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病気

腸結核の症状、診断、治療

腸結核は小腸や大腸に結核菌が感染することで発症する感染症です。

症状

症状は、慢性に継続するはっきりとしない腹痛が最も多くなっています(80~90%)。

ついで下痢、吐下血、腹部膨満、嘔吐、発熱、腹部腫瘤、体重減少などとなっています。

そのほか、発熱、全身倦怠感、寝汗などの症状がみられることもあります。

診断

腸結核は、大腸内視鏡検査にて、多発潰瘍、潰瘍化した集塊、無茎性ポリープ、小憩室を認めます。

病理組織学検査では、大腸内視鏡下の生検にて乾酪性肉芽腫を認めることもあります。

腸結核の確定診断は、便培養検査や病変部の内視鏡下生検検体による生検培養、あるいは生検検体からPCR法によって、結核菌の存在を確認します。

結核感染の補助診断としては、インターフェロンγ遊離試験(IGRA)が用いられます。

クオンティフェロンゴールドや、TスポットTBの検査を実施します。

クローン病との鑑別

腸結核では輪状潰瘍、帯状潰瘍が特徴的とされますが、多彩な病変を呈することが示されており、とくに腸管長軸方向に伸びる潰瘍ではクローン病との鑑別が重要です。

治療

腸結核の診断が確定した場合には、抗結核薬にて治療を開始します。

また臨床上、強く結核性腸炎が疑われる場合には、診断的治療を行うこともあります。

治療は、肺結核と同様で、4剤(リファンピシン[RFP]、イソニアジド[INH]、エタンブトール[EB]、ピラジナミド[PZA])で治療を開始し、2カ月後に2剤(INH、RFP)に減量して4ヵ月間継続して治療します。

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病気

細菌性赤痢(赤痢菌性胃腸炎)

概要

細菌性赤痢(赤痢菌性胃腸炎)は、赤痢菌の感染により、胃腸炎症状を引き起こす疾患です。

感染力が強く、 10~100個の菌で感染が成立します。

赤痢菌は、経口 されると、12~50時間の潜伏期を経て発熱などを引き起こします。

38度から39度の発熱のほか、水様性下痢、倦怠感、食欲不振、嘔吐などの症状が現れます。

その後にしぶり便(いわゆるテネスムス)や、急激な腹痛をともなう少量の膿粘血便となります。

推定感染地の50~60%は、インド、インドネシア、中国、ベトナム、タイ等のアジア地域です。

衛生環境のよくない国では、便から排泄された赤痢菌が、生水、氷、生野菜、果物、刺身などを汚染していると考えられています。

詳細

原因菌

赤痢の原因菌は赤痢菌(Shigella)です。

志賀毒素と呼ばれる毒素を産生します。

腸内細菌科に属し、形態的には鞭毛を持たない無毛菌です。

遺伝子レベルでは大腸菌と非常に近い関係にある菌です。

本菌は、1898年に志賀潔博士によって発見されました。

学名Shigellaは、志賀博士の名前から命名されたものです。

生物学的な分類ではA群〜D群の4つに分けられます。

診断

海外渡航歴を確認することが重要です。

ただし、まれに国内感染例もあることに留意する必要もあります。

しぶり便(テネスムス)や膿粘血便などが見られたら、赤痢菌性胃腸炎を強く疑うことができます。

下痢を引き起こす菌の種類は多数あるため、便培養で、赤痢菌を同定することにより診断します。

検査法

選択培地として、SS培地やDHL培地を用いて便培養を実施します。

培養後の集落の形態や血清反応により赤痢菌を簡易同定し、生化学的性状などを確認して確定します。

治療

治療は、脱水の補正と抗菌薬の投与がメインです。

脱水の補正は、通常、経口摂取で行い、脱水が高度で経口摂取不可能なときは補液を行います。

抗菌薬に関しては、フルオロキノロンの3~5日間内服治療が推奨されています。

下痢止めの薬は、菌の排泄を阻害することになり回復を遅らせるため、推奨されません。

法律

赤痢菌性胃腸炎は、感染症法第三類の全数把握対象疾患です。

ただちに保健所へ報告する義務があります。

また、学校保健安全法では、医師が、感染のおそれがないと認めるまで出席停止となっています。

また、食品衛生法では、食中毒を診断したときは、ただちに最寄りの保健所に届出を行うこととなっています。

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Column

海外渡航前に打つべきワクチンの種類

海外では、日本では考えられない病気に感染することがあります。

とくに開発途上国での感染が重症になることがあります。

そこで、海外に旅行するときには、ワクチンを打っておくべきです。

しかし、ワクチンにも色々な種類がありますので、ここでは、どんなワクチンを打てばいいの紹介します。

また、あわせて渡航前にチェックしたほうが良いことも紹介します。

打つべきワクチン

開発途上国へ行く場合、成人は、海外渡航時に予防接種すべきワクチンは、黄熱病、A型肝炎、B型肝炎、破傷風、狂犬病、日本脳炎、腸チフス、ポリオに対するワクチンが主な推奨ワクチンです。

