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旅行者下痢症の感染経路、原因微生物、予防法、診断、治療

概要

旅行者下痢症とは、主に国外旅行者が滞在先で遭遇する下痢症状です。

海外渡航者の帰国後の受診理由で発熱とともに頻度の多いのが、この下痢症で、旅行者の30~40%が罹患すると言われています。

旅行者下痢症は、重症例はまれで、適切な治療や対症療法で対処可能です。

詳細

感染経路

リスク因子として、渡航先が最も重要となります。

感染経路は水、食事が主です。

現地の飲用水を飲んだり、非加熱の食材を食べたりすることでリスクが上がります。

特に、氷、ジュース、生野菜、生鮮魚介類のいずれかの飲食がハイリスクです。

原因微生物

細菌、ウイルス、寄生虫など原因となる病原体は多様です。

細菌でもっとも多いものは、毒素原生大腸菌(enterotoxigenic Escherichia coli、ETEC)と言われています。

また、カンピロバクター、サルモネラ、赤痢菌、チフス、パラチフス、エロモナス、プレシオモナス、コレラ、ビブリオなどもあります。

そのほか、ランブル鞭毛虫、クリプトスポリジウム、赤痢アメーバにも注目する必要があります。

予防法

清潔管理に気を配るのが原則です。

具体的には、加熱していない食べ物を摂取しないこと、現地の水を飲まないこと、手洗いを徹底することなどです。

また、飲用水を確保するには、65 ℃以上で1分間加熱し、水中のほば全ての腸管病原性の細箘を殺します。原虫も、55 ℃以上で 5分間加熱すれば不活化されますので安心できます。

