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ボールスプライン事件「均等成立の要件」(平成6年(オ)第1083号、最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決)

事件名

ボールスプライン事件

論点

均等の要件とは?

事実関係

・甲は特許権者であり、「無限摺動用ボールスプライン軸受」という発明Xの特許権者であった
・乙は、似たような製品Yを製造販売していた
・甲は、乙に対して、特許権侵害にもとづく損害賠償請求をした

・第一審で、東京地裁は、請求を棄却した。
(被告乙の製品Yは、特許発明とは一部異なると述べた。また、その一部を置き換えることが出願時に当業者にとって容易であることが、均等の要件であると述べた。そして、XとYとで異なる一部は、置き換えが容易ではないから、均等の前提条件を欠くとした。)

・甲が控訴

・東京高裁は、請求を認容した。

(東京高裁は、特許発明Xの構成要件Aについては、被告製品との違いは、特別の技術的意義がなく、
構成要件Bについては、置換可能性と置換容易性があるとして、均等侵害とした。)

・乙が上告した。

本判決の結論

・破棄差し戻し
・判旨

「特許権侵害訴訟において、相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)が特許発明の技術的範囲に属するかどうかを判断するに当たっては、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて特許発明の技術的範囲を確定しなければならず(特許法70条一項参照)、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合には、右対象製品等は、特許発明の技術的範囲に属するということはできない。

しかし、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、

(1)右部分が特許発明の本質的部分ではなく、

(2)右部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、

(3)右のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、

(4)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、

かつ、

(5)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、

右対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。

けだし、
(一)特許出願の際に将来のあらゆる侵害態様を予想して明細書の特許請求の範囲を記載することは極めて困難であり、相手方において特許請求の範囲に記載された構成の一部を特許出願後に明らかとなった物質・技術等に置き換えることによって、特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば、社会一般の発明への意欲を減殺することとなり、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するばかりでなく、社会正義に反し、衡平の理念にもとる結果となるのであって、

(二)このような点を考慮すると、特許発明の実質的価値は第三者が特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして容易に想到することのできる技術に及び、第三者はこれを予期すべきものと解するのが相当であり、

(三)他方、特許発明の特許出願時において公知であった技術及び当業者がこれから右出願時に容易に推考することができた技術については、そもそも何人も特許を受けることができなかったはずのものであるから(特許法29条参照)、特許発明の技術的範囲に属するものということができず、

(四)また、特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど、特許権者の側においていったん特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか、又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて、特許権者が後にこれと反する主張をすることは、禁反言の法理に照らし許されないからである。

これを本件についてみると、原審は、特許請求の範囲の記載のうち構成要件A及びBにおいて上告人製品と一致しない部分があるとしながら、構成要件Bの保持器の構成について本件発明と上告人製品との間に置換可能性及び置換容易性が認められるなどの理由により、上告人製品は本件発明の技術的範囲に属すると判断した。

しかしながら、原審は、

(一)外筒、スプラインシャフト及び保持器により構成される無限摺動用ボールスプライン軸受は本件発明の特許出願前に既に公知であり、本件発明における「該保持器と前記外筒間に組み込まれたボールとによって形成される複数個の凹部間に一致すべく複数個の凸部を軸方向に形成したスプラインシャフト」(構成要件C)はボールスプラィン軸受のシャフトとして通常の構成であること、

(二)そして、
(1)本件発明における保持器が一体構造であり、保持器自体によってボールの無限循環案内、スプラインシャフト引き抜き時のボール保持機能及びシャフト凸部を案内するための凹部形成機能を有する(構成要件B)のに対し、上告人製品の保持器は三枚のプレート状部材11、二個のリターンキャップ31と外筒の負荷ボール案内溝間の突堤25、27、29からなる分割構造のものであり、これら部材の協働により、本件発明の保持器の前記各機能を実現しているところ、

(2)上告人製品における三枚のプレート状部材11及び二個のリターンキャップ31よりなる分割構造の保持器は、、本件発明の特許出願前に頒布された刊行物である米国特許第三三六〇三〇八号明細書における無限摺動用ボールスプライン軸受に示されており、

(3)また、このような分割構造の保持器によりボールを保持するためには外筒の負荷ボール案内溝間に突堤を設けることが技術的に必然であるところ、このような構成は前同様の刊行物である米国特許第三三九八九九九号明細書のボールスプラインに示されていたことを、認定している。右によれば、上告人製品における分割構造の保持器及び外筒の負荷ボール案内溝間に突堤を設けることは、本件発明の特許出願前に公知のボールスプライン軸受において既に示されてい
たことになる。

また、原審の認定によれば、上告人製品は、無負荷ボールを円周方向に循環させる点及びスプラインシャフトの凸部をトルク伝達用負荷ボール案内溝の負荷ボールが左右から挟み込む複列タイプのアンギュラコンタクト構造を採用している点において、本件発明の構成(構成要件A、C参照)と共通するものであるが、

原審が、本件発明の特許出願前に頒布された刊行物である特公昭四四――二三六一号公報、ドイツ連邦共和国特許第一四五〇〇六〇号公報及び米国特許第三四九四一四八号明細書に無負荷ボールの円周方向循環及び複列タイプのアンギュラコンタクト構造に関する記載があることを認定していることからすれば、これらの技術をボールスプライン軸受に用いることは本件発明の特許出願前に公知であったことがうかがわれる。

そうすると、無負荷ボールの円周方向循環及び複列タイプのアンギュラコンタクト構造を備えたボールスプライン軸受の技術が本件発明の特許出願前に公知であったとすれば、原審の認定では保持器の構成はボールの接触構造によって根本的に異なるものではないというのであるから、上告人製品は、公知の無負荷ボールの円周方向循環及び複列タイプのアンギュラコンタクト構造を備えたボールスプライン軸受に公知の分割構造の保持器を組み合わせたものにすぎないということになる。

そして、この組合せに想到することが本件発明の開示を待たずに当業者において容易にできたものであれば、上告人製品は、本件発明の特許出願前における公知技術から右出願時に容易に推考できたということになるから、本件明細書の特許請求の範囲に記載された構成と均等ということはできず、本件発明の技術的範囲に属するものとはいえないことになる。

本件では、前記のとおり、本件明細書の特許請求の範囲に記載された構成中に上告人製品と異なる部分が存するところ、原審は、専ら右部分と上告人製品の構成との間に置換可能性及び置換容易性が認められるかどうかという点について検討するのみであって、上告人製品と本件発明の特許出願時における公知技術との間の関係について何ら検討することなく、直ちに上告人製品が本件明細書の特許請求の範囲に記載された構成と均等であり、本件発明の技術的範囲に属すると判断したものである。

原審の右判断は、置換可能性、置換容易性等の均等のその余の要件についての判断の当否を検討するまでもなく、特許法の解釈適用を誤ったものというほかはない。

右のとおり、原審の判断には、法令の解釈適用の誤り、ひいては審理不尽、理由不備の違法があるものというべきであって、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

論旨は右の趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、前に判示した点について更に審理を尽くさせる必要があるので、これを原審に差し戻すこととする。よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 」

解説

特許発明の技術的範囲は、特許法70条第1項の規定に従い、特許請求の範囲の記載よって定めなければなりません。

しかし、被告製品が、特許発明のすべての構成要件を満たさず、ちょっとしか違わない場合があります。

そのときでも、被告製品を特許権の侵害といえるようにする理論が均等論です。

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リパーゼ事件「発明の要旨認定」(昭和62年(行ツ)第3号、最高裁平成3年3月8日第2小法廷判決)

事件名

リパーゼ事件

本判決に関係する特許法の論点

審査のときの、発明の要旨認定の方法とは?

