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検査

凝固検査の解説(Pt,APTT,フィブリノゲン,FDP,TT,HPT)

PT(プロトロンビン時間)について

外因系血液凝固系のスクリーニングには、PT(prothrombin:プロトロンビン時間)を用います。

外因性血液凝固系に関与する因子のうち、Caイオン、組織トロンボプラスチン以外のVII、X、V、Ⅱ(プロトロンビン)、Ⅰ(フイブリノゲン)の各因子により影響されます。

検体の準備

検体の準備では、クエン酸3Na溶液を1としたときに、血液を9の割合で混合します。

なお、採決の際は、皮下組織成分の混入をなるべく少なくすることが重要です。たとえば、注射器から試験管に血液を移す場合には、注射筒内の最後の血液1mlを、血液凝固検査には使用しないことが望ましいです。

採決後、遠心により、血漿を分離します。

基準値について

被検血漿に、Caイオンと組織抽出成分とを添加したときの、フィブリン塊形成までの凝固時間をチェックします。

注意点として、組織トロンボプラスチン製剤と測定装置の組み合わせにより、基準値には、施設間差が生じます。

施設間で凝固時間が一定しないことの主な原因は、組織トロンボプラスチン製剤が、動物組織からの粗抽出液であるために、同じ会社の製剤でもロットごとに活性が異なるからです。

そのため、検査ごとに、正常対照血漿を同時に測定し、その凝固時間と比較する必要がありますが、用いる指標としては、たとえば、以下のものがあります。

・プロトロンビン活性 (prothrombin activity %)

正常血漿を100%として、生理食塩水による希釈列から検量線を作成して活性を計算して求めます。基準値は80~100%となります。

・InternationalNormalizedRatio (INR)

その製剤により得られた、正常血漿の凝固時間(秒)と、検体血漿の凝固時間(秒)とから、プロトロンビン比を求め、以下の計算式により求めます。

INR = (検体血漿凝固時間/正常血漿凝固時間)^ISI

INRの基準値は、1.0±0.1 です。

なお、組織トロンボプラスチン製剤のISIは、1.0~2.3程度であり、ISIが大きい製剤は測定値のバラツキも大きいため、WHOはISIが1.7以下の製剤の使用を推奨しています。

PTが短縮する場合

DICなどの場合に、組織因子が流入して、PTの短縮が起こりえます。

実際には、採血時に皮下組織の組織トロンボプラスチンが混入した場合がほとんどです。

PTが延長する場合

先天性血液凝固因子異常

一部の血液凝固因子が先天的に欠乏していたり、活性に異常がある場合、PTは延長します。

なお、APTTの延長がなく、PTのみ延長するのは、VⅡ因子の欠乏または異常がある場合です。

肝細胞障害

PTに関する血液凝固因子の多くは、肝細胞で、ビタミンKに依存して合成されますので、肝細胞障害があるとPTは延長します。

ビタミンK欠乏症

Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ因子は、ビタミンK依存性因子であり、肝臓で合成されます。

ビタミンKが欠乏していると、異常構造をもった血液凝固因子が合成されてしまいます。

そういった因子は、正常の血液凝固活性をもたず、proteins inducedbyvitamin Kabsenceorantagonists (PIVKA)と呼ばれます。

経口抗凝血薬治療

ワーファリンのような経口抗凝血薬を投与すると、PTが延長します。

このような患者のモニタリングのために、定期的にPT値の測定が実施されます。

その他の出血傾向

ヘパリン投与や、線溶冗進状態などでも延長を示します。

APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)

内因系血液凝固系のスクリーニングには、APTT(activated partial thromboplastin time:活性化部分トロンボプラスチン時間)を用います。
透明なフィブリノゲンから白濁するフィブリン形成の瞬間を結果判定の終末点として利用しています。

検体の準備

Ptの項で記載したのと同様です。

検体の準備では、クエン酸3Na溶液を1としたときに、血液を9の割合で混合します。

なお、採決の際は、皮下組織成分の混入をなるべく少なくすることが重要です。たとえば、注射器から試験管に血液を移す場合には、注射筒内の最後の血液1mlを、血液凝固検査には使用しないことが望ましいです。

採決後、遠心により、血漿を分離します。

基準値について

自動分析機は、フィブリノゲンからフィブリン形成の終末点を自動的に検出します。

検出原理や、試薬などが異なれば測定値が異なるため、管理血漿の測定により、それぞれの検査室の基準値を設定しますがが、通常、血漿のAPTTは、30~40秒程度の凝固時間が得られます。

APTTが延長する場合

APTTの延長をきたす場合、循環性抗凝血素(循環抗凝固物質)が存在していることが考えられます。

循環抗凝固物質とは、通常、in vivoで特定の凝固因子を中和する自己抗体、または、in vitroで蛋白と結合したリン脂質を阻害する自己抗体のことです。

また、APTTの延長をきたす場合には、別の可能性として、「Ⅰ」、「Ⅱ」、「Ⅴ」、「Ⅹ」のいずれかの因子が欠乏している、あるいは、「VIII」、「IX」、「XI」、「XII」のいずれかの因子が欠乏していることが考えられます。

なお、各因子の欠乏を同定するには、各凝血因子の定量をします。

検体の保存

遠心後の血漿で測定します。

保存が必要な場合には,-80℃の冷凍庫に凍結します。

これは、不安定な凝固因子の不活性化を防ぐことが目的です。

注意点

検体には、適当な量のフィブリノゲンが血漿検体に含まれている必要がありますので、凝固時間の結果を判定する場合、フィブリノゲンが著しく減少していないことを確認する必要があります。