診断

海外渡航中または帰国後短期に、1日3回以上の非有形便を認めるという病歴および症状で診断します。

確定診断には、便培養の結果で確定診断となります。

ほかに、血清抗体価や、血液培養も併用できます。

原虫や寄生虫の診断には、糞便の顕微鏡検査が有効です。

治療

旅行者下痢症は一般的に自然経過で改善するため、輸液や電解質補正による対症療法が重要です。

ただし症状が持続する場合や症状が強い場合には、抗菌薬投与を行います。

基本的には、ニューキノロン薬あるいはホスホマイシンを3日間投与で対処します。

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病気

サルモネラ症の症状、診断、治療

サルモネラ症

サルモネラは、グラム陰性、通性嫌気性の桿菌で、腸内細菌科に属する菌です。

サルモネラを大きく分けると、チフス、パラチフス、その他のサルモネラがあります。

サルモネラ症とは、チフスやパラチフス以外のサルモネラ菌の感染により引き起こされる感染症です。

サルモネラ症を引き起こす病原体として主に問題となるの はSalmonella enterica subsp. entericaです。

参考:サルモネラの種類

サルモネラは、2菌種6亜種が存在します。

さらに、サルモネラは60種類以上の菌体表面抗原(O抗原)と80種類もある鞭毛抗原(H抗原)の組み合わせによって2,500種類以上の血清型が存在しています。

症状

サルモネラ症で多いのは食中毒で、日本の食中毒発生状況で常に上位に位置しており、食品衛生上重要な病原体です。

症状としては、急性発症の発熱、腹痛、下痢が典型例ですが、嘔吐や血便を伴うこともあり、合併症として菌血症や感染性動脈炎があります。

発症は、95%以上が食事由来です。

卵や、卵の加工食品、調理不十分な肉などが原因となっています。

潜伏期間は、摂取から12~72時間です。

診断

症状から、サルモネラ症と他の感染性腸炎と鑑別することは難しいです。

便の培養の結果で、チフスやパラチフス以外のサルモネラ菌を検出して診断します。

鑑別を要するのは、赤痢菌、カンピロバクター、エルシニア、赤痢アメーバなどです。

敗血症も調べるため、不明熱が続く患者や、ハイリスク患者では、血液培養も採取すると良いでしょう。

治療

抗菌薬の投与、脱水の補正、プロバイオティクスの投与が主な治療となります。
サルモネラ菌には、耐性菌は確認されていないため、一般的な内服薬で足ります。

ニューキノロンが適当で、シプロキサンなどを5日間投与するのが基本です。

ただし、血液培養陽性例や免疫不全者では、二週間程度の治療が勧められます。

法律

サルモネラによる胃腸炎は、感染症法の5類疾患である「感染性胃腸炎」に含まれます。

食中毒の場合は、食品衛生法で、ただちに最寄りの保健所に届出を行うこととなっています。

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医療従事者向け

感度,特異度,陽性的中度,陰性的中度,尤度比

感度と特異度

感度とは、検査が、ある病気を持つ人に実施されたときに、結果が陽性となる確率です。

特異度とは、検査が、ある病気を持たない人に行わ れたときに、結果が陰性となる確率です。

判定特性能

感度と特異度は、ともに0〜1の問の値をとります。

1に近いほど、それぞれの能力に優れていると判断されます。

両者がともに優れていることを総称して、「判別特性能に優れている」と表現することがあります。

 

陽性的中度(陽性的中率)

陽性的中度とは、患者が病気である確率です。

つまり、検査陽性者の中で病気である人の割合です、

陽性的中度 = [ 真陽性(TP) / {真陽性(TP)+偽陽性(FP)} ]×100%

陰性的中度(陰性的中率)

陰性的中度とは、患者が病気でない確率です。

つまり、検査陰性者の中で病気でない人の割合です、

陰性的中度 = [ 真陰性(TN) / {真陰性(TN)+偽陰性(FN)} ]×100%

尤度比

疾患をもつ人が疾患をもたない人に比べて,ある検査結果の得られる可能性がどれほど高いかを示すのが尤度比(likelihood ratio:LR) です。

尤度比には、陽性尤度比と、陰性尤度比があります。

陽性尤度比

陽性尤度比は,疾患をもつ人が陽性結果となる可能性と,疾患をもたない人が陽性結果となる可能性との比で計算されます。

陽性尤度比が高いほど、検査結果が陽性の場合、疾患があることを肯定する可能性が高くなります。

計算方法

陽性尤度比 = 感度 / (1一特異度)

陽性尤度比が10以上だと、確定診断に有用と言われます。

なお、陽性尤度比は、1に近いほど、検査から得られる情報が少ないことを意味します。

陰性尤度比

陰性尤度比は,疾患をもつ人が陰性結果となる可能性と,疾患をもたない人が陰性結果となる可能性の比で計算されます。

陰性尤度比が0に近いほど、検査結果が陰性の場合、疾患があることを否定する可能性が高くなります。

計算方法

陰性尤度比 = (1一感度) / 特異度

陰性尤度比が0.1以下だと、除外診断に有用と言われます。

なお、陰性尤度比も、1に近いほど、検査から得られる情報が少ないことを意味します。

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医療従事者向け

系統誤差と偶然誤差

検査で発生する誤差について解説します。

系統誤差(systematic error)

系統誤差とは、不適切な標準物質や試薬の使用、 妨害物質の影響、分析機器の不備などにより発生する誤差です。

真の値からの偏りを表します。

比例系統誤差および一定系統誤差があります。

比例系統誤差

比例系統誤差は、常に一定方向に生じる系統誤差であり、測定成分の濃度に比例した誤差(相乗誤差ともいいます)です。

一定系統誤差

一定系統誤差は、常に同じ方向に生じる系統誤差であり、同じ大きさを示す誤差(ゲタバキ誤差、相加誤差ともいいます)です。

偶然誤差(random error)