事実関係

・Xは特許出願人であり、「リパーゼ」に関する発明について出願した。
特許請求の範囲には、「リパーゼ」という文言があったが、発明の詳細な説明の実施例には「Raリパーゼ」に関する記載しかなかった。

・審査官は、拒絶査定をした。

・出願人Xは、拒絶査定不服審判を請求した。

・審判官は、特許請求の範囲に記載された「リパーゼ」という文言は、文言通り、あらゆる「リパーゼ」を含むと解釈した。
そのうえで、本件発明について、進歩性なしを理由に、請求棄却審決をした。

・Xが審決取消訴訟を提起した。

・東京高裁は、請求を認容し、拒絶審決を取り消した(審決取消判決)。
ちなみに東京高裁は、『文言上は「リパーゼ」だが、発明の詳細な説明を考慮すると、それは「Raリパーゼ」を意味するため、審決は発明の基本構成の解釈を誤った』と述べた。

・特許庁長官が、上告した。

本判決の結論

・破棄差し戻し

・判旨

「特許法29条1項及び2項所定の特許要件、すなわち、特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当たっては、この発明を同条1項各号所定の発明と対比する前提として、特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならないところ、

この要旨認定は、特段の事情のない限り、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。

特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、
あるいは、
一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかである
などの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。

このことは、「特許請求の範囲には、特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載しなければならない」旨定めている特許法36条5項の規定からみて明らかである(旧特許法の話です)。

これを本件についてみると、原審が確定した前記事実関係によれば、本願発明の特許請求の範囲の記載には、
・・・(省略)・・・
「リパーゼ」についてこれを限定する旨の記載はなく、右のような特段の事情も認められない。

よって、本願発明の特許請求の範囲に記載の「リパーゼ」が「Raリパーゼ」に限定されるものであると解することはできない。

原審は、本願発明は測定方法の改良を目的とするものであるが、その改良として技術的に裏付けられているのは、「Raリパーゼ」を使用するものだけであり、本願明細書に記載された実施例も「Raリパーゼ」を使用したものだけが示されていると認定しているが、

本願発明の測定法の技術分野において、「Raリパーゼ」以外のリパーゼはおよそ用いられるものでないことが当業者の一般的な技術常識になっているとはいえないから、

明細書の発明の詳細な説明で技術的に裏付けられているのが「Raリパーゼ」を使用するものだけであるとか、実施例が「Raリパーゼ」を使用するものだけであることのみから、特許請求の範囲に記載された「リパーゼ」を「Raリパーゼ」と限定して解することはできないというべきである。

そうすると、原審の確定した前記事実関係から、本願発明の特許請求の範囲の記載中にある「リパーゼ」は「Raリパーゼ」を意味するものであるとし、本願発明が採用した酵素は「Raリパーゼ」に限定されるものであると解した原審の判断には、特許出願に係る発明の進歩性の要件の有無を審理する前提としてされるべき発明の要旨認定に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきであり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

この点の違法をいう論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。 よって、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととし・・・ 」

解説

本事件で争われていたのは、特許庁の審判の結果を覆した東京高裁の判断が、正しかったのかどうかです。

東京高裁は、請求項の「リパーゼ」を「Raリパーゼ」とせまく解釈し、審判官の判断は誤りであったと述べましたが、これに対し、最高裁は、特段の事情がない限り、特許請求の範囲に記載された発明の要旨認定は、文言に忠実に認定すべきと一般論を述べた上で、本件の事実をあてはめ、東京高裁の判断が誤りであったと述べました。結果的には、特許庁の審判官と同じ考え方で判断しています。

補足

特許判例百選(旧)の138頁~139頁では、本判決に言う「特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができない」場合とは、一般的な技術用語が、その発明の当業者から見たら、ちがう受け取り方をするかもしれない場合をいうのではないか?と述べられています。

感想

本判決は、「リパーゼ」という文言に忠実に判断されたため、「特段の事情」にかかる説示部分は、傍論にあたりますが、この判決にいう「特段の事情」の存在が、出願人の主張により審査・審判で争点となるケースが、今後に出てくるのか考えてみましたが、出てこないのではないかと思います。

なぜなら、 この判決に言う「特段の事情」として挙げられている、
(1)特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができない場合
(2)一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかである場合
というのは、(現在の審査実務では、)ともに、明確性要件違反(36条6項2号違反)であり、この「特段の事情」を、特許出願人が主張した場合、出願人自ら請求項の記載不備を認めるようなことになるため、出願人が主張することはないと思います。

注意事項

この事件について、注意しておきたいのは、本判決と特許法70条2項との関係です。

特許法70条2項は、本判決のような査定系での場面ではなく特許権侵害の判断の場面における、技術的範囲の認定方法に関する条文です。

70条2項は、この事件をきっかけに創設された規定です。

なぜ70条2項が規定されたのか、簡単に説明します。

従来の裁判では、たとえば、出願時の公知技術を権利範囲に含んでしまう発明が特許されてしまった場合、明細書の記載を考慮して、クレームの技術的範囲を意図的に狭く認定し、公知技術や、公知技術に近い技術を使用している人が特許権侵害にならない(非侵害)という結論を出していた事例が多かったようです。

しかし、リパーゼ事件のあと、権利侵害の場面でも原則として、クレームの技術的範囲が、
クレームの文言に忠実に認定されるのではないだろうか・・・・?

という懸念、疑問が、知財の実務家などから生じました。

そこで、権利侵害の判断の場面では、これまでと同様に、明細書の記載から技術的範囲を判断します、
という確認的な意味で、特許法70条2項は規定されたのです。

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通常実施権者の登録請求権(昭和47年(オ)第395号、最高裁昭和48年4月20日第2小法廷判決)

事件名

中押工法事件

論点

通常実施権者は、登録請求権を有するか?

事実関係

・特許出願人Xの出願に対して、新規性違反を理由に、Yが異議申し立てをした。

・XとYとで、示談により、特許査定がされたら、異議立てを取り下げ、Yに通常実施権を許諾する約束をした。

・その後、特許査定がされた。

・その後、競業避止特約の違反を理由に、Yが、Xに許諾した通常実施権の解除の意思表示をした。

・そこで、Xが、通常実施権の存在の確認、登録義務の存在の確認、予備的に先使用権の確認の訴えをした。

・一審では、特約のない限り特許権者には当然には登録義務はないと一般論を述べて、XとYとの間には、黙示の許諾があったとし、特許権者のYに設定登録を命じた。

・特許権者が控訴

・大阪高裁は、特約による登録禁止や、その他の特別な事情がない限り、登録を請求しうるとした。

・特許権者が、上告


本判決の結論

・一部(登録手続き部分)破棄差し戻し

・判旨
「特許権者から許諾による通常実施権の設定を受けても、

その設定登録をする旨の約定が存しない限り、実施権者は、特許権者に対し、右権利の設定登録手続を請求することはできないものと解するのが相当である。

その理由は、つぎのとおりである。

すなわち、特許権の許諾による通常実施権は、
① 専用実施権と異なり実施契約の締結のみによつて成立するものであり、その成立に当つて設定登録を必要とするものではなく、

ただ、設定登録を経た通常実施権は、「その特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権をその後に取得した者に対しても、その効力を生ずる」(特許法99条1項参照)ものとして、一種の排他的性格を有することとなるにすぎない。

② そして、通常実施権は、実施契約で定められた範囲内で成立するものであつて、許諾者は、通常実施権を設定するに当りこれに内容的、場所的、時間的制約を付することができることはもとより、同時に同内容の通常実施権を複数人に与えることもでき、
また、実施契約に特段の定めが存しないかぎり、実施権を設定した後も自ら当該特許発明を実施することができるのである。

これを実施権者側からみれば、許諾による通常実施権の設定を受けた者は、実施契約によつて定められた範囲内で当該特許発明を実施することができるが、

その実施権を専有する訳ではなく、単に特許権者に対し右の実施を容認すべきことを請求する権利を有するにすぎないということができる。

許諾による通常実施権がこのような権利である以上、当然には前記のような排他的性格を有するということはできず、また右性格を具有しないとその目的を達しえないものではないから、

実施契約に際し通常実施権に右性格を与え、所定の登録をするか否かは、関係当事者間において自由に定めうるところと解するのが相当であり、

したがつて、実施権者は当然には特許権者に対し通常実施権につき設定登録手続をとるべきことを求めることはできないというべく、これを求めることができるのはその旨の特約がある場合に限られるというべきである。

してみると、これと異る見解のもとにかかる特約の存することを確定しないで上告人の設定登録義務を肯認した原判決には法令解釈の誤りがあり、この違法は原判決の結論に影響を与えることが明らかである。

論旨は理由がある。したがつて、原判決中右の部分は破棄を免れず、右部分についてはなお審理の必要があるので、この部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である。

解説

従来、登録請求については、通常実施権の内容の一部とする考え方と、まったく別物であるという考えがあった。最高裁は、後者をとったことになります。

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産地表示ワイキキ事件(最高裁昭和54年4月10日第3小法廷判決)

事件名
ワイキキ事件

本判決に関する論点

3条1項3号の、産地・販売地の解釈

事実関係

・特許庁 無効審判請求を不成立とする審決
・東京高裁 請求不成立審決を取り消す判決

本判決の結論

「原審は、本件商標が、その指定商品との関係上、その商品の産地、販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であり、かつ、これをその指定商品について使用するとその商品の産地、販売地につき誤認を生ずるおそれのある商標であつて、商標法3条1項3号及び4条1項16号に掲げる商標に該当する旨を認定判断している。

商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは、このような商標は、商品の産地、販売地その他の特性を表示記述する標章であつて、取引に際し必要適切な表示としてなんぴともその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であつて、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解すべきである。

