カテゴリー
病気

ウイルス性出血熱

ウイルス性出血熱は、重篤な急性熱性疾患です。世界的に最も警戒すべ感染症です。

感染症法では、「エボラ出血熱」、「クリミア・コンゴ出血熱」、「南米出血熱」、「マールブルグ病」、「ラッサ熱」が第1類疾患に分類されています。

エボラ出血熱

原因と感染ルート

エボラウイルス(Ebola virus)が原因です。フィロウイルス科に属するウイルスです。

コウモリが自然宿主で、ゴリラ・チンパンジーなどの中間宿主を介してヒトに感染することが多いといわれています。

主に患者の血液・体液・汚物などから感染します。

中央アフリカ・西アフリカなどで発生します。

発症

潜伏期は、数日から3週間ほどです。平均は1週間ほどです。

急に発症し、全身倦怠感、頭痛、筋肉痛、関節痛、下痢、結膜炎などが生じます。

そして、3日ほど経つと急速に悪化し、発疹が出て、出血傾向となります。

さらに、6~9日経つと、激しい出血とショック症状などにより死にいたります。

致死率は50~80%です。

診断

海外渡航者や、海外渡航者と接触した人の発熱には注意が必要です。

確定診断は,国内では国立感染症研究所にて、ウイルス遺伝子、ウイルス抗原、血清抗体の検出などを行います。

治療

ウイルスの感染を疑うときは,保健所へ届出ます。

患者は、指定医療機関に隔離入院となります。

治療内容は,抗ウイルス薬投与、全身管理,補助療法などです。なお、ワクチンはありません。

クリミア・コンゴ出血熱

原因と感染ルート

クリミア・コンゴ出血熱ウイルス(CCHFウイルス:Crimean-Congo haemorrhagic fever virusが原因です。ブニヤウイルス科に属するウイルスです。

野生動物、家畜を含む多くの哺乳動物が自然宿主で、ダニを介してヒトに感染します。

アフリカ・中近東・東欧・西部中央アジア地域などで発生します。

発症

潜伏期間は数日から1週間ほどです。感染しても20%程度しか発症しません。

症状は、エボラ出血熱などの他の出血熱に似ており、発熱、頭痛、悪寒、筋肉痛、関節痛、腹痛、嘔吐、咽頭痛、結膜炎、黄疸、羞明、種々の知覚異常などが生じます。

また、点状出血が一般的にみられ,進行すると紫斑も生じます。

重症化すると全身出血をきたすこともあります。致死率は20~40%程度といわれています。

南米出血熱

定義

南米出血熱は、アルゼンチン出血熱、ブラジル出血熱、ベネズエラ出血熱、ボリビア出血熱の総称です。

原因と感染ルート

原因は、アレナウイルス科に属するウイルスで、具体的には、アルゼンチン出血熱が「フニンウイルス」、ブラジル出血熱が「サビアウイルス」、ベネズエラ出血熱「ガナリトウイルス」、ボリビア出血熱が「マチュポウイルス」です。