偶然誤差とは、取り除くことができない誤差であり、たとえば、器具の汚染や測定環境の変化によって発生します。

一般に、偶然誤差の原因はつきとめることは難しいといわれています。

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医療従事者向け

マクロショックとミクロショック

マクロショック

マクロショックとは、皮膚を介した漏れ電流の感電です。

感電の強さは、人体に流れる電流の大きさによります。

なお、医療機器からの漏れ電流許容量は100μA以下です。

ミクロショック

ミクロショックとは、漏れ電流が直接心臓に流れて起きる感電で、おおよそ100μA程度で発生します。

発生要因は、電極などの絶縁不良や、医療機器本体と患者の間に電位差がある場合です。

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Column

壊死と壊疽

壊死と壊疽について解説します。

壊死

壊死とは、ネクローシスともいい、局所の細胞や組織の死滅のことをいいます。

壊死の原因には、凝固壊死と誘拐壊死があります。

凝固壊死

凝固壊死は、細胞のタンパク質の凝固によって起きる壊死です。

このタイプの壊死は、たとえば、血行障害による梗塞の場合(心筋梗塞など)に見られます。

融解壊死

融解壊死は、細胞の死亡と同時にタンパク質分解酵素の作用によって起きる壊死です。

このタイプの壊死は、タンパク質の少ない臓器や脳で起こります。

壊疽

壊疽には、「湿性壊疽」と「乾燥壊疽」があります。

湿性壊疽

湿性壊疽は、壊死組織が、二次的に腐敗菌に感染した場合に起きます。

肺壊疽や、壊疽性の虫垂炎などが代表的です。

なお、湿性壊疽にガス産生菌が感染すると、「ガス壊疽」となります。

乾燥壊疽

乾燥壊疽は、壊死組織が、外気によって乾燥すると起きます。

動脈の閉塞による四肢のミイラ化などがあります。

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医療

赤血球の基礎と異常

赤血球の基礎

赤血球の産生

赤血球は、前赤芽球→赤芽球→網赤血球→赤血球という順に産生されます。

前赤芽球

赤血球系細胞の中で、形態学的にとらえられる最も未熟な細胞は、「前赤芽球」です。

前赤芽球は、赤芽球の中で最も大きいです。

細胞に占める核の容積比は大きく、クロマチン網工は点状繊細であり、2~3個の核小体を有します。

なお、穎粒はありません。

赤芽球

赤芽球は、分裂や成熟をするほど小さくなり、細胞質は、赤みを増します(ヘモグロビンの増加)。

赤芽球は、成熟とともに核が小さくなり、クロマチンは粗大となり、さらに、濃縮されていきます。

最後には脱核し、「綱赤血球」になります。

なお、前赤芽球から脱核するまでの期間は、約4~5日です。

網赤血球

綱赤血球は、一般に、成熟赤血球に比べて、大きくて軽いです。

血管内での寿命は約24時間で、貧血があると長くなる傾向にあります。

網赤血球は、赤血球のおよそ0.8%を占めます。

赤血球の形態および機能

血球は、中央がくぼんだ双凹円板形です。

直径は約8μmで、厚さは辺縁部で約2μm、中央で約1μmです。

赤血球は、保有するヘモグロビンにより、酸素を運搬します。

また、含有する炭酸脱水酵素などの働きにより、CO2も運搬します。

さらに、血液のpHを緩衝する機能や、撹枠子として、側き,溶質の血中濃度をいったいにする機能もあります。

赤血球の異常

大小不同

赤血球の大きさには正常でも多少のバラツキがみられるが、ばらつきが著明な場合、大小不同症(anisocytosis)といいます。

巨赤血球

巨赤芽球症にみられる巨大赤血球で,多く楕(卵)円形で、多染性を示すことはありません。

小赤血球

鉄欠乏性貧血、サラセミア、異常ヘモグロビン血症などでみられます。

なお、赤血球が極端に小さい場合、破砕(分裂)赤血球といいます。

破砕赤血球は、赤血球破砕症候群(DIC、TTP、HUS)、遺伝性熱変性性変形赤血球症などで見られます。

形態異常

うに状赤血球、口状赤血球などが、特定の症状で見られます。

封入体

好塩基性斑点、パッペンハイマー小体、ハウエルジョリー小体、カボー環、シュフナー斑点、ハインツ小体などが特定の症状で見られます。

連銭形成

血漿フイブリノゲンまたは免疫グロブリン(IgG、IgMなど)の増加時にみられます。

異常ヘモグロビン

グロビンのアミノ酸配列が変化したものを異常ヘモグロビンといいます。

