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病気

ニコチン依存症の薬理学的メカニズム

「タバコはカッコいい」

そんな昭和の価値観は,現代では否定されていますね.

ご存知の通り,主な理由は,本人だけでなく,周囲の人の健康を害するからです.

特に,煙の影響は,妊婦の胎内にいる胎児や,家庭内の幼い子どもにまで及びます.

このことから,タバコを,「悪」あるいは「憎むべき敵」として見る人もいるほどです.

しかし,タバコを吸っている人は,そういうことが分かっていてもなかなか辞められないのが現状ではないかなと思います.

JTの調査によれば,2018年の段階で,約28%の男性と,約9%の女性が喫煙しているようです.

これだけネットが発達して,タバコの害を把握しやすいのに,彼ら/彼女らは,なぜタバコをやめられないのでしょうか?

 

ここでは,その現象を理解するため,ニコチン依存の仕組みについて,文献を参考に勉強したことをまとめてみました.

 

内容を理解すると,けっこう面白く感じられます.

 

禁煙ストレスの正体

喫煙者がタバコをやめると,たった1日で,ストレス悩まされます.

そして,ストレスに耐えきれなくなります.

しかし,再びタバコを吸うと,ストレスが消えてしまいます.

すると,「やはりタバコは必要だ」と考え,辞められなくなってしまいます.

そのストレスの正体は,ニコチン依存の離脱症状と呼ばれるものです.

 

脳の仕組みとニコチンの作用

やや小難しい話になりますが,脳の神経細胞のシナプスはアセチルコリン,ドーパミン,ノルアドレナリン,セロトニンなどの神経伝達物質で情報の伝達を行っています.

シナプス前膜では,神経伝達物質の合成と放出が行われます.

シナプス後膜では,神経伝達物質の受容体があり,放出された神経伝達物質の識別を行います.

識別されたときはシナプス後膜で電気的興奮が生じます.

役目を終えた余分な伝達物質はシナプス間隙で速やかに代謝されます.

ところが,

ニコチンがシナプスに入り込むと,シナプス前膜に作用し,神経伝達物質の合成と放出を促進します.

また,ニコチンは,自らシナプス後膜に働きかけ,受容体を介さずに,後膜の電気的興奮を生じさせます.

このメカニズムにより,ニコチンの気分高揚感や覚醒作用が現れます.

ニコチン離脱症状

ニコチンは本来の神経伝達物質と異なり,シナプス間隙で代謝されません.

つまり,シナプス前膜では神経伝達物質を合成放出し続け、,シナプス後膜は通常より長く興奮を続けることになります.

喫煙によりニコチン刺激が常態化するとシナプス前陣では神経伝達物質が枯渇し,シナプス後膜では受容体が減少してしまいます.

この状態ではニコチンが存在しないとシナプス間隙で神経伝達が不十分となり,気分が沈んだりイライラしたり眠たくなったりする症状が現れます。

これが「ニコチン離脱症状」と呼ばれるストレスの正体なのです.

 

以上,タバコをやめられないメカニズムでした.

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検査

腎機能検査の基礎知識

腎機能検査の基礎知識を解説します。

概要

腎臓は、腎臓は排泄臓器として働き、身体の恒常性(ホメオスタシス)を保つ機能を有する臓器です。

具体的な腎臓の機能は、①不要な最終代謝産物、老廃物、薬物などの排泄、②電解質バランス、浸透圧、酸塩基平衡の調節、③エリスロポエチン、ビタミンDなどの物質の産生、④レニンーアンギオテンシンーアルドステロン系の活性化と制御、⑤糖や薬物の代謝などです。

