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医療従事者向け

アンチバイオグラムとは?

定義

アンチバイオグラムとは、細菌ごとの抗菌薬感受性率表のことです。

解説

病院などの施設では、微生物検査室が、検体から検出された菌に対して、どのような薬が効果があるのかを検証しています(感受性試験;antimicrobial susceptibility test data;antimicrobial susceptibility testing)。

なお、検証方法には、ディスク拡散法や、微量液体希釈法、Etest®などがあります。

その結果を基に、薬に対する感受性を、S(感性)、I(中間)、あるいはR(耐性)で判定し、臨床側に提供しています。

S、I、Rの判定基準は、CLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute、臨床・検査標準協会)の設定した基準(ブレイクポイント:BP)が用いられることがほとんどで、一部、日本化学療法学会(JSC)の設定するBPを用いる施設もあります。

また、施設によっては、EUCAST(European committee on Antimicrobial Susceptibility Testing)の設定したBPを用いて、S(有効)、I(中間)あるいはR(無効)で判定しています。

その判定結果を、施設ごとに(施設によっては更に診療科ごとに)、統計処理してまとめた表が、アンチバイオグラムです。

この表では、特定の菌種が、抗菌薬に対し、S(感性/有効)、I(中間)、またはR(耐性/無効)を示す確率(%)を記載しています。

たとえばの話ですが、新規外来患者を対象に実施した細菌検査において、一定期間の間に、黄色ブドウ球菌を100検体から検出した場合に、そのうちの95菌株がアルベカシン(ABK)にS(感性)を示し、4菌株がI(中間)を示し、1菌株がR(耐性)を示したとすれば、Sは95%、Iは4%、Rは1%と記載されます。

アンチバイオグラムを見れば、検出菌の同定試験の結果が報告された後から感受性試験の結果が報告される前までの間に、有効な抗菌薬を選択したり、投与計画を練ったりするための有用な参考情報となります。

とくに、第三世代セフェムや、カルバペネムなどの広域スペクトルの抗菌薬から、狭域スペクトルの薬に変更するとき(デ・エスカレーション)の参考情報となる点がメリットです。

アンチバイオグラムを参考に、より効果の高い抗菌薬に変更することで早期に治療が完了したり、耐性菌の出現を抑制したりすることが可能です。加えて、より安価な薬に変更できれば、医療費を下げることもできます。

つまり、アンチバイオグラムを用いて治療すれば、従来の経験的治療(エンピリック治療、エンピリックセラピーとも呼ばれる)に比べて、適切な抗菌薬を選べる確率が高まります。

さらに、毎年のアンチバイオグラムを作成することによって、薬剤耐性菌の動向を把握することもできます。

なお、近年は、質量分析装置(MALDI/TOFMS)や遺伝子検査により迅速に菌名が同定できる環境が整い、敗血症などの重症例にアンチバイオグラムが極めて大きな貢献をするようになりました。

課題

施設間でアンチバイオグラムを比較すること、ならびに、地域レベルのアンチバイオグラムを作成することに難しさがあります。

その原因は、アンチバイオグラムを作成するときのデータの抽出方法です。

ひとりの患者の複数部位から同一菌種が検出された場合の処理方法や、治療後に一定期間経過した後に同じ菌が患者(特に入院患者)から検出された場合の処理方法などに、色々な考え方があり、施設ごとに採用している方法が、完全に同一ではないためです。

