カテゴリー
医療従事者向け

薬剤耐性菌の種類

代表的な薬剤耐性菌としては、つぎのものが挙げられます。

グラム陽性球菌

グラム陽性球菌では、黄色ブドウ球菌、腸球菌、肺炎球菌が主に問題となり、以下のような耐性菌があります。

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA)

mecA 遺伝子によりPBP2’(PBP2プライム)を産生します。β‐ラクタム系抗菌薬はこの PBP2’に対 する親和性が低いため、細胞壁の合成が阻害されません。

バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA),バンコマイシン中等度耐性黄色ブドウ球菌(VISA)

バンコマイシン耐性遺伝子(van遺伝子)により、バンコマイシンの結合部位であるD-アラニル-D-アラニン(ペプチドグリカンの構成単位のムレインモノマー末端)が、D-アラニル-D-ラクテートに変異しています。そのため、細胞壁の合成が阻害されません。

バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)

バンコマイシン耐性遺伝子(van遺伝子)の種類により9種類が確認がされています。VanA、VanB、VanC、VanD、VanE、VanG、VanL、VanM、VanNです。

ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP),ペニシリン中等度耐性肺炎球菌(PISP)

PBPをコードする遺伝子(pbp1a、pbp2x、pbp1a、pbp2b)の変異により、PBPが変異しています。そのため、細胞壁の合成が阻害されません。

グラム陰性球菌

グラム陰性球菌では、淋菌(リン菌)が問題となります。

ペニシリン耐性菌として、ペニシリナーゼ産生淋菌(PPNG)と染色体性ペニシリン耐性淋菌(CMRNG)とに分類されます。

前者はペニシリナーゼの産生により、後者はPBP2の産生を支配するpenA遺伝子の変異により、細胞壁の合成が阻害されません。

グラム陰性桿菌

グラム陰性桿菌では、さまざまな菌種が問題となります。

インフルエンザ菌

アンピシリン耐性菌として、βラクタマーゼ陽性アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLPAR)、βラクタマーゼ陰性アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)、βラクタマーゼ陽性アモキシシリン/クラブラン酸耐性インフルエンザ菌(BLPACR)に分類されます。

メタロβラクタマーゼ(MBL)産生菌

さまざまな抗菌薬を分解する酵素を産生する菌として、IMP型メタロβラクタマーゼ産生菌、NDM-1型メタロβラクタマーセ産生菌などがあります。

セリンβラクタマーゼ産生菌

さまざまな抗菌薬を分解する酵素を産生する菌として、基質特異性拡張型βラクタマーゼ (ESBL)産生菌、KPC型βラクタマーゼ産生菌、AmpC型βラクタマーゼ産生菌、OXA型βラクタマーゼ産生菌などがあります。

そのほか

上記のほか、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、多剤耐性アシネトバクター・バウマニ(MDRAB)などが問題となります。

抗酸菌

抗酸菌では、多剤耐性結核菌などが問題となります。

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遠隔医療

医療情報のクラウドサービス

クラウドを利用した医療情報サービスについて解説します。

医療情報×クラウド

従来、電子カルテシステムなどの医療情報システムは、セキュリティの観点から、外部との接続が遮断されていました。

しかし、現在は、インターネット技術の進歩などを受けて、民間企業のデータセンターが電子カルテなどの診療情報を保管できるようになっています。

診療情報を遠隔地で保管・蓄積することは、医療情報のクラ ウド化 と呼ばれ、現在では、医療情報のクラウド化を利用したシステム は、電子カルテにとどまらず、地域連携システム、在宅医療システム、多職種間連携システム、予約システムなど多岐にわたって展開されています。

そして、今後、さらなるクラウドサービスの普及が見込まれています。

代表的なクラウド型サービス

医療情報のクラウド型のサービスの例として、つぎのものが挙げられます。

電子カルテシステム

院内にサーバを設置せず、企業のサーバにアクセスして利用できるシステムです(院内にバックアップサーバーを置くこともできます)。

地域連携システム

複数の医療機関の診療情報を連携させ、地域医療ネットワー クを構築できるシステムです。

在宅医療システム

医療スタッフが、訪問先でタブレットなどで電子力ルテなどを利用できるシステムです。

多職種連携システム

医師、看護師、薬剤師などの多職種間で、タブレットやスマートフォンを介して情報連携を行えるシステムです。

診療予約システム

患者がインターネットでアクセスして、診療予約をすることができるシステムです。

クラウド型のメリット

いつでも、どこでも

クラウド型サービスのメリットは、時間や場所に限定されずに医療情報を利用できることです。

たとえば、クラウド型の電子カルテを使用すれば、複数の医療機関で同時にカルテを開くことが可能です。

どの医療機関でも、過去のカルテをいつでも閲覧でき、か つそのカルテに記事やデータを継続的に追加入力する ことができます。

とくに、クラウド型の電子カルテは、災害時に病院の医療情報が失われたり参照できなかったりするときでも、インターネットさえ繋がれば、病歴や、薬剤の処方歴などが分かるという点で大いに役立ちます。

