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酸化ベリリウム事件(昭和51年(行ツ)第9号、最高裁昭和51年4月30日第2小法廷判決)

いわゆる酸化ベリリウム事件を解説します。

事件名

酸化ベリリウム事件(最高裁昭和51年4月30日第2小法廷判決)

論点

出願後に頒布された刊行物によって、出願時の技術水準を認定することは、実案3条2項に反するか?

事実関係

・特許庁の審判官は、拒絶審決をしました。

(審決は、第一引用例と第二引用例から、本願発明が容易に推考可能である、と述べました。)
・出願人が、出訴しました。
・東京高裁は、出願人の訴えを棄却しました。
(東京高裁は、出願時の技術水準を判断する資料として、特許庁内における不服審判手続きに現れていなかった、出願後に頒布された刊行物を新たな資料として採用し、その新たな証拠によって、出願時の技術水準を認定し、実案3条2項の容易推考性を判断しました。)
・出願人は、上告しました。

本判決について

・最高裁は、出願人の上告を棄却しました。

・以下、判旨です。

「実用新案登録出願にかかる考案の進歩性の有無を判断するにあたり、出願当時の技術水準を出願後に頒布された刊行物によって認定し、これにより進歩性の有無を判断しても、そのこと自体は、実用新案法3条2項の規定に違反するものではない。」

解説

本件は、(メリヤス事件の射程の中で)出願時点の考案の進歩性を判断するときに、出願当時の技術水準を、出願後に頒布された刊行物によって認定できる、としたものです。

つまり、本事件で最高裁は、出願時に発行されていた「刊行物」に、出願時に存在していた「情報」が記載されていなかったとしても、その「情報」が出願後に発行された刊行物に記載されていた場合には、その刊行物に記載された情報を、出願時の進歩性の判断材料にしてもよい、と言ったのです。

なお、「出願後に頒布された刊行物」の例としては、出願後に公開された先願の特許公報が挙げられます。

補足(進歩性の判断と技術水準について)

発明の進歩性を判断に、技術水準が考慮されるとは、どういうことをいうのか、解説します。

審査の流れ

通常、出願された発明は、審査請求された後、審査官によって、新規性や進歩性などの要件が審査されることになります。

このとき、審査官は、出願時より前に発行された文献の中から、出願された発明(請求項に記載された発明)の構成要件を満たす発明が記載された文献を探します。

このとき、

・出願された発明の構成要件を満たす発明が記載された文献を見つけた場合、審査官は、「新規性なし」の拒絶理由を出願人に通知します。

・出願された発明の構成要件を満たす発明が記載された文献を見つけることができなかったときは、審査官は、なるべく、出願された発明に近い発明が記載された文献を探し、その発明と、出願された発明との差異をチェックします。

つぎに、審査官は、その発明と、出願された発明との差異に、進歩性がないことの論理付けができるかどうか検討します。

そして、進歩性がないことの論理付けができる場合、出願人に「進歩性なし」の拒絶理由を通知します。

進歩性の判断と、技術水準の考慮

進歩性がないことの論理付けは、実務上、出願された発明に近い発明が記載された文献と、出願された発明との「差異」を生み出すことが、当業者にとって、出願時に容易であったかどうかにより判断されます(容易であると判断されれば「進歩性なし」となります)。

技術水準は、「差異」を生み出すことの容易性の判断に考慮されます。

たとえば、2012年現在、タッチパネル式のカーナビ装置はないが、タッチパネル自体は入力装置として広く知られている技術(周知技術)だと仮定します。

ここで、タッチパネル式のカーナビ装置が出願されたとします。

そして、審査官は、タッチパネル式ではないカーナビ装置が記載された「文献A」を発見したとします。

このとき、審査官は、「当業者は、文献Aに、周知技術を組み合わせて、出願にかかる発明を完成させることは簡単だ」という見解を記載した拒絶理由を通知してきます。

補足2

関連した問題点として、特許判例百選(42~43)に次の見解が挙げられています。

1-1
審決取り消し訴訟で、容易推考事実としての公知刊行物「甲」、および出願当時の技術水準を証する証拠「丙」としての、新たな公知刊行物「乙」を証拠として追加する場合であって、

‐ 実質的に主要事実(甲や丙と置き換えるようなとき)である場合
→最大判(メリヤス)や、167条の逸脱行為であり許されない

‐ 甲や丙の補強証拠である場合
→許される

1-2

審決取り消し訴訟で、容易推考事実としての公知刊行物「甲」、および出願当時の技術水準を証する証拠「丙」としての、新たな非公知刊行物「乙」を証拠として追加する場合であって、

‐ 出願当時の技術水準を補強するものである場合
→許される(本判決の事案)

‐ 出願当時の技術水準を認定する唯一の証拠である場合
→この場合は、最大判(メリヤス)や、167条の逸脱行為であり許されないと思う

2-1

技術水準を主張立証するための補助証拠である場合
→問題はない

2-2

出願時の技術水準を引き上げるための証拠となる場合
→技術水準という主要事実を直接立証する証拠の一部となるので、この場合は最大判との関係で問題がある。

※ このあたりは、訴訟の立証方法に関する細かい部分であり、面白いところなのですが、弁理士試験ではまず出ないでしょう。