およそ400種があり、溶解度が低いものや、溶血を起こしくするものなど、様々です。

なお、グロビン部分の異常でも後天的にグルコースが結合し、アマドリ転移を起こしたHbA1cは、異常ヘモグロビンとは言いません。

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Column

妊娠中にインフルエンザワクチンを打つべき理由を解説

インフルエンザワクチンは妊娠中の妊婦にも推奨されています。

理由

インフルエンザワクチンは、殺したインフルエンザウイルスや、インフルエンザウイルスの一部を使ったものです(不活化ワクチン)。

つまり、生きていないインフルエンザウイルスを使っています。

したがって、ワクチン接種をしても、胎児に影響を与えることはありません。

また、ワクチン接種により胎児に異常があったとの報告はありません(先天異常なし)。

そして、インフルエンザワクチンは、接種から効果が出るまでは約2週間程度であり、ワクチンの効果は、約5ヶ月間持続します。

したがって、接種の時期としては、国内での流行期間が12月から3月のため、遅くとも12月にはインフルエンザワクチンを接種することが望まれます。

ちなみに、インフルエンザワクチンの効果は、100%ではありません。

ただし、流行ウイルスと同じタイプのワクチンを接種していた場合、インフルエンザHAワクチンでは予防効果は70〜90%と言われています。

以上のように、ワクチン接種は、インフルエンザ予防の効果的な手段であるため、妊娠期間を無事に過ごすために、妊婦へのワクチン接種は勧められています。

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病気

A型肝炎の感染経路、症状、治療、予後

定義

A型肝炎は、A型肝炎ウイルス(HAV)による急性ウイルス肝炎です。

解説

ウイルス

A型肝炎ウイルス(HAV)は、ピコルナウイルス科のヘバトウイルス属に分類される全長7500塩基の一本鎖のプラス鎖RNAウイルスです。

HAV遺伝子型は1 ~ 7型までの7種類に分類されています。

感染ルート

主な感染媒体は汚染された水および食べ物であり、経口感染で拡がります。

肝臓で増殖したウイルスが胆汁から腸管、そして便中に排出され、排泄物がなんらかの経路で口より侵人し感染が成立します。

最近では、HAVに汚染された輸入食品による感染例が散見されます。

また、ドラック使用者間の感染や、同性愛者間での流行なども見られます。

なお、日本では公衆衛生環境の発達や上下水道の整備に伴い、A型肝炎の発生数は減少しています。

しかし、世界的には、A型肝炎流行国は多く、そのような地域への渡航がリスクファクターとなっています。

症状

感染から約1ヶ月の潜伏期間を経て発症します。

前駆症状として突然の高熱 (38℃以上)と、全身の著しい倦怠感が特徴的です。

他の症状として、頭痛、関節痛、筋肉痛、咽頭痛等の前駆症状がみられることもあります。

その後、典型的には、黄疸、肝腫脹、黒色尿、白色便などがみられます。

成人は40~70 %が黄疸になると言われます。

小児では不顕性感染や軽症ですむことが多く、6歳以下の黄疸出現率は10%以下と言われます。

なお、罹患年令が高いほど、重症例・死亡例が増加する傾向があります。

治療

HAVに感染し発症すると、一ヶ月程度の入院加療を必要とします。

基本的には安静で、他の急性肝炎と同様、対症療法が中心となります。

検査

HAVの急性感染の診断は、IgM-HA抗体を検査します。

症状が出現してAST/ALTが上昇しているときには、通常はlgM-HA抗体が上昇しています。

したがって、この検査が陽性であれば、A型急性肝炎として診断可能できます。

陽性は感染後3~6ヵ月間持続すると言われています。

なお、重症A型急性肝炎の急性期には、AST/ALTが上昇しているにもかかわらず、lgM-HA抗体が上昇していない症例も報告されているため、注意が必要です。

予後

一般に、致死率が低く慢性化もしません。

予後良好な疾病です。

法律

感染症予防法では4類感染症に分類されており、ただちに届け出る必要があります。

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梅毒の症状、検査、治療

梅毒の概要

梅毒はスピロヘータ目に属する梅毒トレポネーマ Treponema pallidum subsp. pallidum(直径0.1〜0.2μm、長さ10〜20μmのらせん状菌)により生じる性感染症です。