コスト・セキュリティ対策に

また、医療機関内のサーバが不要なため、サーバー費用など、設備投資を抑えたい医療機関にとって、クラウド型のサービスの利用は、コスト削減につながります。

また、不正アクセスなどに対するセキュリティ対策を独自にする必要がありません。

企業が提供するセキ ュリティーレベルの高いサーバを利用することができるため、個人情報が漏洩するリスクが低減します。

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医療従事者向け

最小発育阻止濃度MICと最小殺菌濃度MBCの違いとは?

最小発育阻止濃度:MICと、最小殺菌濃度:MBCについて解説します。

MIC

最小発育阻止濃度MICは、試験管内(in vitro)で菌の発育が阻止される最小の薬剤濃度を意味します。

MICを確認するには、抗菌薬を二倍連続希釈した培地を用意して、各培地に菌を接種し、培養して発育の有無を確認します。

MBC

一方、最小殺菌濃度MBCは、試験管内(in vitro)で菌が殺菌される最小の薬剤濃度を意味します。

測定

MIC値とMBC値は、同時に測定することができます。

すなわち、MIC以上の濃度(発育阻止されている濃度)において、細菌が殺菌されているのかどうかを、追加検査で明らかにします。

具体的には、発育阻止されている培地のうち、薬剤濃度が最も低い培地の一部を、別の液体培地に接種し、培養します。

培養の結果が陰性(菌が増殖しない)

培養結果が陰性であれば、その薬剤の濃度においては、菌が殺せているということで、薬剤の効果が「殺菌的」と評価され、その濃度はMBC値となります。

つまり、MIC = MBCとなります。

培養の結果が陽性(菌が増殖した)

逆に、培養結果が陽性であれば、その濃度においては、菌が殺せていないということで、薬剤の効果は「静菌的」と評価され、その濃度よりも高い濃度がMBC値となります。

つまり、MIC < MBCとなります。

この場合、MBCを確認するための追加試験として、発育阻止されている培地のうち、薬剤濃度が二番目に低い培地を使って、培養試験を行います(培養が陰性になるまで、薬剤濃度を上げていきます)。

なお、MIC値とMBC値に大きな差がある菌の場合、その薬剤に対する耐性を獲得しやすいと言われています。

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Column

オプソナイズとは?

補体や抗体が、微生物などの異物に結合し、結果、異物が好中球・単球・マクロファージなどの食細胞に食されやすくなることを、「オプソナイズ」と呼びます。

補体や抗体が、貧食対象に目印をつける働きをしているということです。

なお、好中球・単球・マクロファージなどの食細胞には、リソゾームと呼ばれる穎粒が存在し、リソゾーム中に含まれるリゾチーム、デフェンシン、カテプシンG、リン脂質分解酵素などが、殺菌・破壊に貢献をします。

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Column

アダプター仮説とは?

アダプター仮説とは、DNA情報をアミノ酸に変換するときに仲介因子が存在するという仮説で、CriCkが提唱したものです。

クリックは、アダプターの一端は特定のアミノ酸に結合し、他端は特定のDNA塩基配列に結合すると考えていました。

研究の結果、このアダプターは存在することが判明しました(tRNA)。

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生物

シャルガフの法則とは?

