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法律

167条の効力の及ぶ範囲(平成7年(行ツ)第105号、平成12年11月27日第1小法廷判決)

事件名

「クロム酸鉛顔料およびその製法」事件

論点

167条の効力の及ぶ範囲

事実関係

・甲と、乙とが、Xの特許権について、それぞれ無効審判を請求し、同一の事実をを主張し、同一の証拠を提出した。

・特許庁では、二つの無効審判を併合して、審理した。

・審判官は、一通の審決書によって、無効審判の請求を不成立とする審決をした。

・甲は、審決取り消し訴訟を提起したが、乙は提起しなかった。

・東京高裁は、進歩性がないとして、審決を取り消す判決をした。
(Yは、もし乙に関する審決が登録されたら、167条により、甲は無効審判の請求の利益を失うと述べたが、高裁は、失わないと述べた)

・Yは、上告

本判決の結論

・棄却
・判旨 一部略

「特許法167条の趣旨は、ある特許につき無効審判請求が成り立たない旨の審決(以下「請求不成立審決」という。)が確定し、その旨の登録がされたときは、その登録の後に新たに右無効審判請求におけるのと同一の事実及び同一の証拠に基づく無効審判請求をすることが許されないとするものである。

よって、それを超えて、確定した請求不成立審決の登録により、その時点において既に係属している無効審判請求が不適法となるものと解すべきではない。

その理由は、次のとおりである。

同一の特許に対して複数の者が無効審判請求をすることは禁止されておらず、特許を無効とすることについて利益を有する者は、いつでも当該特許に対して無効審判請求をすることができるのであり、この特許を無効とすることについての利益は、無効審判請求をする者がそれぞれ有する固有の利益である。

しかし、ある特許の無効審判請求につき請求不成立審決が確定し、その登録がされた場合において、更に同一の事実及び同一の証拠に基づく無効審判請求の繰返しを許容することは、特許権の安定を損ない、発明の保護、利用という特許法の目的にも反することになる。

そこで、特許法167条は、無効審判請求をする者の固有の利益と特許権の安定という利益との調整を図るため、同条所定の場合に限って利害関係人の無効審判請求をする権利を制限したものであるから、この規定が適用される場合を拡張して解釈すべきではなく、文理に則して解釈することが相当である。

仮に、確定した請求不成立審決の登録により、既に係属している同一の事実及び同一の証拠に基づく無効審判請求が不適法になると解するならば、複数の無効審判請求事件が係属している場合において、一部の請求人が請求不成立審決に対する不服申立てをしなかったときは、これにより、他の請求人が自己の固有の利益のため追行してきたそれまでの手続を無に帰せしめ、その利益を失わせることとなり、不合理といわざるを得ない。

以上のように解するときは、同一特許に対し同一の事実及び同一の証拠に基づいて並行して複数の無効審判請求がされ、特許庁の判断が請求不成立審決と特許を無効にすべき旨の審決(以下「無効審決」という。)とに分かれ、双方が確定する事態が生じ得ることになる。

しかし、無効審決が確定したときは、特許権は、初めから存在しなかったものとみなされるのであるから(特許法125条)、これとは別に既に請求不成立審決が確定していたとしても、当該特許の効力は失われるのであって、審決の矛盾、抵触により法的状態に混乱を生ずることはない。

このことは、事実又は証拠を異にする無効審判請求について請求不成立審決と無効審決がそれぞれ確定した場合と同様である。

また、同一特許に対する同一の事実及び同一の証拠に基づく複数の無効審判請求につき、いずれについても請求不成立審決がされ、一部の者との関係では確定し、その余の者が右審決に対する取消訴訟を提起し請求認容判決及び無効審決を得た場合もこれと同様に解することができる。

この見解に反する大審院の判例(大審院大正八年(オ)第八一一号同九年三月一九日判決・民録二六輯三七一頁)は、これを変更すべきである。

そうすると、被上告人らの無効審判請求がされた時点で、その請求と同一の事実及び同一の証拠に基づく訴外会社の無効審判請求について確定審決の登録がされていない本件において、被上告人らの本件無効審判請求が適法であるとする原審の判断は、結論において是認することができる。

論旨は採用することができない。

論文試験用の要約

特許法167条は、ある特許につき無効審判請求不成立審決が確定し、その旨の登録がされたときは、その登録の後に新たに無効審判請求におけるのと同一の事実及び同一の証拠に基づく無効審判請求をすることが許されないとするものである。

ここで、確定した請求不成立審決の登録により、その時点において既に係属している無効審判請求が不適法となるものと解すべきではないと解する。

その理由は、次のとおりである。

理由1 特許法167条は、無効審判請求をする者の固有の利益と特許権の安定という利益との調整を図るため、同条所定の場合に限って利害関係人の無効審判請求をする権利を制限したものであるから、この規定が適用される場合を拡張して解釈すべきではなく、文理に則して解釈するべきである。

理由2 仮に、確定した請求不成立審決の登録により、既に係属している同一の事実及び同一の証拠に基づく無効審判請求が不適法になると解するならば、複数の無効審判請求事件が係属している場合において、一部の請求人が請求不成立審決に対する不服申立てをしなかったときは、これにより、他の請求人が自己の固有の利益のため追行してきたそれまでの手続を無に帰せしめ、その利益を失わせることとなり、不合理である。

理由3 仮に特許庁の判断が請求不成立審決と特許を無効にすべき旨の審決(以下「無効審決」という。)とに分かれ、双方が確定する事態が生じたとしても、無効審決が確定したときは、特許権は、初めから存在しなかったものとみなされるのであるから(特許法125条)、これとは別に既に請求不成立審決が確定していたとしても、当該特許の効力は失われるのであ-って、審決の矛盾、抵触により法的状態に混乱を生ずることはない。 このことは、事実又は証拠を異にする無効審判請求について請求不成立審決と無効審決がそれぞれ確定した場合と同様である。また、同一特許に対する同一の事実及び同一の証拠に基づく複数の無効審判請求につき、いずれについても請求不成立審決がされ、一部の者との関係では確定し、その余の者が右審決に対する取消訴訟を提起し請求認容判決及び無効審決を得た場合もこれと同様に解することができる。

解説

そもそも、167条は、特許権者の利益と、第三者の利益を調整したものといわれています。
すなわち、まず、原則として、特許無効審判を請求できる人は大勢います。
(現行法では「何人も」です。)
ですので、特許権者からすれば、何回も同じ証拠で裁判を争わないといけない心配があります。
しかし、できれば同じ証拠でする裁判は、一回で済ませてほしいと思っています。

一方、一人が請求したら別の人がもう同じ証拠で請求できないという制度では、早い者勝ちとなってしまい、第三者からすると、不便です。

そこで、確定審決まで、という期間にしたのです。

そして、この事件では、167条の趣旨にあう法的見解を示しました。
すなわち、早く無効審判を請求した人が負けて、出訴するのをあきらめても、あとで無効審判を請求した人が、巻き添えをくらうことはないという点で、第三者の保護が図られています。

補足

167条は、裁判を受ける権利との関係で、憲法違反という人もいます。

なお、オーストリアでは、167条に相当する内容の特許法の条文が、憲法違反として削除されているようです。