これらの機能が適切に発揮されているかどうかを判断するために、複数の検査を実施します。

代表的な検査項目に、血中尿素窒素(BUN)、血清クレアチニン(Cre)、糸球体濾過量(GFR)があります。

血中尿素窒素

尿素窒素とは

尿素窒素は、尿素中の窒素量です。

BUNとSUN

血中の尿素窒素は、BUN(Blood Urea Nitrogen)と呼ばれます。

BUNを測定するとき、実際は血清中の尿素窒素を測定していることから、SUN(Serum Urea Nitrogen)とも呼ばれます。

尿素は、経口摂取した蛋白や組織蛋白の最終代謝産物であり、肝細胞におけるオルニチン-アルギニン-尿素サイクルの経路で、アンモニアから生成されます。

尿素とGFR

尿素は分子量が小さいため、糸球体から自由に濾過されます。

そのため、後述する糸球体濾過量(GFR)の指標となります。

ただし、尿素の産生量は、蛋白異化率や、利尿状態(尿細管再吸収)に影響されます。

したがって、異化亢進があったり、利尿状態/抗利尿状態があったりするときは、BUNは、GFRの良い指標にはなりません。

基準範囲と解釈

基準範囲は、8~20mg/dL です。

BUNは、GFRが約50%に低下するまでは、わずかに上昇します。

その後は、腎機能の悪化とともに徐々に上昇し、GFRが25~30%以下になると急速に上昇します。

20~60mg/dL程度までの上昇では、つぎのような原因が考えられます。

SUN の過剰産生

原因の例として、高蛋白食,アミノ酸輸液,消化管出血,体組織の崩壊(絶食・外科的侵襲・火傷・高熱),悪性腫瘍,重症感染症

SUN の排泄障害

原因の例として、尿路閉塞,腎機能障害,循環血液量の減少(脱水・出血など)

さらに、60mg/dL を超えると腎不全、100mg/dL を超えると尿毒症などが考えられます。

他方、0~8mg/dLと低値のときは、妊娠,低蛋白食,劇症肝炎,肝硬変末期,低窒素血症,強制利尿(マンニトール利尿・尿崩症など),先端肥大症,成長ホルモンや蛋白同化ホルモンの影響,などが考えられます。

なお、BUN は食事、蛋白異化、脱水による影響を大きく受けるため、血清Cr が同時に測定できる場合には、血清Cr が腎機能の指標として用いられます。

血清クレアチニン

クレアチニンとは

クレアチニンは、筋肉運動のエネルギー源となるクレアチンの最終代謝産物です。

クレアチニンとGFR

クレアチニンは腎臓の糸球体で濾過されて排出されます。

GFRが低下すると、クレアチニン排泄量が低下し、血清クレアチニン値が上昇します。

また、尿素窒素とは異なり、外的因子(食餌蛋白摂取など)の影響をほとんど受けません。

さらに、尿細管ではほとんど再吸収されずに尿中に排泄されるため、利尿状態に影響されにくいです。

したがって、クレアチニンは、個人のGFRの変動をみるときの有用な指標となります。

基準範囲と解釈

クレアチニンは筋肉運動の代謝産物であるため、血清クレアチニン値は、筋肉量に比例した量となります。

筋肉量に性差があるため、基準範囲は、男性で「0.6 ~ 1.0 mg/dL」,女性で「0.4 ~ 0.8 mg/dL」です。

筋肉の少ない小児や肥満者では、体重に比べて低値をとる傾向があります。

筋肉量の多い人や脱水では、高値となる場合があります。

血清クレアチニンは、GFRが約50%以下になると上昇しはじめます。

測定法の影響

クレアチニンは現在、国内では酵素法による測定が一般的です。

しかし、従来のJaffe法では腎機能正常域の血清クレアチニンが、酵素法に比べて 0.2 mg/dL 程度高く測定されることが知られています。

尿クレアチニン測定では、Jaffe法と酵素法の違いは影響しないので、血清濃度が約30%高く測定されるとCcr は約30%低く測定され、GFR値に近似する結果となります。

検査値の比較では測定法に注意する必要があります。

年齢の影響

高齢者では、加齢による影響はほとんどありません。加齢とともにGFRと筋肉量の双方が低下するため、血清クレアチニン値は、ほぼ一定となるからです。

筋肉量の減少

年齢に関係なく、低栄養や神経・筋疾患、身体活動度の低下などにより筋肉量が病的に減少しているときは、クレアチニン産生量が低下しているため、腎機能障害が顕著なときにのみ、血清クレアチニン値が高値となります。

