疫学研究の基礎知識

疫学研究の基礎知識を解説します。

疫学研究の概要

疫学研究は、観察研究と介入研究とに大別されます。

観察研究と介入研究

観察研究は、観察によって、曝露要因と健康影響の関連を明らかにします。観察研究では、人為的な操作を加えません。

一方、介入研究は、対象者に何らかの処置をして、その結果をみる研究手法です。

研究の始めで、曝露と結果の因果関係がまだよく分からないときは、まずは観察研究から始めます。

例えば、研究仮説が、「長時間労働をしている会社員は、うつ病を発症しやすい」である場合、本当に長時間労働が、うつ病の発症の原因となっているのかをまず確かめる必要があります。

実際に観察研究を行い、因果関係が認められれば対策が立案できます。つまり、「労働時間を減らすと、うつの発症が減少する」 を研究仮説とする介入研究を計画することができます。

実際に介入研究を行い、労働時間を減らした群では、そうでない群と比較してうつ病発症が減少していれば、仮説を証明するエビデンスとなります。

観察研究の詳細

観察研究は、記述疫学と分析疫学に大別されます。

記述疫学

記述疫学とは、人間集団中の疾病の頻度および分布を、人,場所,時間別に観察し、目的とする疾病の発症パターンの特徴を明らかにします。

例えば、人口動態統計や、労働者健康状況調査、健康診断受診状況調査などは記述疫学の手法を用いた研究です。

分析疫学

一方、分析疫学では、「疾病」と「記述疫学から得られた、疾病と関連があると疑われた要因(仮説要因)」と間の統計学的関連を確かめ、その要因の因果性の推定を行います。

分析疫学は、曝露指標と結果指標のデータを、どのタイミングで収集するかの違いによって、さらに横断研究,コホート研究,症例対照研究に大きく分けることができます

横断研究

ある一時点での曝露(原因)と結果(疾病の有無〉とを同時に調べる研究を、横断研究といいます。

横断研究は、調査がシンプルで時間やコストがかからないという点がメリットです。

例えば、「運動時間の短い人ほど、高血圧になりやすい」ことを明らかにしたい場合は、調査時点の運動時間と血圧を調査することになります。

ただし、横断研究では、調査によって曝露と疾病との間に関連があることを示せたとしても、因果関係までは明らかにできません。

コホート研究

コホート研究は,ある特定の人間の集団を継時的に追跡し,その集団からどのような疾病・死亡が起こるのかを観察して,曝露と疾病との間の因果関係を明らかにする研究です。

仮説を検証するためのターゲットとなる曝露指標をベースライン時に収集し,一定の時間を置いて結果指標を追跡時に収集します。

前向きに追いかけるので,前向き研究,縦断研究とも呼ばれます。

例えば,「喫煙者は非喫煙者よりも心疾患を発症する傾向がある」ことを明らかにしたい場合は、まず、心疾患を発症していない対象者を、喫煙状況で分類しておきます。

そして数か月~数年後に、対象者を調査し、新規の心疾患の発症の状況について調べます。

その結果、二つの群で心疾患の発症率に差があれば、喫煙と心疾患との間に因果関係があると言うことができます。

コホート研究は、曝露と疾病の時間的な前後関係が明確であるため、観察研究の中では、結果の信頼性が高いです。

また、複数の疾病について曝露の影響を調べることができるという利点もあります。

ただ、前向き調査であるため、時間と費用と労力がかかるという欠点があります

症例対照研究

症例対照研究とは、疾患群と非疾患群とで、曝露の程度を比較することで、曝露と結果との関連を調べる研究です。

つまり、過去にさかのぼって、特定の要因への曝露状況を調べ、曝露要因と結果との関連を検討します。

例えば、研究仮説が「喫煙者は、結核にかかりやすい」であるとすると、症例対照研究では「既に結核を発症している患者」が まずターゲットとなります。

同時に、「結核を発症していない喫煙者」を選び、対照群とします。

これらの対象者に、過去の喫煙歴について質問して比較します。

症例対照研究では、曝露指標と結果指標との関連はオッズ比(Odds Ratio:OR)で示されます。

オッズとは「確率」のことで、オッズ比とは、事象が起こる確率と起こらない確率の比です。

つまり、症例群の曝露オッズと対照群の曝露オッズの比であり、オッズ比が大きくなるほど,曝露要因と結果指標との関連が強いと判断されます。

症例対照研究は、既に疾患や症状を持つ人を対象とするため、時間がかからない利点があり、また、難病などの稀な疾患に適しています。

なお、症例対照研究では、選択バイアスや情報バイアスなどの偏りが生じないように注意する必要があります。

介入研究の詳細

介入研究とは、分析疫学によって疾病との因果関係との推定がなされた要因(危険因子/予防因子)を、慎重に除去/適用して(介入)、集団を一定期間観察し、疾病の増減などを実験的に確かめる研究です。

介入研究は、無作為化比較試験、非無作為化比較試験、前後比較試験に大別できます。

無作為化比較試験

無作為化比較試験とは、介入群と、非介入群(対照群)を用意し、研究参加者を無作為にグループ分けします(無作為割り付け)。

無作為割り付けは、研究参加者のあらゆる特性について、グループ間の偏りを取り除くことができます。

非無作為化比較試験

非無作為化比較試験とは、無作為割り付けを行わない介入研究です(準実験研究と呼ばれることもあります)。

非無作為化比較試験は、無作為化が不可能な場合などに用いられます(例えば、健康を害するおそれのある要因の影響を調べたいとき、ランダムに対象者を選ぶことには倫理的な問題があり、実施できません)。

非無作為化比較試験は、上記の無作為化比較試験よりも実施しやすいという利点はありますが、介入を受けるグループと受けないグループとの間に違いが生じやすく、介入後に生じたグループ間の差を純粋な介入の効果と結論づけることが難しいという欠点があります。

前後比較試験

前後比較試験とは、介入を受けるグループのみ用意し、介入の前後での変化を比較する試験です。

前後比較試験は、介入を受けないグループと結果を比べることができませんので、生じた変化が介入によるものか、その他の要因によるものか、判定ができないという欠点があります。