血清電解質の検査を解説します。
電解質
生体に含まれる無機質として検出されているものは、60種類程度あります。
無機質は、体重の約5%を占め、Ca、Mg、K、Na、P、Clが、その60~80%を占めます。
一方、ヒトの血液検査の対象として重要なのは、Na、K、Ca、Mg、Fe、Cuなどの陽イオンであり、また、Cl、HCO3、HPO4などの陰イオンです。
中でも、ヒトの生体内で重要な働きをする血中の無機質が、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、クロール(Cl)などの電解質です。
ナトリウム、カリウム
代謝について
ナトリウム(Na)は細胞外液、カリウム(K)は細胞内液中の無機質の大部分を占めています。
ナトリウムの生理的役割は、下記の4つがあります。
1)酸塩基平衡の維持
2)細胞外液の浸透圧の維持
3)神経,筋肉の興奮性の維持
また、カリウムの生理的役割は,下記の4つがあります。
1)酸塩基平衡の維持
2)細胞内浸透圧の維持
3)細胞膜電位の維持
4)筋収縮の因子となる
ナトリウムおよびカリウムの代謝は、主に、腎臓で調節されています。
副腎皮質から分泌される鉱質コルチコイドが関係しています。
たとえば、アルドステロンは、近位尿細管および遠位尿細管におけるナトリウムの再吸収を促進したり、遠位尿細管におけるカリウムおよび水素生オンの排出を促進したりします。
検体について
血清中のナトリウム濃度やカリウム濃度を測定します。
血液検体は、採血後に、直ちに血清分離することが望ましいです。
一定時間、全血のまま放置すると、ナトリウムは血球中に移行し、後に血清分離したときに、Na濃度の低下となるからです。
また、溶血によって血清K 値は高くなり、さらに、凝固阻止剤としてNaを含むもの(ヘパリンNaやクエン酸Naなど)を用いると、血清Na値が高くなります。
基準範囲
血清Naおよび血清Kの基準範囲は下記のとおりです。
・血清Na 135~145mEq/L (135~145mmol/L)
・血清K 3.5~5.0mEq/L (3.5~5.0mmol/L)
臨床的意義
ナトリウム
高ナトリウム血症は、糖尿病、尿崩症、原発性アルドステロン症、クッシング症候群などに見られます。
低ナトリウム血症は、激しい下痢、嘔吐、腎不全、粘液水腫などに見られます。
カリウム
高カリウム血症は、腎不全や、高度の脱水、アジソン病などに見られます。なお、高カリウム血症が生ずると、心臓・中枢袖経系の興奮が異常に高まり、最後に心臓が停止します。
カリウムが高値になる原因は、Kの摂取増加、腎臓のK排出低下、Kの細胞内から細胞外への移動などがあります。
低カリウム血症は、手術後や、栄養不足の場合、あるいは、,副腎皮質ホルモンや副腎皮質刺激ホルモンが過剰に投与されたときなどに見られます。なお、低カリウム血症になると、筋肉に脱力感や弛緩性麻揮が起こり、ついで神経過敏、昏睡、深部腱反射消失などが認められます。
Kが低値になる原因は、Kの摂取や吸収の不足、腎臓のKの排出増加、Kの細胞外から細胞内への移動などがあります。
薬剤の影響
ACTHや、コルチコステロイドの投与により血潰Na値は高くなり、血清K値は低くなります。
また、アセタゾラミド、クロロサイアザイド、ジギタリスなどの投与により、低カリウム血症となることがあります。
測定法
測定法としては、イオン選択電極法、炎光光度分析法、酵素法などがありますが、検査室で最も使用されているのはイオン選択電極法です。
イオン選択電極法は、Na電極として硝子電極やクラウンエーテル電極を使い、K電極としてニュートラルキャリア膜電極やクラウンエーテル電極を用います。
クロール
代謝について
人の体内のClイオンは、主に体液中に存在します。約70%が細胞外液中に、約30%が細胞内液中に存在します。
Clイオンは、水分代謝や浸透圧の調節、酸塩基平衡の維持を担っています。
生体内のClは、ナトリウムとほぼ並行して増減する場合が多いです。
ただし、酸塩基平衡障害の場合には、Clイオンは、Naと独立して、重炭酸イオンと反対方向に増減します。
なお、血漿中のCO2が放出され、CO2の圧が変化すると、陰イオンの不足を補うために赤血球中のClイオンが、血漿中に移動します(塩素移動と呼ばれます)。
検体について
血清中のクロール濃度を測定します。
なお、全血で室温放置すると、CO2の放出により、塩素移動が起こりますが、反対に血球から血漿中にH2Oの移動が生じて相殺されるため、放置して1時間ぐらいはCl値に変動はないといわれています。
基準範囲
血清Clの基準範囲は、96~107mEq/L (96~107mmol/L)です。
なお、食事後、胃液の分泌が促進されると血清Clは低値となりますが、血清中の重炭酸イオン(HCO3-)が増量することでバランスが保たれます。
臨床的意義
Clが高値を示す疾患には、過呼吸呼吸性アルカローシス、高ナトリウム血症、低蛋白血症、クッシング症候群、腎炎などがあります。
Clが低値を示す疾患には、呼吸性アシドーシス、低ナトリウム血症、代謝性アルカローシス、嘔吐、アジソン病などがあります。
なお、Clは、Naとほぼ同じように変動しますが、 Naの変動や酸塩基平衡の異常に伴う二次的な変化が主体であり、Cl自 体の異常値が臨床上問題になることはあまりありません。
薬剤の影響
炭酸デヒドロケナーゼ抑制剤や塩化アンモニウムの過剰投与によって、高値を示すことがあります。
また、利尿剤の投与により低値を示すことがあります。
測定法
Clの測定法には、比色法(ハミルトン法:チオシアン酸第2水銀法)、モール法、滴定法(シャールズ・シャールズ法)、電量滴定量(クロライドメーター法:銀電極法)、イオン選択電極法、酵素法などがあります。
現在は、イオン選択電極法が一般的です。