腫瘍マーカーとは、癌の診断、癌の病状の経過や、癌の予後の指標となるものです。
腫瘍マーカーは、下記の5種類に分類されます。
①癌胎児性蛋白質
②癌関連抗原
③アイソザイム(正常と異なるアイソザイムパターン)
④ホルモン(ホルモンの異常)
⑤癌関連遺伝子または産物
測定法としては、腫瘍が小さいときには極めて微量しか存在しないので、RIA法、EIA法、ラテックス凝集法、IRMA法、化学発光免疫測定(CIA)法などが用いられます。
腫瘍マーカーの具体例
AFP(α胎児タンパク)
AFPは、590個のアミノ酸からなり、1本の糖鎖をもつ蛋白質です(分子量約7万)。
AFPは、肝細胞の描化に伴い、産生されるようになります。
成人では、肝細胞癌で要請率が高く、乳幼児では卵黄嚢腫で陽性率が高いです。
成人の上限基準値は4ng/mlです。
一般には、10または20ngを低濃度カットオフ値とし、400ngを高濃度カットオフ値とします。
境界域では、良性の肝疾患、早期汗癌、転移性の肝癌などが認められます。
高濃度カットオフ値(400ng)を超えた場合、肝癌が疑われます。
なお、実際の診断では、PIVKA-Ⅱなど他の腫瘍マーカーとともに病態が判断されます。
CEA(癌胎児性抗原)
大腸癌から抽出される抗原ですが、正常の胎児の大腸にも存在するため、このように呼ばれています。
CEAは分子逓約18万の酸可溶性糖蛋白であり、ペプチド部分は668個のアミノ酸よりなります。
特定方法としては、モノクロナール抗体を使った高感度の免疫測定法です。
カットオフ値は、測定環境ごとに異なります。
たとえば、2.5ng/ml、3.5ng/ml、4.0ng/ml、5.0ng/ml、10ng/mlといった具合です。
すい癌、胆道がん、大腸がんで陽性となる確率が高いです。
なお、陽性率の高い順に転移性肝癌、大腸癌、膵癌、胆道癌、胃癌となります。
CA19-9
CA19-9は、CEA、AFPに次いで広く利用されています。
CA19-9は、大腸がん培養細胞SW1116を免疫原として、マウスを免疫して作成したモノクロナール抗体NS19-9が認識する抗原として定義されていました。
ただし、エピトープがシアリルLe^aであることが判明した後、シアリルLe^aに対するモノクロナール抗体を使用した測定キットが開発されて以降、その定義は曖昧になっています。
カットオフ値は、測定環境ごとに異なります。
膵臓がん、胆道がん、大腸がんで陽性となることが多いです。
ほかには、陽性率の高い順に、胆嚢癌、胆管癌、胃癌、肝癌、腸癌などがあります。
PSA
PSAは、分子量が約33000の、前立腺に存在するセリンプロテアーゼです。
血清中では大部分はα1アンチキモトリプシン(ACT)などと結合しています。
PSAの機能としては、キモトリプシン様活性をもつため、精漿の凝固阻止などに働きます。
臨床的意義ですが、前立腺癌のスクリーニングや早期診断に広く用いられています。
鑑別には、PSA密度(PSA値/前立腺体積)が0.58以上、PSA速度(PSA増加速度/年)が0.75μg/年以上、PSA-ACT値/総PSA値の比が0.66以上となれば、前立腺癌の可能性が高いといわれています。
また、陽性を示す場合には、前立腺がんのほかにも、前立腺肥大症や、前立腺への機械的な刺激があった場合が知られています。
PIVKA-II
血液凝固因子の第2因子は肝臓で合成されますが、この第2因子は、ビタミンKが合成に必要です。
しかし、ビタミンKが欠乏すると、活性をもたない「PIVKA-II」、すなわち、protein induced by vitamin K absence or antagonist-II)が合成されます。
PIVKA-IIは、肝細胞癌は50~60%の場性率を示します。
ほかにも、新生児出血症、長期経静脈栄養、閉塞性黄疸、ワーファリン投与など、ビタミンK欠乏により増加します。
なお、肝癌は、AFPとの組み合わせで診断率が上昇します。
CA125
CA125は、ヒト卵巣の漿液性癌由来の培養系(OVCA433)を用いて作製したモノクローナル抗体「OC12」により認識される抗原です。
基準値は、35以下(U/ml)です。
CA125は、卵巣癌では陽性率が極めて高く、漿液性で約90%、粘液性で約60%です。
そのほか、肝癌、胆謹癌、膵癌、子宮内膜癌などでも、では30~50%程度の陽性率を示します。
また、腹膜炎や胸膜炎でも陽性を呈するとも言われています。