よって、地域の施設間で、アンチバイオグラムを作成する際の統計処理方法を統一することが重要と言われています。

なお、CLSIは、アンチバイオグラムの作成方法に関し、ガイドラインを打ち出しています。

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Column

ファージ療法とは

ファージとは

ファージとは、バクテリオファージとも呼ばれる、細菌にのみ感染するウイルスの総称です。

環境中だけでなく、人体にもファージは存在しています。

ファージ感染により菌は溶菌されて死滅する場合があり、これは、環境やヒトの細菌のバランスに影響を与えていると言われています。

ファージ療法とは

ファージ療法(ファージセラピー)とは、ヒトにファージを投与することであり、細菌感染の治療を目的としています。

ファージ療法は、感染症治療法として研究されてきた歴史的な経緯はありますが、1940年代の抗生物質の登場により、研究されなくなってしまいました。

しかし、近年、さまざまな抗生物質に対する耐性菌(多剤耐性菌)の出現が問題になり、ファージ療法が再び注目されています。

理由は、ファージ療法の殺菌メカニズムが、抗生物質のそれとは異なるため、薬剤耐性菌についてもファージが有効だからです。

また、抗生物質は、ヒトに副作用を与える場合がありますが、ファージは副作用がほとんどないことも、注目の理由となっています。

なお、ファージ療法は、一部の国(ポーランド、グルジア、ロシア)では現に実施されているようです。

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医療

コリスチン耐性菌とは?

コリスチンとは

コリスチンは、抗生物質です。

略号は、「CL」と表記されます。

ただし、カプセルや点滴などの薬剤に含まれる物質は「コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム」です。

コリスチンの体内動態

コリスチンメタンスルホン酸ナトリウムは、生体内で「コリスチン」に変換され、抗菌活性を発揮します。

コリスチンへの変換割合は、およそ30パーセントと言われています。

コリスチンは、主に腎臓から尿中へ排泄されます。

コリスチンの作用

コリスチンの標的は細胞外膜です。

グラム陰性菌のリポポリサッカライド分子との静電気相互作用により細菌外膜の安定性を低下させます。

その結果、細胞外膜に局所的な障害を起こし、細胞内物質を流失させて殺菌活性を発揮します。

コリスチンの適応

コリスチンの適応症は、感染性胃腸炎であり、適用菌種はコリスチン感性の大腸菌、シトロバクター、クレブシエラ、エンテロバクター、緑膿菌、アシネトバクター、赤痢菌などです。

コリスチンの商品名

製剤としては、商品名「メタコリマイシン(カプセル(顆粒))」、商品名「コリマイシン(散剤)」、商品名「オルドレブ(点滴静注用)」があります。

コリスチン耐性菌とは

近年、最強と言われた抗生物質「カルバペネムに」に耐性である腸内細菌科細菌(carbapenem-resistant Enterobacteriaceae: CRE)による感染が、世界中で問題になっていたところ、コリスチンは、CREに活性がある薬剤とされ、多剤耐性菌に対する「最後の選択肢」として期待されていました。

しかし、すでに海外ではコリスチン耐性の菌株が出現してしまったと報告されています。

コリスチン耐性菌は、コリスチン以外の多くの薬剤に抵抗性を示すため、治療自体も非常に難しく、致死率が高いと言われています。

この耐性菌群を封じ込めるため、病院レベルではなく、地域レベルあるいは国家レベルでの対策が求められています。

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医療従事者向け

AST-抗菌薬適正使用支援チームとは?

