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「食後30分は歯を磨かないほうがいい」という噂の真相

「食後はすぐに歯を磨いたほうが良い」というのが昔の常識でした.
ところが,数年前,「新常識! 食後30分は歯を磨かないほうがいい!」というような情報が,テレビで拡散されました.
最近でも,たとえば,TBSで,こんなテレビ放送がされました(2018年9月25日).

テレビ番組名「この差って何ですか?」

当時,この番組のウェブサイトでは,つぎのように説明されていました(引用).

〇「食べたらすぐに歯磨き」は間違っている
今の常識では、食後すぐに歯磨きをするのは良くないとされている。食べてすぐの口の中は酸性状態になっていて、虫歯が細かくできる。しかし、しばらくすると唾液が酸性状態を中和してそれ以上虫歯になるのを防ぎ、さらに唾液に含まれるカルシウムなどが細かくできた穴を埋める働きをする。そのため、食後すぐに歯磨きをしてしまうと、唾液が虫歯を修復する働きを妨害してしまう。酸性状態が中和されて元の状態に戻る食後30分以上経ってから歯磨きをするのが良い。

日経新聞でも、つぎのような記事が見られました。
食後すぐの歯磨きはNG 虫歯予防の新常識
口の中が酸性になっても、唾液の力で中和されて溶けたエナメル質も復活する。ただし、30分ほど時間がかかる。食後すぐに歯をゴシゴシと磨くと軟らかくなったエナメル質を削り落としかねない。とはいえ、自分が食べた食事が酸性かどうか見分けるのは難しい。そこで「食後は歯磨きまで30分ほど置くのが安全策」(北迫助教)。
みさなんの中にも,こういう情報を,新聞やテレビで見聞きしたことのある方はいらっしゃるのではないでしょうか?
さて,この「食後30分は歯を磨かないほうがいい」という情報.
気になったので,真相を調べてみました.
結論から言うと,「食後30分は歯を磨かないほうがいい」というのは…
正確な情報ではなかったようです.
もともと,この「食後30分は歯を磨かないほうがいい」という情報の出どころは,ある論文だったそうです.
それがこちら(2004年の英語論文).
Brushing abrasion of softened and remineralised dentin: an in situ study.
この論文では,実験として,酸性炭酸飲料に歯の「象牙質」の試験片を90秒間浸します.
・直後にブラッシングするもの(0分)
・口の中に入れて一定時間(10分,20分,30分,60分)が経過した後,ブラッシングするもの
・ブラッシングしないもの(コントロール)
21日間やって,象牙質の摩耗の差を調べたみたいです.
結果,20分までのサンプルは,コントロールと比べて,(統計的に有意に)摩耗が増加していたそうです.
条件が特殊だったわけです.
似たような論文は,その後もいくつかあるみたいです.
不正確な情報が広まったというのが真相みたいです.

関連リンク:日本小児歯科学会以下、引用です。

食後の歯みがきについて

公益社団法人日本小児歯科学会

これまで保育所・幼稚園、学校では昼食後にはなるべく早く歯みがきをしてから遊びましょうと指導してきています。その理由としては、むし歯をつくる細菌が多量に含まれる歯垢(プラーク)と食後口の中に残留する糖質を早く取り除くためだからです。
ところが、最近になって、食後すぐに歯をみがくと、あたかも歯が溶けてしまうというような報道が新聞やテレビで伝えられたため、現場がやや混乱しているようです。
これらの報道のもととなったのは、実験的に酸性炭酸飲料に歯の象牙質の試験片を90秒間浸した後、口の中にもどしてその後の歯みがき開始時間の違いによる酸の浸透を調べた論文で、むし歯とは異なる「酸蝕症」の実験による見解なのです。
実際の人の口の中では、歯の表面は上記の実験で用いられた象牙質ではなく酸に対する抵抗性がより高いエナメル質によって被われています。したがって、このような酸性飲料を飲んだとしても、エナメル質への酸の浸透は象牙質よりずっと少なく、さらに唾液が潤っている歯の表面は酸を中和する働きがあり、酸性飲料の頻繁な摂取がないかぎり、すぐには歯が溶けないように防御機能が働いています。つまり、一般的な食事ではこのような酸蝕症は起こりにくいと考えられます。
小児における歯みがきの目的は歯垢の除去、すなわち酸を産生する細菌を取り除くとともにその原料となる糖質を取り除くことです。歯みがきをしないままでいると、歯垢中の細菌によって糖質が分解され酸が産生されて、歯が溶けだす脱灰が始まります。このように、歯垢中の細菌がつくる酸が歯を脱灰してできるむし歯と、酸性の飲食物が直接歯を溶かす酸蝕症とは成り立ちが違うものなのです。
結論としては、通常の食事の時は早めに歯みがきをして歯垢とその中の細菌を取り除いて脱灰を防ぐことの方が重要です。
学会としても今後より詳細な情報を提供していく予定ですが、現在のところ、園・学校における昼食後の歯みがきについては、現状通りの方法で問題ありません。