梅毒は、性感染症のひとつですが、まれに接触感染や輸血による感染もあります。

胎児が母体内で経胎盤的に感染する場合があり、これは「先天梅毒」と呼ばれ、妊娠中の女性における積極的な診断と治療は先天梅毒を防ぐために特に重要とされます。

それ以外の感染症は、「後天梅毒」と呼ばれます。

なお、皮膚や臓器での梅毒による症状がみられるものを「顕性梅毒」とし、症状はみられないが梅毒血清反応が陽性であるものを「無症候梅毒」という区別もあります。

感染のメカニズムとしては、皮膚や粘膜の微小な傷から梅毒トレポネーマが侵入して感染し、局所で増殖した後、やがて血行性に全身に散布されて種々の症状を引き起こします。

なお、梅毒は日本の感染症法で5類感染症です。

患者や、無症状であっても病原体を保有する者について、全例を都道府県知事に届け出る必要があります。

臨床像(症状)

後天梅毒では、臨床像は、第一期梅毒(早期の顕症梅毒)、第二期梅毒、無症候性の潜伏期梅毒(第三期梅毒)、第四期梅毒(晩期顕症梅毒)に大別されます。

第一期梅毒

第一期梅毒は、感染後平均3週間で発症します。

早い場合は3〜10日程度、遅い場合は90日程度と幅があります。

男性の陰茎亀頭部や女性の陰唇部に発症します。

トレポネーマの侵入部位である感染局所に無痛の硬結が生じ(初期硬結)、周囲は隆起し中心部に潰瘍を形成して下疽(げかん)となります。

また局所所属リンパ節腫脹が認められます。

第二期梅毒

第二期梅毒は、トレポネーマが血行性に全身播種し、主に上皮表面を障害します。

そのため、皮疹などの身体所見や発熱倦怠感、鼻汁、咽頭痛、筋肉痛、頭痛、圧痛のない全身性リンパ節腫脹などの全身徴候が認められます。

第二期梅毒は、第一期梅毒後2〜12週間、長い場合には6ヶ月後までの問に発症します。

第二期梅毒では、主に皮膚が障害され、大半の事例で、皮疹あるいは粘膜疹が認められます。

初期には全身性の掻痒を伴わない斑状発疹あるいは紅斑が体幹から生じ肩から四肢に広がり2週間程度認められます(通常手掌や足底顔面にはみられない)。

典型的な皮疹は「バラ疹」と呼ばれます。

潜伏期梅毒

第二期梅毒が無治療の場合や、第四期梅毒を発症するまで、ある程度の期間潜在性に無症候で経過をする時期があります。

この期間は「潜伏期梅毒」呼ばれます。

潜伏期梅毒は最初の1年間に粘膜病変が再発し、感染性のリスクが高い状況になります。

第四期梅毒

第四期梅毒は大きく、心血管梅毒と神経梅毒に分かれます。

心血管梅毒のうち、「梅毒性大動脈炎」は未治療梅毒の70~80%に生じると言われています。

また、合併症(大動脈の循環不全や動脈瘤、冠動脈入口部狭窄など)は、初感染の10~20年後、未治療梅毒の10~15%に生じます。

なお、動脈瘤形成は梅毒性大動脈炎の中でも稀であり5~10%に生じると言われます。

多くは単一の動脈瘤であり,紡錘状よりは嚢状のことが多く、50%は上行大動脈に生じ、大動脈弓部の病変は上行大動脈についで頻度が高く30~40%です。

食道、気管、左気管支、左反回神経に接していることから、疾痛、呼吸困難咳、嗅声、嚥下障害などの症状を比較的早期に呈すると言われています。

検査

病原体の培養が不可能なため、診断は臨床症状にくわえて、病理所見、血清所見によります。

すなわち、梅毒を診断する方法には、病変からトレポネーマを顕微鏡などで直接確認する方法と、血清学的な検査方法があります。