主な感染経路は,ウイルス保有ネズミの排泄物,唾液,血液などとの接触です。

発症

潜伏期間は7~14日で,初期症状として突然の発熱、筋肉痛、悪寒、背部痛、消化器症状がみられます。

3~4日後には衰弱,嘔吐,めまいなどが出現し、重症例では高熱,出血傾向,ショックが認められます。致死率は30%といわれています。

マールブルグ病

原因と感染ルート

原因は、マールブルグウイルス(Marburg virus)です。フィロウイルス科に属するウイルスです。

宿主やヒトへの伝搬経路は解明されていません。ケニア,コンゴ、アンゴラなどで発生します。

ヒトからヒトへの感染は血液・体液への接触によって起こります。

発症

潜伏期間は3~9日間です。急に発症し、発熱、全身倦怠感、頭痛、筋肉痛、関節痛、腹痛、嘔吐、下痢など生じます。

3日目ごろには出血傾向があらわれ、その後、発疹があらわれます。

第6~9病日に激しい出血傾向やショック症状を呈して死に至ることがあります。

致死率は20%以上といわれています。

ラッサ熱

原因と感染ルート

病原はラッサウイルスです。アレナウイルスに属するウイルスです。

ノネズミのマストミスの排泄物に接触することで感染します。

ナイジェリアから西アフリカ地方に常在するウイルスです。

発症

潜伏期間は1週間~3週間程度で、急に発症し、初発症状はインフルエンザに似ています。

高熱,全身倦怠感に続き,3~4日目に大関節痛,咽頭痛,咳,筋肉痛,心窩部痛,後胸部痛,嘔吐,悪心,下痢,腹部痛などが生じます。

重症化すると顔面頸部の浮腫,眼球結膜出血,消化管出血,心嚢炎,胸膜炎,ショックが見られる発熱なども生じます。

致死率は1%ほどです。

カテゴリー
病気

サイトメガロウイルス腸炎

サイトメガロウイルス腸炎について解説します。

定義

腸管CMV感染症とは、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)により腸管に炎症が引き起こされる疾患です。

サイトメガロウイルスは、ヘルペス科のDNAウイルスであり、種特異性が強くヒトのみに感染するウイルスです。

ほとんどの人は、幼少期に、サイトメガロウイルスに感染します。

大半は、発症することなく、生涯にわたって潜伏感染します(いわゆる不顕性感染)。

感染経路は、唾液、尿、母乳のほか、輸血による感染、性行為などです。

サイトメガロウイルスが何らかの理由で再活性化すると、腸管に炎症が引き起こされます。

これをCMV腸炎(腸管CMV感染症)と呼びます。

サイトメガロウイルス腸炎は、後天性免疫不全症候群(AIDS) がハイリスクとされ、ほかにも、ステロイド、免疫抑制剤、抗癌薬の使用などで全身の免疫力が低下した状態にある患者にも発症し易いです。

近年は、ステロイド使用歴のないUC患者や重篤な基礎疾患をもたない健常者におけるCMV感染症の報告が増えており、必ずしも易感染性宿主のみに生じる疾患ではないことを理解しておく必要があります。

症状について

CMV腸炎の臨床症状は、下痢、下血、粘血便、発熱など、非特異的な症状を呈します。

診断について

診断は、内視鏡検査による所見と、生検組織を用いた病理組織学的な所見をもとに確定します。

CMV腸炎の内視鏡像は、一般に、潰瘍形成が最も多く、特に地図状あるいは打ち抜き様潰瘍が特徴的とされています。

発赤、びらん、小潰瘍から不整形潰瘍、類円形、地図状、縦走性、打ち抜き、 巨大潰瘍など種々の潰瘍形態が報告されており、多彩な所見を多発性に認めることが多いと報告されています。

また、病理学的には、生検組織を用いた核内封入体保有細胞の検出などによりCMV感染を証明します。

なお、血液採取によるCMV antigenemia法または、Polymerase Chain Reaction (PCR)法により、CMV血症を評価することもできますが、これらは血中のCMVの存在を確認する検査法であり、CMV腸炎の確定診断とはなりません。

治療について

CMV治療薬には、点滴製剤であるガンシクロビル、ホスカルネット、経口製剤であるバルガンシクロビルの有効性が報告されています。

画一的な標準的治療は確立していませんが、CMV感染症治療の第一選択薬としてはガンシクロビルが適しているとの報告が多くなされています。

ただし、ガンシクロビルは、骨髄抑制などの副作用があることから、 確定診断を得た症例のみが適応となります。

通常、2 ~4週間の初期治療に引き続いて、数週間の維持療法が行われます。

なお、免疫不全のない患者は自然治癒することもあるため、抗ウイルス薬治療は、症状、病変の重症度などに応じて判断する必要があります。

カテゴリー
病気

食道カンジダ症の診断、治療、予後

食道カンジダ症

食道カンジダ症とは、皮膚や食道の常在菌である真菌のカンジダが食道内で増殖し、胸焼け、胸痛、嚥下時痛などの症状を引き起こす疾患です。

カンジダ食道炎は、免疫不全患者や、白血病患者、悪性腫瘍患者に多く、ほかにも、長期に副腎皮質ホルモン剤を服用している患者や、抗生物質内服患者、コントロール不良の糖尿病患者などにも認められます。

