事件名
アースベルト事件
論点
出願公開後に警告した後、補正したら、改めて警告が必要か?
事実関係
・出願人Xが、自動車の後部に垂らしてアースしながら走れるベルトについて実用新案登録出願をした。
・Yが、同様のベルトを製造販売
・出願人が、請求の範囲を減縮する補正をした。
・第一審は、棄却
(理由:不明)
・二審も、棄却
(仙台高裁は、まず、法的な解釈として、①補償金請求との関係では、補正のときに新たな出願がされたものと解する、と述べました。そして、②補正後に警告があるか、悪意であることが必要と述べました。そして、あてはめにおいて、③この事件では、補正後の警告もないし、悪意とも認められないから、補償金請求の要件を満たさないとしました。)
本判決の結論
・一部破棄差し戻し、一部棄却
・判旨
「実用新案登録出願人が出願公開後に第三者に対して実用新案登録出願に係る考案の内容を記載した書面を提示して警告をするなどして、
第三者が出願公開がされた実用新案登録出願に係る考案の内容を知つた後に、補正によつて登録請求の範囲が補正された場合において、その補正が元の登録請求の範囲を拡張、変更するものであつて、
第三者の実施している物品が、補正前の登録請求の範囲の記載によれば考案の技術的範囲に属しなかつたのに、補正後の登録請求の範囲の記載によれば考案の技術的範囲に属することとなつたときは、
出願人が第三者に対して実用新案法13条の3に基づく補償金支払請求をするためには、右補正後に改めて出願人が第三者に対して同条所定の警告をするなどして、第三者が補正後の登録請求の範囲の内容を知ることを要するが、
その補正が、願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において補正前の登録請求の範囲を減縮するものであつて、第三者の実施している物品が補正の前後を通じて考案の技術的範囲に属するときは、右補正の後に再度の警告等により第三者が補正後の登録請求の範囲の内容を知ることを要しない
と解するのが相当である。
(なぜなら)
第三者に対して突然の補償金請求という不意打ちを与えることを防止するために右警告ないし悪意を要件とした同条の立法趣旨に照らせば、
前者の場合のみ、改めて警告ないし悪意を要求すれば足りるのであつて、
後者の場合には改めて警告ないし悪意を要求しなくても、第三者に対して不意打ちを与えることにはならないからである。
本件についてこれをみると、出願公開時における本件考案の登録請求の範囲は、・・・・のままではなく、出願公開前の・・・補正により補正されており、・・・・登録請求の範囲の減縮に当たると解される。
そうであれば、・・・被告製品は、補正の前後を通じて本件考案の技術的範囲に属することになるから・・・出願人が同条所定の補償金の支払を請求するには、補正の後に改めて・・・に対して警告を・・・して被上告人らにおいて補正後の登録請求の範囲の内容を知ることは要しない・・・。
なお、右警告ないし悪意の要件については、実用新案登録出願は、一年六か月経過後に例外を除き自動的に出願公開がされるものであるところ・・・本件記録によれば、被上告人らは、・・・本件訴状とともに甲第一号証の一ないし五(本件考案の実用新案登録願、出願審査請求書、明細書、委任状、出願番号通知)の写しの送達を受けることにより、本件考案が出願されたこと及びその内容、出願番号等を知り、その後も、本件考案に類似する考案の出願の有無・内容等を調査し(乙第一号証ないし第三号証、第四号証の一・二、第五号証の一ないし七、第六号証)、本件考案の審査の過程を見守つていたこと(乙第七号証の一ないし七)が窺われ、
更には、第一審の昭和五五年二月二〇日の口頭弁論期日における上告人Aの本人尋問において、被上告人らの訴訟代理人の質問に対して、上告人Aが本件考案はこの間公開されたばかりである旨答えており、
これらのことに照らせば、出願公開の直後に、あるいは遅くとも右口頭弁論期日において、本件考案が出願公開された事実を被上告人らが知つたとの疑いが濃厚である。
したがつて、出願公開に基づく上告人Aの補償金支払請求を棄却した原追加判決は、その要件を定めた実用新案法一三条の三の解釈適用を誤つた違法があつて、この違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであり、ひいて審理不尽、理由不備の違法があるものといわなければならない。
これと同旨に帰するものと解される上告人Aの論旨は、理由がある(なお、上告会社は、その主張によつても、本件考案について独占的実施許諾を受けて昭和五三年六月から原告製品の製造販売をしているというだけであつて、本件考案の出願人でないことが明らかであるから、他に特段の事情のない限り、同条所定の補償金支払請求を認める余地はない。)。
解説
本判決は、補正と補償金請求の要件の警告との関係について法的見解を述べています。
減縮補正の前後を通じて被告製品が請求の範囲に含まれていたときや、 拡大補正により請求の範囲にいきなり入ってしまったときには、再度の警告がいる、という見解です。
注意しなければならないのは、拡大補正の前後を通じて権利範囲に入っているときについては、何も述べていない点です。
不意打ちを防ぐという趣旨であれば、その場合、再度の警告はいらないようにも思えます。
しかし、警告後の一回目の補正で、広範な範囲に補正された場合、公知技術との関係で、ぜったい特許にならないだろうと第三者が考えるような補正の場合、その第三者に、次の補正で減縮したときに再度の警告をするべきかもしれない、という意見があるようです。(百選p85)