薬剤の影響

通常、少量のクレアチニンが尿細管から分泌されています。

しかし、尿細管からのクレアチニン分泌を抑制する薬剤の影響があると、腎機能障害の有無にかかわらず、血清クレアチニン値は上昇します。

たとえば、ST合剤,シメチジン,シスプラチン,フルシトシン,セフェム系抗菌薬,アミノグリコシド系抗菌薬などです。

糸球体濾過量(GFR)

糸球体濾過量とは

1分間あたりにどれだけの血液(血漿)が濾過されているかを示したものが糸球体濾過量(glomerular fi ltration rate: GFR)です。

GFRの評価に用いる物質は、糸球体のみから濾過され、尿細管で再吸収や分泌されない物質です。

国際的には、イヌリンを用いるイヌリンクリアランス(Cin)がGFR測定のゴールデンスタンダードとされています。

イヌリンクリアランス(Cin)

生体内に投与されたイヌリンは、血液と細胞間に分布し、糸球体で濾過され、尿細管では分泌・再吸収を受けずに尿中に排泄されます。

したがって、イヌリンはGFR を測定する上で理想的な薬物動態を有しています。

ただし、イヌリンクリアランス(Cin)の測定は、手技が煩雑であることなどから日常検査としては普及していません。

GFRの推測

クレアチニンクリアランス(Ccr)

血液中のクレアチニンは、筋肉中のクレアチンの脱水により生成されて、血中に放出されたのち、糸球体でほぼすべてが濾過され、尿細管では再吸収されません。

したがって、現在の日常診療では、上記のイヌリンクリアランスの代用として、生体内の内因性物質であるクレアチニンを用いた内因性クレアチニンクリアランス(Ccr) が最も用いられています。

計算式は、つぎの通りです。

Ccr=(Ucr ✕ V/Pcr) ✕ (1.73/A)

Ccr:クレアチニンクリアランス(mL/min/1.73m2)

Ucr:尿中Cr 濃度(mg/dL)

Pcr:血清Cr 濃度(mg/dL)

V:単位時間(1 分間)あたりの尿量(mL/min)

A:身長・体重から求めた体表面積(m2)

なお、方法としては、短時間法と、24時間法とがあります。

注意点

クレアチニンは、尿細管でわずかに(10 ~ 40%)分泌されています。

よって、クレアチニンクリアランス(Ccr)は、実際のGFRよりも高めに計算される点に注意が必要です(1.3 倍程度)。

クレアチニンクリアランスCcrからGFRへの変換式

Ccr は GFR より高値となり、GFR への変換に は×0.715 を用いる方法が提唱されています。

GFR(mL/分)=Cc(rmL/分)×0.715

血清クレアチニン値のみから算出するクレアチニンクリアランス

以前から、血清 Cr 値をもとに、年齢や性別などの因子を含めて腎機能を推測する試みがありました。

古典的なものに、Ccr を推算する CG式(Cockcroft-Gault式)があります。

ただ、このCG式には正確性に問題があったり、開発されたときの測定法がヤッフェ法によるものであるため、上述したように酵素法とでは、CG式にあてはめたときに算出されるCcrが、酵素法の測定値を用いたときよりも高めの値になります。

推算糸球体濾過量(eGFR)

そのほかに、GFRを推測する指標として、推算糸球体濾過量(estimated GFR:eGFR)があります。

eGFRを求めるには種々の計算式がありますが、その中のひとつに、日本人のための計算式があります。

血清クレアチニン値(Cr)と年齢・性別から求めるもので、eGFRcreatと呼ばれます。

eGFRcreatは、つぎの計算式で求めます。

男性の計算式

eGFRcreat( mL/min/1.73m2)= 194 × Cr-1.094 × 年齢-0.287

女性の計算式

eGFRcreat( mL/min/1.73m2)= 194 × Cr-1.094 × 年齢-0.287 × 0.739

ただし、小児の場合は、これと異なる計算式で求めるのが適切とされています(日本小児腎臓病学会)。

注意点

上述のように血清Cr は腎機能が50%を下回らないと上昇しないため、eGFRで初期の腎機能障害を発見することはできません。

また、eGFRは、同じ年齢・性別のなかでの平均的な体格を前提にして計算されています。よって、筋肉の減少した高齢者や女性では、血清Cr値は低値を示すことから、実際のGFRよりも、eGFRは高めに算出されます。

