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法律

原子力エネルギー発生装置事件(昭和39年(行ツ)第92号、最高裁昭和44年1月28日第3小法廷判決)

事件名

原子力エネルギー発生装置事件(最高裁昭和44年1月28日第3小法廷判決
争点
本件のエネルギー発生装置が、旧特許法一条にいう「発明」に該当するかどうか。

事実関係

・フランスにした出願を基礎出願として(パリ優先権)、「原子力エネルギー発生装置」について、日本に出願がされました。

・特許庁は、拒絶審決をしました。 (理由:産業上安全に利用することができない)
・特許出願人は、出訴しました。
・東京高裁は、出願人の訴えを棄却しました。(理由:産業界において安全確実に実施するための要件を欠き、技術的にみれば未完成で、工業発明をしたものとはいえない)
・出願人が上告しました。

本判決について

・最高裁は、出願人の上告を棄却しました。
・以下、判旨です。

「本願発明は、その明細書によれば、要するに、中性子の衝撃による天然ウランの原子核分裂現象を利用し、その原子核分裂を起こす際に発生するエネルギーの爆発を惹起することなく有効に工業的に利用できるエネルギー発生装置を得ることを目的とするものというのである。

そのような装置の発明であるとすれば、それは単なる学術的実験の用具とは異なり、少なくとも定常的かつ安全にそのエネルギーを取り 出せるよう作動するまでに技術的に完成したものでなければならないのは当然であって、そのためには、中性子の衝撃による原子核の分裂現象を連鎖的に生起させ、かつ、これを適当に制御された状態において持統させる具体的な手段とともに、右連鎖的に生起する原子核分裂に不可避的に伴う多大の危険を抑止するに足りる具体的な方法の構想は、その技術内容として欠くことのできないものといわなければならない。

論旨は、その装置が定常的かつ安全に作動することは発明の技術的完成の要件に属しないものと主張し、また、それが旧特許法一条にいう 工業的発明とするのには、発明の技術的効果が産業的なものであれば足りると論ずるが、本願発明が連鎖的に生起する原子核分裂現象を安全に統制することを目 的としたものであることに目を蔽うものであり、また、それが定常的かつ安全に実施しがたく、技術的に未完成と認められる以上、エネルギー発生装置として産業的な技術的効果を生ずる程度にも至っていないものといわざるをえない。

 発明は自然法則の利用に基礎づけられた一定の技術に関する創作的な思想であるが、特許制度の趣旨にかんがみれば、その創作された技術内容は、その技術分野における通常の知識・経験をもつ者であれば何人でもこれを反覆実施してその目的とする技術効果をあげることができる程度にまで具体化 され、客観化されたものでなければならない。

 従って、その技術内容がこの程度に構成されていないものは、発明としては未完成であり、もとより旧特許法一条にいう工業的発明に該当しないものと いうべきである。

ところで、特許出願の手続においては、右のような発明の技術内容の全貌が明細書(その添付図面を含む。以下同じ。)のうちに開示され て、その記述が審査の対象となるわけである。その発明が技術的に完成されたものかどうかも、明細書の記述によつて判断されるのである。されば、右記述にお いて発明の技術内容が十分具体化、客観化されておらず、その技術分野における通常の知識を有する者にとって容易に実施可能とは認めがたいとすれば、その発明の実体は技術的に未完成のものとして発明を構成しないと判断して妨げないのである。原判決が、本願発明について明細書の記述の不完全から結局これを旧特 許法一条にいう工業的発明にあたらないと解したのは、このような見地に拠るものとして正当と認めることができる。」

解説

本判決では、 発明完成の要件について、一般論を述べています。

本件のエネルギー発生装置については、定常的かつ安全に実施できないことを理由に、「当業者が反覆実施してその目的とする技術効果をあげることができる程度にまで具体化 され、客観化されたもの」ではないと判断されています。

法律書などでは、この事件を一般化して、安全性を欠く技術(たとえば副作用のある医薬)は「発明」に該当するのかどうかが議論されていることが多いようです。

なお、安全性を欠く発明については、「発明」かどうか論じるのではなく、「産業上の利用可能性」の要件の問題として捉える考え方もあります。

このような考え方がなぜ出てくるのかというと、ある技術Aが、安全性を欠くことにより「発明」にあたらないとすれば、ほかの技術Bが出願された時に、技術Aと技術Bがどれだけ近い技術であっても、技術Aにより技術Bの新規性や進歩性が否定されないという困った状態がj生じるからです(つまり、他の出願に与える影響が違ってきます)。