食道カンジダ症は、その特徴的な内視鏡所見から、カンジダ食道炎とも呼ばれています。

診断

確定診断のためには、内視鏡検査を行います。

食道カンジダ症の場合、食道内視鏡検査で、食道内に水洗浄で容易にはがれない、斑状またはびまん性の白苔を認めます。

この白苔はカンジダ症に 特有で、多発している場合が多く、点状や線状に配列したり、癒合して縦列形成あるいは地図状白苔として認められたりします。

背景粘膜は浮腫状で発赤を呈し、易出血性です。

さらに白苔部位の病理検査(粘膜生検)や、微生物検査(塗抹・培養)などで酵母様真菌を確認することで診断されます。

また、抗真菌薬による診断的治療で症状が改善傾向となる場合は、そのことが食道カンジダ症と判断する根拠になりえます。

なお、問診も重要で、HIV感染などの病歴や、嚥下困難、嚥下時痛などの症状が診断のヒントになります。

治療

内視鏡検査で所見が認められ、なんらかの自覚症状や他覚症状を認めるときに治療の対象となります。

診断後、または診断的治療目的でフルコナゾールの内服を開始します。

内服開始から数日~1週間以内に症状の改善が得られていることを確認します。

軽症は内服治療で十分ですが、重症例は点滴治療を行います。

予後

基礎疾患にもよりますが、予後は良好で、治癒後の再発は少ないと報告されています。

ただ、まれに食道潰瘍形成や出血、穿孔、ろう孔形成、狭窄、真菌性敗血症をきたすことがあります。

カテゴリー
病気

肝膿瘍の症状、診断、検査、治療

肝膿瘍とは、肝臓に膿瘍を認める状態です。

膿瘍は、肝臓外から原因となる細菌や原虫などが肝組織内に侵入・増殖して形成されます。

症状

発熱、倦怠感、悪寒、戦懐、右上腹部の圧痛、食欲不振、吐気・嘔吐、体重減少などの非特異的症状が2週~1カ月ほど持続します。

症状としては、発熱が最も多く、上腹部痛の割合も高くなっています。

肝腫大も特徴的な所見です。

原因微生物

病原体により化膿性肝膿瘍(細菌性肝膿瘍)と原虫性肝膿瘍(アメーバ性肝膿瘍)とに大別されます。

化膿性肝膿瘍は、単独感染の場合と混合感染の場合があります。

細菌としては、単独感染の場合は、Klebsiella属または、Streptococcus anginosis Groupが多く、混合感染の場合は、E.coliなどの腸内細菌科とBactrioides属が多いです。

なお、真菌ではCandida sppが原因となります。また、免疫抑制状態の症例などでは、真菌や結核感染が原因となる場合もあります。

他方、原虫では、Entamoeba histolytica(赤痢アメーバ)が原因となります。

感染経路

細菌性肝膿瘍における病原体の肝内への侵入経路には、胆道、門脈、動脈、直達、外傷、侵襲的治療などがあげられます。

経胆道性が全体の40~60%を占め最も多いと報告されています。

他方、原虫性肝膿瘍(すなわち赤痢アメーバによる肝膿瘍)は、感染性を有する嚢子型アメーバ(シスト)の状態で経口的に侵入し、腸管内で栄養型アメーバとなり、その後、結腸粘膜を通過し、大腸から経門脈的に肝臓に移行して膿瘍を形成します。

赤痢アメーバの日本での感染は、男性同性愛者の感染が代表的で、20~50歳代の大都市に居住する男性に集中しており、近年は性感染症の1つとされ、B型肝炎やC型肝炎、梅毒やHIVを伴う事例が多く報告されています。