もしも、フイブリノゲンが200mg/dL以下である場合、フィブリン形成が悪くなるので凝固時間が延長する可能性があります。100mg/dL以下である場合には、明らかな凝固時間の延長が見られます。

フィブリノゲン

フィブリノゲンは、血液凝固因子です。

フィブリノゲンは、トロンビンの作用により、フィブリン塊となり、さらに、血液凝因子(XIII)により、安定化フィブリンとなります。

基準値

成人での基準値は200~400mg/dlです。

フィブリノゲンが増加する場合

フィブリノゲンは急性相反応蛋白の一つで、感染症、悪性腫瘍、自己免疫性疾患など、さまざまな疾患で400mg/dl以上に増加することがありますが、一般には、フイブリノゲンの低下が臨床的に問題となります。

フィブリノゲンが低下する場合

先天性の合成能低下の場合

低フィブリノゲン血症、無フィブリノゲン血症などがあります。

なお、異常フィブリノゲンでは、PTが延長したり、フィブリノゲン塊の形成が認められなかったりします。

後天性の合成能低下の場合

フィブリノゲンは肝細胞で合成されますので、重症の肝障害では、血漿フィブリノゲンが低下します。

消費の冗進する場合

播種性血管内凝固症候群(disseminatedintravaScularcoagulation:DIC)、広範な血栓症、大量出血、蛇毒製剤の投与などでは、フィブリノゲンの体内消費が進むため、血漿フイブリノゲンの測定値は減少します。

仮に線溶が充進すれば、フィブリノゲンの分解が進み、血漿フィブリノゲンが減少します。

測定の注意点

APTTやPTのような凝固検査では,検査結果を判定する終末点はすべて、フィブリノゲンからフィブリンヘの転化を利用していますので、検体血漿に十分な量のフィブリノゲン(200mg/dL以上)が含まれているか否かを確認する必要があります。

FDP

FDPとは

FDPとは、フィブリンやフィブリノゲンの分解産物です。

FDPは、fibrin/fbrinogen degradation products の略です。

FDPが血中に出てくるメカニズム

血液凝固機構では、フィブリノゲンからフイブリン網を形成し、血栓を補強します。

そして、トロンビンは、VⅢ因子を活性化し、フィブリン塊を安定化します。

しかし、損傷血管を元に修復し、再び血流を回復するためには、フイブリン塊を溶かすことが必要です。

その反応は、線維素溶解現象(線溶)といいます。

線溶活性が病的に冗進すると、フィブリン塊、さらには、フイブリノゲンを溶解してしまい、止血機構を阻害してしまいます。

ここで、血管内皮細胞で産生されるプラスミノゲンアクチベータ(組織プラスミノゲンアクチベータ:tPA)は、プラスミノゲンを活性化し、その活性化されたプラスミノゲン(プラスミンといいます)は、フィブリノゲンやフィブリンを分解します。

この分解された物質が、フィブリン/フィブリノゲン分解産物(fibrin/fbrinogen degradation products:FDP)です。

FDPの構造

フィブリノゲンが溶解するとき(一次線溶)、フィブリノゲン分子は、プラスミンの作用により、X分画およびY分画という中間産物を経て、最終的には2分子のD分画(Dmonomer)と1分子のE分画(Efragment)となります。

さらに、フィブリンが溶解するとき(二次線溶)、安定化フィブリンがプラスミンによって分解され、種々の高分子中間産物を経て、最終的にDダイマー(Ddimer)およびE分画になります。

一般的には、血管内ではフィブリンが分解されたものが主成分です。

測定上の注意点

FDP測定では血清検体を使いますが、フィブリノゲンやフイブリンモノマーが残存していると、それらの分解産物が測定されてしまい、誤差の要因となります。

また、線溶が亢進していると、血清分離までに線溶が進行してしまい、その後の測定値が、体内の状態を正確に反映しません。

正確に測定したい場合、採血時に抗プラスミン剤を加える必要がありますが、ラテックス粒子表面に抗フィプリノゲン抗体が付着しているので、リウマトイド因子が存在するときは偽陽性を示すことがあります。

FDPが高値を示す場合

FDPは一次線溶と二次線溶によって生じた分解産物を含みますので、FDPの測定により、腺溶冗進があるかどうかをチェックできます。

FDPの値が高いときは、Dダイマーを測定し、二次線溶が主として冗進しているかどうかを推定します。

FDPの高い場合として、以下の場合など考えられます。

血管内血栓形成

代表的なものとしては、播種性血管内凝固(DIC)、多発性の塞栓症があります。

肝疾患

劇症肝炎や肝硬変症のような重症な肝障害で、FDPは増加傾向を示します。これは、FDPの代謝が遅延して血中にうっ滞するためと考えられています。

トロンボテスト(TT)

トロンボテストは,活性の弱いウシ脳組織トロンボプラスチンと,第V因子を含むウシ吸着血漿を加え、第Ⅶや、X因子(ビタミンK依存性凝固因子)の変動を反映するよう工夫したものです。

トロンボテストは、経口抗凝血薬(ワーファリンなど) のモニタリングに用いられています。

へパプラスチンテスト(HPT)

トロンボテストではPIVKAの影響を受けるので、PIVKAの阻害作用を除去する目的で、ウシ脳の代わりにウサギ脳由来組織トロンボプラスチンを使用し、試薬に対する検体量を少なくしたのが「へパプラスチンテスト」です。

ヘパプラスチンテストは、ビタミンK依存性凝固因子の肝での産生能を評価するとされています。