インスリンと低カリウム血症について解説します。
なぜ低カリウム血症になるのか
糖尿病の患者で、持続インスリン投与を行っている人は、低カリウム血症になりがちです。
理由は、インスリンに、細胞の外から中へ、カリウムを取り込む作用があるためです。
これは、カリウムシフト(Kシフト)と呼ばれます。
Kシフト
細胞外液中のKの一部は、起電性のNaポンプを介して能動的に細胞内へ移行します。
インスリンは、ブドウ糖とは無関係に骨格筋や肝細胞のNaポンプ活性を刺激し、Kの細胞内への取り込みを促進します。
低カリウム血症の症状とリスク
血清カリウム値の基準範囲は、3.6 〜 4.8mEq/Lです。
血清カリウム値が3.5mEq/L以下になると、脱力・筋力低下・テタニーなどの骨格筋症状、嘔吐・便秘・麻痺性イレウスなどの消化器症状、糖代謝異常、腎肥大、多尿、T波の平低化・U波の出現・PQ間隔の延長などの心電図異常が現れます。
なお、急性心筋梗塞の患者を対象とした研究では、血清カリウム値が「3.5 〜 4.0mEq/L」のときに死亡率が低く、その範囲外では死亡率や心室細動発生率,心停止が高いと報告されています。
低カリウム血症の治療
低カリウム血症では、カリウムの経口補給(野菜,果物, ジュースなど)を第一選択とします。
不十分であれば、経口薬で補充するか、カリウム製剤の輸液を行います。
カリウムの補充中は、定期的に血清カリウム値を確認します。
輸液の場合の補正の目安としては、カリウム製剤を40mmol/L 以下に希釈して 20mmol/h を超えない速度で投与します。
なお、2型糖尿病の場合、ブドウ糖はインスリン分泌を促進し、カリウムの細胞内流入を惹起させ、低K血症を増悪させる可能性がありますので、カリウム溶解液としては、生理食塩液や細胞外液補充液など、ブドウ糖を含まない溶液が望ましいでしょう。
インスリン量を減らす
ちなみに、カリウムを補充する以外の対応策としては、原因となるインスリンの投与量を減らす方法があり得ます。
ただし、インスリン量を減らすことで、血糖値の上昇を招いたり、血清カリウム値の上昇を招いたりする可能性があります。
従って、インスリン量を減らす場合には、血糖値やカリウム値の動きに注意する必要があります。