抗菌薬の動態について記します。
薬物動態学(Pharmacokinetics:PK)
抗菌薬の用法・用量と生体内での濃度推移の関係を表す。
過程としては、吸収(Absorption)、分布(Distribution)、代謝(Metabolism)、排泄(Excretion)がある。頭文字をとってADME(アドメ)ということがある。
PKを検討するに当たってはコンパートメントモデル(血液を表す中心コンパートメントと臓器を表す末梢コンパートメントによる2-コンパートメントモデル)で検討されることが多い。
パラメータは、
- 最高血中濃度(Cmax:点滴終了直後のもっとも高い血中濃度)、分布容積(Vd:薬物が血液以外の組織へも血中濃度と等しい濃度で分布したと仮定したときの体液量を表す指標であり、実際、それだけの体積が体内に存在するというわけではないので、“みかけの分布容積”と呼ばれ、一般的に水溶性の抗菌薬は分布容積が小さく、脂溶性の抗菌薬は大きい)
- 最高血中薬物濃度到達時間(tmax:実際に測定された血中薬物濃度のなかで最も高いもの(Cmax )の到達時間)
- クリアランス(CL:排出能を表す指標で、一定時間に薬物を除去するために利用される理論的な血液量(volume/time,L/h))
- 消失半減期(t1/2:薬物の血中濃度が50%に減少するまでに要する時間)
- ピーク濃度(Cpeak:血中から組織への分布が完了して血液-組織間濃度が平衡状態となった時点の濃度、すなわちは末梢コンパートメントの組織濃度が最大となる濃度)
- 血中濃度-時間曲線下面積(AUC:薬物血中濃度の時間経過を表したグラフで、時間軸と血中濃度曲線下に囲まれた面積を指し、薬物の体内への曝露量を表す指標となる)
- タンパク結合率(薬物は、アルブミンなどのタンパクと結合した結合型薬物と、結合していない非結合型(遊離型)として存在する)
薬力学(Pharmacodynamics:PD)
PDは抗菌薬の濃度とその作用の関係を表す。
パラメータには、MIC(minimum inhibitory concentration:最小発育阻止濃度)、PAE(postantibiotic effect)、MPC(mutant prevention concentration)、MSW(mutant selection window)がある。
PK/PD
%T> MIC(time above MIC)
抗菌薬投与後の血中濃度のうちMICを上回る濃度で推移する時間の比率(%)を定常状態で算出した値。
%T> MICを延長させるには1日投与量が一定の場合は投与回数を増やすことが重要。
Cpeak/MIC
抗菌薬投与後に定常状態で観察されたCpeakをMICで除した値。
Cpeak/MICは1日投与量が同じ場合、1回投与量を増やすことで上昇する。
AUC/MIC
AUC/MICは1日投与量に相関する。
病態との関係
腎機能が低下していると、腎排泄型の抗菌薬のクリアランスが関連したPKパラメー
タ(t1/2やAUC)に影響する。
肝機能低下のときの抗菌薬投与法は確立されていない。
低アルブミン血症を呈する重症患者では健康成人と比べてタンパク結合率の高い抗菌薬の分布容積が増加し、目標とするPK/PDパラメータの達成が困難になるという報告がある。
抗菌薬の臓器移行性
抗菌薬の選択においてスペクトラムと臓器移行性は非常に重要な因子である。
抗菌薬の臓器移行性は、臓器によって異なる。
肺への移行性が高いのは、マクロライド系薬、ニューキノロン系薬、テトラサイクリン系薬、リンコマイシン系薬である。
肝・胆汁への移行性が高いのは、マクロライド系薬、ニューキノロン系薬、テトラサイクリン系薬、リンコマイシン系薬、ペニシリン系薬(ピペラシリン)、セフェム系薬(セフォペラゾン、セフブペラゾン、セフピラミド、セフトリアキソン)である。
腎・尿路への移行性が高いのは、ペニシリン系薬、セフェム系薬、モノバクタム系薬、カルバペネム系薬、アミノグリコシド系薬、ニューキノロン系薬、グリコペプチド系薬である。
髄液への移行性が高いのは、クロラムフェニコール、ペニシリン系薬、カルバペネム系薬
セフェム系薬(セフトリアキソン、セフォ
タキシム、セフタジジム、ラタモキセフ)、ニューキノロン系薬である。