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窒素バランス,窒素平衡の計算方法

窒素バランスの求め方を紹介します。

窒素バランスとは

窒素バランスは、窒素平衡とも呼ばれます。

窒素バランスは、生体内に取り込まれた窒素量と、生体外に排泄された窒素量との差です。

窒素バランスの意味

窒素バランスは、後述する計算式により算出し、正の値あるいは負の値となります。

正であれば、体内のタンパク質が増加していることを意味します。

これに対して、負であれば、体内のタンパク質が減少していることを意味します。

窒素バランスの計算式

ヒトが摂取する栄養には「糖質」「脂質」「タンパク質」がありますが、窒素は、タンパク質にのみ含まれます。

よって、窒素バランスの計算式は、つぎのようになります。

「窒素バランス」=「生体内に摂取されたタンパク質に含まれる窒素量」ー「生体外に排泄された窒素量」

具体的な算出方法

つぎのように、窒素バランスを算出します。

摂取した窒素量

上記の式における「生体内に摂取されたタンパク質に含まれる窒素量」は、摂取タンパク質÷6.25で求めます。タンパク質6.25g中に、窒素がおよそ1g含まれるからです。

排泄した窒素量

上記の式における「生体外に排泄された窒素量」は、尿中総窒素排泄量を使用します。皮膚や便などへの排泄量は、少ないものとみなせるからです。

ここで、尿中総窒素排泄量は、尿中への尿素、尿酸、クレアチニン、アンモニアなどに含まれる窒素の総量です。

しかし、尿中総窒素排泄量を正確に測定することは、手間がかるため、日常検査では困難です。

そこで、日常検査では、24時間の蓄尿に含まれる、尿中尿素窒素(UUN)の測定値( g / day)を利用します。

すなわち、尿中総窒素排泄量 = 24時間蓄尿に含まれるUUN ×5/4 で求めます。 5/4を掛けるのは、尿中総窒素の約80%をUUNが占めるからです。

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栄養指標としてのアルブミンの見方

アルブミンと栄養について解説します。

アルブミンとは?

アルブミンは肝臓で合成される水溶性のタンパク質です。

分子量は、約66,000です。

血清中には、100種類以上のタンパク質が含まれていますが、重量比で、そのうち約60%をアルブミンが占めています。

基準範囲は、一般的には、3.8 ~ 5.3 g/dl です。

アルブミンの役割

アルブミンには、主に3つの働きがあります。

一つ目は、血液の浸透圧の維持に貢献することです。

二つ目は、内因性のアミノ酸の供給源になることです。

三つ目は、難溶性の物質を運搬することです(アルブミンは、アミノ酸,脂肪酸,カルシウム,甲状腺ホルモン,ビリルビン,薬剤などと結合します)。

アルブミンと栄養との関係

アルブミンの合成量は栄養補給状態の影響を受けるため、血清アルブミン濃度は栄養補給状態の指標となります。

一般には、血清アルブミン濃度が3.0g/dl以下で、低栄養と考えられています。

なお、ここでいう3.0g/dlは、測定法がBCG法である点に注意します。

アルブミンの半減期と評価

アルブミンの血中の半減期は21日です。

したがって、血清アルブミン濃度は、中長期的な栄養状態の変化を判断するときの指標となります。

ここでいう中長期とは、およそ2週~4週の期間を意味します。

ちなみに、アルブミン値は、循環血液量(すなわち水分量)により大きく変動します(脱水で高値、水負荷で低値)。ゆえに、アルブミン値は、時系列で、上昇傾向
もしくは下降傾向かを評価するとよいでしょう。

アルブミンの測定値に影響する因子

上述のように、血清アルブミン値は、栄養補給状態の変化を反映します。

しかし、血清アルブミン値は、病態の影響を受けるため、栄養補給状態のみを反映するわけではない点に注意する必要があります。

病態の影響

血清アルブミン値は、つぎのような病態によって、上昇あるいは低下します。

血清アルブミン値を評価するときは、必ず、つぎのような病態の存在の有無を確認する必要があります。

増加

・脱水などによる血液の濃縮

減少

・肝障害や炎症などによるアルブミン合成の低下

・アルブミンの体外への漏出(尿,消化管,皮膚などへの漏出;ネフローゼ症候群,火傷,蛋白漏出性胃腸症など)

