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法律

訂正審決の確定と無効審決取消訴訟の帰趨(平成7年行政(ツ)第204号、最高裁平成11年3月9日第3小法廷判決)

事件名
 大径角型鋼管事件(だいけいかくがたこうかんじけん)

論点
無効審判の審決取り消し訴訟中に、訂正審判が確定したときは、その無効審判の審決取り消し訴訟は、どうなってしまうのか。

事実関係

・Xは特許権者

・Yは、特許権者Xの特許に、無効審判を請求した。

・特許庁は、無効にすべきとの審決(請求認容審決)をした(理由:進歩性違反)。

・ 特許権者Xは、審決について審決取り消し訴訟を提起するとともに、特許請求の範囲を減縮する訂正のため訂正審判を請求した。

・訴訟中に、訂正審決が確定した。

・東京高裁は、無効審判の審決に対する審決取り消し訴訟について、棄却判決をした。

(東京高裁は、訂正審決が確定しても、訂正後の発明を無効審決において引用された技術と対比して、無効審決と同旨の理由により同一の結論に達するときは、無効審決における認定の誤りはその結論に影響を及ぼさないから、無効審決を違法として取り消すことはできない、とした。)

・ 特許権者Xが上告

本判決の結論

・破棄自判

・判旨(現行法に合わせて文章をすこし改変済)

「一般に、審決取消訴訟において、審判の手続において審理判断されなかった公知事実との対比における無効原因は審決を違法とし、又はこれを適法とする理由として主張することができない。

ここで、特許請求の範囲が訂正審決により減縮された場合には、減縮後の特許請求の範囲に新たな要件が付加されているから、通常の場合、訂正前の発明について対比された公知事実のみならず、その他の公知事実との対比を行わなければ、発明が特許を受けることができるかどうかの判断をすることができない。

そして、このような審理判断を、特許庁における審判の手続を経ることなく、審決取消訴訟の係属する裁判所において第一次的に行うことはできないと解すべきであるから、訂正後の明細書に基づく発明が特許を受けることができるかどうかは、当該特許権についてされた無効審決を取り消した上、改めてまず特許庁における審判の手続によってこれを審理判断すべきである。

もっとも、訂正後の特許請求の範囲に基づく発明が無効審決において対比されたのと同一の公知事実により無効とされるべき場合があり得ないではなく、原判決は本件がこのような場合であることを理由とするものであるが、本件において訂正審決がされるためには、126条3項により、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないから、訂正後の特許請求の範囲の記載に基づく発明が無効審決において対比された公知事実により同様に無効とされるべきであるならば、訂正審決はその規定に反していることとなる。

そのような場合には、123条1項8号において、126条6項に違反して訂正審決がされたことが特許の無効原因となる旨を規定するから、右のような場合には、これを理由として改めて特許の無効の審判によりこれを無効とすることが予定されている。

したがって、無効審決の取消しを求める訴訟の係属中に当該特許権について特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正審決が確定した場合には当該無効審决を取り消さなければならないものと解するのが相当である。

これを本件について見ると、・・・・本件訂正審決による特許請求の範囲の訂正は、特許請求の範囲の減縮に当たるものであるから、本件無効審決はこれを取り消すべきものである。

解説

この事件は、旧法に関するものですが、現行法下においてもあてはまります。

本判決は、以前の判例(メリヤス編機事件)を前提に、判断が下されています。

この判決には、結論および理由について、批判がされています(百選110~111)。

本判決では、裁判官は、無効審決の取り消しの根拠として

「通常の場合、訂正前の発明について対比された公知事実のみならず、その他の公知事実との対比を行わなければ、発明が特許を受けることができるかどうかの判断をすることができない。」

と言っていますが、これが取り消しの根拠となるかは疑問だという批判です。

つまり、
無効審判の審決取り消し訴訟は、審決の違法性や瑕疵を争うものです。
無効審判と訂正審判とは、別個の手続ですから、無効審判の審決のあとに、訂正審判で特許請求の範囲を減縮する訂正が確定したからといって、そのこと(訂正審決の確定)をもって無効審判の審決が違法ということにはなりません。

また、裁判官が、「通常の場合、」と言っているように、
減縮訂正の前後で、なお無効審決の原因となった公知事実で無効審決が維持できるか場合もありえるのです。すなわち、必ずしも、「その他の公知事実との対比を行わなければ、発明が特許を受けることができるかどうかの判断をすることができない」ことはないのです。

とくに、上に書いたように、審決取り消し訴訟は、審決の違法性を争うものですが、本判決では、無効審決の違法性や瑕疵が何であるか、よくわからないのです。

コメント

メリヤス編機事件の最高裁判例は、単に、無効審決の原因となった公知事実以外の他の公知事実をもとに無効審決を維持することができないと言っているだけなので、この判決の結論の理由づけとしては、あまりよくなかったのかもしれません。

なぜ、わざわざ別の無効審判を起こさなければならないのか、という疑問もあります。

補足

東京高裁平成14年11月14日は、本判決とは異なり、無効審判が請求不成立審決になった場合の事件です。
この事件では、審判請求人がが審決取り消し訴訟を提起したあとに、特許権者が訂正審判による特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正をして、訂正が確定しました。
このときに、東京高裁は、本判決のような当然取り消しを否定したのに注目です。