叙上のような商標を商品について使用すると、その商品の産地、販売地その他の特性について誤認を生じさせることが少なくないとしても、このことは、このような商標が商標法4条1項16号に該当するかどうかの問題であつて、同法3条1項3号にかかわる問題ではないといわなければならない。

そうすると、右3号にいう「その商品の産地、販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」の意義を、所論のように、その商品の産地、販売地として広く知られたものを普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであつて、これを商品に使用した場合その産地、販売地につき誤認を生じさせるおそれのある商標に限るもの、と解さなければならない理由はない。

原審は、本件商標が、その指定商品との関係上、その商品の産地、販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であり、かつ、これをその指定商品について使用するとその商品の産地、販売地につき誤認を生ずるおそれのある商標であつて、

商標法三条一項三号及び四条一項一六号に掲げる商標に該当する旨を認定判断しており、この認定判断は、原判決挙示の証拠関係及び説示に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。

論旨は、採用することができない。

同四について所論は、本件商標をその指定商品中、香水を除くものに使用したときその商品の産地、販売地につき誤認を生ずるおそれがないことを前提に原判決を論難するものであるところ、

本件商標を右指定商品に使用するときにもその商品の産地、販売地につき誤認を生じさせることは前示のとおり原判決が正当に認定判断するところであるから、所論は、その前提を欠き失当である。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 」

解説

この事件では、最高裁は、一般論として、
ある商標が3条1項3号の「産地」や「販売地」に該当するか否かを判断する際に、その商標が産地や販売地について誤認を生じさせるかどうかを考慮する必要は無い旨を述べています。

感想

この判決で着目すべき点は、判決文中で述べられた3条1項3号の趣旨のみであり、それ以外の点については、実務上、気にしなくてもよいと思います。

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「レナードカムホート事件」(最高裁平成16年6月8日第3小法廷判決、平成15年(行ヒ)第265号)

事件名
レナードカムホート事件

本判決に関する論点
出願時において4条1項8号本文に該当するが、4条1項8号括弧書の承諾があることにより8号に該当しない商標について,4条3項の規定の適用があるか?

事実関係

・ Xは、商標登録出願をした。
なお、商標は「LEONARD KAMHOUT」 指定商品は「貴金属、かばん、被服など」

・この商標の出願時に、レナードカムホート氏(以下、A)の「同意書」は提出されていなかった。

・その後、Xは、手続き補正書に「同意書」と「その日本語訳文」を添付して提出した。

・ところが、その後、Aは、刊行物等提出書により、「同意書の撤回通知書の写し」と「その日本語訳文」を特許等に提出した。この書面には、Aが、Xへの同意を撤回した旨の記載があった。

・特許庁は、拒絶査定をした。
・Xは、拒絶査定不服審判を請求したが、棄却すべき旨の審決が出された。

・ Xは,審決には8号,商標法4条3項の解釈適用の誤りがあるなどと主張して,その取消しを求める訴えを提起した
・東京高裁は、Xの請求を棄却した。

・Xは、上告した。

本判決の結論

・上告棄却
・判旨
「8号は,その括弧書以外の部分(以下,便宜「8号本文」という。)に列挙された他人の肖像又は他人の氏名,名称,その著名な略称等を含む商標は,括弧書にいう当該他人の承諾を得ているものを除き,商標登録を受けることができないとする規定である。(8号の趣旨)

その趣旨は、肖像,氏名等に関する他人の人格的利益を保護することにあると解される。

したがって,8号本文に該当する商標につき商標登録を受けようとする者は,他人の人格的利益を害することがないよう,自らの責任において当該他人の承諾を確保しておくべきものである。

また,3項は,8号に該当する商標であっても,商標登録出願の時(以下「出願時」という。)に8号に該当しないものについては,8号の規定を適用しない旨を定めている。

(4条3項の趣旨)これは,商標法4条1項各号所定の商標登録を受けることができない商標に当たるかどうかを判断する基準時が,原則として商標登録査定又は拒絶査定の時(拒絶査定に対する審判が請求された場合には,これに対する審決の時。以下「査定時」と総称する。)であることを前提として,

出願時には,他人の肖像又は他人の氏名,名称,その著名な略称等を含む商標に当たらず,8号本文に該当しなかった商標につき,その後,査定時までの間に,出願された商標と同一名称の他人が現れたり,他人の氏名の略称が著名となったりするなどの出願人の関与し得ない客観的事情の変化が生じたため,その商標が8号本文に該当することとなった場合に,当該出願人が商標登録を受けられないとするのは相当ではないことから,
このような場合には商標登録を認めるものとする趣旨の規定であると解される。

8号及び3項の上記趣旨にかんがみると,
3項にいう出願時に8号に該当しない商標とは,出願時に8号本文に該当しない商標をいうと解すべきものであって,
出願時において8号本文に該当するが8号括弧書の承諾があることにより8号に該当しないとされる商標については,3項の規定の適用はないというべきである。

したがって,
【要旨】出願時に8号本文に該当する商標について商標登録を受けるためには,査定時において8号括弧書の承諾があることを要するのであり,
出願時に上記承諾があったとしても,査定時にこれを欠くときは,商標登録を受けることができないと解するのが相当である。

これを本件についてみると,前記事実関係によれば,本願商標は出願時に8号本文に該当するものであり,査定時において上告人が本願商標につき商標登録を受けることについてカムホートの承諾がなかったことは明らかであるから,本件出願は,本願商標が8号に該当することを理由として,拒絶されるべきものである。

以上によれば,原審の判断は正当として是認することができる。

論旨は採用することができない。

解説

4条1項8号と、4条3項
商標法は、査定時に4条1項8号に違反する場合、拒絶理由が通知されます。

ただし、4条1項8号には、「(他人の承諾を得ているものを除く。)」というカッコ書きがあります。
つまり、4条1項8号本文の規定は、他人の承諾を得ている商標には、適用がないことが記載されています。

また、4条3項には、査定時に4条1項8号に該当するが、商標登録出願の時に4条1項8号に該当しない場合、4条1項8号の適用がないことが記載されています。

問題の所在
4条3項にいう、「査定時に4条1項8号に該当するが、商標登録出願の時に4条1項8号に該当しない場合」という状態には、2つの状態が考えられます。

① 出願時:4条1項8号本文に該当しない
査定時:4条1項8号本文に該当する

② 出願時:4条1項8号本文に該当するが、他人の承諾を得ている
査定時:他人の承諾が撤回されたため、4条1項8号本文に該当する

4条3項を文言通り適用すると、①の場合も、②の場合も、4条1項8号の適用がないことになります。
本判決では、②の場合に、4条3項の適用があると考えてよいのかどうかが争われた事件です。

本判決について

最高裁は、②の場合は、4条3項の適用がないと一般論を述べました。

つまり、本判決は、査定時に8号本文に該当する商標を登録するためには、査定時に他人の承諾がいると述べました。

本判決は、「出願時」よりも「査定時」の他人の意思を尊重し、人格的利益の保護を重視したといえます。

もっとも、4条1項8号は、後発無効理由には挙がっていないので(46条1項5号)、もしも、②の事例で、登録になってしまった場合に、無効にされることはありませんので、制度の現状は、人格的利益の保護を徹底できるものではありません。

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クリップ事件「クレーム以外の訂正によるクレームの減縮」(昭和62年(行ツ)第109号、最高裁平成3年3月8日第2小法廷判決)

事件名

クリップ事件

論点

明細書の記載を変更する訂正で、特許請求の範囲が減縮されたといえる場合があるか?

事実関係

・Yは、「クリップ」に関する発明の特許権者であった(特許第950343号、特公昭52-020240 )。
・Yは、無効審判を請求した。

・審判官は、実案を引用例として、特許を無効にすべきと審決した。

・Xは出訴するとともに、訂正審判を請求した。

・この訴訟の口頭弁論終結前に、発明の詳細な説明のうち、接着剤を用いるという説明の部分4か所を削除すし、接着剤を用いた実施例の図面を削除する訂正の審決がされ、確定した。なお、特許請求の範囲の記載はそのままで、あった。

・Xが、民訴338条1項8号を理由に、原判決は破棄されるべきとして上告した。

本判決の結論

・破棄差し戻し
・判旨
「原審は、本件特許出願の願書に添付した特許請求の範囲の記載が

「目的物Oと係合させられるように各々適合させられた複数の一緒に固定された取付け具から成るクリップであって、該取付け具の各々が目的物貫通部分2と、拡大部分4と、該両部分を結合している該貫通部分2から伸長した細長い区分材6と、該貫通部分2を相互に平行的に間隔を置いて結合している切断されうる部材8、10とから成るクリップにおいて、該拡大部分間に介在してそれらを結合している容易に切断されうる固定部材22を備え、該固定部材は該切断されうる部材より隣接する該拡大部分がねじり力により相互に手作業で分離されうる程充分に弱いことを特徴とするクリップ」