・甲状腺機能亢進症や炎症(外傷,手術なども含む)などによる代謝の亢進によるアルブミンの消費亢進

・分布異常(胸水・腹水貯留,浮腫)による、アルブミンの血管外への移動

・消化吸収障害による、アルブミンの合成原料となるタンパク質やアミノ酸、その他の栄養素の吸収量の低下(①アミノ酸の供給源となる蛋白摂取が少ない(食事が不十分)、②消化管における蛋白の消化吸収障害、③門脈によりアミノ酸が肝臓ま
で運ばれない(循環障害))

アルブミンの体内分布

とくに記憶しておくべきことは、毛細血管が終 わってすぐの静脈後毛細管静脈(postcapillary venule)という部位の血管壁のタイトジャンション(tight junction;TJ)の閾値は、非炎症下では、およそ50kDa以上の水溶性物質の移動を制限していることです。

炎症下ではこの規制が取り払われ、アルブミン(分子量約66kDa)は、水とともに組織に移行します。

なお、IgG(分子量は約146kDa)も、炎症時にはTJバリアを通過できることになります。

※参考文献  皮膚アレルギーフロンティアvol14 no3 2016-11『炎症について考える〜血管透過性のイメージング〜』

アルブミン値と予後

なお、アルブミン値が低ければ低いほど、予後は不良とされ、入院期間が長期化する傾向が見られます。

たとえば、手術後の患者では回復が遅れがちとなります。

また、アルブミン値が低い患者は、全身状態が悪いことが多いため、免疫力が低下していることが多く、感染症を合併する頻度も高いです。

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リフィーデング症候群の原因、予防

リフィーディング症候群について解説します。

リフィーディング症候群とは

定義

本症候群は、重度の低栄養患者の栄養再開時、電解質・体液移動により起こる症候群と定義されています。

概要

refeedingリフィーデング症候群は、いわゆる「マラスムス」といわれるような慢性的な飢餓状態の患者に大量のブドウ糖を投与した際、投与数時間〜数日後に発生する代謝性合併症です。

主に電解質異常により心肺および神経系に異常をきたします。

重篤な症状を呈するため、適切な病態把握や循環動態の管理を行われないと、死亡する例もあります。

高度な栄養不良や、数ヶ月にわたる飢餓状態の症例に対して栄養療法を行うときは、リフィーデング症候群が発生する危険を認識することが大切です。

リフィーディング症候群の原因

摂食不足でエネルギーが十分に供給されていない状態では、ヒトは、体脂肪を分解してケトン体をエネルギー源としています。

そのような状態のところに、点滴、摂食、経腸栄養などで糖質が急激に入ってくると、解糖系が働くことで糖質代謝が発現し、それによりインスリン分泌が刺激されます。

インスリンは、細胞内へのグルコースの取り込みを促進しますが、グルコースとともに、カリウム・リン・マグネシウムも細胞内に取り込まれる結果、もともとの低カリウム血症・ 低リン血症・低マグネシウム血症がさらに悪化することになります。