シャルガフの法則とは、核酸において、アデニンとチミンの量比、および、グアニンとシトシンの量比が、常に1:1である法則のことです。

この法則は、米国のE・Chargaffが、ヒトや大腸菌などの様々な生物の組織由来のDNAを抽出し、ギ酸で分解した後、戸紙クロマトグラフィー(paper chromatography)で分画定量することで、四つの塩基の量を測定して発見されました。

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病気

排尿が痛いときの性病

おしっこをするときの痛み(排尿時の痛み)には、さまざまな原因がありますが、性病としては、男性でも女性でも、淋菌(リン菌) やクラミジアへの感染が疑われます。

リン菌

淋菌(リン菌)は、感染すると、尿道炎を起こします。

排尿時痛のほかに、尿道がかゆくなったり、おしっこのときに焼けるような感じがしたり(排尿時灼熱感)、尿道の出口が赤くなったり(発赤)します。

感染してから発症するまで(潜伏期間)が、2 ~ 7 日間と言われていますのて、思い当たる場合は注意が必要です。

淋菌は、女性の場合は症状があまり無いケースが多く、男性でも、排尿痛が少ないものや尿道からの膿が目立たないものがあります。

したがって、排尿時に、激しい痛みがなくても、リン菌を疑うケースもあります。

クラミジア

一方のクラミジアも、リン菌と同じように、尿道に炎症を引きおこします。

高い感染率のある性病ですが、症状が現れる割合は低く、無症状なのは、男性で約50%、女性で約75%と言われていま。

したがって、不快感や、軽度の腹痛、腰痛などがあるだけでも、疑うことができる性病です。

淋菌の検査と治療

男性は、尿道の分泌物をスライドグラスに塗って標本をつくり、顕微鏡で見ることで診断できます。

また、女性は、子宮頸部と尿道の分泌物を綿棒で採取してスライ ドグラスに塗って標本をつくり、顕微鏡で見ることで診断できます。

治療は、抗菌薬が処方されます。

たとえば、セフトリアキソン、セフォジジム、スペクチノマイシンといった薬になります。

クラミジアの検査と治療

クラミジアは、顕微鏡で診断できないため、基本的には、遺伝子検査を行います。

クラミジアの遺伝子を検出できれば、診断できます。

治療としては、抗菌薬の投与になります。

一般的には、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、ミノサイクリン、ドキシサイクリン、レボフロキサシン、トスフロキサシン、シタフロキサシンなどを処方してもらいます。

かかるべき診療科

淋菌やクラミジアは、いずれも簡単な検査ですぐに結果がわかりますので、積極的に『泌尿器科』の診察を受けることがよいでしょう。

自宅用の検査キット

ネット上では、自宅で性病の検査ができる検査キットが紹介されています。

匿名で(名前を知られずに)、郵送で結果が分かりますので、だれにも知られる心配はありません。

クラミジア、淋菌、トリコモナス、梅毒、HIV、ヒトパピローマウイルスなどに幅広く対応しています。

値段などを比べて、申し込むと良いでしょう。

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病気

のどが痛くなる性病

のどが痛いときに考えられるのは、風邪ですが、咳が出ていないようなときは、性病の可能性もあります。

性行動の多様化や、風俗サービスの増加を背景に、喉(のど)についての性感染症患者が増えていますので、のどが痛くなる性感染症を紹介します。

ちなみに、医者にかかる場合は、耳鼻咽喉科を受診しましょう。

梅毒

梅毒は、口の中(口腔)や、のど(咽頭)が痛くなります。

性器や皮膚にも、病変が現れる場合があります。

梅毒は、粘膜や体液を介して他者へ感染する病気です。

1回の性行為で相手が感染する確率は約30パーセントとされています。

顕微鏡検査や、血液検査で診断できます。

抗菌薬の投与で治る病気です。

梅毒について

淋菌とクラミジア

淋菌(リン菌)とクラミジアは、のどに感染します。

尿道や、女性の子宮にも感染します。

症状のない場合が多いです。

女性は、性器への感染が放置されると不妊の原因になりえますので、早めの治療が必要です。

血液検査や、菌の培養検査で診断できます。

抗菌薬の投与で治る病気です。

単純ヘルペスウイルス(HSV)

単純ヘルペスは、キスなどの性的接触によってうつる性病です。

のどに強い痛みが出る場合があります(咽頭炎や扁桃炎)。

感染の疑われる細胞を採取して検査することで診断可能です。

抗ウイルス薬を投与して治る病気です。

ヒトパピローマウイルス(HPV)

ヒトパピローマウイルスは、性交経験者の 60% が少なくとも1 回以上は感染すると言われています。

このウイルス(HPV)は、生殖器(性器)にイボができる『尖圭コンジローマ』という病気を発症することがあるウイルスです。

この人パピローマウイルスは、生殖器だけではなく、のどへの感染により、のどが痛くなる場合があります。

この病気は、感染の疑われる細胞を採取して検査することで診断できます。

現在のところ、治療方法は確立されていないようです。

なお、癌(がん)の原因として注目されているため、感染があるかどうか確認するのは重要です。

自宅用の検査キット

ネット上には、自宅で性病の検査ができる検査キットが、いくつも紹介されています。

匿名で(名前を知られずに)、郵送で結果が分かりますので、だれにも知られる心配はありません。

いずれの会社も、クラミジア、淋菌、トリコモナス、梅毒、HIV、ヒトパピローマウイルスなどに幅広く対応しています。

検査の値段を比べて、自分に合うものを選べばよいでしょう。

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病気

ニコチン依存症の薬理学的メカニズム

「タバコはカッコいい」

そんな昭和の価値観は,現代では否定されていますね.

