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採血時の神経損傷で過失を認めた裁判例

採血の事故により、臨床検査技師と勤務先の病院に対する3800万円の損害賠償請求が認められた事件がありました。

※口頭弁論終結日 平成14年2月5日福岡地方裁判所小倉支部第2民事部(裁判長裁判官 古賀寛)。

これは、臨床検査技師が、患者の左橈骨神経知覚枝損傷を発生させた事件でした。

すなわち、被告(臨床検査技師)は,健康診断(人間ドック)を受けた原告(患者)の左手首橈側部分の血管に注射針を刺入して採血を行った結果、左橈骨神経知覚枝損傷を発生させました。

臨床検査技師については、民法709条に基づいて、損害を賠償すべき義務があるとされ、勤務先の病院については、民法715条に基づき、連帯(不真正連帯)して損害を賠償すべき義務があるとされました。

判決文の主文は、つぎのようになっていました。

主 文

1 被告らは,原告に対し,連帯して3815万9778円及び内3565万97 78円に対する平成12年4月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は,これを5分し,その1を原告の負担とし,その余を被告らの負担 とする。

4 この判決は,仮に執行することができる。

裁判所の判断

裁判所は、以下の事実を認めました。

早朝採血の担当であった被告(臨床検査技師)は、原告(患者)の左肘の内側正中の血管から採血しようと、上腕にゴム製の駆血帯を巻いて採血に適する血管を探したが、これを見つけることができなかったため、手首方向に徐々に触診しながら採血に適する血管を探し、手首部分(橈骨茎状突起から2cm余り近位の部位)で採血することとした。

被告(臨床検査技師)は、上記採血部位から10cm程度近位の前腕部にゴム製の駆血帯を巻いたうえ、血管の正面から注射針を刺入した。刺入の際、原告(患者)は痛みを訴えたが、被告(臨床検査技師)は、手首からの採血は一般的に痛みを伴うことから、原告(患者)の訴えを特別なものとは認識せずに採血を続行した。

採血後、原告(患者)の採血部位は、紫色に変色し、手首から指先までしびれるなどした。看護婦にその旨を訴え、被告病院整形外科で診察を受けたところ、採血用の注射針による左橈骨神経知覚枝損傷と診断された。

手関節橈側での採血は、肘窩部での採血が困難とみられるときに第2選択として行われる。

1つ目の過失

手関節橈側での採血は、予測し得ない橈骨神経浅枝の損傷を引き起こすことがあり得るため、被告(臨床検査技師)は、できるだけ肘部で太い静脈を見つけ、それがない場合には、前腕の加温、把握運動、前腕の下垂により静脈を怒張させ、肘部での採血に努めるべき義務があった。

しかし、被告(臨床検査技師)は、原告(患者)の左手首橈側から採血するに先立ち、原告に対し、前腕の加温や下垂を施したり、把握運動をさせた形跡はなかった。

被告(臨床検査技師)の採血行為には、注意義務違反の過失があった。

2つ目の過失

また、被告(臨床検査技師)は、原告(患者)が痛みを訴えたにもかかわらず、手首からの採血に通常伴う痛みであると安易に考え、採血を直ちに中止しなかった。

この点でも過失があった。

対策

採血時の神経損傷を防ぐためには、以下のことが重要です。

  • 肘正中皮静脈の尺側への穿刺や、尺側正中皮静脈への穿刺では、皮神経損傷のリスクが高く、また、手関節から5cm以内の橈側皮静脈(前腕)は神経損傷の頻発地域であるため、これらの採血部位はできる限り避ける。
  • 採血針の穿刺角度を10~30°にする。
  • 採血中に、指先にしびれ、激痛など、神経損傷が疑われる症状が発生した場合は速やかに採血を中止する(抜針)。