ASTとは、抗菌薬適正使用支援(Antimicrobial Stewardship:AS)を行うチームのことです。

このチームは、医師、看護師、薬剤師、検査技師などから構成されています。

ASTは、感染症を発症した患者が、適切な抗菌薬治療をされているかどうかを専門的にチェックし、必要に応じて、処方医への支援を行います。

目的は治療効果の向上ですが、デエスカレーションの提案などを通じて、耐性菌の出現を防いだり遅らせたりできる副次的効果も期待できます。

一方、AST以外にも、感染に関するチームが存在します。

感染制御チーム(Infection Control Team:ICT)」と呼ばるチームで、耐性菌が拡散しないように取り組む活動をしています。

ICTは、感染防止対策加算という保険診療上で評価される仕組みが導入されています。

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医療

ノカルジア症の感染経路,病態,診断,治療

ノカルジア症(nocardiosis)の感染ルートや、病態・診断・治療について解説します。

定義

ノカルジア症は,放線菌目に属するノカルジア属菌の感染によって発症する感染症です。

感染ルート

ノカルジアは、土壌などの自然界に広く分布しています。

外傷などにより皮膚に感染したり、経気道的に肺に感染したり、血流を介して中枢神経系や腎などの全身の臓器に播種性感染を生じたりします。

日和見感染症として発症することが多いです。

なお、ノカルジアには、Nocardia asteroides、N. farcinica、N. brasiliensis、N. novaなどの菌種がいます。

ヒトに感染し、発症する代表的なものは、Nocardia asteroidesです。

病態

一般的に、ノカルジアは、膿瘍を形成し組織を壊死させます。

したがって、発熱、疼痛などがみられます。

とくに、肺ノカルジア症では、咳や痰などがみられ、また、胸部X線所見では,多発もしくは孤立性の結節影や塊状影が特徴的で,空洞形成がみられることもあります。

また、中枢神経系の感染では、神経症状がみられます。

診断

膿瘍の穿刺液や喀痰などの検体から塗抹鏡検します(ノカルジアはグラム陽性桿菌)。

さらに、好気培養で菌の検出を試みます(ノカルジアは好気性菌)。

なお、Nocardia asteroidesは、40度から45度で培養すると、他の菌の発育を抑制できると言われており、培養には2週間以上を要することもあります。

レジオネラ選択培地であるWYO培地に発育可能であることから、WYO培地に喀痰を塗布して培養すると、分離率が向上します。

治療

抗菌薬の第一選択は、ST合剤(バクタ)です。

ミノマイシンや、アミカシン、イミペネムなども使用できます。

なお、皮膚ノカルジア症では、膿瘍の切開、排膿が重要です。

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医療

風疹の感染経路,病態,診断,治療

風疹の感染ルートや、病態・診断・治療について解説します。

定義

風疹は、トガウイルス科(Togaviridae family)の風疹ウイルスによる発疹性ウイルス感染症です。

感染ルート

感染経路は、鼻汁や気道分泌液の接触または飛沫感染です。

病態

潜伏期は2〜3週間で、全身性に斑状丘疹状の淡紅色紅斑が出現します。

ふつう、色素沈着や落屑を残さず(麻疹と異なる点)、数日の経過で消退します。

発疹出現数日前から3~6週間程度持続する耳介後部・後頭部・頸部を中心としたリンパ節腫脹が特徴です。

なお、症状が認められない不顕性感染は約15~30%程度存在するといわれています。

成人の場合、重症になる場合が多く、39℃以上の発熱と発疹が1週間程度持続したり、脳炎や血小板減少性紫斑病をまれに合併します。

診断

症状発現時から症状消失後5~6週間程度であれば,、enzyme immunoassay(EIA)による風疹特異IgM抗体が検出されます。

なお、偽陰性や偽陽性があることに注意する必要があります。

また、HI(hemagglutination inhibition)法により,急性期と回復期のペア血清で4倍以上抗体価の上昇があれば風疹と診断できます。

なお、軽症の麻疹,伝染性紅斑,溶血性連鎖球菌感染症、エンテロウイルスなどの種々のウイルス感染による発疹症などとの鑑別が重要です。

治療

風疹ウイルスに対する特異的治療法はなく,対症療法となります。

法律関係

感染症法では、5類感染症に属し全数報告とされています。