また、糖質の負荷により、アデノシン三リン酸 (ATP)が産生されますが、それに伴って、リンが消費されます。

したがって、特に低リン血症を発症しやすく、貧血や痙攣、横紋筋融解が起こり呼吸機能低下をきたす場合があります。

低リン血症による臓器障害のうち、特に心不全や呼吸不全、腎不全は致命的です。

さらに、ビタミンB1や微量元素も必要量が高まり不足します。

特に、ビタミン B1が欠乏したまま急激に栄養補給を行うと、ビタミンB1欠乏に伴うウェルニッケ脳症を発症することがあり、注意が必要です。

さらに、ブドウ糖負荷により増加したインスリンは、 腎尿細管におけるナトリウムの再吸収を促進する働きがあります。

そのため、水分貯溜が発生し、循環動態や呼吸状態にも悪影響を及ぼします。

リフィーディング症候群の予防方法

リフィーデング症候群が好発する病態としては、慢性低栄養のほかに、神経性食思不振症、アルコール依存症、外科手術後、担癌患者などが知られています。

これらのような症例を含む、慢性的な低栄養の症例では、リフィーデング症候群の予防策として、栄養の投与前に、電解質異常を補正します。

すなわち、NaH2PO4製剤や、MgSO4製剤を経静脈的に投与することで、リンやマグネシウムを補充します。

また、投与する栄養に含まれるエネルギー量を、はじめは少なめにすることも大切です。

投与初期のエネルギーは400 〜800kcal/日や、20kcal/kgを目安とします。

なお、ケトーシス予防のために、ブドウ糖あるいは炭水化物は、最低限必要量として100g/day以上を投与しておくことが薦められます。

投与開始後1週間は、不整脈、心不全、低換気症候群の可能性があるため、心電図と酸素飽和度のモニタリングを行い、また、血液検査を行い、血清リン、マグネシウム、カリウム、グルコース濃度も随時モニタリングします。

投与エネルギーについては、一般的には「2〜4kcal/kg/24 〜48 時間」のペースで増量していき、最終的には必要エネルギー量を満たす量にまで増やします。

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マラスムスとクワシオルコル

マラスムスとクワシオルコルについて解説します。

マラスムス

飢餓や、消化・吸収障害などにより栄養素が不足した場合、エネルギーや蛋白質が欠乏します。

エネルギーと蛋白質が、両方とも不足あるいは欠乏している状態を、マラスムス(Marasmus)と呼びます。

エネルギーと蛋白質の不足が長く続くと、エネルギーの貯蔵庫である脂肪組織や、タンパクの貯蔵所である骨格筋が分解され、エネルギー源として、ケトン体やグルコースが産生されます。

したがって、マラスムスでは、脂肪組織の減少や、骨格筋の萎縮がみられます。

ただし、骨格筋からアミノ酸が放出され、そのアミノ酸が肝臓に取り込まれて蛋白合成が行われるため、血清アルブミンやトランスフェリンなどの蛋白は、比較的正常域に保たれ、浮腫はみられません。

マラスムスの語源

マラスムス(Marasmus)は、もともとは、ラテン語のmarasmosやギリシア語のmaraineinに由来し、『衰弱する』、『しおれる』という意味があります。

クワシオルコル

一方、エネルギー量は比較的確保されているものの、蛋白質が著しく不足あるいは欠乏している状態を、クワシオルコル(Kwashiorkor)と呼びます。

一般に、炭水化物の摂取時には、インスリンが分泌されるため、脂肪組織や骨格筋の分解がブロックされます。

したがって、クワシオルコルでは、肝臓における、血清アルブミンなどの蛋白の合成が低下するため、浮腫が現れます。

クワシオルコルの語源

クワシオルコル(Kwashiorkor)の語源は西部アフリカ,ガーナの俗語で、意味はkwashi=first, orkor=secondで、母親が第2子を妊娠した時の第1子の状態を意味するといわれています。すなわち、第2子を妊娠した母親から離された子供に起こる病気という意味です。母親が第2子を妊娠すると母乳哺育が中止され、炭水化物主体の食事で養育されるために低タンパク状態に陥るという意味です。なお、一方で、kwashiorkorの子供に見られる皮膚の症状から、kwasi=子供, orkor=赤い,に語源があるという説もあります。

マラスムスとクワシオルコルの成因

マラスムスおよびクワシオルコルの成因としては、飢餓だけでなく、消化吸収障害、感染。腎臓・肝臓障害、悪性腫瘍、神経性食思不振症など、様々なものがあります。