その他、麻疹、風疹、インフルエンザのワクチンも、検討するとよいでしょう。

コレラワクチンなど、日本で未承認のワクチンの接種が必要な場合は、海外渡航専門のトラベルクリニックを受診しましょう。

なお、黄熱病ワクチン、ポリオワクチン以外は、一定期間をあけて2回の接種が必要です。

また、よく海外に出掛ける人なら3回目の接種も受けておくと、基礎免疫ができてオススメです。

参考に:渡航前にチェックすべきこと

つぎのことを確認しておくことは、ワクチンを打つのと同じくらい大切です。

1.衛生事情

渡航前にすべき重要なことのひとつは、インターネットなどで現地の衛生事情を調べることです。

どのような病気に感染するリスクがあるのか、知っておきましょう。

ワクチンのあるものは、予防接種を前もって受けておくことが大切です。

ワクチンの無いものは、感染経路を知り、感染の防ぎ方を学んでおきましょう。

2.医療体制

現地の医療のレベルを知っておくことも大切です。

事前に、低い医療水準の国だとわかっていれば、様々なことに注意することができるからです。

たとえば、渡航先で、注射針や輸血がどれくらい安全かを考えたことがあるでしょうか?

注射を受けるとき、使いまわされた注射針は、C型肝炎やHIV感染症になるリスクとなります。

また、現地で交通事故にあって出血し、輸血を受けることになったとき、輸血用の血液に、B型肝炎ウイルスなどが混入しているかもしれません。

さらに、現地の医師のレベルが、日本と比べてどうかなども、インターネットや旅行会社を通じて調べておくと良いでしょう。

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病気

旅行者下痢症の感染経路、原因微生物、予防法、診断、治療

概要

旅行者下痢症とは、主に国外旅行者が滞在先で遭遇する下痢症状です。

海外渡航者の帰国後の受診理由で発熱とともに頻度の多いのが、この下痢症で、旅行者の30~40%が罹患すると言われています。

旅行者下痢症は、重症例はまれで、適切な治療や対症療法で対処可能です。

詳細

感染経路

リスク因子として、渡航先が最も重要となります。

感染経路は水、食事が主です。

現地の飲用水を飲んだり、非加熱の食材を食べたりすることでリスクが上がります。

特に、氷、ジュース、生野菜、生鮮魚介類のいずれかの飲食がハイリスクです。

原因微生物

細菌、ウイルス、寄生虫など原因となる病原体は多様です。

細菌でもっとも多いものは、毒素原生大腸菌(enterotoxigenic Escherichia coli、ETEC)と言われています。

また、カンピロバクター、サルモネラ、赤痢菌、チフス、パラチフス、エロモナス、プレシオモナス、コレラ、ビブリオなどもあります。

そのほか、ランブル鞭毛虫、クリプトスポリジウム、赤痢アメーバにも注目する必要があります。

予防法

清潔管理に気を配るのが原則です。

具体的には、加熱していない食べ物を摂取しないこと、現地の水を飲まないこと、手洗いを徹底することなどです。

また、飲用水を確保するには、65 ℃以上で1分間加熱し、水中のほば全ての腸管病原性の細箘を殺します。原虫も、55 ℃以上で 5分間加熱すれば不活化されますので安心できます。