学校伝染病の第2種伝染病で、発疹が消失するまで登校停止となります。

検査に関しては、検体からの風疹ウイルスの分離培養や、RT-PCR法などによる風疹ウイルスの遺伝子検出は、健康保険適用がありません。

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医療

Q熱の感染経路,病態,診断,治療

Q熱について解説します。

定義

Q熱とは、偏性細胞内寄生菌であるCoxiella burnetiiのヒトへの感染に起因する人獣共通感染症です。

感染ルート

ウシやヒツジなど家畜からの感染例が多いと言われています。

また、保菌動物は多彩であり、都市型の発症例ではイヌ・ネコ・ハトなどが感染源となります。

感染経路は保菌動物由来の分泌物や排泄物の経気道吸入が中心となります。

ヒトからヒトへの感染は成立しないので隔離などは不要です。

病態

急性Q熱は、曝露後1〜3週間の潜伏期に続いて発症します。

曝露後の発症率は約50%と言われています。

高熱、頭痛、倦怠感、筋痛などの症状を呈し、インフルエンザ様の上気道炎や気管支炎・肺炎・肝炎・不明熱などの多彩な病像を呈します。

急性Q熱症例のうち、一部は心内膜炎などの病像を呈して治療抵抗性な慢性Q熱に移行する可能性があると言われています。

急性Q熱は予後良好な一過性の熱性疾患ですが、脳炎・心筋炎などの併発による死亡例も報告されています。

診断

血清抗体価の測定により診断します。ただし、IgG抗体価の上昇には1〜2か月かかる場合が多く、確定に時間がかかるようです。

治療

急性Q熱の第1選択薬はテトラサイクリン系薬です。

βラクタム薬やアミノグリコシドは無効です。

法律関係

抗体検査は保険適用外であるが、疑わしい症例に関しては検査会社を介しての外注、あるいは国内の研究施設、地域の衛生研究所などに依頼をすることも可能です。

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医療

液体ミルクで食中毒-原因は保管方法

液体ミルクと食中毒について解説します。

液体ミルクの中に菌がいる

一般に、「加熱調理された食品は安心だ。」と思っている人が多いようです。

たしかに、加熱することで、食中毒菌をはじめ、多くの微生物を殺すことができます。

液体ミルクは、法律で加熱殺菌が義務づけられていますから、大腸菌などの一般的な細菌は死滅します。

しかし、液体ミルクの殺菌方法では、数は少ないものの、乳酸菌をはじめとする何種類かの菌が生き残っています。

ですので、液体ミルクは冷蔵での流通が基本であり、もしも室温で放置すると、じつは、数日で腐敗します。

ただし、中には、完全な殺菌をして無菌充填された液体ミルクも存在し、これは室温での流通が可能です。

どんな菌が残っているか

加熱でも生き残る菌のうち、有毒なものは、いわゆる芽胞菌がほうきんと呼ばれる菌です。

熱に対してきわめて強い菌です。

聞きなれない名前かもしれませんが、たとえば、バチルス属(Bacillus)やクロストリジウム属(Clostridium)に属する菌があります。

もっと具体的には、「セレウス菌」、「炭疽菌」、「破傷風菌」、「ガス壊疽菌(ウエルシュ菌)」、「ボッリヌス菌」などです。

中でも、液体ミルクで、赤ちゃんの食中毒の原因にもっともなりやすいのは、セレウス菌です。

セレウス菌中毒は、嘔吐、下痢などを引き起こし、日本では焼飯やスパゲティーなどが主な原因になっていますが、牛乳に潜んでいるケースが報告されています。

セレウス菌は、加熱でほかの菌が死滅した環境では、むしろ増殖しやすくなります。

つまり、液体ミルクを室温で放置すると、セレウス菌が増殖しているという状態になってしまいます。

菌が混入することもある

ふつう、液体ミルクは、開封して、哺乳瓶に移します。

しかし、その間に、空気中の菌や、手についていた菌が混入したりする場合があります。

たとえば、上に述べた芽胞菌もそうですが、特にやっかいなのは、食中毒を起こす「黄色ブドウ球菌」です。

黄色ブドウ球菌は、増殖のスピードが非常に早く、液体ミルクを室温で放置すると、あっという間に増えてしまいます。

食中毒対策は

液体ミルクによる食中毒を防ぐには、液体ミルクの開封後に赤ちゃんに飲みきってもらうのがベストです。

もし全部を飲みきれない場合は、冷蔵庫に保管しますが、やはり、長時間の保存はせず、数時間以内に飲みきってしまうのがよいでしょう。

なお、室温放置してしまったときの取り扱いには注意が必要です。

まちがって室温放置してしまったものを、どうしても飲ませなければいけないときは、再加熱して飲ませるのが良いでしょう。