であること等を基礎として、

右特許請求の範囲の記載どおりに本件発明の要旨を認定した上で、

(一) 本件明細書の発明の詳細な説明の項の記載を参酌すると、固定部材は各取付部材の拡大部分間に介在してそれらを結合するものであるが、取付機具(ガン)を用いて目的物に取付具を取り付ける際の人の手による一連の連続的動作によって生じるねじり力等の力によって容易に切断し得る程度に弱いものを指すものと認められ、したがって、本件発明の特許請求の範囲にいう固定部材の構成は叙上認定の趣旨に解すべきであり、そのほかには、その素材、形状、寸法等についてこれを具体的に限定する記載はないから、右要件を具備するものであれば、すべて固定部材に包含される、

(二) 本件明細書の発明の詳細な説明の項及び図面には、固定部材として固化した接着剤(接着層)を使用した実施例に関する記載がある、

(三) 接着層の果たす作用効果は他の固定部材と差異がないとして、本件発明の特許請求の範囲の「固定部材」との記載には固化した接着剤(接着層)を含むものである

と認定判断した。

二 ところで、上告代理人提出の特許庁昭和58年審判第6902号事件審決謄本及び本件記録によれば、本件特許については、上告人の訂正審判請求に基づき、原審口頭弁論終結後の昭和62年3月31日、本件明細書及び図面から接着層に関する第12図及び第13図を削除し、併せて発明の詳細な説明の右図面に関連する説明部分を削除する旨の訂正を、特許法126条1項3号の明瞭でない記載の釈明として認める旨の審決がされ、右審決謄本が同年5月20日上告人に送達され、右審決が確定したことが認められる。

右審決には、明瞭でない記載の釈明に相当するものとして上告人の申立てを認める旨の記載があるが、上告人は明瞭でない記載の釈明又は特許請求の範囲の減縮としての訂正審判を申し立てたものであり、

また、右審決も、同条1項1号の特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正審判請求を認めるための要件である同条3項に規定する訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであったか否かについても検討を加えた上で、上告人の本件訂正審判請求が右要件を具備している旨の判断をもしている。

原審は、本件明細書の接着剤(接着層)に関する発明の詳細な説明の項の記載や図面などを参酌して、固定部材には接着剤(接着層)が含まれるものと認定判断したものであり、原審の右認定判断は、特許請求の範囲の記載文言の技術的意義が一義的に明確とはいえない場合の発明の要旨の認定の手法によったものとして首肯し得るものであるが、

訂正を認容する審決の確定により、特許請求の範囲の記載文言自体が訂正されたものではないけれども、接着剤(接着層)に関する記載がすべて明細書及び図面から削除されたことによって、出願時に遡って、本件明細書の特許請求の範囲の固定部材に接着剤(接着層)が含まれると解釈して本件発明の要旨を認定する余地はなくなったものと解するのが相当である。

三 したがって、本件特許につき訂正を認容する審決が確定したことにより、本件発明の特許請求の範囲の固定部材の構成は、出願の当初に遡ってこれに接着剤(接着層)を含まないものに減縮されたものと認められるから、原判決の基礎となった行政処分は後の行政処分により変更されたものであり、

原判決には民訴法420条1項8号(現行法の民訴338条1項8号を)所定の事由が存するといわなければならない。このような場合には、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違背があったものとして原判決を破棄し、更に審理を尽くさせるため事件を原審に差し戻すのが相当である(最高裁昭和58年(行ツ)第124号同60年5月28日第三小法廷判決・裁判集民事14573頁参照)。よって、行政事件訴訟法7条、民訴法407条1項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

解説

原審は、特許権者が「接着剤」に関する記載を削除する訂正をした後も、特許請求の範囲の記載の「固定部材」に、接着剤層を含むとしました。

しかし、最高裁は、その訂正は、実質的には接着剤を除外するもので、特許請求の範囲の減縮に相当するといいました。

補足

この判決を一般化してしまうのはよくありません。

この事件は、訂正があった明細書をじっくり見て、判断されただけです。

明細書から引例とかぶる部分を削除すればよいというわけではありません。

コメント

実務では、確実性が求められますので、特許請求の範囲をきちんと減縮訂正するのがふつうです。

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審決取り消し判決の拘束力の及ぶ範囲(昭和63年(行ツ)第10号、最高裁平成4年4月28日第3小法廷判決)

事件名

高速旋回式バレル装置事件

論点

知財高裁による審決取消判決の拘束力は、どんな範囲に及ぶのか?

事実関係

・Xは特許権者
・Yは、Xの特許の進歩性違反を理由に、無効審判を請求した。

・特許庁は、無効審決をした。

・特許権者のXが、出訴した。

・東京高裁は、無効審決を取り消す判決をした。
(東京高裁は、引例の技術内容について審判官がした認定は、誤っていると述べた。つまり、第2引用例あるいは第3引用例からXの発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとは認められない、として審決を取り消した。引例1については、判断されなかった。)

・審判請求人のYが、出訴しなかったので、取り消し判決が確定した

・事件が特許庁にもどり、事件が審判官によって審理された。(この審判を、「再度の審判」という)

・審判官は、無効審判の請求の不成立審決をした。(この不成立審決を、「本件審決」あるいは「再度の審決」と呼ぶ)
(審判官は、Xの発明は特許出願前に当業者が第1、第2、第3引用例から容易に発明することができたとはいえないとした)

・無効審判請求人のYが出訴した。(この訴訟を、「再度の審決取り消し訴訟」と呼ぶ)

・東京高裁は、再度の審決取り消し訴訟において、つぎのように述べて、不成立審決を取り消す判決をした。

「 引用例1と2と3から、容易に推考可能とした再度の審決取消訴訟において、当事者が、再度の審決の認定判断した論点に係るものではあるが、右認定判断において審究・説示されていない事項であって右認定判断を否定する方向の事実を裏付ける証拠を提出した場合には、裁判所が右証拠による事実認定に基づいて再度の審決の認定判断を違法とすることは許されてしかるべきであり、取消判決の拘束力の法理はこれを妨げるものではない。
本件において、第2引用例記載のもののバレル内のマスの挙動及び研磨量、工作物の研磨後の表面粗さが本件発明と対比して実質的に差異がないことは、被上告人が再度の審決取消訴訟である原審に至って提出した前記証拠によって裏付けられるのであり、しかも、この点については、本件審決の認定判断において具体的に審究・説示されていない以上、本件審決の認定判断を誤りとすることは何ら妨げられないというべきである。」

・特許権者Xが上告した。


本判決の結論

・破棄自判(Xの請求棄却)

・判旨
「原審の右認定判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

1 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは、審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審理を行い、審決をすることとなるが、審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから、再度の審理ないし審決には、同法33条1項の規定により、(知財高裁による)取消判決の拘束力が及ぶ。

そして、この拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、審判官は取消判決の認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。

したがって、再度の審判手続において、審判官は、

① 取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと、

あるいは
② (従前の)主張を裏付けるための新たな立証をすること を許すべきではなく、審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は、その限りにおいて適法であり、再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることができないのは当然である。

このように、再度の審決取消訴訟においては、審判官が当該取消判決の主文のよって来る理由を含めて拘束力を受けるものである以上、その拘束力に従ってされた再度の(特許庁の)審決に対し関係当事者がこれを違法として非難することは、確定した取消判決の判断自体を違法として非難することにほかならず、再度の審決の違法(取消)事由たり得ないのである(取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断の当否それ自体は、再度の審決取消訴訟の審理の対象とならないのであるから、当事者が拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断を誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返し、これを裏付けるための新たな立証をすることは、およそ無意味な訴訟活動というほかはない)。

以上に説示するところを特許無効審判事件の審決取消訴訟について具体的に考察すれば、「特定の引用例」から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとの理由により、審決の認定判断を誤りであるとしてこれが取り消されて確定した場合には、再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果、審判官は「同一の引用例」から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたと認定判断することは許されないのであり、

したがって、再度の審決取消訴訟において、取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断を誤りである(同一の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができた)として、これを裏付けるための新たな立証をし、更には裁判所がこれを採用して、取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違法とすることが許されないことは明らかである。

これを本件についてみるのに、

(1)前判決は、・・・第2引用例記載のもののバレルの構成を、本件発明のバレルの構成と置換することが容易でないことはいうまでもない・・・また、第3引用例記載のものは本件発明と研磨法を異にするとして、第2引用例あるいは第3引用例から本件発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとは認められないとして前審決を取り消したものであり、

(2)前判決確定後にされた本件審決は、前判決の拘束力に従い、本件発明は特許出願前に当業者が第2引用例あるいは第3引用例から容易に発明することができたとはいえないとしたものである。