顕微鏡検査では、初期硬結や硬性下疽の表面をメスで擦過して得た液体をスライドグラスに採取し、ブルー・ブラックインク(パーカー社製)、ギムザ液、または墨汁を混ぜて薄くのばし、乾燥後に、顕微鏡の油浸で観察または暗視野顕微鏡により観察します。

血清学的検査は、非トレポネーマ検査と、特異的トレポネーマ検査とが主に用いられます。

非トレポネーマ検査

非トレポネーマ検査はリン脂質のカルジオリピン抗原に対する抗体価を測定するserologic test for syphilis(STS)法で, rapid plasma regain card test(RPR)法とラテックス凝集法が頻用されています。

梅毒感染後2~4週間で陽性となり、通常第二期梅毒から早期潜伏梅毒にかけて最も高くなります。

疾病の活動性と相関することが多いものの、妊婦や高齢者、膠原病、慢性肝疾患、結核、HIV感染などがあると疑陽性となることがあるため(生物学的偽陽性反応:biological false positive:BFP)、結果の解釈に注意が必要です。

STS法は梅毒の治療を開始すると値は低下するが、十分な治療を行っても抗体価が陰性にならない場合もあります(serofast reaction)。

特異的トレポネーマ検査

特異的トレポネーマ検査はT.pallidumの菌体成分に対する反応を測定する方法(TP抗原法)で、Treponema Pallidum Hemagglutination Test(TPHA)法、Fuorescent treponemal antibody absorption test(FTA-ABS)法、ラテックス凝集法、venereal disease research laboratry(VDRL)があります。

特異的トレポネーマ検査は、通常は非トレポネーマ抗体検査が陽性となってから2~3週間後に遅れて陽性となります。

特異的トレポネーマ検査は、非トレポネーマ抗体検査とは異なり疾患特異性が高く、陽性の場合にはこれまでに梅毒に曝露されたことを示します。

ゆえに、特異的トレポネーマ検査は確定診断には必須です

ただし、特異的トレポネーマ検査は、非トレポネーマ抗体検査のように疾患活動性とは相関せず、治療によってT.pallidumが消失した後も陽性が持続しますので、治療効果判定には使用されません。

FTA-ABS抗体のうちIgM抗体は初感染後1週間で産生され約1ヶ月でピークに達し、その頃からIgG抗体が産生されはじめ,3ヶ月頃にピークに達するため、これらを組み合わせることでより正確な診断が可能となります。

RPR、TP抗体ともに陰性は梅毒非感染、RPR陽性/TP抗体陰性およびRPR陰性/TP抗体陽性はガラス板法で再確認を必要とし、RPR陽性/TP抗体陽性例は梅毒感染として解釈できます。

治療

病期にかかわらず、ペニシリンが常に選択されるべき抗菌薬です。

用量・期間・投与経路が病期によって異なります。

国際的には、第一期・第二期梅毒に対し、ベンザチンペニシリン筋注の使用が推奨されています。

心血管梅毒・神経梅毒に対してはベンジルペニシリン静注を用います。

ペニシリン以外の抗菌薬の有効性は、ペニシリンに劣るか、または不明とされています。

可能な限りペニシリンを使用します。

なお、 妊婦の治療は垂直感染の予防を考慮し妊娠週数にかかわらず治療を開始します。

ペニシリン系薬は妊婦にも投与可能である。

ペニシリンアレルギーの場合は脱感作を行って投与を試みることが推奨されます。