また、優先権の先願に記載された技術が、安全性を欠くことにより「発明」でない、となれば、優先権は発生しないことになり、当然に優先権の主張は無効であり、これも困ったことになるからでず。

 

感想等

・この事件は、36第4項(実施可能要件)が規定される以前の事件です。現行法であれば、反復可能性は、36第4項(実施可能要件)の問題となるでしょう。

・一説によると、本件の出願人は外国人であったため、この出願に特許を与える道を閉ざさないと、当時の日本の原子力技術の発展が遅れてしまうという懸念から、この出願人の上告を棄却したとも言われています。

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散録

信頼関係を築く力がある-転職の自己PRの例文

転職のときの履歴書や面接で「信頼関係を築く力があること」をアピールポイントとする自己PRの例文を紹介します。

営業などに向いている自己PRです。

例文「誠実に向き合う」

これまで、営業職としてキャリアを積んでまいりましたが、以前の職場にて、早期退職の募集があったことを機に、再度、将来を考えて転職を決意いたしました。

お客様の立場で考えることを意識した営業を行うことで、お客様からの高い評価をいただくことができ、既存のお客様に、新規のお客様を月に10件も紹介いただくなど、お客様との信頼関係を結ぶ力を身につけてまいりました。

お客様に誠実に向き合っていくことには自信があり、貴社でも活かしていけると考えています。

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Column

エアポッド(Air Pods)を落とし紛失したときに見つける方法

iPhone7から導入されたワイヤレスイヤホン『エアポッド』を失くしたときについて。

イヤホンを紛失して必ず行うべきことは、警察への届け出です。

イヤホンを紛失したくらいで警察に届けるのは大げさと思うかもしれませんが、それなりに値段のするものですから、諦めないことが大事です。

警察が直接にエアポッドを探してくれるわけではありませんが、紛失したことを届け出ていれば、誰かがエアポッドを拾ってくれた時に戻ってきます。

なお、落とした場所によっては、取るべき行動がありますので紹介します。

もし電車で忘れたら

電車にのった後で落としたことに気がついた場合は、電車から降りて、すぐに乗った電車の時刻や号車などを控えましょう。
さらに、すぐさま駅員に連絡します。
そうすることで、電車の行き先のつぎの駅などで回収してもらえるかもしれません。

通常は、落し物が拾われると、駅の遺失物のデータベースに登録されます。
ただ、登録までは時間がありますので、駅に定期的に落し物が届いていないか確認の連絡をするとよいでしょう。

もしバスで忘れたら

バス内での落し物は、基本的に、バスの運行を管理している営業所で、約2日〜4日間保管されたあと、警察に引き渡されます。

したがって、落とした日やその次の日などに、バス会社に落し物の問い合わせをするとよいでしょう。

ちなみに、引き取る際は、本人確認(運転免許証など)が必要となる場合があります。

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散録

ドラマ死役所 美幸は絵の具のほかに牛乳を飲んでいた

ドラマの死役所。

10話で終わりましたが、その中で気になったことは、市村家の子供である美幸が「絵の具しか食べていなかった」と回想シーンで語られていたことです。

絵の具という異物を食べることが病気という設定であったとしても、絵の具だけでは栄養ゼロなので、普通に喋ったり歩いたりしていることが現実離れした違和感を感じさせました。

というわけで死役所のドラマをよく見直してみましたら、ある発見がありました。

それは、ドラマの最終話で、市村が美雪のファイルを見ているシーンです。

そこには、文章が映り込んでいました。

内容は、絵の具のほかに牛乳だけは摂取していた、というものでした。

つまり、美雪は、栄養を牛乳から摂っていたのです。

絵の具だけでどうやって生きていたのか??と思われていた方も多くいらっしゃると思いますが、これで謎が解けましたね。

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医療従事者向け

関節液の結晶の鑑別・尿酸ナトリウム、ピロリン酸カルシウム

関節液の結晶は、主に、尿酸ナトリウム(MSU)とピロリン酸カルシウム(CPP)がある。

MSUは、monosodiurn urateの略語、CPPは、calcium py-
rophosphateの略語である。

両者は、顕微鏡検査(鏡検)で鑑別が可能。

関節液の細胞数が2,000個/μLを超えると、結晶性の関節炎、関節リウマチ、化膿性関節炎を鑑別する必要がある、と言われる。

関節液の鏡検は、結晶性関節炎と化膿性関節炎との区別に重要である。

化膿性関節炎は、発症から24-48時間以内に適切な抗菌薬投与がされないと、永続的な関節の機能不全を引き起こす可能性や、致命的になる可能性があるため、鑑別できる環境があるのであれは、鑑別を急ぐことが必須となる。