推算値の解釈

eGFR値を解釈するとき、参考となる基準として、慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の重症度分類(ステージ分類)があります。

そこでは、eGFR値が、「90以上」では正常または高値、「60 ~ 89」では正または軽度低下、「45 ~ 59」では軽度~ 中等度低下、「30 ~ 44」では中等度~ 高度低下、「15 ~ 29」では高度低下、「15未満」では末期腎不全 (ESKD)とされています。

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Column

介護うつの症状と対策

介護うつの症状と対策を解説します。

介護うつ発症は半数以上

近年の少子高齢化のなかで、要介護状態にあるお年寄りは急激に増加しています。

介助する側の家族の負担は、ますます大きくなってきています。

介護の負担だけでなく、プライベートな時間が無くなることも深刻です。

あまり外出せず、介護で家の中に閉じこもっている状態は、介護者の心身両面に大きな影響を及ぼします。

特に、認知症の介護を自宅で行っている家族の「介護うつ」の発症率は50%以上と報告されています。

認知症が進行しているほど、 介護うつになりやすいことも分かっており、介護される高齢者に幻覚・興奮・妄想・暴力・徘徊があったり、抑うつ状態などがあると、さらに割合は増すようです。

介護殺人、介護心中、自殺などの衝撃的な事件の報道をみると、認知症を介護する家族や介護職には、かなりの負担や苦悩があることが分かります。

このような介護うつが引き起こされる背景には、「疲労」、「ストレス」、「睡眠不足」、「孤独感」などがありますが、具体的な症状を紹介します。

症状

介護うつになると、様々な症状が現れます。

少しでも当てはまると感じたら、以後述する対策を検討しましょう。

心理面

心理面では、ゆううつな気分、不安感、あせり、気分が落ち込む、意欲や集中力がない、考えがまとまらない、何をしても面白くない、などがあります。

身体面

身体面では、倦怠感、めまい、不眠になる、疲れやすくなる、食欲がなくなる、性欲がなくなる、頭痛がする、肩こりがひどい、耳鳴りがする、耳が痛くなる、便秘や下痢になる等の症状が現れます。

対策

外部サービスを利用

介助者の負担を減らすため、通所あるいは入所サービスの利用をすることが大切です。

もしも、高齢者が「家にいたい」と言っていても、デイサービスなどに行ってもらえるよう説得します。

なお「福祉サービス施設の職員の迷惑ではないか」と葛藤するかもしれませんが、決心して任せることが重要です。

病院へ行き治療する

うつは病気として、薬物療法で大きく改善できることが知られています。

抗うつ薬、抗不安薬、あるいは精神安定薬などで治療できます。あるいは、睡眠薬を処方してもらうことも可能です。

また、精神療法により、心の負担を減らしてもらうことが薦められます。

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在宅介護での脱水に注意

在宅介護で脱水にならないよう、注意すべきポイントを解説します。

自宅で高齢者が脱水にならないためには

在宅なのに、脱水してしまうお年寄りが多くいます。

原因は、お年寄りは筋肉が少ないので体に水分を留めておけないことに加えて、トイレに行くのが面倒と考えて水分摂取を控えたり、脱水に自分で気がつかなかったりするからです。

