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映画になった “コンピュータの父”

過去の偉人を紹介する記事です. 『コンピュータを発明したのは誰か?』 この問いに対し,「コンピュータの父」として,しばしば名前の挙がる人物が,イギリスの数学者,アラン・チューリングです.

チューリングは,1936年,現代のコンピュータの基本原理といわれている「チューリング・マシン」を考案した人物として知られています.

また,彼は,第二次世界大戦中,ドイツ軍の無敵暗号機「エニグマ」の暗号を解読する計算機をつくった功績でも知られています.

エニグマ暗号の解読は,ドイツ軍の敗戦につながり,戦争の終結を早めたと言われています.

このことは,映画「イミテーション・ゲーム」で語られています.

第二次世界大戦の開戦後まもない1939年.
政府の暗号解読機関に6人のゲームの達人たちが集結していた.
アラン・チューリング(当時27歳)もその一人であった.
彼らの任務は,解読不可能といわれた,ドイツ軍の無敵暗号機「エニグマ」の暗号の攻略だった.
他の5人は,毎日,地道に解読作業に取り組む.
しかし,チューリングは,他の5人の作業を「徒労」と否定し,孤立して暗号解読機づくりに没頭する.
彼は間接的な表現が理解できず日常会話でも周囲とすれ違う.ジョークなどを理解できない.思いやりに欠け,良好な対人関係を形成できない.
だが,彼の良き理解者となる女性ジョーンの加入により,チューリングの意識は変化を見せはじめる.
チームとして結束しはじめた彼らだったが,やがて残酷な選択を迫られることになる….
(原作はイギリス人数学者で作家のアンドルー・ホッジズによる『エニグマアラン・チューリング伝』)

個人的には,かなりオススメの映画です.

こんな記事もご参考に(WIRED
アラン・チューリングとは何者か? 映画『イミテーション・ゲーム』徹底解読 « WIRED.jp

ここで,映画のタイトルになっている「イミテーション・ゲーム」とは,チューリングが「機械は思考するか?」という論文(1950年)で示した,次のようなゲームです.

・質問者1名と,回答者2名(男女1名ずつ)の,合計3名でグームを行う
・質問者は隔離された状態で,回答者2名と文字のみで問答を重ね,両者の性別を当てる
・このとき回答者の一方は質問者に正解させようとするが,もう一方は,別の性別をイミテート(真似)して質問者をだまそうとする

論文中で,チューリングは問うています.

「機械は同様のゲームで,回答者役(だます側)をうまくプレーできるか?」と.

これは,現在「チューリング・テスト」と呼ばれる,人工知能のレベルを測るテストの原型でもあるそうです.

ちなみに,チューリングは,戦後も研究を発展させ,プログラム内蔵方式のコンピュータACEについての論文を発表しています(1946年).

しかし,エニグマ暗号解読の功績も,ACEの設計の功績も,戦後,国家機密として長らく封印され,公になったのは彼の死から数十年後でした.

チューリングの死

チューリングには,国家レベルの秘密のほかに,個人的な秘密がありました.

彼は性的マイノリティだったのです.

当時,イギリスで同性愛が違法とされていたため,チューリングは,1952年に同性愛行為で有罪判決を受けました.

チューリングは,懲役刑にならないかわりに,性的性向を矯正し性欲を抑えるためという名目で,1年間,エストロゲン(女性ホルモン)の強制投与を受けさせられたのです.

この屈辱のためか,その後の1954年,チューリングは青酸カリで自殺しています(享年41歳).

同性愛がイギリスで非犯罪化されたのは,彼の死後10年以上が経過してからでした.

2009年,戦争の終結を早めた英雄に対する過去の不適切かつ非人道的な扱いについて,当時のブラウン首相が英政府を代表して謝罪を表明しました.

さらに,2013年,エリザベス女王により死後恩赦が与えられました.