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読書感想『日本の「安心」はなぜ、消えたのか』

少し前に『日本の「安心」はなぜ、消えたのか』という本を読みました.

出版社は集英社(2008/2/29),著者は山岸俊男氏です.

山岸 俊男(やまぎし としお、1948年1月21日 – 2018年5月8日)は、日本の社会心理学者。北海道大学名誉教授。文化功労者。ーWikipediaより

昨今,世界中で「信用スコア」や「信頼スコア」が話題なことから,「信頼」をテーマに扱う書籍(タイトル「信頼の構造」)を出版している山岸俊男氏には以前から興味をもっていたところ, 「とっつきやすい」とレビューのあったこの本を読んでみようと,Kindleで買って読んでみた次第です(Kindle 価格:¥1,555(税込)).

本の中身

この本は,全10章からなっていて,こんな目次になっています.

第一章 「心がけ」では何も変わらない!
第二章 「日本人らしさ」という幻想
第三章 日本人の正体は「個人主義者」だった!?
第四章 日本人は正直者か?
第五章 なぜ、日本の企業は嘘をつくのか
第六章 信じる者はトクをする?
第七章 なぜ若者たちは空気を読むのか
第八章 「臨界質量」が、いじめを解決する
第九章 信頼社会の作り方
第十章 武士道精神が日本のモラルを破壊する

各章に書かれた内容は,とても面白いものでしたが,さすがに全部を説明するのはボリューミーなので,主要な部分に絞ります.

この本で,著者の山岸氏は,戦後の日本社会のありようは,「安心社会」であったと指摘しています.

「安心社会」とは、閉鎖的な集団主義社会の仕組みが,そこに暮らす人たちに「安心」を提供してくれる社会です.
たとえば,農村社会では,相互監視の仕組みがあり,かつ,「村八分」や「追放」という制裁があります.
このメカニズムは,村民に「安心」を保証します.
相手が同じ村の中に住んでいるというだけで,「悪さはしないはず」と安心できるのです.

安心社会では,人々は,相手の信頼性を考える必要はありません.

このような閉鎖的な集団主義社会の仕組みは,ビジネスの世界でも功を奏してきました.

日本企業は,取引相手が信頼できる相手かどうか判断するための労力を割く必要がなく,経営に集中できたのです.

著者の山岸氏は,それが日本経済の発展に貢献したと見ています.

そして,著者の山岸氏が言うには,グローバル化や情報社会化などの影響により,近年の日本社会からは「安心」が消えつつあり,そして,日本社会は従来の閉鎖的な「安心社会」から,開放的な「信頼社会」へと大きな転換をしつつあるそうです(たとえば,規制緩和,市場開放,情報公開,法令遵守 etc.)  .

※「信頼社会」とは,開放的な社会の中で,自分自身で誰を信頼し、誰と協力行動をするかを決めなければいけない社会です. 信頼社会では,他人から裏切られたり騙されたりするリスクはありますが,そのリスクを計算に入れたうえで,他人と協力関係を結ぶことによって得られるメリットに期待します.

ところが,著者の山岸氏は,日本は放っておいても「信頼社会」へ移行できないのではないか?と悲観視していました.

そして,「信頼社会」へ移行する前に日本社会は崩壊してしまうかもしれないという危機感を抱いていました.

理由として,私たち日本人には,①「人を見たら泥棒と思え」という諺(ことわざ)が存在することからも分かるように,他人を簡単に信じようとしない傾向があることや,②信頼社会とは相容れない集団主義的な武士道精神(たとえば「嘘も方便」,「大義のためには犠牲もやむをえない」,「利潤追求は悪」など)が染み付いていることをあげています.

この対策として,著者の山岸氏は,「正直者が得をする社会制度の実現」を提唱しています.

これによって,自然と,日本には「信頼社会」が定着し,崩壊を免れるのではないかという趣旨の話をされています.

感想

この本は,一般向けということで,説明はとても分かりやすかったです.

2008年に出版された本であるものの,説明される内容は,十分に今の日本に通用すると感じました.

特に面白いと感じたのは,「正直者が得をする社会制度の実現」の話の中で引き合いに出されたネットオークションの話でした.

ネットオークションは,匿名であり,悪さをしようと思えばやりたい放題できるにも関わらず,今日,うまく機能しているのは何故か?という考察で,それは,利用者が,他人の「悪評」ではなく,「積み重なった良い評判」に目を向けているからだ,という内容でした.

そして,これからのネットの世界では,「評価情報を管理するサービス」の登場が大切であるという趣旨の話をされていました.

山岸氏は,まさに,今日の,信頼スコア提供サービスが導入されつつある社会の到来を予言していた(?)のかもしれません,

色々なことを考えさせられた1冊でした.