また、知的障害者施設における集団感染や、異性間の感染も見られます。

診断・検査

この疾患に特有の症状が存在しないことから、症状のみで診断することは困難です。

したがって、不明熱の鑑別疾患に、肝膿瘍を含めることが重要となります。

なお、ALP高値をみた場合に想起すべき疾患の1つであるとも言われています。

腹部エコー検査、腹部造影CT検査を行うことで、膿瘍を確認することができます。

また、血液培養を実施します。

アメーバ赤痢の関与を確認するため、血清赤痢アメーバ抗体も検査します。

膿瘍穿刺液の細菌学的検査も有用です。

また、既往歴や海外渡航歴、性的接触歴なを聴取することも大切です。

治療

細菌性肝膿瘍では多くの場合、抗菌薬治療を行い、同時に、ドレナージを行います。

ドレナージは、経皮経肝膿瘍ドレナージ(PTAD)を施行し、膿瘍腔を生理食塩水にて洗浄後、抗菌薬を直接注入します。

抗菌薬としては、アンピシリン・スルバクタム(商品名ユナシン)、タゾバクタム(商品名ゾシン)など広域スペクトル薬剤を選択します。

アメーバ性肝膿瘍を疑う場合は、抗菌薬治療のみで改善することが多く、ドレナージをせずに、メトロニダゾール(商品名フラジール)にて治療します。

法律

赤痢アメーバによる感染の場合は感染症法5類感染症であり7日以内に届出をする必要があります。

カテゴリー
病気

腸結核の症状、診断、治療

腸結核は小腸や大腸に結核菌が感染することで発症する感染症です。

症状

症状は、慢性に継続するはっきりとしない腹痛が最も多くなっています(80~90%)。

ついで下痢、吐下血、腹部膨満、嘔吐、発熱、腹部腫瘤、体重減少などとなっています。

そのほか、発熱、全身倦怠感、寝汗などの症状がみられることもあります。

診断

腸結核は、大腸内視鏡検査にて、多発潰瘍、潰瘍化した集塊、無茎性ポリープ、小憩室を認めます。

病理組織学検査では、大腸内視鏡下の生検にて乾酪性肉芽腫を認めることもあります。

腸結核の確定診断は、便培養検査や病変部の内視鏡下生検検体による生検培養、あるいは生検検体からPCR法によって、結核菌の存在を確認します。

結核感染の補助診断としては、インターフェロンγ遊離試験(IGRA)が用いられます。

クオンティフェロンゴールドや、TスポットTBの検査を実施します。

クローン病との鑑別

腸結核では輪状潰瘍、帯状潰瘍が特徴的とされますが、多彩な病変を呈することが示されており、とくに腸管長軸方向に伸びる潰瘍ではクローン病との鑑別が重要です。

治療

腸結核の診断が確定した場合には、抗結核薬にて治療を開始します。

また臨床上、強く結核性腸炎が疑われる場合には、診断的治療を行うこともあります。

治療は、肺結核と同様で、4剤(リファンピシン[RFP]、イソニアジド[INH]、エタンブトール[EB]、ピラジナミド[PZA])で治療を開始し、2カ月後に2剤(INH、RFP)に減量して4ヵ月間継続して治療します。

カテゴリー
病気

細菌性赤痢(赤痢菌性胃腸炎)