芽胞菌は熱に強いとすでに述べましたが、じつは、液体ミルクの中で増えている間は、熱に弱い状態になっているからです。

まとめ

液体ミルクは、母親と父親にとって、とても便利なものです。

しかし、液体なので、菌が増えやすくなってしまうデメリットがあります。

できるだけ清潔な状態にして、数時間以内にすばやく赤ちゃんに飲んでもらうのがベストです。

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医療

麻しん(はしか)のやさしい解説

麻疹(ましん)、別名「はしか」について、やさしく解説します。

定義

麻しんは急性の熱性発疹性ウイルス感染症です。

疫学

ワクチンを接種する前の乳幼児と、麻疹との接触機会が少ない成人は、麻しんにかかる可能性が高くなります。

なお、麻疹/風疹の混合生ワクチンを2回接種した効果が出るまでには、数年を要します。

病態

麻疹の病期は,カタル期、発疹期、回復期に分類されます。

(1)カタル期

感染してから10~12日後に発症します。

発熱や、咳、咽頭痛、鼻汁などの上気道炎症状、結膜炎症状、消化器症状、全身倦怠感などがあります。

発疹出現1~2日前より、Koplik斑(周囲が赤く中心が白色の点状斑)と呼ばれる細かな斑点が認められます。

カタル期の終わりに、一時、熱が下降します。

(2)発疹期

熱がいったん下降した後,再び高熱が3-4日間、持続します。

これは、始めの発熱とあわせて「二峰性発熱」と呼ばれます。

発疹期には、頭部、頸部より発疹が出現し、体幹や四肢へと拡大します。

発疹は紅斑性丘疹で始まり、しだいに融合して大小不同の斑状となり、特有の麻疹様顔貌を呈します。

3~4日間持続した後に褐色の色素沈着を残します。

(3)回復期

微熱となってやがて解熱します。

全身倦怠感や咳が持続する場合には,肺炎の合併を疑います。

診断

診断は、主に麻疹IgM抗体により診断されます。IgG抗体の有意な上昇により診断も可能です。

また、高熱,皮疹,眼球結膜の充血、Koplik斑の出現は麻疹の特徴的所見であるため、診断に有用です。

PCR法によるRNAの検出なども有用です。

なお、風疹、パルボウイルスB19感染症、薬疹、染性単核球症〔EBウイルス,サイトメガロウイルス)、急性HIV感染症、リケッチア症などとの鑑別が重要です。

合併症

肺炎、脳炎、亜急性硬化性全脳炎(SSPE:subacute sclerosing panencephalitis)、内耳炎,中耳炎,副鼻腔炎などがあります。

治療

対症療法

特異的治療はないため,安静,補液,解熱鎮痛薬などの対症療法が主体となります。

接触後発症予防

麻疹抗体価の陰性者が麻疹ウイルスに感染したと考えられる場合、72時間以内に麻疹生ワクチンを緊急で接種します。

法律関係

感染症法により麻疹は全数報告となっています(五類感染症)。

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医療

腸結核の病態,検査,診断,治療

腸結核(Intestinal Tuberculosis)の病態、検査、診断、治療について解説します。

病態

下痢、腹痛、血便、発熱、体重減少、腹部膨満、倦怠感、悪心・嘔吐、食欲不振などの症状を呈します。

肺病変の存在により呼吸器症状をきたすこともあります。

なお、回盲部に潰瘍が多発します。特に、輪状潰瘍が特徴的で、治癒期には、萎縮瘢痕帯と呼ばれる変形をきたします。

診断

腸結核では、生検標本の塗抹、培養、PCR法で結核菌を証明することで診断します。

また、組織学的には、乾酪性肉芽腫を認めることで診断が確定します。

検査

1 X線・内視鏡検査

回盲部に輪状潰瘍、帯状潰瘍、地図状潰瘍などを認めます。治癒期には、偽ポリポーシスや偽憩室を伴った萎縮瘢痕帯を形成し、回盲弁は開大します。

2 塗抹検査

病変部の生検組織を用いて、Ziehl-Neelsen法や蛍光法による抗酸菌塗抹染色をします。

3 培養検査・PCR法

病変部の生検組織を用いて培養します。なお、便からの培養は陽性率が低いので勧められません。判定まで数週間かかります。また、PCR法により結核菌遺伝子を検出します。

4 組織検査

病変部の組織に、乾酪性肉芽腫が証明されれば診断は確定します。

治療

腸結核と診断されれば、結核療養所にて治療します。

抗結核療法である、3剤併用療法(イソニアジド,リファンピシン,ストレプトマイシンあるいはエタンブトール)を行います。

腸結核では1週間で症状が改善し、3~4週間でほぼ消失します。