脳科学・哲学・法律に関わる話です.
ヒトは自由意志を信じてきた
人類は,はるか昔から,「人の行動は,人の自由な意志によって選択した結果である」と考えてきました.
そして,私たちの社会には,それを前提にしている部分があります.
たとえば,法は,個人が自由意志を持った存在であることを前提としています.
特に,刑法では,犯人が自由意志によって悪い行為をしたから責任を問うという構造になっていますし,自由意志によらない行為であれば,刑罰はありません(精神に障害がある場合など).
科学の進歩
近年の科学研究は,人に自由意志があるのかを解き明かそうとしています.
着目ポイントは大雑把にいえば,『人の思考や行動が,物理的な脳の神経ネットワークの活動のみによって決められているのか?』という点でしょう.
これらの参考記事をざっと読むと,イメージは掴めるでしょう.
WIRED:「自由意志」は存在する(ただし、ほんの0.2秒間だけ)
WIRED:人間は「脳」の下僕?自由意思は存在するのか
自由意志の存在が否定されたら…?
自由意志に関する神経科学分野の研究は発展途上のようですが,もしも,この神経科学分野の研究が,将来,人の自由意志を「幻影」と証明したとき,私たちは,何をどのように考えればよいのでしょうか?
考えなければいけないことは多岐にわたると思われますが…
少なくとも上に述べた刑法については,大きく見直す必要がありそうです.
たとえば,犯罪傾向のある脳を持つ人が重大な犯罪をやったとしても,犯人に道徳的な責任を問えないので,これまでのように道徳的な観点から重たい刑罰を与えることはできなくなるでしょう.
仮に重たい刑罰(長期の懲役刑や死刑)を与えるとすれば,それを正当化する根拠を,「社会からの隔離(排除)のため」などと再定義する必要が出てくると思われますし,懲役刑や死刑という現在の刑罰の内容についても,見直す必要が出てくるかもしれません.
私たちの社会に,難しい問いかけをすることになるでしょう.