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黄色ブドウ球菌について

黄色ブドウ球菌とは

概要

黄色ブドウ球菌は、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)のうち、コアグラーゼ陽性のブドウ球菌です。

通性嫌気性のグラム陽性球菌です。

乾燥や塩分に強い菌で、ヒトの皮膚、鼻腔の粘膜、腸管内に常在しています。

もっとも分離頻度の高い部位は鼻前庭や鼻咽腔で、およそ20~30%のヒトに定着しています。
その他の定着部位としては皮膚、口腔、咽頭、消化管、膣なとがあります。

さまざまな薬に耐性をもつ黄色ブドウ球菌は、特にMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)と呼ばれます。

【グラム染色標本のイメージ】
 

詳細

性状

直径0.5~1.0μmの球菌です。

学名の由来となったギリシャ語のブドウの房(Staphyle)が意味するように、ブドウの房状に配列します

鞭毛や芽胞はなく、一部に、莢膜をもつものがあります。

カタラーゼ試験は陽性、コアグラーゼ試験も陽性です。

また、マンニット分解です。

さらに、5~7.5%の食塩存在下でも発育可能(食塩抵抗性あり)です。

ほかに、ペニシリン分解酵素を産生します。

培養

・通性嫌気性菌
・普通寒天培地によく発育
・淡黄色~黄色の集落を形成
・至適発育温度は、35~37度
・至適発育pHは、7.2~7.4
・血液寒天培地上では、β溶血環を形成

病原因子

代表的なものを紹介します。

・コアグラーゼ
ヒトの血漿を凝固させます。

・溶血毒
赤血球を溶血させる毒素です。
α,β,γ,δの4種類があります。重要なのは、α毒素です。

・エンテロロキシン
耐熱性の毒素です。潜伏期は2~6時間と短く,嘔気,嘔吐,下痢を起こします。

鑑別

グラム染色が黄色ブドウ球菌の像であり、さらに、カタラーゼ試験が陽性、かつ、コアグラーゼ試験が陽性の場合、S.aureusと考えてほぼ間違いありません。

なお、ほかの鑑別ポイントには、クランピング因子(フィブリノゲンに作用してフィブリンを析出させる因子)が陽性、DNase産生性、マンニットおよびキシロースを分解し酸を産生する点などがあります。エンテロトキシンについては、逆受身ラテックス凝集反応を利用した検出キットが利用できます。

感染と症状

黄色ブドウ球菌により様々な疾患が引き起こされます。

伝染性膿痂疹(とびひ)、フルンケル、癖(よう)などの皮膚感染症、軟組織感染症、肺炎などの呼吸器感染症、食中毒などの腸炎、骨髄炎、敗血症、心内膜炎などです。

また、毒素によって引き起こされる疾患として、1)Staphylococcal scalded skin syndorome(SSSS)、2)Toxic shock syndrome toxin-1(TSST-1)、3)Toxic shock syndrome(TSS)などがあります。

治療は基本的にセフェム系の抗菌薬(セファゾリンなど)で行います。

なお、疾患によっては長期の治療が必要になります。

たとえば、心内膜炎なら4週間、骨髄炎なら6~8週間程度の治療が必要です。

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)は、mec遺伝子をもつことにより、ペニシリン結合タンパク「PBP2’(PBP2プライム)」を産生するため、メチシリンに代表されるβ-ラクタム薬に耐性を示します。

院内感染を起こす菌として問題になります。

院内で問題となるのは、手術部位関連感染症、カテーテル関連血流感染症、人工呼吸器関連肺炎などです。

治療薬はバンコマイシンVCM,テイコプラニンTEIC,アルベカシンABK、リネゾリドLZDなどに限られます。

ただし、近年,バンコマイシン耐性MRSA(VRSA)が出現していることが問題になっています。