概要

細菌性赤痢(赤痢菌性胃腸炎)は、赤痢菌の感染により、胃腸炎症状を引き起こす疾患です。

感染力が強く、 10~100個の菌で感染が成立します。

赤痢菌は、経口 されると、12~50時間の潜伏期を経て発熱などを引き起こします。

38度から39度の発熱のほか、水様性下痢、倦怠感、食欲不振、嘔吐などの症状が現れます。

その後にしぶり便(いわゆるテネスムス)や、急激な腹痛をともなう少量の膿粘血便となります。

推定感染地の50~60%は、インド、インドネシア、中国、ベトナム、タイ等のアジア地域です。

衛生環境のよくない国では、便から排泄された赤痢菌が、生水、氷、生野菜、果物、刺身などを汚染していると考えられています。

詳細

原因菌

赤痢の原因菌は赤痢菌(Shigella)です。

志賀毒素と呼ばれる毒素を産生します。

腸内細菌科に属し、形態的には鞭毛を持たない無毛菌です。

遺伝子レベルでは大腸菌と非常に近い関係にある菌です。

本菌は、1898年に志賀潔博士によって発見されました。

学名Shigellaは、志賀博士の名前から命名されたものです。

生物学的な分類ではA群〜D群の4つに分けられます。

診断

海外渡航歴を確認することが重要です。

ただし、まれに国内感染例もあることに留意する必要もあります。

しぶり便(テネスムス)や膿粘血便などが見られたら、赤痢菌性胃腸炎を強く疑うことができます。

下痢を引き起こす菌の種類は多数あるため、便培養で、赤痢菌を同定することにより診断します。

検査法

選択培地として、SS培地やDHL培地を用いて便培養を実施します。

培養後の集落の形態や血清反応により赤痢菌を簡易同定し、生化学的性状などを確認して確定します。

治療

治療は、脱水の補正と抗菌薬の投与がメインです。

脱水の補正は、通常、経口摂取で行い、脱水が高度で経口摂取不可能なときは補液を行います。

抗菌薬に関しては、フルオロキノロンの3~5日間内服治療が推奨されています。

下痢止めの薬は、菌の排泄を阻害することになり回復を遅らせるため、推奨されません。

法律

赤痢菌性胃腸炎は、感染症法第三類の全数把握対象疾患です。

ただちに保健所へ報告する義務があります。

また、学校保健安全法では、医師が、感染のおそれがないと認めるまで出席停止となっています。

また、食品衛生法では、食中毒を診断したときは、ただちに最寄りの保健所に届出を行うこととなっています。

カテゴリー
病気

旅行者下痢症の感染経路、原因微生物、予防法、診断、治療

概要

旅行者下痢症とは、主に国外旅行者が滞在先で遭遇する下痢症状です。

海外渡航者の帰国後の受診理由で発熱とともに頻度の多いのが、この下痢症で、旅行者の30~40%が罹患すると言われています。

旅行者下痢症は、重症例はまれで、適切な治療や対症療法で対処可能です。

詳細

感染経路

リスク因子として、渡航先が最も重要となります。

感染経路は水、食事が主です。

現地の飲用水を飲んだり、非加熱の食材を食べたりすることでリスクが上がります。

特に、氷、ジュース、生野菜、生鮮魚介類のいずれかの飲食がハイリスクです。

原因微生物

細菌、ウイルス、寄生虫など原因となる病原体は多様です。

細菌でもっとも多いものは、毒素原生大腸菌(enterotoxigenic Escherichia coli、ETEC)と言われています。

また、カンピロバクター、サルモネラ、赤痢菌、チフス、パラチフス、エロモナス、プレシオモナス、コレラ、ビブリオなどもあります。

そのほか、ランブル鞭毛虫、クリプトスポリジウム、赤痢アメーバにも注目する必要があります。

予防法

清潔管理に気を配るのが原則です。

具体的には、加熱していない食べ物を摂取しないこと、現地の水を飲まないこと、手洗いを徹底することなどです。

また、飲用水を確保するには、65 ℃以上で1分間加熱し、水中のほば全ての腸管病原性の細箘を殺します。原虫も、55 ℃以上で 5分間加熱すれば不活化されますので安心できます。

