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アルコール性ケトアシドーシスの症状、診断、検査、治療

アルコール性ケトアシドーシスについて解説します。

概要

アルコール性ケトアシドーシス(AKA)とは、長期的なアルコール多飲および食事摂取不足が原因で、高ケトン体血症(ケトーシス)による代謝性アシドーシスを生ずるものです。

アルコール性ケトアシドーシスは、アルコール飲酒者にらみられる酸塩基平衡異常として知られています。

典型的には、アルコール依存に伴う長期的な食事摂取不足による飢餓状態がベースにあるところに、大量飲酒に伴う嘔吐、下痢、水分摂取不足、アルコールによる抗利尿ホルモンの分泌抑制などが原因で起きる脱水などをきっかけに発症します。

大酒家の突然死との関連が報告されています。

アルコール性ケトアシドーシスの原因

典型的なAKAの発症機序を解説します。

TCA回路や糖新生を抑制

エタノールは、肝臓においてアセトアルデヒドを経て酢酸へ酸化され、さらにはアセチル-CoAとなります。

その過程で、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレ オチド(nicotinamide adenine dinucleotide:NAD)が、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(reduced nicotinamide adenine dinucleotide:NADH)に還元されるため、NADH/NAD比が上昇します。

NAD→NADHの反応は tricarboxylic acid(TCA)回路や糖新生など生体内での種々の代謝過程で行われており、 NADH/NAD比の上昇は、TCA回路や糖新生を抑制します。

アセチル-CoAの上昇

アルコール依存による慢性的な摂食不足や、嘔吐・下痢、飲水不足などが原因で脱水に陥ると、循環血液量が低下し、交感神経系の賦活化をもたらすため、インスリン分泌が低下し、抗ストレスホルモンの分泌が亢進します。

また、飢餓が原因で、「肝グリコーゲン貯蔵量の減少」と、上述の「NADH/NAD比の上昇による糖新生の抑制」とが合わさって血糖値が低下すると、より一層、インスリン分泌が低下し、抗ストレスホルモンの分泌が促されることになります。

すると、脂質のβ酸化が促進され、アセチル-CoAが上昇します。

また、アセチル-CoAはエタノール代謝の過程でも生じます。

したがって、アルコールを長期に多飲すると、アセチル-CoAは、過剰となります。

アセチル-CoAがケトン体に代謝される

アセチル-CoAは、通常はTCA回路で消費されます。

しかし、先に述べたように、NADH/NAD比上昇によってTCA回路は抑制されています。

よって、アセチル-CoAはTCA回路での消費を受けずに、アセト酢酸へと代謝されます。

アセト酢酸は、β-ヒドロキシ酪酸とアセトンのいずれにも代謝されることがあり得ますが、NADH/NAD比が高いと、アセト酢酸はβ-ヒドロキシ酪酸に代謝されやすくなります。

そのため、AKAは、β-ヒドロキシ酪酸優位のケトアシドーシスをきたすことになります。

乳酸アシドーシスの合併

なお、NADH/NAD比の上昇は、ピルビン酸から乳酸への代謝を促すため、アルコール性ケトアシドーシスは、乳酸アシドーシスを合併するケースがあります。

症状

悪心・嘔吐・ 腹痛などがあり、意識は清明なことが多いとされています。

身体所見では、頻脈、頻呼吸、腹部の圧痛を認める ことが多いとされます。

なお、膵炎や腸管壊死を合併していることもあるので注意が必要です。

診断・検査

診断基準は存在しないものの、病歴や、著明なAGの開大、β-ヒドロキシ酪酸が優位に上昇することなどから診断されることが多いです。

血中ケトン体の測定は時間がかかるため、β-ヒドロキシ酪酸の迅速診断キットを活用する方法が良いでしょう。

なお、尿試験紙でも迅速に尿中ケトン体を検査できますが、測定対象はアセト酢酸であり、β-ヒドロキシ酪酸を測定できません。

したがって、β一ヒドロキシ酪酸が優位に上昇するケトーシスを示すAKAは、尿試験紙法では、偽陰性を示すことがあり得ますので、注意が必要です。

治療

AKAの治療は、補液や電解質管理などが中心となります。

補液による糖の補充で、インスリン分泌が促され、肝臓でのケトン体の産生が低下します。

また、細胞外液の積極的な補充によって腎臓からのケトン体の排泄が促進されます。

なお、低栄養によりビタミンB1が低下していることが疑われる場合、Wernicke脳症の予防のため、ビタミンB1の投与も併せて行います。