診断

海外渡航中または帰国後短期に、1日3回以上の非有形便を認めるという病歴および症状で診断します。

確定診断には、便培養の結果で確定診断となります。

ほかに、血清抗体価や、血液培養も併用できます。

原虫や寄生虫の診断には、糞便の顕微鏡検査が有効です。

治療

旅行者下痢症は一般的に自然経過で改善するため、輸液や電解質補正による対症療法が重要です。

ただし症状が持続する場合や症状が強い場合には、抗菌薬投与を行います。

基本的には、ニューキノロン薬あるいはホスホマイシンを3日間投与で対処します。

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病気

サルモネラ症の症状、診断、治療

サルモネラ症

サルモネラは、グラム陰性、通性嫌気性の桿菌で、腸内細菌科に属する菌です。

サルモネラを大きく分けると、チフス、パラチフス、その他のサルモネラがあります。

サルモネラ症とは、チフスやパラチフス以外のサルモネラ菌の感染により引き起こされる感染症です。

サルモネラ症を引き起こす病原体として主に問題となるの はSalmonella enterica subsp. entericaです。

参考:サルモネラの種類

サルモネラは、2菌種6亜種が存在します。

さらに、サルモネラは60種類以上の菌体表面抗原(O抗原)と80種類もある鞭毛抗原(H抗原)の組み合わせによって2,500種類以上の血清型が存在しています。

症状

サルモネラ症で多いのは食中毒で、日本の食中毒発生状況で常に上位に位置しており、食品衛生上重要な病原体です。

症状としては、急性発症の発熱、腹痛、下痢が典型例ですが、嘔吐や血便を伴うこともあり、合併症として菌血症や感染性動脈炎があります。

発症は、95%以上が食事由来です。

卵や、卵の加工食品、調理不十分な肉などが原因となっています。

潜伏期間は、摂取から12~72時間です。

診断

症状から、サルモネラ症と他の感染性腸炎と鑑別することは難しいです。

便の培養の結果で、チフスやパラチフス以外のサルモネラ菌を検出して診断します。

鑑別を要するのは、赤痢菌、カンピロバクター、エルシニア、赤痢アメーバなどです。

敗血症も調べるため、不明熱が続く患者や、ハイリスク患者では、血液培養も採取すると良いでしょう。

治療

抗菌薬の投与、脱水の補正、プロバイオティクスの投与が主な治療となります。
サルモネラ菌には、耐性菌は確認されていないため、一般的な内服薬で足ります。

ニューキノロンが適当で、シプロキサンなどを5日間投与するのが基本です。

ただし、血液培養陽性例や免疫不全者では、二週間程度の治療が勧められます。

法律

サルモネラによる胃腸炎は、感染症法の5類疾患である「感染性胃腸炎」に含まれます。

食中毒の場合は、食品衛生法で、ただちに最寄りの保健所に届出を行うこととなっています。

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医療従事者向け

感度,特異度,陽性的中度,陰性的中度,尤度比

感度と特異度

感度とは、検査が、ある病気を持つ人に実施されたときに、結果が陽性となる確率です。

特異度とは、検査が、ある病気を持たない人に行わ れたときに、結果が陰性となる確率です。

判定特性能

感度と特異度は、ともに0〜1の問の値をとります。

1に近いほど、それぞれの能力に優れていると判断されます。

両者がともに優れていることを総称して、「判別特性能に優れている」と表現することがあります。

 

陽性的中度(陽性的中率)

陽性的中度とは、患者が病気である確率です。

つまり、検査陽性者の中で病気である人の割合です、

陽性的中度 = [ 真陽性(TP) / {真陽性(TP)+偽陽性(FP)} ]×100%

陰性的中度(陰性的中率)

陰性的中度とは、患者が病気でない確率です。

つまり、検査陰性者の中で病気でない人の割合です、

陰性的中度 = [ 真陰性(TN) / {真陰性(TN)+偽陰性(FN)} ]×100%

尤度比

疾患をもつ人が疾患をもたない人に比べて,ある検査結果の得られる可能性がどれほど高いかを示すのが尤度比(likelihood ratio:LR) です。

尤度比には、陽性尤度比と、陰性尤度比があります。

陽性尤度比

陽性尤度比は,疾患をもつ人が陽性結果となる可能性と,疾患をもたない人が陽性結果となる可能性との比で計算されます。

陽性尤度比が高いほど、検査結果が陽性の場合、疾患があることを肯定する可能性が高くなります。

計算方法

陽性尤度比 = 感度 / (1一特異度)

陽性尤度比が10以上だと、確定診断に有用と言われます。

なお、陽性尤度比は、1に近いほど、検査から得られる情報が少ないことを意味します。

陰性尤度比

陰性尤度比は,疾患をもつ人が陰性結果となる可能性と,疾患をもたない人が陰性結果となる可能性の比で計算されます。

陰性尤度比が0に近いほど、検査結果が陰性の場合、疾患があることを否定する可能性が高くなります。

計算方法

陰性尤度比 = (1一感度) / 特異度

陰性尤度比が0.1以下だと、除外診断に有用と言われます。

なお、陰性尤度比も、1に近いほど、検査から得られる情報が少ないことを意味します。

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医療従事者向け

系統誤差と偶然誤差

検査で発生する誤差について解説します。

系統誤差(systematic error)

系統誤差とは、不適切な標準物質や試薬の使用、 妨害物質の影響、分析機器の不備などにより発生する誤差です。

真の値からの偏りを表します。

比例系統誤差および一定系統誤差があります。

比例系統誤差

比例系統誤差は、常に一定方向に生じる系統誤差であり、測定成分の濃度に比例した誤差(相乗誤差ともいいます)です。

一定系統誤差

一定系統誤差は、常に同じ方向に生じる系統誤差であり、同じ大きさを示す誤差(ゲタバキ誤差、相加誤差ともいいます)です。

偶然誤差(random error)