結晶の形状から結晶の種類を判別する

典型的な形状の結晶が観察されたときのみ陽性報告する。

結晶が小さいなど、判断が難しい場合は、陽性とはせず再検査を実施すべきである。

尿酸ナトリウム(MSU)

先端の鋭い針状結晶なら尿酸ナトリウム(MSU)と判断する。

ピロリン酸カルシウム(CPP)

平行六面体あるいは桿状で大小不同の多彩な結晶ならCPP と判断する。

偏光顕微鏡

尿酸塩結晶は強い負の複屈折性を示す一方で、CPP結晶は弱い正の複屈折性を示すため、区別することができる。

尿酸塩結晶は結晶長軸に対して鋭敏色板のZ軸を平行にすると結晶が黄色になり、垂直にすると結晶が青色に見える。ピロリン酸カルシウム結晶は平行で青色、垂直で黄色に見える。

ちなみに、偏光顕微鏡装置では、たとえば、痛風検査用アナライザU-GAN(オリンパス社)は、結晶の同定に有用と言われている。

参考に、痛風は高尿酸血症がベースとなり、血清尿酸の体液中の溶解限界(6.4mg/dl)を超えると関節液中に尿酸塩結晶が析出し、関節内の組織に沈着していく。

ピロリン酸カルシウムの沈着する原理は、よく分かっていない。

 

なお、国家試験との関係では、第66回臨床検査技師国家試験問題の午前 問2に、ピロリン酸カルシウムが認められる疾患について尋ねる問題が出題されている。

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散録

魔女の宅急便の幻のトイレシーン

アニメにおける、トイレシーンについて考えることがありました。

 

というのも、作中でトイレシーンが描写されるアニメは、少数派だから、印象に残るんですよね。

 

例えば、記憶に残っているのは、Angel Beats!とか、To LOVEる、監獄学園などです。

 

さて、個人的には、このトイレシーンについては、なんらかの視点から意見を述べたり考察したりしたいところなのですが、

ここでは、そういうものは歓迎されない気がします。

 

なので、この件に関して言及は避けようと思いますが、アニメにおけるトイレシーンについて、ひとつ、調べていて面白いと思った情報があります。

 

それは、ジブリ映画『魔女の宅急便』で、宮崎駿監督は、キキがトイレで物思いに耽るシーンを、ポスターに採用しようとしていた、という話です。

 

当時、宮崎駿監督は、身近なヒロイン像を描こうとしたみたいですね。

 

みなさんはアニメにおいて、女の子のトイレシーンが存在することは、賛成派ですか? 否定派ですか?

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医療従事者向け

低栄養-カロリー不足時のアミノ酸の投与とBUN、UUN

絶食時に、ブドウ糖を含む点滴をすることがありますね。

しかし、ブドウ糖などの熱量が相対的に不十分な状態では、大量のアミノ酸を投与したとしても,そのアミノ酸は蛋白質としては合成されません。

アミノ酸は、アミノ基をはずした炭素鎖骨格となってエネルギー源として利用されてしまいます。

いわゆる糖新生です。

糖新生の際にはずれたアミノ基は、肝臓にて尿素に合成されます。

血液検査所見としては、血中尿素窒素(BUN)の上昇を認めます。

また、尿中への尿素の排泄(尿中尿素窒素:UUN)の増加を認めます。

腎機能障害時のBUN上昇と違うのはUUNの上昇を伴うことです。

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解説;オリンパス事件(平成13年(受)第1256号、最高裁昭和15年4月22日第2小法廷判決)

事件名
 オリンパス事件

論点
使用者から対価をすでに受け取った発明者が、その受け取った対価と相当の対価との差額を、使用者に請求できるか?