ご存知の通り,主な理由は,本人だけでなく,周囲の人の健康を害するからです.

特に,煙の影響は,妊婦の胎内にいる胎児や,家庭内の幼い子どもにまで及びます.

このことから,タバコを,「悪」あるいは「憎むべき敵」として見る人もいるほどです.

しかし,タバコを吸っている人は,そういうことが分かっていてもなかなか辞められないのが現状ではないかなと思います.

JTの調査によれば,2018年の段階で,約28%の男性と,約9%の女性が喫煙しているようです.

これだけネットが発達して,タバコの害を把握しやすいのに,彼ら/彼女らは,なぜタバコをやめられないのでしょうか?

 

ここでは,その現象を理解するため,ニコチン依存の仕組みについて,文献を参考に勉強したことをまとめてみました.

 

内容を理解すると,けっこう面白く感じられます.

 

禁煙ストレスの正体

喫煙者がタバコをやめると,たった1日で,ストレス悩まされます.

そして,ストレスに耐えきれなくなります.

しかし,再びタバコを吸うと,ストレスが消えてしまいます.

すると,「やはりタバコは必要だ」と考え,辞められなくなってしまいます.

そのストレスの正体は,ニコチン依存の離脱症状と呼ばれるものです.

 

脳の仕組みとニコチンの作用

やや小難しい話になりますが,脳の神経細胞のシナプスはアセチルコリン,ドーパミン,ノルアドレナリン,セロトニンなどの神経伝達物質で情報の伝達を行っています.

シナプス前膜では,神経伝達物質の合成と放出が行われます.

シナプス後膜では,神経伝達物質の受容体があり,放出された神経伝達物質の識別を行います.

識別されたときはシナプス後膜で電気的興奮が生じます.

役目を終えた余分な伝達物質はシナプス間隙で速やかに代謝されます.

ところが,

ニコチンがシナプスに入り込むと,シナプス前膜に作用し,神経伝達物質の合成と放出を促進します.

また,ニコチンは,自らシナプス後膜に働きかけ,受容体を介さずに,後膜の電気的興奮を生じさせます.

このメカニズムにより,ニコチンの気分高揚感や覚醒作用が現れます.

ニコチン離脱症状

ニコチンは本来の神経伝達物質と異なり,シナプス間隙で代謝されません.

つまり,シナプス前膜では神経伝達物質を合成放出し続け、,シナプス後膜は通常より長く興奮を続けることになります.

喫煙によりニコチン刺激が常態化するとシナプス前陣では神経伝達物質が枯渇し,シナプス後膜では受容体が減少してしまいます.

この状態ではニコチンが存在しないとシナプス間隙で神経伝達が不十分となり,気分が沈んだりイライラしたり眠たくなったりする症状が現れます。

これが「ニコチン離脱症状」と呼ばれるストレスの正体なのです.

 

以上,タバコをやめられないメカニズムでした.

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検査

腎機能検査の基礎知識

腎機能検査の基礎知識を解説します。

概要

腎臓は、腎臓は排泄臓器として働き、身体の恒常性(ホメオスタシス)を保つ機能を有する臓器です。

具体的な腎臓の機能は、①不要な最終代謝産物、老廃物、薬物などの排泄、②電解質バランス、浸透圧、酸塩基平衡の調節、③エリスロポエチン、ビタミンDなどの物質の産生、④レニンーアンギオテンシンーアルドステロン系の活性化と制御、⑤糖や薬物の代謝などです。

