カテゴリー
検査

肝機能検査の基礎知識

肝機能検査の基礎知識を解説します。

概要

肝臓は、人体最大の実質臓器であり、同時に最も多様な機能を発揮する臓器です。

肝臓の主な機能は、①蛋白質、糖質、脂質などの物質の合成と異化、②胆汁の生成と排泄、③人体にとって有害な物質の解毒、分解、排泄、④血液凝固線溶因子とその制御因子産生と異化による止血機能の調節、⑤門脈系を中心にした循環調節です。

肝機能に異常が無いかを、複数の検査を実施して確認します。

なかでも、血液中のAST、 ALT、LD、γ−GTP、ALP、ChE、ビリルビンは、もっとも基礎的な検査です。

AST、 ALT、LDは、肝臓実質細胞が損傷されると異常値を示します。

また、γ一GTP、ALPは、肝細胞から十二指腸のファーター乳頭に至る胆汁の通過経路に障害が起きると異常値を示します。

さらに、ChEは、肝臓の合成能の重要な指標になります。

そして、ビリルビンは、その生成、代謝、排泄のプロセスのどこに障害があるかを示す重要な指標になります。

AST,ALT

ASTやALTは、分布する組織が傷害を受けると、血中に酵素が流出してくることから、「逸脱酵素」と呼ばれます。

肝細胞壊死を評価する検査です。

ASTは、肝細胞、心筋、骨格筋、腎などに広く分布する酵素です。ALTはほぼ肝臓に限局しています。

ASTやALTは、値の高さが緊急性を反映するわけではありません。例えば、急性肝炎の場合、急激に肝細胞が壊れ、1000を超える数値になることもあります。

一方、慢性肝炎では、ゆっくりと肝細胞が傷害されるので、重症であってもそれほど高い値を示しません。

また、 肝硬変では、壊れる細胞が減少しているので、数値が基準範囲内となることがあります。

AST/ALT比は、肝傷害の病態の鑑別に役立ちます。肝細胞中の酵素含有量は、ASTはALTに比べて約3倍多いですが、血中半減期はASTがALTに比べ短いからです。

なお、肝臓に病変を認める疾患(肝炎、肝がん、肝膿瘍など)以外でも、AST・ALTは高値を示すことが知られています。胆石症、胆管がん、膵がんなど、胆管に病変が及び、胆管の閉塞を認める場合には、胆汁のうっ滞に伴って、肝細胞傷害を認めます。後述する胆道系酵素(ビリルビン・γ-GT・ALP)と合わせた評価が必要です。

LDH(乳酸脱水素酵素)

LDHは、肝臓、心臓、 骨格筋、赤血球など、全身の組織に分布する逸脱酵素です。

これらの組織に傷害がおきると、LDHの血中濃度が上がります。

LDHには構造の違う5つのアイソザイム(LDH1〜LDH5)があります。

心筋、赤血球にはLDH 1、LDH 2が多く含まれています。また、肝細胞、骨格筋にはLDH 4、 LDH 5が多く含まれています。

LDHのアイソザイムを検査することで、傷害された臓器・細胞を推定することができます。

また、ASTとの関係を見ることでも、傷害された臓器を推定することができます。

たとえば、急性肝炎などではLDHは、 ASTやALTとほぼ同様に上昇しますが、溶血性貧血や悪性貧血などの赤血球の傷害では、ASTに比べてLDHが優位に上昇します。

γ‐GTP(γ一グルタミルトランスフェラーゼ)