脱水は、最悪の場合、死亡につながってしまうため、介護者が注意することが必要です。

脱水状態のチェックを

自宅で高齢者を介護するときは、こまめに脱水していないか確認することが大切です。

たとえば、脇の下を触って乾いていれば、少し脱水していると判断できます。

さらに、口の中が乾燥しているときは、高度に脱水していると判断できます。

そういったときは、すぐに水分補給をしましょう。

つねに水分補給を

また、日頃から、水分が不足しないように、こまめに水分補給をすることが大切です。

特に夏場は汗をかくので、たとえば、スポーツドリンクなど、ミネラルが豊富なものがオススメです。

感染症の予防も大切

他方、食中毒などの感染症の予防も大切です。

冬場で注意すべき点は、ノロウイルス感染です。

嘔吐や下痢、食欲不振による脱水におちいりやすいので、手洗いを確実にしましょう。

薬の確認も

人によっては、尿で体の水分を出す薬を処方されていることがあります。

これを利尿薬(利尿剤)といいます。

心臓が悪い(心不全など)、高血圧、腹水や胸水がたまる場合などに処方されます。

水分補給をしても脱水気味であったり、改善しないときは、これらが原因となっている場合があります。

薬による脱水について不安があるときは、薬を処方している医師に相談してみましょう。

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Column

薬物の正作用、副作用、有害作用、中毒作用とは?

薬物の作用には、「正作用」と「副作用」とがあります。

正作用

正作用とは、疾患の治療や予防の目的で常用量投与したときに現れる薬理作用であって、薬物の投与目的に合った作用のことをいいます。

副作用

これに対し、副作用とは、正作用以外の不必要な作用のすべてをいいます。

有害作用

薬物の「有害作用」とは、薬物の副作用のうち、有害で意図しない作用をいいます。

中毒作用

中毒作用とは、有害作用のうち、特に、薬物の過剰投与による作用をいいます。

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遠隔医療

急な腹痛で遠隔診療を受けられる?

腹痛で遠隔診療を受けられるか解説します。

腹痛と遠隔診療

遠隔診療の対象は、いまのところ、生活習慣病などの症状が安定している病気です。

しかも、1回目の診察は、対面で行うことが必要です。

よって、「お腹が痛い」,「胃腸が痛い」という理由だけでは、遠隔診療を受けることはできません。

参考:遠隔診療を受けられる病気

救急医療相談なら利用可能

しかし、急な腹痛については遠隔診療が無理でも、電話で救急医療相談をすることができる公的サービスがあります。

「病院へ行くべきか」や、「自宅での過ごし方」などの相談に乗ってもらえます。

地域によって、医師や看護師などが相談に応じてくれますので、ぜひ利用しましょう。

救急医療相談窓口の一覧
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検査

肝機能検査の基礎知識

肝機能検査の基礎知識を解説します。

概要

肝臓は、人体最大の実質臓器であり、同時に最も多様な機能を発揮する臓器です。

肝臓の主な機能は、①蛋白質、糖質、脂質などの物質の合成と異化、②胆汁の生成と排泄、③人体にとって有害な物質の解毒、分解、排泄、④血液凝固線溶因子とその制御因子産生と異化による止血機能の調節、⑤門脈系を中心にした循環調節です。

肝機能に異常が無いかを、複数の検査を実施して確認します。

なかでも、血液中のAST、 ALT、LD、γ−GTP、ALP、ChE、ビリルビンは、もっとも基礎的な検査です。

AST、 ALT、LDは、肝臓実質細胞が損傷されると異常値を示します。

また、γ一GTP、ALPは、肝細胞から十二指腸のファーター乳頭に至る胆汁の通過経路に障害が起きると異常値を示します。

さらに、ChEは、肝臓の合成能の重要な指標になります。

そして、ビリルビンは、その生成、代謝、排泄のプロセスのどこに障害があるかを示す重要な指標になります。

AST,ALT

ASTやALTは、分布する組織が傷害を受けると、血中に酵素が流出してくることから、「逸脱酵素」と呼ばれます。

肝細胞壊死を評価する検査です。

ASTは、肝細胞、心筋、骨格筋、腎などに広く分布する酵素です。ALTはほぼ肝臓に限局しています。

ASTやALTは、値の高さが緊急性を反映するわけではありません。例えば、急性肝炎の場合、急激に肝細胞が壊れ、1000を超える数値になることもあります。

一方、慢性肝炎では、ゆっくりと肝細胞が傷害されるので、重症であってもそれほど高い値を示しません。

また、 肝硬変では、壊れる細胞が減少しているので、数値が基準範囲内となることがあります。

AST/ALT比は、肝傷害の病態の鑑別に役立ちます。肝細胞中の酵素含有量は、ASTはALTに比べて約3倍多いですが、血中半減期はASTがALTに比べ短いからです。