事実関係

・使用者Xのもとで、「ピックアプ装置」を発明した発明者Yがいた。
・Yは、特許を受ける権利を勤務規則によりYから承継した。
・Yは、出願補償として3000円、登録補償として8000円、Xが他者にライセンスできた報償として20万ををもらった。
・Yは、額が足りないとして、使用者Xを訴えた。

本判決の結論(一部略)

「特許法35条によれば,使用者等は,職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させる意思を従業者等が有しているか否かにかかわりなく,使用者等があらかじめ定める勤務規則その他の定め(以下「勤務規則等」という。)において,特許を受ける権利等が使用者等に承継される旨の条項を設けておくことができるのであり,また,その承継について対価を支払う旨及び対価の額,支払時期等を定めることも妨げられることがないということができる。

しかし,いまだ職務発明がされておらず,承継されるべき特許を受ける権利等の内容や価値が具体化する前に,「あらかじめ対価の額を確定的に定めること」ができないことは明らかである。

よって,35条の趣旨及び規定内容に照らしても,「これ」が許容されていると解することはできない。

換言すると,勤務規則等に定められた対価は,これが同条3項,4項所定の相当の対価の一部に当たると解し得ることは格別,それが直ちに「相当の対価」の全部に当たるとみることはできないのであり,その対価の額が同条4項の趣旨・内容に合致して初めて同条3項,4項所定の相当の対価に当たると解することができる。

したがって,【要旨1】勤務規則等により職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させた従業者等は,当該勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合においても,これによる対価の額が同条4項の規定に従って定められる対価の額に満たないときは,同条3項の規定に基づき,その不足する額に相当する対価の支払を求めることができると解するのが相当である。

本件においては,・・・である。そうすると,特許法35条3項,4項所定の相当の対価の額が上告人規定による報償金の額を上回るときは,上告人はこの点を主張して,不足額を請求することができるというべきである。

原審の上記第1の3(1)の判断は,以上の趣旨をいうものとして,是認することができる。論旨は,独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず,採用することができない。 」

(消滅時効について)
「1 職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させる旨を定めた勤務規則等がある場合においては,従業者等は,当該勤務規則等により,特許を受ける権利等を使用者等に承継させたときに,相当の対価の支払を受ける権利を取得する(特許法35条3項)。

対価の額については,同条4項の規定があるので,勤務規則等による額が同項により算定される額に満たないときは同項により算定される額に修正されるのであるが,しかし、対価の支払時期については明文の規定はない。

したがって,勤務規則等に対価の支払時期が定められているときは,勤務規則等の定めによる支払時期が到来するまでの間は,相当の対価の支払を受ける権利の行使につき法律上の障害があるものとして,その支払を求めることができないというべきである。

そうすると,【要旨2】勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合には,その支払時期が相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となると解するのが相当である。 本件においては,・・・規定に従って報償の行われるべき時が本件における相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となるから,被上告人が本件訴訟を提起した同7年3月3日までに,被上告人の権利につき消滅時効期間が経過していないことは明らかである。

所論の点に関する原審の上記第1の3(2)の判断は,結論において正当であり,原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。 」

解説~この判決の意味~

相当の対価の算定は、事前であっても、事後であっても、正確に行うことは困難です。
本判決は、発明者がいったん対価を受け取ったとしても、のちのち、相当の対価との差額を請求できることを明らかにしました。

この法律判断は、発明者にとっては都合がよいのですが、会社にとってはどうでしょうか。
いい発明が出てきても、将来に発明者に訴訟を起こされて、大金をむしり取られる不安を抱えたまま、経営を続けなければいけない、、、、訴えられるかわからない発明者のために、ある程度の資本を内部に蓄えておかなければいけなくなります。経営上、予測性がない不安要素となってしまいました。
この判決に、当当時、多くの会社の経営者が不満をもったことは記憶に新しいことです。

補足

対価の算定について、そこまで厳格な計算を要求することは、面倒です。
なので、相当の対価は、幅のある概念でとらえておき、著しく不当でなければ、違法ではないとする考え方をとったほうが、便利でしょう。

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解説;職務該当性(昭和43年12月13日、最高裁昭和43年12月13日第2小法廷判決

事件名

石炭窒素の製造炉事件

争点

使用者等が、従業者等に対してある発明を完成すべき旨の具体的な指示や命令をしていなかった場合、「その発明をするに至った行為」は、従業者等の「職務」にあたるか?

