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病院のヒヤリハットの解説

あまり一般の人には馴染みがない,病院の「ヒヤリ・ハット」について紹介します.

みなさんが日頃のニュースなどで知る,医療に関する悪いニュースは,死亡事故とか手術ミスとか,そういう重大なやつでしょうか.

いわゆる「アクシデント(事故)」ですね.

しかし,病院では,アクシデント(事故)にいたらないようなミスが,日々,起こっています.

それが「ヒヤリ・ハット」です.

ヒヤリとした,ハットした,というところからきている言葉です.

定義(厚労省)

ヒヤリ・ハットの定義は,

  1. 誤った医療行為などが患者にされる前に発見されたもの
  2. 誤った医療行為などが患者にされたが、結果として患者に影響を及ぼすに至らなかったもの

これらをまとめたものとされています.

よくあるヒヤリ・ハットは?

ヒヤリハットについては,公益財団法人日本医療機能評価機構というところが収集していて,毎年,年報を発行しています.

たとえば,2017年のヒヤリ・ハット事例の分類は,最も多いのが,薬剤です(41.4%).

多くの医療機関では,薬剤に関して,かなり注意を払っているはずなのですが…

実際には,こういったヒヤリ・ハットが多く発生してしまっているのが現状です.

ヒヤリハットになるのは,

  • 医師の間違いを,薬剤師や看護師が発見する
  • 薬剤師の間違いを,看護師が発見する

などのパターンが多いです.

ほとんどの原因は,注意不足や確認不足などのヒューマンエラーです.

病院は,ある程度はシステム化されてきてはいるのですが,やはり,作業の大部分を担うのは人です.

人のやることですから,100%はありえません.

操作ミス,うっかりミス,思い込みによるミス,確認不足によるミス,連絡ミス,さまざまなミスは起こりえます.

みなさん自身あるいはご家族が,もしも患者になったときは,受ける医療行為については,多少の注意を払うことをおすすめします.

少なくとも,何か違和感を感じたときは,すぐに医療スタッフに確認するようにしてください.

それが,みなさん自身やご家族を救うことにつながるかもしれませんから。。。

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減塩2.0 「ソルトチップ」の通信販売

ソルトチップとは?

高血圧の人は,食塩の制限が効果的です.

これまでに,減塩調味料とか,減塩食品,減塩レシピなどが流行りました.

しかし,これらは薄味になってしまって食欲が落ちるというデメリットがありました.

そこへ近年,登場したのが,こちら.

ソルトチップです!

ゼラチンと食塩が主成分で,1枚当たり,0.05~0.1gの食塩が含まれています.

ソルトチップを下の前歯の裏に押し付けるとそこに貼り付き,食塩を少しずつ放出しながら,5分ほどかけて溶けていきます.

たとえば,ソルトチップを使いながら,食塩なしの野菜妙めを食べると,食塩摂取量 0.1g以下で,十分な塩味を感じられるということです.

これは,舌に触れずに胃に入る食塩の量を減らせることにもなります.

製造メーカー 会社はLTaste(エルテイスト)といいます.

https://www.ltaste.co.jp/

慶応に関係するベンチャーです.

社名は,Locat(局所的な)Taste(味)に由来するそうです.

世間からの注目も集めています.

この商品,かなり良いと思います.

高齢の患者さんは,減塩して食欲が落ちて元気がなくなったり,それにより栄養状態が悪化して回復が遅れるケースがあるからです.

減塩しつつ食欲を維持できることは,とても望ましいですね.

購入方法が始まっていたこの商品,まずは病院がターゲットのようで,関東で,手に入れることができていたのですが…

2019年6月25日から,なんと通信販売が開始されていました!!

気になる方は要チェックです☆

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医療広告ガイドラインについて

以前は,医療機関のWEBサイトは,単なる広報と位置付けられていて,広告規制の対象外でした.

しかし,年々,美容医療サービスを提供するクリニックなどのWEBサイトの,虚偽広告誇大広告などのトラブルが増加してきました.

それを受けて,医療機関の広告について規制する医療法が2017年に改正されました(2018年6月1日施行).

また,これに伴い,医療法施行規則(省令)も改正されました.

医療広告ガイドラインも新たに策定され,2018年6月に公表されました.

詳しくはこちらで.▶ 医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針 (医療広告ガイドライン) 

こちらも参考になります.▶医療広告ガイドラインに関するQ&A

 

ガイドラインの内容を,ごく一部ですが,かんたんに紹介します.

(1)虚偽広告

たとえば,「絶対安全な手術です」のような医学的にあり得ない表現は禁止です.

(2)比較優良広告

他の病院やクリニックなどと比較して「優れている」と宣伝する広告は禁止です.

たとえ,それが事実であっても『日本一です』 などの表現は禁止です.

(3)誇大広告

提供する医療サービスが,実際よりも良いものであると印象付けるような広告は禁止です.

「最良」,「最上」,「最先端」,「最適」などの表現も誇大広告に該当します.

(4)患者の体験談

医療機関が,自身のWEBサイトに,患者の体験談を紹介することは禁止です.