γ−GTPは、腎臓、膵臓、脾臓、小腸などの様々な臓器に分布する酵素です。

γ−GTPは、胆汁うっ滞や、薬物・アルコールの摂取で誘導され、血液中の活性が増加するため、「誘導酵素」と呼ばれることがあります。

血中に存在するγ−GTPは、ほぼ肝臓由来に限られているため、 γ−GTPの増加は、肝・胆道系障害、あるいはアルコール過量の指標とされます。

γ−GTPが上昇する疾患の代表的なものは、胆石症、 肝炎、肝硬変、脂肪肝、アルコール性肝障害、薬剤性肝障害などです。

なお、γ−GTPは、単独で疾患が分かる検査項目ではないため、ほかの検査も確認することが重要です。たとえば、肝・胆道系疾患ではALPとγ-GTPとがともに上昇します。

ALP

ALPは細胞膜に存在する酵素で、肝臓以外の臓器(骨、胎盤、小腸など)にも含まれ、その由来によって5種類のアイソザイムALP1〜ALP5に分類されています。

ALPが異常値を示す疾患としては、閉塞性黄疸、 肝内胆汁うっ滞のような肝・胆道系疾患と骨病変(転移性骨腫瘍など)が考えられ、その際は、アイソザイムを確認することで由来を推測できます。

なお、ALPの基準範囲は広く設定されていますが、健常人では、あまり変化しませんので、前回値からの変動があるときは、基準範囲内であっても着目する必要があります。

ChE(コリンエステラーゼ)

ChEは、肝細胞で合成・分泌される酵素です。

肝臓の合成能に障害があるとChEは減少するため、肝臓の合成能の重要な指標になります。

たとえば、肝疾患の経過観察や重症度の判定のほか、 悪性腫瘍や消耗性の疾患での全身状態の把握、手術侵襲の程度の判定などに利用されています。

ChEは脂質代謝とも関連があり、高脂血症、脂肪肝、肥満、ネフローゼ症候群などでは高値になります。

なお、ChEは、有機リン系農薬中毒で、著しい低値になります。

ビリルビン

ビリルビンは、いわゆる胆汁色素です。

血清中のビリルビンが増加して2~3mg/dlになると、皮膚や粘膜が黄染するなど、明らかな黄疸が現れます。

ビリルビンは、老化赤血球由来のヘモグロビンと、筋肉由来のミオグロビンが、脾臓で分解されて生成されます。

このビリルビンは間接ビリルビン(非抱合型)と呼ばれ、不溶性です。

間接ビリルビンは、血中でアルブミンと結合して肝臓に運ばれ、グルクロン酸抱合を受けます。

このビリルビンは、直接ビリルビン(抱合型)と呼ばれ、水溶性です。

直接ビリルビンが胆汁の成分として、胆嚢・胆管を通って十二指腸ファーター乳頭から排泄されます(なお、十二指腸に入ったビリルビンは、腸内細菌の働きによってウロビリノーゲンになり、便中や尿中に排泄されます)。

したがって、赤血球の多量の崩壊、肝細胞での摂取・抱合障害、肝細胞障害、胆管閉塞など、ビリルビンの生成、代謝、排泄のプロセスのどこかに障害があると、ビリルビンは異常値を示します。

そして、増加しているビリルビンの種類が分かれば、肝臓へ至る前、肝臓、肝臓の通過後のどこに障害があるかを推定することができます。

例えば、間接ビリルビンが優位に上昇しているときは、疑う疾患に溶血性黄疸が挙がりますし、また、直接ビリルビンが優位に上昇しているときは、疑う疾患に閉塞性黄疸や胆汁うっ滞性肝障害などが挙がります。

なお、尿中に排泄されるビリルビンは、水溶性の直接ビリルビンだけです。

間接ビリルビンは、血液中でアルブミンと結合しているので腎糸球体で濾過されないからです。

血清中の直接ビリルビンが異常高値を示す病的な場合には、尿中の直接ビリルビンは陽性になります。

アンモニア

肝臓では、たとえば、アンモニアが解毒されます。

腸管内の腸内細菌で生成されたアンモニアや、肝臓でタンパク合成に利用されなかったアミノ酸から生じるアンモニアを尿素に変え、無毒化します。

無毒化された尿素は、腎において尿中へ排泄されます。