これらの機能が適切に発揮されているかどうかを判断するために、複数の検査を実施します。

代表的な検査項目に、血中尿素窒素(BUN)、血清クレアチニン(Cre)、糸球体濾過量(GFR)があります。

血中尿素窒素

尿素窒素とは

尿素窒素は、尿素中の窒素量です。

BUNとSUN

血中の尿素窒素は、BUN(Blood Urea Nitrogen)と呼ばれます。

BUNを測定するとき、実際は血清中の尿素窒素を測定していることから、SUN(Serum Urea Nitrogen)とも呼ばれます。

尿素は、経口摂取した蛋白や組織蛋白の最終代謝産物であり、肝細胞におけるオルニチン-アルギニン-尿素サイクルの経路で、アンモニアから生成されます。

尿素とGFR

尿素は分子量が小さいため、糸球体から自由に濾過されます。

そのため、後述する糸球体濾過量(GFR)の指標となります。

ただし、尿素の産生量は、蛋白異化率や、利尿状態(尿細管再吸収)に影響されます。

したがって、異化亢進があったり、利尿状態/抗利尿状態があったりするときは、BUNは、GFRの良い指標にはなりません。

基準範囲と解釈

基準範囲は、8~20mg/dL です。

BUNは、GFRが約50%に低下するまでは、わずかに上昇します。

その後は、腎機能の悪化とともに徐々に上昇し、GFRが25~30%以下になると急速に上昇します。

20~60mg/dL程度までの上昇では、つぎのような原因が考えられます。

SUN の過剰産生

原因の例として、高蛋白食,アミノ酸輸液,消化管出血,体組織の崩壊(絶食・外科的侵襲・火傷・高熱),悪性腫瘍,重症感染症

SUN の排泄障害

原因の例として、尿路閉塞,腎機能障害,循環血液量の減少(脱水・出血など)

さらに、60mg/dL を超えると腎不全、100mg/dL を超えると尿毒症などが考えられます。

他方、0~8mg/dLと低値のときは、妊娠,低蛋白食,劇症肝炎,肝硬変末期,低窒素血症,強制利尿(マンニトール利尿・尿崩症など),先端肥大症,成長ホルモンや蛋白同化ホルモンの影響,などが考えられます。

なお、BUN は食事、蛋白異化、脱水による影響を大きく受けるため、血清Cr が同時に測定できる場合には、血清Cr が腎機能の指標として用いられます。

血清クレアチニン

クレアチニンとは

クレアチニンは、筋肉運動のエネルギー源となるクレアチンの最終代謝産物です。

クレアチニンとGFR

クレアチニンは腎臓の糸球体で濾過されて排出されます。

GFRが低下すると、クレアチニン排泄量が低下し、血清クレアチニン値が上昇します。

また、尿素窒素とは異なり、外的因子(食餌蛋白摂取など)の影響をほとんど受けません。

さらに、尿細管ではほとんど再吸収されずに尿中に排泄されるため、利尿状態に影響されにくいです。

したがって、クレアチニンは、個人のGFRの変動をみるときの有用な指標となります。

基準範囲と解釈

クレアチニンは筋肉運動の代謝産物であるため、血清クレアチニン値は、筋肉量に比例した量となります。

筋肉量に性差があるため、基準範囲は、男性で「0.6 ~ 1.0 mg/dL」,女性で「0.4 ~ 0.8 mg/dL」です。

筋肉の少ない小児や肥満者では、体重に比べて低値をとる傾向があります。

筋肉量の多い人や脱水では、高値となる場合があります。

血清クレアチニンは、GFRが約50%以下になると上昇しはじめます。

測定法の影響

クレアチニンは現在、国内では酵素法による測定が一般的です。

しかし、従来のJaffe法では腎機能正常域の血清クレアチニンが、酵素法に比べて 0.2 mg/dL 程度高く測定されることが知られています。

尿クレアチニン測定では、Jaffe法と酵素法の違いは影響しないので、血清濃度が約30%高く測定されるとCcr は約30%低く測定され、GFR値に近似する結果となります。

検査値の比較では測定法に注意する必要があります。

年齢の影響

高齢者では、加齢による影響はほとんどありません。加齢とともにGFRと筋肉量の双方が低下するため、血清クレアチニン値は、ほぼ一定となるからです。

筋肉量の減少

年齢に関係なく、低栄養や神経・筋疾患、身体活動度の低下などにより筋肉量が病的に減少しているときは、クレアチニン産生量が低下しているため、腎機能障害が顕著なときにのみ、血清クレアチニン値が高値となります。

薬剤の影響

通常、少量のクレアチニンが尿細管から分泌されています。

しかし、尿細管からのクレアチニン分泌を抑制する薬剤の影響があると、腎機能障害の有無にかかわらず、血清クレアチニン値は上昇します。

たとえば、ST合剤,シメチジン,シスプラチン,フルシトシン,セフェム系抗菌薬,アミノグリコシド系抗菌薬などです。

糸球体濾過量(GFR)