なお,医療機関が患者に掲載を依頼して,患者がブログやSNS,口コミサイトに体験談を掲載することも禁止です.

(5)治療前治療後の写真

いわゆるビフォーアフターの写真(治療前または治療後のみの写真も含む)等を掲載することは,全面的に禁止されるのではなく,治療の効果を「誤認させるおそれがある」ものに限定して禁止です.

 

消費者としては,適切に広告している医療機関を見極めたいものですね.

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お酒を飲めない体質の人は,飲酒で食道がんのリスクが上がる

WHO の International Agency for Research on Cancer (IARC)は,飲酒が原因で発癌する部位として,口腔,咽頭(いんとう),喉頭(こうとう),食道,結腸・直腸,肝臓,女性の乳房をあげています.

その中で,

⑴ アルコール飲料中のエタノール

⑵ 飲酒と関連したアセトアルデヒド

これらをヒトへの発がん物質であると認定しています.

食道がん

ここでは,食道がん(食道扁平上皮癌)について述べますと,

いわゆる飲めない体質の人では,食道がんの発がんリスクが上がることが分かっています.

具体的には,エタノールは,体内で,2つの酵素の働きにより,酢酸(さくさん)にまで分解されるのですが…

  • ひとつは,エタノールをアセトアルデヒドに代謝する酵素ADH1B
  • もうひとつは,アセトアルデヒドの代謝酵素ALDH2

いわゆる飲めない体質の人は,活性が低いタイプの酵素の遺伝子保有者なので,エタノールやアセトアルデヒドの影響を強く受ける結果,発がんリスクが上がります.

食道癌のリスク因子 日本臨牀 76(増刊号8): 45-48, 2018より
食道癌のリスク因子 日本臨牀 76(増刊号8): 45-48, 2018より

メタ解析によると,ADH1B*1/*1型の遺伝子保有者は,ADH1B*2型の遺伝子保有者(ADH1B*1/*2およびADH1B*2/*2) に比べて,食道がんのリスクは2.77倍も高くなるそうです.

また,ALDH2*1/*2の遺伝子保有者は,ALDH2*1/*1の遺伝子保有者に比べて,食道がんのリスクが7.12倍も高くなるそうです.

大量飲酒者では,さらにリスクが増えることも示されているようです.

お酒を飲めない体質の人は,できるだけ飲酒を少なくしたほうが良さそうですね.

※参考文献:日本臨牀76(増刊号8): 45-48, 2018

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兵糧攻めにまつわる豊臣秀吉の恐ろしさ「リフィーディング症候群」

このお話は,「豊臣秀吉は恐ろしい」というお話です.

戦国時代の話です.

歴史上,秀吉と官兵衛による,三大城攻めと呼ばれる戦法がありました.

⑴三木の干殺し,⑵鳥取の飢え殺し,⑶高松城の水攻め,この三つです.

ここでとりあげるのは,⑴と⑵の,いわゆる兵糧攻めです.

▼兵糧攻め

兵糧攻めとは,城を包囲し城内へ食料を持ち込ませないことで,城内にいる兵士や馬などを飢えさせる戦法です.

兵糧攻めされた城の中はひどい有様となり,人肉を食べるなど地獄絵図と化したようです.

敵は,耐えきれずに降伏・開城をするしかなかったそうです.

これだけでも,「秀吉が恐ろしい話」としては十分ですが,この話には続きがあります.

▼粥を振る舞った

鳥取の飢え殺しについて残されている記録によると,開城後,秀吉は飢餓状態の兵士や村民に,粥(かゆ)を炊いて振る舞ったそうです.

飢えた人々は,粥をむさぼったそうです.

さぞかし,秀吉は感謝されたことでしょう…

「秀吉サイコー!」

粥を食べた人たちは,そんなふうに思ったに違いありません.

▼死亡者が続出

しかし,事態は急変します.

なんと,粥を食べた者の多くが,その後に死んでしまったのです.

一体なぜ…??

これついて,現代では,当時の兵士や村民は,リフィーディング症候群を発症したと分析されています.

リフィーディング症候群とは,飢餓状態の人に,いきなり栄養をたっぷり与えることで起きる一連の代謝合併症の総称です.

せっかく生き残った兵士や村民は,このリフィーディング症候群により,心不全や呼吸不全などで死んでしまったと推測されています.

▼本当に怖いのは…

実は,この開城後の悲劇について,ある説があります.

それは,秀吉がリフィーディング症候群の存在を知っていたという説です.

わざと粥を振る舞って,敵陣の兵士や村民を死に追いやったそうなのです.

なんという非情な仕打ち…

怖すぎますね.

なお,大河ドラマでは,このあたりの話は出てこないようです.

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CTによる胎児への被ばくの影響

意外かもしれませんが,医療行為に伴う被ばくに関しては,患者の被ばく線量の上限は,設定されていません.

患者が「ベネフィットがリスクを上回る」と判断した場合に,患者がそのベネフィットを受けることを阻害してはいけないからです.

胎児と被ばく

ただ,胎児の場合は,大人よりも放射線の影響が大きそうなので, その点は実際どうなのかと疑問が湧きました.

