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医療従事者向け

針刺し事故の後にすべき感染症の検査と投薬

針刺し事故とは

針刺し事故とは、医療従事者が、患者に注射をした後に、注射針を誤って自分や周りの人に刺してしまうことをいいます。

事故後の感染症検査

血液等の媒介で感染し得る病原体の主なものは, B 型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus:HBV)、C 型 肝 炎 ウ イ ル ス(Hepatitis C virus:HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(Human immunode ciency virus:HIV)です。

事故が起きた場合、注射をした患者が、これらHBV、HCV、HIVの感染者か否かを確認する必要があります。

すなわち、患者のHBs抗原、抗HBs抗体、抗HCV抗体、抗HIV抗体の有無を確認します。

また、事故者である医療従事者についても、抗HBs抗体および抗HIV抗体の有無を確認します。可能であれば、抗HCV抗体の有無についても確認します。

B型肝炎ウイルスの検査と薬

B型肝炎ウイルスの場合、1 回の針刺しにおける感染率は、その時のウイルスの感染力にもよりますが、感染力が 高い場合は 20 〜 30%といわれています。

事故者のHBS抗体が陰性の場合、事故から24時間以内に、HBIGすなわち高力価抗HBSヒト免疫グロブリン(静注用ヘブスブリン®IH)と、HBワクチンとを接種します。

HBワクチンは三角筋に投与しす。さらに、HBワクチンと異なる部位にHBIGを接種します。

事故後、1年間は経過観察が必要です。

なお、HBワクチン接種は1クール3回接種(0、1、6ヵ月)が推奨されています。

3回接種後の 抗体獲得率は80 〜 95%で、そのうち約20% の抗体は、数年後に検査で検出されないレベルまで減弱するといわれています。

しかし, この場合はHBVに対する免疫応答は保たれているため、HBワクチンの追加接種は必要ありません。

C型肝炎ウイルスの検査と薬

C型肝炎ウイルスの場合、1 回の針刺しにおける感染率は 2 〜 3%ですが, いったんキャリアになるとその 1/3 が肝細胞癌を引き起こすといわれています。

感染防御できるワクチンが無いため、HCV抗体の投与や、HCV-RNA検査、肝機能検査を継続し、1年間の経過観察のみを行ういます。

観察期間にASTやALTが上昇し, HCV-RNAが陽 性となった場合にはIFN治療を考慮する必要があります。

IFN 投与は、慢性化を防止するためには必須であり、感染後3ヵ月以内にIFNを投与すれ ば,4週間の投与期間でも80%が完治します。

なお、IFN 投与は発熱全身倦怠感などの副作用が強いと言われます。

HIVウイルスの場合の検査と薬

HIVウイルスの場合、1 回の針刺しにおける感染率は 0.2 〜 0.3%です。

HIV感染の危険性は血液の量と傷の深さ、HIVウイルスの量によって影響し,、曝露した血液量が多い、深い傷である、中空針による切創である場合などにリスクが高くなります。

事故から1〜2時間以内に、抗HIV薬(HIV曝露後予防内服(Post-Exposure Prophylaxis; PEP)薬)を2剤以上、4週間継続して予防内服します。

具体的な薬剤は、ウイルス DNA が宿主細胞 DNA に組み込まれる段階の前半に有効な HIV 逆転写酵素阻害剤と、後半に有効な HIV プロテ アーゼ阻害剤です。

基本は、ジドブジン+ラミブジン(AZT+3TC)あるい はテノホビルジソプロキシルフマル酸塩+ エムトリシタビン(TDF+FTC)の核酸系逆転写酵素阻害薬2種の組み合わせが推奨されています。

また、この2種の組み合わせに追加して、プロテアーゼ阻害薬であるロピナビル/リトナビル(LPV/r)などを服用することも推奨されています。

ただし、薬には、副作用が多い、飲みづらい、長期の安全性が確立していないなどのデメリットがあるためメリットとデメリットを考慮して服用を決定する必要があります。

なお、事故後2時間以内で決断がつかない場合は1回目を服用して、次の服用時間までに決めることにしてもかまいません。