なお、肝臓に病変を認める疾患(肝炎、肝がん、肝膿瘍など)以外でも、AST・ALTは高値を示すことが知られています。胆石症、胆管がん、膵がんなど、胆管に病変が及び、胆管の閉塞を認める場合には、胆汁のうっ滞に伴って、肝細胞傷害を認めます。後述する胆道系酵素(ビリルビン・γ-GT・ALP)と合わせた評価が必要です。

LDH(乳酸脱水素酵素)

LDHは、肝臓、心臓、 骨格筋、赤血球など、全身の組織に分布する逸脱酵素です。

これらの組織に傷害がおきると、LDHの血中濃度が上がります。

LDHには構造の違う5つのアイソザイム(LDH1〜LDH5)があります。

心筋、赤血球にはLDH 1、LDH 2が多く含まれています。また、肝細胞、骨格筋にはLDH 4、 LDH 5が多く含まれています。

LDHのアイソザイムを検査することで、傷害された臓器・細胞を推定することができます。

また、ASTとの関係を見ることでも、傷害された臓器を推定することができます。

たとえば、急性肝炎などではLDHは、 ASTやALTとほぼ同様に上昇しますが、溶血性貧血や悪性貧血などの赤血球の傷害では、ASTに比べてLDHが優位に上昇します。

γ‐GTP(γ一グルタミルトランスフェラーゼ)

γ−GTPは、腎臓、膵臓、脾臓、小腸などの様々な臓器に分布する酵素です。

γ−GTPは、胆汁うっ滞や、薬物・アルコールの摂取で誘導され、血液中の活性が増加するため、「誘導酵素」と呼ばれることがあります。

血中に存在するγ−GTPは、ほぼ肝臓由来に限られているため、 γ−GTPの増加は、肝・胆道系障害、あるいはアルコール過量の指標とされます。

γ−GTPが上昇する疾患の代表的なものは、胆石症、 肝炎、肝硬変、脂肪肝、アルコール性肝障害、薬剤性肝障害などです。

なお、γ−GTPは、単独で疾患が分かる検査項目ではないため、ほかの検査も確認することが重要です。たとえば、肝・胆道系疾患ではALPとγ-GTPとがともに上昇します。

ALP

ALPは細胞膜に存在する酵素で、肝臓以外の臓器(骨、胎盤、小腸など)にも含まれ、その由来によって5種類のアイソザイムALP1〜ALP5に分類されています。

ALPが異常値を示す疾患としては、閉塞性黄疸、 肝内胆汁うっ滞のような肝・胆道系疾患と骨病変(転移性骨腫瘍など)が考えられ、その際は、アイソザイムを確認することで由来を推測できます。

なお、ALPの基準範囲は広く設定されていますが、健常人では、あまり変化しませんので、前回値からの変動があるときは、基準範囲内であっても着目する必要があります。

ChE(コリンエステラーゼ)

