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医療従事者向け

代謝性代償とは?(腎性代償とは?)

代謝性代償とは

血液のPHが酸性またはアルカリ性に傾くと、ヒトの体は、pHを正常範囲内(7.35 ~ 7.45)に保とうとします。

このとき、ヒトの体では、肺や腎臓の調節機構が働きます。

腎臓で行われるのが、HCO3-による調節であり、「代謝性代償」あるいは「腎性代償」と呼ばれます。

すなわち、呼吸性アシドーシスや、呼吸性アルカローシスの状態のときに、腎臓がHCO3-の量を調整して、pHを正常に戻そうとする働きのことを代謝性代償(腎性代償)といいます。

たとえば、つぎのようななります。

呼吸性アシドーシスの代謝性代償

ヒトの体では、基本的に、肺で呼吸によりCO2の量を調整しています。

肺の疾患などで、CO2の排出が少なくなると、血液中のCO2が増加し、血液は酸性に傾きます(pHの低下)。

この状態は「呼吸性アシドーシス」と呼ばれます。

このとき、腎臓は血液中のHCO3-を増やすように、HCO3-を再吸収します。

すなわち、血中のHCO3-を増やし、過剰な酸を中和しようとします。

このような腎臓の働きを「呼吸性アシドーシスの代謝性代償」といいます。

呼吸性アルカローシスの代謝性代償

過換気状態になると、血液中のCO2の排泄が増えて、低下すると、血液はアルカリ性に傾きます(pH の上昇)。

この状態は、「呼吸性アルカローシス」と呼ばれます。

このとき、腎臓は血液中からHCO3-を減らすように、HCO3-を尿から排出させます。

このような腎臓の働きを「呼吸性アルカローシスの代謝性代償」といいます。

代謝性代償の早さ

腎臓による代謝性代償は、数日間かけて緩やかに行われます。

これは、呼吸性代償が速やかに行われることとは対照的です。

代謝性代償の有無を確認するには

以上をまとめると、代謝性代償があるかどうかを判断するためには、主にpH、CO2、HCO3-の値に注目すればよいと言えます。

たとえば、pHが正常、PaCO2が高値(呼吸性アシドーシス)、HCO3-も高値
のときは、代謝性代償の存在が考えられます。

また、pHが正常、PaCO2が低値(呼吸性アルカローシス)、HCO3-が低値のときも、代謝性代償の存在が考えられます。

完全に代償されるとは限らない

腎臓による代償が行われたとしても、必ずしも、pHの値が正常範囲に戻るとは限りません。

代償しきれていない状態では、pHが酸性あるいはアルカリ性に傾いた状態となっているため、判断が難しくなりますが、検査データだけではなく、患者の病歴、身体所見、症状、治療の経過などをもとに、総合的に判断することが重要です。

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検査

ベース・エクセスとは?(BE)

血液ガスのパラメータに、ベース・エクセス(base excess:BE)があります。

定義

BEベースエクセスは、「体温37℃ , pCO2が40Torrにある血液をpH7.40に戻すために必要な塩基の量」を表します。

計算方法

BEは、つぎのSiggaard -Andersenの式を使って算出されます。

BE =(1−0.014×Hb)×{[HCO3]−24+(9.5+1.63×Hb)×(pH-7.4)}

基準範囲

基準範囲は、0±2mEq/Lです。

意義

生体内で緩衝に関与しているのは、代謝性因子と呼吸性因子とがあります。

BEは、「PaCO2 が 40Torr のとき」という条件をつけることで、呼吸性因子の影響を除外しています。

つまり、BEは、呼吸性因子を一定と仮定することでその影響を除外し、血液のpHにかかわる代謝性因子のみを量的に表現します。

BEがマイナスの場合は塩基不足(代謝性アシドーシス)、プラスの場合は塩基過剰(代謝性アルカローシス)を意味します。

BEが実測値ではない理由

代謝性因子の指標は、HCO3のほかにも、血色素(ヘモグロビン)、血漿蛋白質(アルブミンなど)、リン酸塩などがあります。

しかし、血液ガスの測定装置では、全ての代謝性因子を直接測定できません。

そこで、赤血球による緩衝系(ヘモグロビン値:Hb)を加味して、代謝性因子の全体の変化量を計算で間接的に求め、BEとしています。

BEの解釈の注意点

上に述べたように、BEは呼吸性因子の影響を除外しています。

したがって、BEのみで酸塩基平衡の全体を評価することはできません。

参考:重炭酸イオンによるアシドーシスの補正

酸血症すなわちアシデミア (pH<7.35)で、かつBEがマイナスのときは、塩基が不足している代謝性アシドーシスといえます。

このとき、その分のアルカリを加えてpHを7.40に近付けて補正することができます。

通常は重炭酸ナトリウムを投与します。

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検査

アニオンギャップとは?