(一般に)再度の審判手続において審判官は、前判決が認定判断した同一の引用例(第2引用例あるいは第3引用例)をもって本件発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたか否かにつき、前判決とは別異の事実を認定して異なる判断を加えることは、取消判決の拘束力により許されないのであるから、

本件審決は、右取消判決の拘束力に従ってされた限りにおいて適法であるとされなければならない。

しかるに、原審は、原審において提出された前記甲第一二号証及び第一四号証の一ないし三を採用して、右各証拠によると、本件発明と第2引用例記載のものとは・・・格別の差異はなく、作用効果にも顕著な差異はないことが認められるとした上で、

第2引用例記載のもののバレルの形状を本件発明のバレルの形状に置換することも、第1ないし第3引用例及び周知慣用手段から当業者に容易であるとした。

(ここで)前判決の拘束力に従ってされた本件審決の取消訴訟において、前判決が特定の引用例(第2引用例)記載のものは本件発明とはマスの挙動や作用効果が大きく異なり、右引用例から本件発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとした認定判断を否定する主張立証の許されないことは前述のとおりである。

(しかし)しかるに、原判決は、許さるべきでない主張立証を許し、これを採用した結果、本件発明と第2引用例記載のものとはマスの挙動や作用効果に格別の差異はなく、本件発明は特許出願前に当業者が第2引用例から容易に発明することができた旨前判決の拘束力の及ぶ前記認定判断とは異なる認定判断をした点において、取消判決の拘束力に関する法令の解釈適用を誤った違法があることが明らかである。

原判決は、右認定判断の過程で、第3引用例並びに前判決において検討されていない 第1引用例及び周知慣用手段について検討を加えてはいるものの、これらは(第2引用例記載のものと本件発明とのマスの挙動や作用効果に格別の差異はないとの認定判断の後に、第2引用例記載のもののバレルの形状を本件発明のバレルの形状に置換することの容易性についての認定判断の際に用いられており)、本件発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたか否かを認定判断する際の独立した無効原因たり得るものとして、あるいは第2引用例を単に補強するだけではなくこれとあいまって初めて無効原因たり得るものとして、検討されているのでなく、原判決は、第2引用例を主体として、本件発明の進歩性の有無について認定判断をしているものにほかならない。

したがって、第1引用例及び周知慣用手段がその判断の際に用いられているにしても、原判決に前記の違法があることに変わりはなく右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

この点の違法をいう論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。

そして、被上告人Y(審判請求人)は、第1ないし第3引用例のいずれからも本件発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとした本件審決の認定判断を違法であるとして、その取消しを求めているが、

第2引用例あるいは第3引用例から本件発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとした本件審決の認定判断は、前判決の拘束力に従ったものであって適法であることは前判示のとおりであり、また、第1引用例及び周知慣用手段が、「独立の無効原因たり得るもの」あるいは「第2引用例を単に補強するだけではなくこれとあいまって初めて無効原因たり得るもの」とはいえないことは原判決の判示するとおりであるから、

第1引用例から本件発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとした本件審決の認定判断もまた適法である。

以上説示したところによれば、被上告人の審判の請求は成り立たないとした本件審決は適法であり、その取消しを求める被上告人Yの請求は理由がないことが明らかであるから、これを棄却すべきである。

よって、行政事件訴訟法7条、民訴法408条、96条、94条、89条、93条に従い、裁判官園部逸夫の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

裁判官園部逸夫の補足意見は、次のとおりである。

私は法廷意見のうち論旨に対する判断には賛成であるが、その前提となる行政事件訴訟法33条1項の解釈については、法廷意見とは別の解釈をとっているので、以下、私の補足意見を述べることとする。

いわゆる当事者系無効審判の審決について、裁判所に取消しの訴えを提起できることは、特許法178条及び181条1項の規定に照らし明らかであるが、特許法及び行政事件訴訟法の関係条文は、右取消しの訴えの訴訟形態に適合した運用について明確で整合性のある規定を具備しているとはいえない状態にある。

当事者系無効審判の審決に対する訴えについては、当事者、参加人等(特許法178条2項)が、事案に応じて当該審判の請求人又は被請求人を被告として提起することができるとされている(同法179条ただし書)。

したがって当事者系審決取消訴訟は、行政庁(審判官、特許庁長官等)を被告としない取消訴訟という点で、典型的な取消訴訟(行政事件訴訟法3条2項)と異なるのみならず、原被告間の法律関係を確認し又は形成する処分に関する訴訟ではないという点で、いわゆる形式的当事者訴訟(同法4条前段)ともその性格を異にするのである。

この点について、当事者系審決取消訴訟は、その実質において、行政庁(審判官ひいては特許庁長官)の公権力の行使に関する不服の訴訟であることから、行政事件訴訟法の取消訴訟に関する規定(同法二章一節)を適用することが妥当であるとする見解があるが、私は、当事者系審決取消訴訟の根拠法規については、行政事件訴訟法の当事者訴訟に関する規定(同法三章)を準用するか、あるいは、立法論として、本件で問題とされている事柄に関する明文の規定を置くことも含めて、特許法上、特殊な当事者訴訟に関する規定を設けることが望ましいと考えている。

しかし、解釈論としては、当事者訴訟の規定を準用する場合でも、本件の争点に関する問題は同様であるから(同法41条1項)、ここでは、取消訴訟の規定と当事者系審決取消訴訟との関係一般の問題として検討することとする。

まず、当初の審決取消判決が確定したときに右判決が再度の審判における審判官の審決に及ぼす効力については、従来の実務では、右審決に当たる審判官に対し、行政事件訴訟法33条1項の規定を適用し、審決を取り消す判決は、その事件について、審判官を拘束するとしている。

私は、右条項の定める取消判決の拘束力は、取消判決の実効性を担保するために、右規定によって与えられた特殊の効力であり、当事者たる行政庁のみならずその他の関係行政庁に対して処分を違法とした判決の内容を尊重し、当該事件について判決の趣旨に従って行動すべきことを義務づけたものであると解する(同条2項参照)。

ところが、当事者系審決取消訴訟においては、当事者たる行政庁は存在せず、審判官を右条項にいう関係行政庁と見ることもできないので、同法33条の規定をそのまま適用することはできないと解すべきであるが、右取消訴訟が特許法上の特殊な取消訴訟として取り扱われていることを考慮して、当事者訴訟について行政事件訴訟法41条により同法33条1項を準用するのと同様の趣旨により、当事者系審決取消訴訟についても、同法33条1項を準用することとし、実質上の当事者たる行政庁としての審判官は、前訴の判決の趣旨に従い審決をしなければならないものと解するのである。

ここまでは、従来の実務及び本判決の法廷意見のとる見解とほぼ同意見であるが、更に進んで、再度の審判の審決を不服として提起された再度の審決取消訴訟の審理判断において、当初の審決取消訴訟の判決の趣旨に従ってされた当該審決を、その限りにおいて適法であるとし、これを違法とすることができないということについては、法廷意見が述べるように当然の理であるとは考えない。

前に述べたとおり、行政事件訴訟法33条は、取消判決の実効性を担保するという政策的な見地から、当該処分に関係のある行政庁に対し判決の趣旨に従うべきことを規定したのにとどまり、当初の審決取消訴訟の判決が再度の審決取消訴訟の係属する裁判所の審理判断をも当然に拘束することを規定したものではないと解されるからである。

通常の取消訴訟では、再度の訴訟が提起されて本件のような問題の生ずることは例外といってよいと思われるが、特許無効審判という通常の行政庁の処分とは異なった態様の手続を前審手続とする審決取消訴訟の特殊性がある上、最高裁判所昭和五一年三月一〇日大法廷判決(民集三〇巻二号七九頁)の判旨から見ても、再度の審判において、当事者双方による新たな主張立証が行われ、事案によっては更に手続が反復されることにより、無効審判及び審決取消訴訟が際限なく続けられる可能性を否定することができない。

このような性格を有する審決取消訴訟については、私は、右訴訟が当事者訴訟的性格を有することを重視する見地に立って、当事者訴訟について行政事件訴訟法33条1項を準用する場合の後訴の裁判所に対する右規定の意義という観点から解釈を加える必要があると考える。

すなわち、右規定の背後にある公益性への配慮あるいは迅速で実効性のある訴訟の遂行という法意にかんがみれば、当初の審決取消訴訟に続く累次の訴訟においで、裁判所は、従前の各確定判決の理由中の認定判断から審決の根拠となるべき行為規範を見出し、それとの関係において、審決の適法性を審理し判断することが、行政事件訴訟の制度の趣旨にも合致した妥当な処理であると考えるのである。

右に述べたような見地から、私は、法廷意見三の3に示された理由により、本件審決の認定判断を適法と認めるのである。

まとめ

この事件の流れを整理してみましょう。

まず、Xの特許に無効審決がなされ、その後、その審決を取り消す判決Aが確定しました。
取り消し判決Aは、引例2あるいは引例3から進歩性は否定されない、と理由でいいました。