ChEは、肝細胞で合成・分泌される酵素です。

肝臓の合成能に障害があるとChEは減少するため、肝臓の合成能の重要な指標になります。

たとえば、肝疾患の経過観察や重症度の判定のほか、 悪性腫瘍や消耗性の疾患での全身状態の把握、手術侵襲の程度の判定などに利用されています。

ChEは脂質代謝とも関連があり、高脂血症、脂肪肝、肥満、ネフローゼ症候群などでは高値になります。

なお、ChEは、有機リン系農薬中毒で、著しい低値になります。

ビリルビン

ビリルビンは、いわゆる胆汁色素です。

血清中のビリルビンが増加して2~3mg/dlになると、皮膚や粘膜が黄染するなど、明らかな黄疸が現れます。

ビリルビンは、老化赤血球由来のヘモグロビンと、筋肉由来のミオグロビンが、脾臓で分解されて生成されます。

このビリルビンは間接ビリルビン(非抱合型)と呼ばれ、不溶性です。

間接ビリルビンは、血中でアルブミンと結合して肝臓に運ばれ、グルクロン酸抱合を受けます。

このビリルビンは、直接ビリルビン(抱合型)と呼ばれ、水溶性です。

直接ビリルビンが胆汁の成分として、胆嚢・胆管を通って十二指腸ファーター乳頭から排泄されます(なお、十二指腸に入ったビリルビンは、腸内細菌の働きによってウロビリノーゲンになり、便中や尿中に排泄されます)。

したがって、赤血球の多量の崩壊、肝細胞での摂取・抱合障害、肝細胞障害、胆管閉塞など、ビリルビンの生成、代謝、排泄のプロセスのどこかに障害があると、ビリルビンは異常値を示します。

そして、増加しているビリルビンの種類が分かれば、肝臓へ至る前、肝臓、肝臓の通過後のどこに障害があるかを推定することができます。

例えば、間接ビリルビンが優位に上昇しているときは、疑う疾患に溶血性黄疸が挙がりますし、また、直接ビリルビンが優位に上昇しているときは、疑う疾患に閉塞性黄疸や胆汁うっ滞性肝障害などが挙がります。

なお、尿中に排泄されるビリルビンは、水溶性の直接ビリルビンだけです。

間接ビリルビンは、血液中でアルブミンと結合しているので腎糸球体で濾過されないからです。

血清中の直接ビリルビンが異常高値を示す病的な場合には、尿中の直接ビリルビンは陽性になります。

アンモニア

肝臓では、たとえば、アンモニアが解毒されます。

腸管内の腸内細菌で生成されたアンモニアや、肝臓でタンパク合成に利用されなかったアミノ酸から生じるアンモニアを尿素に変え、無毒化します。

無毒化された尿素は、腎において尿中へ排泄されます。

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副甲状腺の役割

副甲状腺

副甲状腺は、甲状腺の背面に埋め込まれた小さな丸い組織塊です。

1個の上副甲状腺と、1個の下副甲状腺とが、甲状腺の右葉と左葉についています。

副甲状腺ホルモン

副甲状腺の分泌細胞は、副甲状腺ホルモン(PTH)を分泌します。

PTHは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リン酸イオンを調節しています。

PTHの作用

PTHは、破骨細胞の数と活性を高め、カルシウムイオンとリン酸イオンの血中濃度を上げます。

また、PTHは、腎臓に作用し、下記の①~③の作用を及ぼします。

①CaイオンとMgイオンが尿に失われる速さを遅らせ、リン酸イオンが尿中へ排出される速さを上げる

②近位尿細管でのリン酸イオンの排出を促す(血液から尿中へ失われるリン酸イオンを増加させる)

③ビタミンDの活性型(カルシトリオール)の形成を促進させる

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ツーポイントアッセイとは?

ツーボイントアッセイとは、反応開始後の特定の2つの時間の吸光度を測定し、単位時間当たりの反応速度を求める方法です。

この方法は、最初の測定時を、2回目の測定値から引くことに特徴があります。

すなわち、ワンポイントアッセイのように、盲検を作製しなくてもよいのがメリットとなります。

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検査

ワンポイントアッセイとは?

ワンポイントアッセイとは、反応開始一定時間後に反応を停止し、生成物の量あるいは基質の減少量を測定する方法です。

この測定法は、反応開始時に有する検体および試薬の吸光度を除去するため、すべての検体を盲検する必要があります。

なお、この方法は「エンドポイントアッセイ」と呼ばれていたこともあります。

現在、用手法の酵素検査はこの方法で測定されています。