背景

旧法の事件です。

事実関係

・Aは、技術部門担当の最高責任者。
・Aは、使用者から具体的な指示がないまま、使用者Yの人材、設備、資金を利用して考案をした。
・Aは出願して登録を受けた。
・Aが死んだ後、権利を相続したXは、考案を実施する使用者Yに、損害賠償請求をした。

・亡くなったAさんがした考案について、使用者は(現行法でいう35条1項の)通常実施権を有することを主張した。

・一審と二審は、いずれも、使用者Yが通常実施権を有するとして、Xの請求を認めなかった。

本判決の結論

・棄却

・判旨(一部省略)

「原判決(その引用する第一審判決を含む。)の適法に確定した事実関係のもとにおいて、上告人の先代であるAは、同人が石灰窒素の製造炉に関する本件考案を完成するに至つた昭和26年3月当時、

石灰窒素等の製造販売を業とする被上告会社(Y)の技術部門担当の最高責任者としての地位にあつたものであり、かつ、その地位にもとづき、被上告会社における石灰窒素の生産の向上を図るため、その前提条件である石灰窒素の製造炉の改良考案を試み、その効率を高めるように努力すべき具体的任務を有していたものであるから、

Aが本件考案を完成するに至つた行為は、Aの被上告会社(Y)の役員としての任務に属するものであつたというべきであり、

したがつて、被上告会社(Y)は、本件実用新案につき、旧実用新案法(大正10年法97号)26条、旧特許法(大正10年法96号)14条2項にもとづく実施権を有する、とした原審の解釈判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、独自の見解を主張するものにすぎず、採用する
ことができない。」

解説~本判決の意味~ (百選66~67頁より)

本判決は、使用者Y(会社Y)の方針や、Aの会社Yにおける地位に基づいて判断しています。
なので、本判決は、具体的な指示や命令がある場合に「職務」にあたるかという法律的な問題には答えは出していません、実質的にはこれを否定したものといえるでしょう。

本判決の後も、裁判例は「職務」に該当する場合を、具体的な指示や命令がある場合に限定していないようです。

 

補足

百選で執筆教授は、「職務」に該当するか否かにおいて、使用者の資源を利用したかどうかは無関係に判断されるべきである、という見解を述べています。
なぜなら、使用者は、発明完成に、資源が利用されなかったから職務発明が成立しないとすると、発明のための投資意欲を失いかねないからだそうです。

ほかにも、勤務時間外の場合はどうか、自己の費用でされた場合はどうか、試験研究を職務としない者についてはどうか、など、「職務」該当性の判断は、事案ごとに考慮要素が大きくちがうので、どうしても一様な解釈ではうまくいかないでしょう。

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解説;出願後の減縮補正と、出願前の実施契約による不作為義務の対象(平成4年(オ)第364号、最高裁平5年10月19日)

事件名
契約上の不作為義務にもとづく差し止め請求事件

この判決に関する論点

出願前に第三者と実施契約を結んでいた場合で、出願後に請求項を減縮する補正があった場合、その補正に応じて、不作為義務の対象(やってはいけない行為の対象)の範囲が、減少するかどうか?

事実関係

・甲(被上告人)の代表者は、「装置A」と実質的に同一の「装置B」に関する発明Xについて、特許権を取得して実施しようと考えた。一方で、特許出願の準備を進めて、出願をした。

・発明Xの明細書の特許請求の範囲には、インゴットの取付け位置を限定する記載はなかった。

・上告人の丙と、被上告人の甲は、昭和47年1月~4月までの間に、つぎのような契約を口頭で締結した。
それは、
1.「装置A」の製造を、甲が丙に発注する
2.丙は発注を受けてこれを製造して、「装置A」を甲に納入する
という内容であった。

・甲の代表者は、発明Xの特許出願を準備していたため、丙は「装置A」を甲以外には納入販売しないという(不作為)義務を負う旨の合意をした。

・ 丙の代表者は、発明Xの特許出願に拒絶理由が通知されたので、、昭和52年11月21日、発明Xの明細書の特許請求の範囲につき、インゴットの取付け位置を限定する旨の補正をした。

・昭和54年10月18日に、補正された内容で出願公告され、同55年5月20日、設定登録された。

・本訴は、上告人の丙が製造して他に販売した装置(被告装置)は、契約の対象である「装置A」に含まれるとして、甲が丙に対し、「装置A」の製造販売等の差止めと損害賠償を請求した。