そこで調べてみると, 胎児の被ばくで考えておくべき問題は,この四つだそうです.

  1. 流産
  2. 奇形
  3. 精神発達,遅滞
  4. 白血病などの発癌

1~ 3はしきい値があるそうで,その数値は100mGy.しきい値を超えない限り発生しないそうです.

この点,通常のCT撮影では,子宮の臓器線量が10mGyを超えることはないので,通常の撮影であれば,1~3については,胎児への影響は問題にならないとのことです.

ただし,薄いスライスの撮影や,頻回撮影などの場合は,放射線量が多くなるというリスクの認識が必要とのことです.

他方,4の胎児被ばくによる発癌に関しては,いまだ調査段階にあり,はっきりとは言及されていないのが現状のようですが… 基本的には,通常のCT撮影では,胎児には問題は起こらないと考えられているそうです.

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医療系専門学校の合格率が高い理由

医療系の専門学校は、高い合格率をうたっています。

国家試験合格率98%!

とか

国家試験合格率100%!

とか。

実は、これにはカラクリがあります。

どういうことかというと…

国家試験を受けるためには「卒業見込証明書」が必要なんですが…

学力の低い生徒には、卒業を認めないのです。

国家試験の前に「卒業試験」を実施し、一定以上の得点をとれなかった人の卒業を認めないのです。

なので、一定の学力のある人だけが卒業し、国家試験を受けることになります…

合格率が高くて当たり前ですよね。

ちなみに、これは入学前の生徒に、学校から知らされることはありません((+_+))

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医療従事者向け 検査

ステロイドとCRP低下・白血球(好中球)上昇

患者さんの経過を追っていると、突然、CRPが大きく低下するのを見かけることがあります。

(炎症が改善したのかな?)

と思って見てみると、ステロイド(例:プレドニン)を使っているケースがあります。

調べてみると、ステロイドを使っていると、CRPは下がりやすく、好中球数は上がりやすくなるそうです。

CRPが下がりやすいのは、炎症性サイトカイン(IL-6 など)の産生が低下するからで、好中球数が上がりやすいのは、好中球の組織への移行が低下するからだそうです。

検査は奥深いですね。

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この研究がすごい! 「人工血液カクテルの開発」

前に話題だった、この研究。

すごいですよ!

朝日新聞:「人工血液、動物実験に成功 1年以上の常温保存も可能

これは,大量出血した患者に対して,応急処置的に使うことを想定した人工血液とのことです.

魔法みたいですね!!

この研究の業績を知りたい方は,こちらの科研のサイトをご覧ください.

止血能を有した救命蘇生用人工血液カクテルの開発

↑ 科研費の助成を受けているようです(JSPS科研費16K11435).

個人的には,日赤(日本赤十字)の利権が,少しですが,脅かされている点にも,注目(?)です.

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「エホバの証人」の信者への輸血に関する最高裁判決

エホバの証人(The Jehovah’s witness)とよばれるキリスト教の一宗派の方々がいらっしゃいます.

聖書は,創造者であるエホバ神が人の内面の美しさを高く評価することを示しているそうです.

おそらく,このことと無関係ではない話として,「エホバの証人」の信者の方々は,輸血を拒否することで知られています.

過去,救命の為に輸血をした医師と「エホバの証人」の信者との間で,いくつもの裁判がありましたが,平成12年2月29日,「エホバの証人」の信者に対して輸血した医師の不法行為責任を認める最高裁判決が出たのは有名です(平成10(オ)1081).

 

事件の概要

患者は「輸血を受けない」という信条を有しており,病院(東京大学医科学研究所附属病院)に対して,「輸血をすることなく治療・手術をしてほしい」という願い出をしていました.

担当医師は「本人の意思を尊重する」と約束しました.
しかし,手術後,患者の容態管理が難しいと考えた医師は,患者の意思に反して輸血をしました.

その後,輸血の事実を知った患者は,精神的ショックを受けました.

患者は,輸血した医師と,その使用者の国に対して,患者の自己決定権や信教の自由を侵害し,甚大な精神的苦痛を強いられたということで損害賠償責任を求め提訴しました.

裁判で決着

東京地裁は原告患者の請求を棄却しました.
東京高裁は原告患者勝訴の逆転判決を言い渡しました.
最高裁(第三小法廷)は,上告棄却の判決を言い渡しました。
最高裁の判決要旨はつぎの通りです.

裁判要旨

医師が、患者が宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒否するとの固い意思を有し、輸血を伴わないで肝臓のしゅようを摘出する手術を受けることができるものと期待して入院したことを知っており、右手術の際に輸血を必要とする事態が生ずる可能性があることを認識したにもかかわらず、ほかに救命手段がない事態に至った場合には輸血するとの方針を採っていることを説明しないで右手術を施行し、患者に輸血をしたなど判示の事実関係の下においては、右医師は、患者が右手術を受けるか否かについて意思決定をする権利を奪われたことによって被った精神的苦痛を慰謝すべく不法行為に基づく損害賠償責任を負う。

以上,ご参考まで.