そして、その取り消し判決後に、Yが出訴しなかったので、判決Aは確定したのです。

その後、再び審判が開かれ、再度の審決がなされました。

この再度の審決は、取り消し判決Aの拘束力に従って、なされました。
この審決は、引例1~3から進歩性が否定されない、と理由でいいました。
これは取り消し判決Aとなんら矛盾しておらず、取り消し判決Aとの関係では、適法になされました。

しかし、再度の審決取り消し訴訟Bで、裁判官は、審決が違法であると判決で述べたのです。
最高裁によれば、取り消し判決Bは引例2を主体として進歩性を否定したのです。

この判決Bは、確定した判決Aと矛盾します。

したがって、最高裁は、判決Bを破棄したのです。


解説

東京高裁は、行政事件訴訟法33条1項を知らなかったわけではありません。取り消し判決の拘束力の及ぶ範囲について、最高裁とは、見解が異なっていたために、このように判決が破棄されたにすぎないのです。

拘束力の範囲については、学説もいろいろあり、解説内容は弁理士試験の範囲を超えてしまいます。うまく解説できる自身もありません笑 特許判例百選の塩月秀平氏に解説は譲りたいと思います。興味のある方は、お手元の判例百選ご参照ください。

万が一、弁理士試験にこの判例が出るとすれば、事案はこの事件とまったく一緒になると思います。

論文で予想される問われ方と、答案のテンプレ

問題 再度の審決取消訴訟で、・・・を理由とする取り消し判決をすることができるか?

結論
・・・・・・である。

理由
一般に、特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは、審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審理を行い、審決をすることとなる。
ここで審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから、再度の審理ないし審決には、同法33条1項の規定により、知財高裁の取消判決の拘束力が及ぶ。そして、この拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものである。
従って、審判官は取消判決の認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。
ゆえに、再度の審判手続において、審判官は、
1.取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと、あるいは
2.従前の主張を裏付けるための新たな立証をすることを許されない。
すなわち、審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は、その限りにおいて適法であり、再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることができない。

本問においては、第一次取消判決は・・・という理由であり、再度の審判では、第一次取消判決の拘束力に従い・・・という理由で第二次審決がなされた。

よって、再度の審決取消訴訟では、・・・を理由とする取り消し判決をすることはできない。第一次取消判決の認定判断に抵触する認定判断をするものとなるからである。

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出願後の減縮補正と、出願前の実施契約による不作為義務の対象(平成4年(オ)第364号、最高裁平5年10月19日)

事件名
契約上の不作為義務にもとづく差し止め請求事件

この判決に関する論点

出願前に第三者と実施契約を結んでいた場合で、出願後に請求項を減縮する補正があった場合、その補正に応じて、不作為義務の対象(やってはいけない行為の対象)の範囲が、減少するかどうか?

事実関係

・甲(被上告人)の代表者は、「装置A」と実質的に同一の「装置B」に関する発明Xについて、特許権を取得して実施しようと考えた。一方で、特許出願の準備を進めて、出願をした。

・発明Xの明細書の特許請求の範囲には、インゴットの取付け位置を限定する記載はなかった。

・上告人の丙と、被上告人の甲は、昭和47年1月~4月までの間に、つぎのような契約を口頭で締結した。
それは、
1.「装置A」の製造を、甲が丙に発注する
2.丙は発注を受けてこれを製造して、「装置A」を甲に納入する
という内容であった。

・甲の代表者は、発明Xの特許出願を準備していたため、丙は「装置A」を甲以外には納入販売しないという(不作為)義務を負う旨の合意をした。

・ 丙の代表者は、発明Xの特許出願に拒絶理由が通知されたので、、昭和52年11月21日、発明Xの明細書の特許請求の範囲につき、インゴットの取付け位置を限定する旨の補正をした。

・昭和54年10月18日に、補正された内容で出願公告され、同55年5月20日、設定登録された。

・本訴は、上告人の丙が製造して他に販売した装置(被告装置)は、契約の対象である「装置A」に含まれるとして、甲が丙に対し、「装置A」の製造販売等の差止めと損害賠償を請求した。

・一審は、甲の請求を認容した。

・丙は、高裁に訴えた。

・東京高裁は、丙の請求を棄却した
(理由:契約の対象は発明Xを実施した装置である「装置A」であるが、被告装置は「装置A」に含まれる。発明Xは、出願の過程で明細書の特許請求の範囲が補正された結果、特許請求の範囲が減縮された発明として設定登録され、これにより発明Xの内容が変動しても、補正前に締結された契約の対象となる装置が変動することはない)
※ 東京高裁は、被告装置が補正後の発明の技術的範囲に含まれるか否かを検討することなく、丙の請求を棄却しました。

・丙は上告した

本判決の結論

・破棄差し戻し
・判旨
「原審の右判断は是認することができない。原審の前記認定によれば、上告人はその製造した本願発明の実施に当たる装置を被上告人以外には納入販売しないとの義務を負っていたが、本願発明は、出願の過程で明細書の特許請求の範囲が補正された結果、特許請求の範囲が減縮された本件発明として設定登録されたというのである。

そして、本願発明は掘削装置の構成に関するものであり、右装置が製造されて工事等に使用されたならば、これを現認した者は容易に発明の内容を知ることができるところ、右発明について特許出願をして独占権が与えられない限り、被上告人は他者の右発明の実施を阻止することができないことは明らかである。

そうであるならば、特許出願準備中の本願発明を実施した装置を上告人に製造させる旨の本件契約は、本願発明につき特許出願がされて将来特許権として独占権が与えられることを前提として、このような発明としての本願発明の実施に当たる装置を対象として締結されたものと解すべきである。

けだし、本件契約が、本願発明につき特許出願がされ将来特許権として独占権が与えられるか否かにかかわりなく締結されたとするならば、本件契約に基づいて北辰式掘削装置が製造販売され本願発明を他者が知るところとなり、他者がその実施をすることが可能となるに至る技術的事項につき、契約当事者である上告人のみが実施を禁ぜられることになり、不合理であるといわざるを得ないからである。

したがって、特段の事情の認められない本件においては、本願発明につき、出願の過程で明細書の特許請求の範囲が補正された結果、特許請求の範囲が減縮された場合には、これに伴って本件契約によって被上告人以外に納入販売しないという義務の対象となる装置もその範囲のものになると解するのが相当である。

これを要するに、本願発明がその出願の過程で変動しても本件契約の対象となる装置が変動することはないとした原審の説示には、契約に関する法令の解釈適用を誤る違法があるといわなくてはならない。

そうすると、原判決には右の違法があり、これが原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。

そこで、後記の部分を除き、更に審理判断させるため、本件を原審に差し戻すのが相当である。

なお、昭和57年9月30日に本件特許を無効とする旨の審決があり、右審決の取消しを求める訴訟において請求棄却の判決がされ、右判決が平成2年4月19日に確定したことは当裁判所に顕著であるから、被上告人の、北辰式掘削装置の製造販売等の差止めを求める部分は、被告装置が本件発明の技術的範囲に属するか否かにかかわらず棄却すべきであり、これと同旨の第一審判決は正当であって、被上告人の控訴は棄却すべきである。」

解説

この判決の読み方には注意が必要です。
なんとなく読んでしまうと、出願前のライセンスの範囲は、発明が減縮補正されたら、その狭くなった発明の範囲になる、というのがこの判決の言わんとしていること、、、、、と誤解してしまいます。

この判決は、あくまでも、甲と丙との間に交わされた契約の内容を解釈をしたのです。

どのように解釈したのかというと、判決文中のこの部分に記載があります。

「特許出願準備中の本願発明を実施した装置を上告人に製造させる旨の本件契約は、本願発明につき特許出願がされて将来特許権として独占権が与えられることを前提として、このような発明としての本願発明の実施に当たる装置を対象として締結されたものと解すべきである」

あくまでも甲と丙の関係から、このような契約の内容を解釈したのです。

したがって、≪出願前のライセンスがあったときに減縮補正があれば、この事件のように、ほかの事件も処理される≫と考えてはいけないのです。

ゆえに、つぎのような問題が残ります。

残された問題

「出願後の補正などで特許請求の範囲が減縮されても不作為義務の範囲がせまくならない」 という契約がなされていた場合、どのようになるのかは、この判決からはわかりません。
つまり、そのような事案は本件とは似ていないので、射程は及ばない、ということです。

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167条の効力の及ぶ範囲(平成7年(行ツ)第105号、平成12年11月27日第1小法廷判決)