・一審は、甲の請求を認容した。

・丙は、高裁に訴えた。

・東京高裁は、丙の請求を棄却した
(理由:契約の対象は発明Xを実施した装置である「装置A」であるが、被告装置は「装置A」に含まれる。発明Xは、出願の過程で明細書の特許請求の範囲が補正された結果、特許請求の範囲が減縮された発明として設定登録され、これにより発明Xの内容が変動しても、補正前に締結された契約の対象となる装置が変動することはない)
※ 東京高裁は、被告装置が補正後の発明の技術的範囲に含まれるか否かを検討することなく、丙の請求を棄却しました。

・丙は上告した

本判決の結論

・破棄差し戻し
・判旨
「原審の右判断は是認することができない。原審の前記認定によれば、上告人はその製造した本願発明の実施に当たる装置を被上告人以外には納入販売しないとの義務を負っていたが、本願発明は、出願の過程で明細書の特許請求の範囲が補正された結果、特許請求の範囲が減縮された本件発明として設定登録されたというのである。

そして、本願発明は掘削装置の構成に関するものであり、右装置が製造されて工事等に使用されたならば、これを現認した者は容易に発明の内容を知ることができるところ、右発明について特許出願をして独占権が与えられない限り、被上告人は他者の右発明の実施を阻止することができないことは明らかである。

そうであるならば、特許出願準備中の本願発明を実施した装置を上告人に製造させる旨の本件契約は、本願発明につき特許出願がされて将来特許権として独占権が与えられることを前提として、このような発明としての本願発明の実施に当たる装置を対象として締結されたものと解すべきである。

けだし、本件契約が、本願発明につき特許出願がされ将来特許権として独占権が与えられるか否かにかかわりなく締結されたとするならば、本件契約に基づいて北辰式掘削装置が製造販売され本願発明を他者が知るところとなり、他者がその実施をすることが可能となるに至る技術的事項につき、契約当事者である上告人のみが実施を禁ぜられることになり、不合理であるといわざるを得ないからである。

したがって、特段の事情の認められない本件においては、本願発明につき、出願の過程で明細書の特許請求の範囲が補正された結果、特許請求の範囲が減縮された場合には、これに伴って本件契約によって被上告人以外に納入販売しないという義務の対象となる装置もその範囲のものになると解するのが相当である。

これを要するに、本願発明がその出願の過程で変動しても本件契約の対象となる装置が変動することはないとした原審の説示には、契約に関する法令の解釈適用を誤る違法があるといわなくてはならない。

そうすると、原判決には右の違法があり、これが原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。

そこで、後記の部分を除き、更に審理判断させるため、本件を原審に差し戻すのが相当である。

なお、昭和57年9月30日に本件特許を無効とする旨の審決があり、右審決の取消しを求める訴訟において請求棄却の判決がされ、右判決が平成2年4月19日に確定したことは当裁判所に顕著であるから、被上告人の、北辰式掘削装置の製造販売等の差止めを求める部分は、被告装置が本件発明の技術的範囲に属するか否かにかかわらず棄却すべきであり、これと同旨の第一審判決は正当であって、被上告人の控訴は棄却すべきである。」

解説

この判決の読み方には注意が必要です。
なんとなく読んでしまうと、出願前のライセンスの範囲は、発明が減縮補正されたら、その狭くなった発明の範囲になる、というのがこの判決の言わんとしていること、、、、、と誤解してしまいます。

この判決は、あくまでも、甲と丙との間に交わされた契約の内容を解釈をしたのです。

どのように解釈したのかというと、判決文中のこの部分に記載があります。

「特許出願準備中の本願発明を実施した装置を上告人に製造させる旨の本件契約は、本願発明につき特許出願がされて将来特許権として独占権が与えられることを前提として、このような発明としての本願発明の実施に当たる装置を対象として締結されたものと解すべきである」

あくまでも甲と丙の関係から、このような契約の内容を解釈したのです。

したがって、≪出願前のライセンスがあったときに減縮補正があれば、この事件のように、ほかの事件も処理される≫と考えてはいけないのです。

ゆえに、つぎのような問題が残ります。

残された問題

「出願後の補正などで特許請求の範囲が減縮されても不作為義務の範囲がせまくならない」 という契約がなされていた場合、どのようになるのかは、この判決からはわかりません。

つまり、そのような事案は本件とは似ていないので、射程は及ばない、ということです。