診断

海外渡航中または帰国後短期に、1日3回以上の非有形便を認めるという病歴および症状で診断します。

確定診断には、便培養の結果で確定診断となります。

ほかに、血清抗体価や、血液培養も併用できます。

原虫や寄生虫の診断には、糞便の顕微鏡検査が有効です。

治療

旅行者下痢症は一般的に自然経過で改善するため、輸液や電解質補正による対症療法が重要です。

ただし症状が持続する場合や症状が強い場合には、抗菌薬投与を行います。

基本的には、ニューキノロン薬あるいはホスホマイシンを3日間投与で対処します。

カテゴリー
病気

サルモネラ症の症状、診断、治療

サルモネラ症

サルモネラは、グラム陰性、通性嫌気性の桿菌で、腸内細菌科に属する菌です。

サルモネラを大きく分けると、チフス、パラチフス、その他のサルモネラがあります。

サルモネラ症とは、チフスやパラチフス以外のサルモネラ菌の感染により引き起こされる感染症です。

サルモネラ症を引き起こす病原体として主に問題となるの はSalmonella enterica subsp. entericaです。

参考:サルモネラの種類

サルモネラは、2菌種6亜種が存在します。

さらに、サルモネラは60種類以上の菌体表面抗原(O抗原)と80種類もある鞭毛抗原(H抗原)の組み合わせによって2,500種類以上の血清型が存在しています。

症状

サルモネラ症で多いのは食中毒で、日本の食中毒発生状況で常に上位に位置しており、食品衛生上重要な病原体です。

症状としては、急性発症の発熱、腹痛、下痢が典型例ですが、嘔吐や血便を伴うこともあり、合併症として菌血症や感染性動脈炎があります。

発症は、95%以上が食事由来です。

卵や、卵の加工食品、調理不十分な肉などが原因となっています。

潜伏期間は、摂取から12~72時間です。

診断

症状から、サルモネラ症と他の感染性腸炎と鑑別することは難しいです。

便の培養の結果で、チフスやパラチフス以外のサルモネラ菌を検出して診断します。

鑑別を要するのは、赤痢菌、カンピロバクター、エルシニア、赤痢アメーバなどです。

敗血症も調べるため、不明熱が続く患者や、ハイリスク患者では、血液培養も採取すると良いでしょう。

治療

抗菌薬の投与、脱水の補正、プロバイオティクスの投与が主な治療となります。
サルモネラ菌には、耐性菌は確認されていないため、一般的な内服薬で足ります。

ニューキノロンが適当で、シプロキサンなどを5日間投与するのが基本です。

ただし、血液培養陽性例や免疫不全者では、二週間程度の治療が勧められます。

法律

サルモネラによる胃腸炎は、感染症法の5類疾患である「感染性胃腸炎」に含まれます。

食中毒の場合は、食品衛生法で、ただちに最寄りの保健所に届出を行うこととなっています。

カテゴリー
病気

A型肝炎の感染経路、症状、治療、予後

定義

A型肝炎は、A型肝炎ウイルス(HAV)による急性ウイルス肝炎です。

解説

ウイルス

A型肝炎ウイルス(HAV)は、ピコルナウイルス科のヘバトウイルス属に分類される全長7500塩基の一本鎖のプラス鎖RNAウイルスです。

HAV遺伝子型は1 ~ 7型までの7種類に分類されています。

感染ルート