事件名

「クロム酸鉛顔料およびその製法」事件

論点

167条の効力の及ぶ範囲

事実関係

・甲と、乙とが、Xの特許権について、それぞれ無効審判を請求し、同一の事実をを主張し、同一の証拠を提出した。

・特許庁では、二つの無効審判を併合して、審理した。

・審判官は、一通の審決書によって、無効審判の請求を不成立とする審決をした。

・甲は、審決取り消し訴訟を提起したが、乙は提起しなかった。

・東京高裁は、進歩性がないとして、審決を取り消す判決をした。
(Yは、もし乙に関する審決が登録されたら、167条により、甲は無効審判の請求の利益を失うと述べたが、高裁は、失わないと述べた)

・Yは、上告

本判決の結論

・棄却
・判旨 一部略

「特許法167条の趣旨は、ある特許につき無効審判請求が成り立たない旨の審決(以下「請求不成立審決」という。)が確定し、その旨の登録がされたときは、その登録の後に新たに右無効審判請求におけるのと同一の事実及び同一の証拠に基づく無効審判請求をすることが許されないとするものである。

よって、それを超えて、確定した請求不成立審決の登録により、その時点において既に係属している無効審判請求が不適法となるものと解すべきではない。

その理由は、次のとおりである。

同一の特許に対して複数の者が無効審判請求をすることは禁止されておらず、特許を無効とすることについて利益を有する者は、いつでも当該特許に対して無効審判請求をすることができるのであり、この特許を無効とすることについての利益は、無効審判請求をする者がそれぞれ有する固有の利益である。

しかし、ある特許の無効審判請求につき請求不成立審決が確定し、その登録がされた場合において、更に同一の事実及び同一の証拠に基づく無効審判請求の繰返しを許容することは、特許権の安定を損ない、発明の保護、利用という特許法の目的にも反することになる。

そこで、特許法167条は、無効審判請求をする者の固有の利益と特許権の安定という利益との調整を図るため、同条所定の場合に限って利害関係人の無効審判請求をする権利を制限したものであるから、この規定が適用される場合を拡張して解釈すべきではなく、文理に則して解釈することが相当である。

仮に、確定した請求不成立審決の登録により、既に係属している同一の事実及び同一の証拠に基づく無効審判請求が不適法になると解するならば、複数の無効審判請求事件が係属している場合において、一部の請求人が請求不成立審決に対する不服申立てをしなかったときは、これにより、他の請求人が自己の固有の利益のため追行してきたそれまでの手続を無に帰せしめ、その利益を失わせることとなり、不合理といわざるを得ない。

以上のように解するときは、同一特許に対し同一の事実及び同一の証拠に基づいて並行して複数の無効審判請求がされ、特許庁の判断が請求不成立審決と特許を無効にすべき旨の審決(以下「無効審決」という。)とに分かれ、双方が確定する事態が生じ得ることになる。

しかし、無効審決が確定したときは、特許権は、初めから存在しなかったものとみなされるのであるから(特許法125条)、これとは別に既に請求不成立審決が確定していたとしても、当該特許の効力は失われるのであって、審決の矛盾、抵触により法的状態に混乱を生ずることはない。

このことは、事実又は証拠を異にする無効審判請求について請求不成立審決と無効審決がそれぞれ確定した場合と同様である。

また、同一特許に対する同一の事実及び同一の証拠に基づく複数の無効審判請求につき、いずれについても請求不成立審決がされ、一部の者との関係では確定し、その余の者が右審決に対する取消訴訟を提起し請求認容判決及び無効審決を得た場合もこれと同様に解することができる。

この見解に反する大審院の判例(大審院大正八年(オ)第八一一号同九年三月一九日判決・民録二六輯三七一頁)は、これを変更すべきである。

そうすると、被上告人らの無効審判請求がされた時点で、その請求と同一の事実及び同一の証拠に基づく訴外会社の無効審判請求について確定審決の登録がされていない本件において、被上告人らの本件無効審判請求が適法であるとする原審の判断は、結論において是認することができる。

論旨は採用することができない。

論文試験用の要約

特許法167条は、ある特許につき無効審判請求不成立審決が確定し、その旨の登録がされたときは、その登録の後に新たに無効審判請求におけるのと同一の事実及び同一の証拠に基づく無効審判請求をすることが許されないとするものである。

ここで、確定した請求不成立審決の登録により、その時点において既に係属している無効審判請求が不適法となるものと解すべきではないと解する。

その理由は、次のとおりである。

理由1 特許法167条は、無効審判請求をする者の固有の利益と特許権の安定という利益との調整を図るため、同条所定の場合に限って利害関係人の無効審判請求をする権利を制限したものであるから、この規定が適用される場合を拡張して解釈すべきではなく、文理に則して解釈するべきである。

理由2 仮に、確定した請求不成立審決の登録により、既に係属している同一の事実及び同一の証拠に基づく無効審判請求が不適法になると解するならば、複数の無効審判請求事件が係属している場合において、一部の請求人が請求不成立審決に対する不服申立てをしなかったときは、これにより、他の請求人が自己の固有の利益のため追行してきたそれまでの手続を無に帰せしめ、その利益を失わせることとなり、不合理である。

理由3 仮に特許庁の判断が請求不成立審決と特許を無効にすべき旨の審決(以下「無効審決」という。)とに分かれ、双方が確定する事態が生じたとしても、無効審決が確定したときは、特許権は、初めから存在しなかったものとみなされるのであるから(特許法125条)、これとは別に既に請求不成立審決が確定していたとしても、当該特許の効力は失われるのであ-って、審決の矛盾、抵触により法的状態に混乱を生ずることはない。 このことは、事実又は証拠を異にする無効審判請求について請求不成立審決と無効審決がそれぞれ確定した場合と同様である。また、同一特許に対する同一の事実及び同一の証拠に基づく複数の無効審判請求につき、いずれについても請求不成立審決がされ、一部の者との関係では確定し、その余の者が右審決に対する取消訴訟を提起し請求認容判決及び無効審決を得た場合もこれと同様に解することができる。

解説

そもそも、167条は、特許権者の利益と、第三者の利益を調整したものといわれています。
すなわち、まず、原則として、特許無効審判を請求できる人は大勢います。
(現行法では「何人も」です。)
ですので、特許権者からすれば、何回も同じ証拠で裁判を争わないといけない心配があります。
しかし、できれば同じ証拠でする裁判は、一回で済ませてほしいと思っています。

一方、一人が請求したら別の人がもう同じ証拠で請求できないという制度では、早い者勝ちとなってしまい、第三者からすると、不便です。

そこで、確定審決まで、という期間にしたのです。

そして、この事件では、167条の趣旨にあう法的見解を示しました。
すなわち、早く無効審判を請求した人が負けて、出訴するのをあきらめても、あとで無効審判を請求した人が、巻き添えをくらうことはないという点で、第三者の保護が図られています。

補足

167条は、裁判を受ける権利との関係で、憲法違反という人もいます。

なお、オーストリアでは、167条に相当する内容の特許法の条文が、憲法違反として削除されているようです。

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審決取消訴訟の審理範囲(昭和42年(行ツ)第28号、最高裁昭和51年3月10日大法廷判決)

事件名
 メリヤス編機事件

論点
知財高裁における審決取消訴訟の審理範囲とは?

事実関係

・Xは特許権者
・Yが無効審判を請求した
(Yは、公知事実Aの存在、その他の公知事実の存在、冒認を主張した。)

・特許庁は、無効審判請求を認容した。

・Xは、抗告審判を請求した。

・特許庁は、請求を棄却した。

(特許庁は、公知事実Aによって、特許発明が公知と判断し、新規性違反で、無効とした。
特許庁は、その他の公知事実冒認については、判断しなかった。)

・Xが出訴

・東京高裁は、請求を認容し、審決を取り消すべき旨の判決をした。
東京高裁は、公知事実Aは認められないとし、
 その他の公知事実の主張や、冒認の主張や、そのほかのYの主張は、いまだ特許庁の審理判断を経ていないから、これにより審決の適否を判断することはできない、とした)

・Yが上告
その他の公知事実の主張や冒認の主張を、高裁が判断しなかったのは違法だといって上告した)

本判決の結論

・棄却
・判旨 現行法に合わせて改変しています

「         主    文

本件上告理由第五点の論旨は理由がない。

理    由

上告代理人Yの上告理由第五点について

Yの所論は、要するに、上告人Yらが特許庁及び原審において主張した事実について、特許庁における判断を経ていないという理由で判断しなかつた原判決には、法律の適用を誤り、最高裁判所 判例(同庁昭和二六年)に違反した違法があるというのである。

特許法(以下「法」という。)によれば、特許にこれを無効とすべき原因があるとする者は、特許の無効の審判を請求することができる。
他方、審決に関する訴は、東京高等裁判所の専属管轄とされている。そして、更に、訴において請求が理由があると認められるときは、裁判所は、審決を取り消すべく、取消があつた場合には、抗告審判の審判官は、更に審理を行つて審決をすべきものとされている。

