834条)、その権利自体が剥奪されるというものがあるようです。)。

権利濫用の効果の具体的なあり方は、濫用された権利の種類、濫用の態様などにより異なるようです。

個別具体的な事例における効果について、ここで詳細に述べることはしませんが、主として以下のものがあります (菅野耕穀『信義則及び権利濫用の研究』28,29頁)。

① 他人の侵害の排除を請求することが権利濫用となる場合がある(所有権に基づく妨害排除請求権など)。

この場合には、請求そのものが否定されます(例えば、前掲・宇奈月温泉事件)。

② 形成権の行使が権利濫用となる場合がある(解除権の行使など)。

この場合には、新たに発生すべき法律関係は発生しません。

例えば、賃借人が転貸(てんたい)した場合に家主の賃貸人が612条に基づいて解除した場合、解除の効果は生じず、契約が存続する扱いとなります。

③ 正当な範囲を逸脱した権利の行使は、権利濫用として認められない場合がある。

この場合、不法行為としてこれによって他人に加えた損害を賠償しなければならない場合があります(例えば、前掲・信玄公旗掛松事件)。

④ 権利の濫用が甚だしくなると、その権利を剥奪される場合がある。

たとえば、親権の濫用の場合がそれです(834条)。