定義

アニオンギャップとは、血清中のナトリウム(Na)とカリウム(K)濃度の和から塩素(Cl)と重炭酸(HCO3)濃度とを引いた値のことです。

すなわち、アニオンギャップ(anion gap:AG) = [Na+] 一 {[HCO3] 十 [Cl] }と計算されます。

アニオンギャップは、unmeasured anionとも呼ばれます。

アニオンギャップは、血液ガス測定により、算出することができます。

意義

血漿中の陽イオンはNa,Kなど測定可能なものがほとんどです。

しかし、陰イオンは、通常、塩素(Cl)、HCO3は測定しますが、リン酸、硫酸、有機酸や蛋白などの陰イオン(アニオン)は、測定しません。

このような通常は測定しないアニオンを、臨床的にひとまとめにして、その増加をみるものがアニオンギャップです。

基準値

基準値は12前後です(12±2)。

なお、アニオンギャップの算出のとき、陽イオンとして、NaにKを加えて算出することも可能であり、そのときは基準値が上がります。

アルブミン値による補正

AGを計算するときは、アルブミン(Alb)補正が必要です。

なぜなら、血清アルブミン値が正常値(4g/dL)から1g/dL低下すると、AGは、2.5mEq/L低下するからです。

したがって、正常値からのアルブミンの低下分に2.5を掛けたものを、AGに足して補正します。

すなわち、Alb補正後AG=補正前AG+(4−Alb値)×2.5で表されます。

たとえば、血清Alb値が1.0g/dL、Naが135mEq/L、Clが100rnEq/L、HCO3-が24mEq/Lのとき、補正前の計算では、AGは11mEq/Lですが、補正後のAGは18.5mEq/Lとなります。

解釈

アニオンギャップが増加している場合は、有機酸、乳酸、その他の酸が蓄積していると考えます。

いわゆる代謝性アシドーシスを呈している病態が疑われます。

代表的なものは、有機酸代謝異常症(メチルマロン酸血症やプロピオン酸血症)、高乳酸血症、腎不全、高ケトン血症(ケトーシス)、サリチル酸中毒、エタノール中毒などです。

アニオンギャップが増加しない代謝性アシドーシス

なお、たとえば、下痢によるHCO3の漏出や、尿細管の問題によるHCO3の再吸収障害などが原因で起きるHCO3低下による代謝性アシドーシスでは、HCO3が減った分、Clが増加するため、アニオンギャップは増加しません。

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医療従事者向け

呼吸性代償とは?

肺でのCO2の調節による代償について解説します。

呼吸性代償とは

代謝性異常や呼吸性異常が起きて、血液のPHが酸性またはアルカリ性に傾くと、体は、PHを正常範囲内(7.35 ~ 7.45)に保とうとします。

このとき、ヒトの体では、肺や腎臓の調節機構が働きます。

肺で行われるのが、CO2による調節であり、「呼吸性代償」と呼ばれます。

呼吸性代償では、呼吸様式を変化させます。

すなわち、呼吸回数や一回換気量を変化させることにより、CO2 の排出あるいは貯留を促します。

呼吸性代償の具体例

代謝性異常と呼吸性代償の例を紹介します。

代謝性アシドーシスの呼吸性代償

たとえば、敗血症の患者では、乳酸産生が増加し代謝性アシドーシスが発生します。

代謝性アシドーシスによりpH が低下するので、ヒトの体は、pHを正常範囲内に保とうとして、呼吸数の増加(頻呼吸)や一回換気量の増加(深呼吸)させます。

つまり、CO2を体外に排出してpHを増加させます。

呼吸数に関して言えば、一分間あたり20回を超える呼吸数は異常と言われ、呼吸性代償があることを示唆する所見となります。

代償性アルカローシスの呼吸性代償

たとえば、嘔吐を繰り返す患者では、胃液が失われることで強酸のHClが失われるため、代謝性アルカローシスになります。

代謝性アルカローシスが起ると、pHが増加するので、ヒトの体は、一回換気量を減少させたり(浅呼吸)、呼吸数を低下させたりします(徐呼吸)。

つまり、CO2を体内に貯留させ、pH を低下させます。

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検査

重炭酸イオン・炭酸ガス分圧について

代謝について

二酸化炭素(CO2)は、水と反応後、電離して重炭酸イオン(炭酸水素イオン)になります。

重炭酸イオン+クロールイオンは、体液中の総陰イオンの約85%を占めます。

重炭酸イオンの大部分は、塩基と結合して「重炭酸塩」として存在します。

重炭酸塩は、炭酸・重炭酸緩衝系を形成し、血液のPHの維持に重要な役割を担っています。

血中のHCO3イオン濃度は、肺や腎臓で調節されています。

検体について

重炭酸イオンと炭酸ガス分圧は、血液ガスの項目として、一般に、動脈血で測定されます。

動脈血は、採血後に、直ちに空気と遮断しながら測定します。

基準範囲

重炭酸イオン(HCO3)の基準範囲は、23~28mEq/L(23~28 mmol/L)です。

血液炭酸ガス分圧の基準範囲は、35~45mmHgです。

なお、血液酸素分圧の基準範囲は、75~115mmHg、血液水素イオン濃度の基準範囲は、pH7.35~7.45です。

臨床的意義

血液中の重炭酸イオン濃度は、腎臓からの水素イオンの排出、肺からの二酸化炭素の放出、および、尿細管からの重炭酸イオンの再吸収によって調節されています。

重炭酸イオン(HCO3-)が高値を示す場合には、嘔吐(H+の喪失)、低K血症、呼吸性アシドーシスなどがあり、低値を示す場合には、糖尿病ケトアシドーシスや、腎不全などの排泄障害などがあります。

また、動脈血酸素分圧(pO2)と、動脈血炭酸ガス分圧(pCO2)は心肺機能と腎機能、さらには、全身的機能の診断に用いる指標となります。

炭酸ガス分圧が上昇する場合には、呼吸性アシドーシスによる場合、原発性アルドステロン症、嘔吐、低K血症などがあり、低値を示す場合には、過換気症候群、肺炎、肺線維症の呼吸性アルカローシス、腎不全、糖尿病などがあります。

測定法

pO2とpCO2は、電極法による血液ガス分析装置により測定されることが多いようです。

重炭酸イオンは、pO2、pCO2、PH、および、ヘモグロビン濃度から算出されます。