高齢者と脱水について、症状、診断、合併症、治療について解説します。
脱水とは
脱水とは体液量が減少した状態です。
具体的には、細胞外液量が減少した状態です。
体液の主要成分である水とナトリウムが体外に喪失します。
脱水の症状と診断
脱水の身体所見
口渇など
脱水になると、口渇感や倦怠感が生まれます。また、発汗量の減少や、口腔内や腋窩(えきか)の乾燥がみられます。
ツルゴール低下
皮膚を爪でつまみ上げてしわを作り、それが元に戻るまでの時間が長くなります(いわゆる皮膚のツルゴール低下)。
脈拍数と血圧
脱水が生じると体内の循環血液量を維持しようとするので、脈拍数と脈圧(最高血圧と最低血圧の差)が上昇します。
さらに脱水が進行すると血圧低下をきたします。ベッドを45度挙上した状態での右内頸静脈の拍動波が認められなくなります。
脱水の血液検査
ヘマトクリット(Hct)
細胞外液量(循環血液量)の減少と比例して上昇します。
BUN
尿細管からの再吸収が高まるためBUNが上昇します。
BUN/Cre
Creに比べてBUNが上昇します(比が20-25を超える)。
尿比重
脱水があると尿中の水分を再吸収して循環血液量を増やそうとするので、尿量が減少し、尿比重が増加します。
1.020以上であれば脱水症と判断します。
尿ケトンと尿糖
脱水が有る場合には、体内でケトン体産生が高まり、尿の定性検査でケトン体が陽性となります。
このとき尿糖が陽性であれば、糖尿病性ケトアシドーシスを疑います。
血液ガス
重症の脱水では、末梢循環不全による代謝性アシドーシスが起こります。
電解質
ナトリウムの値によって、脱水の分類の診断に役立ちます。
脱水の分類には、水が欠乏する「高張性脱水」、ナトリウムが欠乏する「低張性脱水」、両方が欠乏する「等張性脱水」があります。
高齢者が脱水しやすい理由
ここで、高齢者が「脱水」になりやすい理由を挙げておきます。
筋肉量の減少
筋肉は多くの体液を含んでいるため、高齢者のように筋肉量が減少していると脱水のリスクが高くなります。
口渴中枢機能の低下
高齢者は、のどの渇きを感じる「口渴中枢」の機能が低下しています。
体液が減少してものどのかわきを自覚しにくく、水分摂取が遅れがちです。
腎機能の低下
高齢者は、腎機能が低下しています。
そのため、腎臓で水分や電解質を再吸収しにくくなる結果、水分や電解質が失われて、脱水のリスクが高まります。
食欲・嚥下機能の低下
加齢で食が細くなったり、食べものを飲み込む「嚥下機能」が低下したりすると、全体的な食事量が減り、水分と電解質が不足します。
水分摂取の抑制
高齢者は、ADHと呼ばれるホルモンに対する腎臓の反応が低下し、腎臓で水分と電解質の再吸収がうまくできなくなります。
その結果、尿がたくさん出るようになります。
高齢者が頻繁にトイレに行くことを嫌がったり、介護者に気を使ったりして、水分摂取を制限すると、脱水におちいりやすくなります。
薬剤の影響
高齢者は、基礎疾患に、高血圧や心不全をもっている人が多いです。
高血圧や心不全の治療薬の中には、血圧を下げ、心臓の負担を減らすために利尿効果のあるものがあります。
これらの治療薬を使用すると尿量が増え、体液を失いやすくなります。
合併症
脱水による循環血液量の減少は、さまざまな合併症を引き起こします。
たとえば、腎臓への血流が低下することで腎不全が生じます。
また、血液濃縮によって血栓塞栓を起こしやすく、 脳梗塞や心筋梗塞などのリスクも上がります。
また、喀痰の粘性が増加して、喀痰の喀出が困難になり、無気肺や肺炎のリスクが増加します。
重篤な場合は、循環血液量減少性ショックという低血圧性ショックを引き起こすこともあります。
脱水の治療
脱水症状が現れた場合には、脱水の程度に応じて、以下の処置を行います。
重篤な合併症の防止のためにも、脱水の早期発見と対策が重要です。
脱水が軽症の場合
のどのかわきを感じたり、食欲が減退する程度であれば水や、ミネラル類を含んだスポーツドリンクを飲むことで回復できます。
飲みものは10°C前後の冷たいもののほうが吸収が速くなります。
脱水が重症の場合
脱力感や眠気、頭痛などを起こすほどの脱水の場合には、医療機関で点滴による水分補給を受けると早く回復します。
チアノーゼ、低血圧、昏睡などがみられる極めて重症の脱水の場合は、医療機関で緊急の処置を受ける必要があります。