主な感染媒体は汚染された水および食べ物であり、経口感染で拡がります。

肝臓で増殖したウイルスが胆汁から腸管、そして便中に排出され、排泄物がなんらかの経路で口より侵人し感染が成立します。

最近では、HAVに汚染された輸入食品による感染例が散見されます。

また、ドラック使用者間の感染や、同性愛者間での流行なども見られます。

なお、日本では公衆衛生環境の発達や上下水道の整備に伴い、A型肝炎の発生数は減少しています。

しかし、世界的には、A型肝炎流行国は多く、そのような地域への渡航がリスクファクターとなっています。

症状

感染から約1ヶ月の潜伏期間を経て発症します。

前駆症状として突然の高熱 (38℃以上)と、全身の著しい倦怠感が特徴的です。

他の症状として、頭痛、関節痛、筋肉痛、咽頭痛等の前駆症状がみられることもあります。

その後、典型的には、黄疸、肝腫脹、黒色尿、白色便などがみられます。

成人は40~70 %が黄疸になると言われます。

小児では不顕性感染や軽症ですむことが多く、6歳以下の黄疸出現率は10%以下と言われます。

なお、罹患年令が高いほど、重症例・死亡例が増加する傾向があります。

治療

HAVに感染し発症すると、一ヶ月程度の入院加療を必要とします。

基本的には安静で、他の急性肝炎と同様、対症療法が中心となります。

検査

HAVの急性感染の診断は、IgM-HA抗体を検査します。

症状が出現してAST/ALTが上昇しているときには、通常はlgM-HA抗体が上昇しています。

したがって、この検査が陽性であれば、A型急性肝炎として診断可能できます。

陽性は感染後3~6ヵ月間持続すると言われています。

なお、重症A型急性肝炎の急性期には、AST/ALTが上昇しているにもかかわらず、lgM-HA抗体が上昇していない症例も報告されているため、注意が必要です。

予後

一般に、致死率が低く慢性化もしません。

予後良好な疾病です。

法律

感染症予防法では4類感染症に分類されており、ただちに届け出る必要があります。

カテゴリー
病気

梅毒の症状、検査、治療

梅毒の概要

梅毒はスピロヘータ目に属する梅毒トレポネーマ Treponema pallidum subsp. pallidum(直径0.1〜0.2μm、長さ10〜20μmのらせん状菌)により生じる性感染症です。

梅毒は、性感染症のひとつですが、まれに接触感染や輸血による感染もあります。

胎児が母体内で経胎盤的に感染する場合があり、これは「先天梅毒」と呼ばれ、妊娠中の女性における積極的な診断と治療は先天梅毒を防ぐために特に重要とされます。

それ以外の感染症は、「後天梅毒」と呼ばれます。

なお、皮膚や臓器での梅毒による症状がみられるものを「顕性梅毒」とし、症状はみられないが梅毒血清反応が陽性であるものを「無症候梅毒」という区別もあります。

感染のメカニズムとしては、皮膚や粘膜の微小な傷から梅毒トレポネーマが侵入して感染し、局所で増殖した後、やがて血行性に全身に散布されて種々の症状を引き起こします。

なお、梅毒は日本の感染症法で5類感染症です。

患者や、無症状であっても病原体を保有する者について、全例を都道府県知事に届け出る必要があります。

臨床像(症状)