偶然誤差とは、取り除くことができない誤差であり、たとえば、器具の汚染や測定環境の変化によって発生します。

一般に、偶然誤差の原因はつきとめることは難しいといわれています。

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医療従事者向け

マクロショックとミクロショック

マクロショック

マクロショックとは、皮膚を介した漏れ電流の感電です。

感電の強さは、人体に流れる電流の大きさによります。

なお、医療機器からの漏れ電流許容量は100μA以下です。

ミクロショック

ミクロショックとは、漏れ電流が直接心臓に流れて起きる感電で、おおよそ100μA程度で発生します。

発生要因は、電極などの絶縁不良や、医療機器本体と患者の間に電位差がある場合です。

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Column

壊死と壊疽

壊死と壊疽について解説します。

壊死

壊死とは、ネクローシスともいい、局所の細胞や組織の死滅のことをいいます。

壊死の原因には、凝固壊死と誘拐壊死があります。

凝固壊死

凝固壊死は、細胞のタンパク質の凝固によって起きる壊死です。

このタイプの壊死は、たとえば、血行障害による梗塞の場合(心筋梗塞など)に見られます。

融解壊死

融解壊死は、細胞の死亡と同時にタンパク質分解酵素の作用によって起きる壊死です。

このタイプの壊死は、タンパク質の少ない臓器や脳で起こります。

壊疽

壊疽には、「湿性壊疽」と「乾燥壊疽」があります。

湿性壊疽

湿性壊疽は、壊死組織が、二次的に腐敗菌に感染した場合に起きます。

肺壊疽や、壊疽性の虫垂炎などが代表的です。

なお、湿性壊疽にガス産生菌が感染すると、「ガス壊疽」となります。

乾燥壊疽

乾燥壊疽は、壊死組織が、外気によって乾燥すると起きます。

動脈の閉塞による四肢のミイラ化などがあります。

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医療

赤血球の基礎と異常

赤血球の基礎

赤血球の産生

赤血球は、前赤芽球→赤芽球→網赤血球→赤血球という順に産生されます。

前赤芽球

赤血球系細胞の中で、形態学的にとらえられる最も未熟な細胞は、「前赤芽球」です。

前赤芽球は、赤芽球の中で最も大きいです。

細胞に占める核の容積比は大きく、クロマチン網工は点状繊細であり、2~3個の核小体を有します。

なお、穎粒はありません。

赤芽球

赤芽球は、分裂や成熟をするほど小さくなり、細胞質は、赤みを増します(ヘモグロビンの増加)。

赤芽球は、成熟とともに核が小さくなり、クロマチンは粗大となり、さらに、濃縮されていきます。

最後には脱核し、「綱赤血球」になります。

なお、前赤芽球から脱核するまでの期間は、約4~5日です。

網赤血球

綱赤血球は、一般に、成熟赤血球に比べて、大きくて軽いです。

血管内での寿命は約24時間で、貧血があると長くなる傾向にあります。

網赤血球は、赤血球のおよそ0.8%を占めます。

赤血球の形態および機能

血球は、中央がくぼんだ双凹円板形です。

直径は約8μmで、厚さは辺縁部で約2μm、中央で約1μmです。

赤血球は、保有するヘモグロビンにより、酸素を運搬します。

また、含有する炭酸脱水酵素などの働きにより、CO2も運搬します。

さらに、血液のpHを緩衝する機能や、撹枠子として、側き,溶質の血中濃度をいったいにする機能もあります。

赤血球の異常

大小不同

赤血球の大きさには正常でも多少のバラツキがみられるが、ばらつきが著明な場合、大小不同症(anisocytosis)といいます。

巨赤血球

巨赤芽球症にみられる巨大赤血球で,多く楕(卵)円形で、多染性を示すことはありません。

小赤血球

鉄欠乏性貧血、サラセミア、異常ヘモグロビン血症などでみられます。

なお、赤血球が極端に小さい場合、破砕(分裂)赤血球といいます。

破砕赤血球は、赤血球破砕症候群(DIC、TTP、HUS)、遺伝性熱変性性変形赤血球症などで見られます。

形態異常

うに状赤血球、口状赤血球などが、特定の症状で見られます。

封入体

好塩基性斑点、パッペンハイマー小体、ハウエルジョリー小体、カボー環、シュフナー斑点、ハインツ小体などが特定の症状で見られます。

連銭形成

血漿フイブリノゲンまたは免疫グロブリン(IgG、IgMなど)の増加時にみられます。

異常ヘモグロビン

グロビンのアミノ酸配列が変化したものを異常ヘモグロビンといいます。

およそ400種があり、溶解度が低いものや、溶血を起こしくするものなど、様々です。

なお、グロビン部分の異常でも後天的にグルコースが結合し、アマドリ転移を起こしたHbA1cは、異常ヘモグロビンとは言いません。