これによつてみると、

[理由1]
法は、特許出願に関する行政処分、すなわち特許又は拒絶査定の処分が誤つてされた場合におけるその是正手続については、一般の行政処分の場合とは異なり、常に専門的知識経験を有する審判官による審判の手続の経由を要求するとともに、

[理由2]
審決の取消の訴えにおいては、専ら審決の適法違法のみを争わせ、特許又は拒絶査定の適否は、審決の適否を通じてのみ間接にこれを争わせるにとどめている。
次に、法が審判の手続として定めているところをみると、特許の無効審判の請求については、請求の趣旨および理由を記載した審判請求書を提出すべく、提出された請求書についてはその副本を被請求人に送達して答弁書提出の機会を与えるものとし、また、審判においては、申し立てられた理由以外の理由についても審理することができるが、
この場合には、その理由につき当事者らに対して意見申立の機会を与えなければならないとするとともに、審判に関与する審判官についての除斥、忌避、公開による口頭審理方式、利害関係人の参加、証拠調等、民事訴訟に類似した手続を定めている。

これによつてみると、
[理由3]
法は、特許無効の審判についていえば、そこで争われる特許無効の原因が特定されて当事者らに明確にされることを要求し、審判手続においては、右の特定された無効原因をめぐつて攻防が行われ、かつ、審判官による審理判断もこの争点に限定してされるという手続構造を採用していることが明らかであり、

[理由4]
法167条が一事不再理を規定しているのも、このような手続構造に照応して、確定審決に対し、そこにおいて現実に判断された事項につき対世的な一事不再理の効果を付与したものと考えられる。

[理由5]
そしてまた、法が、審判の審決に対する取消訴訟を東京高等裁判所の専属管轄とし、事実審を一審級省略しているのも、当該無効原因の存否については、すでに、審判手続において、当事者らの関与の下に十分な審理がされていると考えたためにほかならないと解されるのである。  右に述べたような、法が定めた特許に関する処分に対する不服制度及び審判手続の構造と性格に照らすときは、特許無効審判の審決に対する審決取消訴訟において、その判断の違法が争われる場合には、専ら当該審判手続において現実に争われ、かつ、審理判断された特定の無効原因に関するもののみが審理の対象とされるべきものであり、それ以外の無効原因については、右訴訟においてこれを審決の違法事由として主張し、裁判所の判断を求めることを許さないとするのが法の趣旨であると解すべきである。

そこで、進んで右にいう無効原因の特定について考えるのに、法123条1項各号は、特許の無効原因を抽象的に列記しているが、

そこに掲げられている各事由は、いずれも特許の無効原因をなすものとしてその性質及び内容を異にするものであるから、

そのそれぞれが別個独立の無効原因となるべきものと解するのが相当であるし、更にまた、同条同項2号の場合についても、そこに掲げられている各規定違反は、それぞれその性質及び内容を異にするから、これまた各規定違反ごとに無効原因が異なると解すべきである。

しかしながら、無効原因を単に右のような該当条項ないしは違反規定のみによつて抽象的に特定することで足りるかどうかは、特許制度に関する法の仕組みの全体に照らし、

特に法167条が、前記のように、確定審決における一事不再理の効果の及ぶ範囲を同一の事実及び証拠によつて限定すべきものとしていることとの関連を考慮して、慎重に決定されなければならない。

思うに、特許の基本的要件は、法29条に定める「産業上利用することができる発明」に該当することであり、特許すべきかどうか、又は特許が無効かどうかについて最も多く問題になるのも、法29条に適合するかどうか、すなわち29条1項各号の発明に該当しないことをいうと規定している。

すなわち、ある発明が新規性を有するかどうかは、常に、出願時における公知事実との対比においてこれを検討、判断すべきものとされているのである。

ところが、このような公知事実は、広範多岐にわたつて存在し、問題の発明との関連において対比されるべき公知事実をもれなく探知することは極めて困難であるのみならず、このような関連性を有する公知事実が存する場合においても、そこに示されている技術内容は種々様々であるから、新規性の有無も、これらの公知事実ごとに、各別に問題の発明と対比して検討し、逐一判断を施さなければならないのである。

法が前述のような独得の構造を有する審査、無効審判の制度と手続を定めたのは、発明の新規性の判断のもつ右のような困難と特殊性の考慮に基づくものと考えられるのであり、

前記法167条の規定も、発明の新規性の有無が証拠として引用された特定の公知事実に示される具体的な技術内容との対比において個別的に判断されざるをえないことの反映として、その趣旨を理解することができるのである。

そうであるとすれば、無効審判における判断の対象となるべき無効原因もまた、具体的に特定されたそれであることを要し、たとえ同じく発明の新規性に関するものであつても、

例えば、特定の公知事実との対比における無効の主張と、他の公知事実との対比における無効の主張とは、それぞれ別個の理由をなすものと解さなければならない。

以上の次第であるから、審決の取消訴訟においては、審判の手続において審理判断されなかつた公知事実との対比における無効原因は、審決を違法とし、又はこれを適法とする理由として主張することができないものといわなければならない。

この見解に反する当裁判所の従前の判例(最高裁昭和三三年)は、これを変更すべきものである。

なお、拒絶査定の理由の特定についても無効原因の特定と同様であり、したがつて、拒絶査定に対する不服審判の審決に対する取消訴訟についても、右審決において判断されなかつた特定の具体的な拒絶理由は、これを訴訟において主張することができないと解すべきである。

それ故、上告人の引用する当裁判所昭和二六年もまた、これを変更すべきである。

以上の見解に立つて本件をみると、上告人が本上告理由において原審がこれにつき審理判断しなかつた違法があると主張する諸事実のあるものは、本件審決が審理判断した無効原因条項とは別個の条項に関するものであり、またその他はいずれも、法一条違反に関するものではあるが、

本件審決が無効原因として認めた公知事実とは別個の公知事実の主張であるから、原審が、本件審決の適否につき、そこで審理判断されていない別個の無効原因であるこれらの事実の主張を考慮すべきでないとしたのは正当であり、原判決には所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

解説

本判決は、旧法に関するものですが、現行法下においてもあてはまります。
本判決は、審決取り消し訴訟の審理範囲を、審判で審理されたものに制限する、ということを言っています。

この判決に対しては、批判が多いです。詳しくは、百選などを読んでください。

本判決の理由づけをキーワードでまとめると、

理由づけ1 審判前置主義
理由づけ2 裁決主義
理由づけ3 無効審判の手続き構造
理由づけ4 無効審判の手続き構造に対応した一事不再理の効力の付与
理由づけ5 審級省略関係

といったところでしょう。

ちなみに他の理由づけとしては、
無効審判に関する審決の審決取消訴訟で、審判で審理されなかった公知事実がもちだされると、
特許権者は、訴訟の中なので、訂正ができませんので、特許権者に不利すぎる、という理由を挙げることができるでしょう。

つまり、新たな証拠が、審判を経由せずに、いきなり訴訟で特許性の判断材料にされては、審判を経由する場合に比べて、不公平が生じるということです。

判旨まとめ

一般に、特許無効審判の審決に対する審決取消訴訟において、その判断の違法が争われる場合には、専ら当該審判手続において現実に争われ、かつ、審理判断された特定の無効原因に関するもののみが審理の対象とされるべきものであり、それ以外の無効原因については、訴訟においてこれを審決の違法事由として主張し、裁判所の判断を求めることは許されない。
理由を以下に述べる。

第一に、法は、特許出願に関する行政処分の是正手続については、一般の行政処分の場合とは異なり、常に専門的知識経験を有する審判官による審判の手続の経由を要求している。

第二に、審決の取消の訴えにおいては、専ら審決の適法違法のみを争わせ、特許査定の適否は、審決の適否を通じてのみ間接にこれを争わせるにとどめている。

第三に、法は、特許無効の審判についていえば、そこで争われる特許無効の原因が特定されて当事者らに明確にされることを要求し、審判手続においては、特定された無効原因をめぐつて攻防が行われ、かつ、審判官による審理判断もこの争点に限定してされるという手続構造を採用している。

第四に、法167条が一事不再理を規定しているのも、このような手続構造に照応して、確定審決に対し、そこにおいて現実に判断された事項につき対世的な一事不再理の効果を付与したものと考えられる。

第五に、法が、無効審判の審決に対する取消訴訟を東京高等裁判所の専属管轄とし、事実審を一審級省略しているのも、当該無効原因の存否については、すでに、審判手続において、当事者らの関与の下に十分な審理がされていると考えたためにほかならないと考えられる。

以上に述べたような、法が定めた無効審判手続の構造と性格に照らすときは、上記結論が導かれる。