糸球体濾過量とは

1分間あたりにどれだけの血液(血漿)が濾過されているかを示したものが糸球体濾過量(glomerular fi ltration rate: GFR)です。

GFRの評価に用いる物質は、糸球体のみから濾過され、尿細管で再吸収や分泌されない物質です。

国際的には、イヌリンを用いるイヌリンクリアランス(Cin)がGFR測定のゴールデンスタンダードとされています。

イヌリンクリアランス(Cin)

生体内に投与されたイヌリンは、血液と細胞間に分布し、糸球体で濾過され、尿細管では分泌・再吸収を受けずに尿中に排泄されます。

したがって、イヌリンはGFR を測定する上で理想的な薬物動態を有しています。

ただし、イヌリンクリアランス(Cin)の測定は、手技が煩雑であることなどから日常検査としては普及していません。

GFRの推測

クレアチニンクリアランス(Ccr)

血液中のクレアチニンは、筋肉中のクレアチンの脱水により生成されて、血中に放出されたのち、糸球体でほぼすべてが濾過され、尿細管では再吸収されません。

したがって、現在の日常診療では、上記のイヌリンクリアランスの代用として、生体内の内因性物質であるクレアチニンを用いた内因性クレアチニンクリアランス(Ccr) が最も用いられています。

計算式は、つぎの通りです。

Ccr=(Ucr ✕ V/Pcr) ✕ (1.73/A)

Ccr:クレアチニンクリアランス(mL/min/1.73m2)

Ucr:尿中Cr 濃度(mg/dL)

Pcr:血清Cr 濃度(mg/dL)

V:単位時間(1 分間)あたりの尿量(mL/min)

A:身長・体重から求めた体表面積(m2)

なお、方法としては、短時間法と、24時間法とがあります。

注意点

クレアチニンは、尿細管でわずかに(10 ~ 40%)分泌されています。

よって、クレアチニンクリアランス(Ccr)は、実際のGFRよりも高めに計算される点に注意が必要です(1.3 倍程度)。

クレアチニンクリアランスCcrからGFRへの変換式

Ccr は GFR より高値となり、GFR への変換に は×0.715 を用いる方法が提唱されています。

GFR(mL/分)=Cc(rmL/分)×0.715

血清クレアチニン値のみから算出するクレアチニンクリアランス

以前から、血清 Cr 値をもとに、年齢や性別などの因子を含めて腎機能を推測する試みがありました。

古典的なものに、Ccr を推算する CG式(Cockcroft-Gault式)があります。

ただ、このCG式には正確性に問題があったり、開発されたときの測定法がヤッフェ法によるものであるため、上述したように酵素法とでは、CG式にあてはめたときに算出されるCcrが、酵素法の測定値を用いたときよりも高めの値になります。

推算糸球体濾過量(eGFR)

そのほかに、GFRを推測する指標として、推算糸球体濾過量(estimated GFR:eGFR)があります。

eGFRを求めるには種々の計算式がありますが、その中のひとつに、日本人のための計算式があります。

血清クレアチニン値(Cr)と年齢・性別から求めるもので、eGFRcreatと呼ばれます。

eGFRcreatは、つぎの計算式で求めます。

男性の計算式

eGFRcreat( mL/min/1.73m2)= 194 × Cr-1.094 × 年齢-0.287

女性の計算式

eGFRcreat( mL/min/1.73m2)= 194 × Cr-1.094 × 年齢-0.287 × 0.739

ただし、小児の場合は、これと異なる計算式で求めるのが適切とされています(日本小児腎臓病学会)。

注意点

上述のように血清Cr は腎機能が50%を下回らないと上昇しないため、eGFRで初期の腎機能障害を発見することはできません。

また、eGFRは、同じ年齢・性別のなかでの平均的な体格を前提にして計算されています。よって、筋肉の減少した高齢者や女性では、血清Cr値は低値を示すことから、実際のGFRよりも、eGFRは高めに算出されます。

推算値の解釈

eGFR値を解釈するとき、参考となる基準として、慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の重症度分類(ステージ分類)があります。

そこでは、eGFR値が、「90以上」では正常または高値、「60 ~ 89」では正または軽度低下、「45 ~ 59」では軽度~ 中等度低下、「30 ~ 44」では中等度~ 高度低下、「15 ~ 29」では高度低下、「15未満」では末期腎不全 (ESKD)とされています。