後天梅毒では、臨床像は、第一期梅毒(早期の顕症梅毒)、第二期梅毒、無症候性の潜伏期梅毒(第三期梅毒)、第四期梅毒(晩期顕症梅毒)に大別されます。

第一期梅毒

第一期梅毒は、感染後平均3週間で発症します。

早い場合は3〜10日程度、遅い場合は90日程度と幅があります。

男性の陰茎亀頭部や女性の陰唇部に発症します。

トレポネーマの侵入部位である感染局所に無痛の硬結が生じ(初期硬結)、周囲は隆起し中心部に潰瘍を形成して下疽(げかん)となります。

また局所所属リンパ節腫脹が認められます。

第二期梅毒

第二期梅毒は、トレポネーマが血行性に全身播種し、主に上皮表面を障害します。

そのため、皮疹などの身体所見や発熱倦怠感、鼻汁、咽頭痛、筋肉痛、頭痛、圧痛のない全身性リンパ節腫脹などの全身徴候が認められます。

第二期梅毒は、第一期梅毒後2〜12週間、長い場合には6ヶ月後までの問に発症します。

第二期梅毒では、主に皮膚が障害され、大半の事例で、皮疹あるいは粘膜疹が認められます。

初期には全身性の掻痒を伴わない斑状発疹あるいは紅斑が体幹から生じ肩から四肢に広がり2週間程度認められます(通常手掌や足底顔面にはみられない)。

典型的な皮疹は「バラ疹」と呼ばれます。

潜伏期梅毒

第二期梅毒が無治療の場合や、第四期梅毒を発症するまで、ある程度の期間潜在性に無症候で経過をする時期があります。

この期間は「潜伏期梅毒」呼ばれます。

潜伏期梅毒は最初の1年間に粘膜病変が再発し、感染性のリスクが高い状況になります。

第四期梅毒

第四期梅毒は大きく、心血管梅毒と神経梅毒に分かれます。

心血管梅毒のうち、「梅毒性大動脈炎」は未治療梅毒の70~80%に生じると言われています。

また、合併症(大動脈の循環不全や動脈瘤、冠動脈入口部狭窄など)は、初感染の10~20年後、未治療梅毒の10~15%に生じます。

なお、動脈瘤形成は梅毒性大動脈炎の中でも稀であり5~10%に生じると言われます。

多くは単一の動脈瘤であり,紡錘状よりは嚢状のことが多く、50%は上行大動脈に生じ、大動脈弓部の病変は上行大動脈についで頻度が高く30~40%です。

食道、気管、左気管支、左反回神経に接していることから、疾痛、呼吸困難咳、嗅声、嚥下障害などの症状を比較的早期に呈すると言われています。

検査

病原体の培養が不可能なため、診断は臨床症状にくわえて、病理所見、血清所見によります。

すなわち、梅毒を診断する方法には、病変からトレポネーマを顕微鏡などで直接確認する方法と、血清学的な検査方法があります。

顕微鏡検査では、初期硬結や硬性下疽の表面をメスで擦過して得た液体をスライドグラスに採取し、ブルー・ブラックインク(パーカー社製)、ギムザ液、または墨汁を混ぜて薄くのばし、乾燥後に、顕微鏡の油浸で観察または暗視野顕微鏡により観察します。

血清学的検査は、非トレポネーマ検査と、特異的トレポネーマ検査とが主に用いられます。

非トレポネーマ検査

非トレポネーマ検査はリン脂質のカルジオリピン抗原に対する抗体価を測定するserologic test for syphilis(STS)法で, rapid plasma regain card test(RPR)法とラテックス凝集法が頻用されています。

梅毒感染後2~4週間で陽性となり、通常第二期梅毒から早期潜伏梅毒にかけて最も高くなります。

疾病の活動性と相関することが多いものの、妊婦や高齢者、膠原病、慢性肝疾患、結核、HIV感染などがあると疑陽性となることがあるため(生物学的偽陽性反応:biological false positive:BFP)、結果の解釈に注意が必要です。

STS法は梅毒の治療を開始すると値は低下するが、十分な治療を行っても抗体価が陰性にならない場合もあります(serofast reaction)。

特異的トレポネーマ検査

特異的トレポネーマ検査はT.pallidumの菌体成分に対する反応を測定する方法(TP抗原法)で、Treponema Pallidum Hemagglutination Test(TPHA)法、Fuorescent treponemal antibody absorption test(FTA-ABS)法、ラテックス凝集法、venereal disease research laboratry(VDRL)があります。

特異的トレポネーマ検査は、通常は非トレポネーマ抗体検査が陽性となってから2~3週間後に遅れて陽性となります。

特異的トレポネーマ検査は、非トレポネーマ抗体検査とは異なり疾患特異性が高く、陽性の場合にはこれまでに梅毒に曝露されたことを示します。

ゆえに、特異的トレポネーマ検査は確定診断には必須です

ただし、特異的トレポネーマ検査は、非トレポネーマ抗体検査のように疾患活動性とは相関せず、治療によってT.pallidumが消失した後も陽性が持続しますので、治療効果判定には使用されません。

FTA-ABS抗体のうちIgM抗体は初感染後1週間で産生され約1ヶ月でピークに達し、その頃からIgG抗体が産生されはじめ,3ヶ月頃にピークに達するため、これらを組み合わせることでより正確な診断が可能となります。

RPR、TP抗体ともに陰性は梅毒非感染、RPR陽性/TP抗体陰性およびRPR陰性/TP抗体陽性はガラス板法で再確認を必要とし、RPR陽性/TP抗体陽性例は梅毒感染として解釈できます。

治療

病期にかかわらず、ペニシリンが常に選択されるべき抗菌薬です。

用量・期間・投与経路が病期によって異なります。

国際的には、第一期・第二期梅毒に対し、ベンザチンペニシリン筋注の使用が推奨されています。

心血管梅毒・神経梅毒に対してはベンジルペニシリン静注を用います。

ペニシリン以外の抗菌薬の有効性は、ペニシリンに劣るか、または不明とされています。

可能な限りペニシリンを使用します。

なお、 妊婦の治療は垂直感染の予防を考慮し妊娠週数にかかわらず治療を開始します。

ペニシリン系薬は妊婦にも投与可能である。

ペニシリンアレルギーの場合は脱感作を行って投与を試みることが推奨されます。