とはいえ,実際のところはどうなの?
という話になりますが,
現時点で,食後30分は歯を磨かないほうがいいのか?悪いのか?
これについて,はっきりとした答えはないようです.
どっちを選んでも自己責任ということですね!
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医療

ジビエ肉には,E型肝炎ウイルス,腸管出血性大腸菌または寄生虫による食中毒のリスクがある

ジビエ肉とは

ジビエ肉とは,狩猟でしとめた鳥獣類の肉のことです.

シカ肉,イノシシ肉,鳥肉などです.

栄養価が高いということで,グルメの面で注目を浴びています.

また,ビジネスの面でも注目されています.

野生のシカやイノシシを仕留めて獣害を減らす一方で,肉を食用として流通させ利益を得る… 近年,そんな動きが見られます.

もちろん,課題もあるようですが.

【課題についての参考記事】

ジビエ・ビジネスの光と影 獣害対策の切り札となるか

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9689

一見,大きな可能性を秘めたジビエビジネスなのですが,消費者の立場から見ると,そこには重大な危険があります.

それは,「生」または「加熱不十分」な野生のシカ肉やイノシシ肉を食べると,E型肝炎ウイルス,腸管出血性大腸菌または寄生虫による食中毒のリスクがあるということです.

厚労省も注意喚起しています.

なかでも,要注意なのがE型肝炎です.

E型肝炎は、E型肝炎ウイルス(hepatitis E virus、以下「HEV」という。)の感染によって引き起こされる急性肝炎(稀に劇症肝炎)で、慢性化することはありません。HEVは主として経口感染しますが、ごく稀に、感染初期にウイルス血症をおこしている患者(あるいは不顕性感染者)の血液を介して感染することもあります。E型肝炎は開発途上国に常在し散発的に発生している疾患ですが、時として汚染された飲料水などを介し大規模な流行を引き起こす場合もあることが知られています。一方、先進国においては、開発途上国への旅行者の感染事例が多かったことから、専ら「輸入感染症」として認識されて来ましたが、近年、渡航歴のない「国内発症例」も散見されるようになり、しかも、そのような例から採取されたHEV株は、それぞれの地域に特有の「土着株」であることが明らかになって来ました。自然界における感染のサイクルは未だ不明ですが、豚やシカ、イノシシなどの動物からもヒトのHEVに酷似するウイルスが検出されていることや、動物からヒトへの感染事例の報告もされていることから、今では本疾患は人獣共通感染症として捉えられています。(厚労省ウェブサイトより引用)

近年,ジビエ肉によるE型肝炎の増加が問題になっています.

レバーなどの内臓が,E型肝炎ウイルスに汚染されていることが多いからです.

万が一,ジビエ肉を食べるときは,十分な加熱を行うことをオススメいたします.

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医療

新型コロナ:街中では市販のマスクは基本、不要と思う話。

新型コロナウイルスの流行にともなって、つい最近まで、朝はやくから開店前のドラッグストアに並んでいる人たちが話題でした。

私の家の近所のドラッグストアでも、早朝に、開店待ちの行列をよく目撃しました。

理由は、マスクの購入のようでした。

さて、本日は2020年4月21日。

電車にのっても、街中を歩いても、新型コロナウイルスの感染予防のためでしょう、みんながマスクしていますね。

ここで、マスクに関する一般論ですが、たとえば、「インフルエンザウイルスは、くしゃみや咳で排出された⽔分を多く含む粒⼦が暴露されることにより広がるため、これを防いだり、減少させたりするためには、マスクの着⽤が効果的である。」なんて言われています。

だから、市販のマスクは、咳などの症状のある人が飛沫(ひまつ)を飛散させないために咳エチケットとして着用することが推奨されているわけですね。

一方で、結核菌や麻疹ウイルスは、空気感染(0.5μm以下の飛沫核による感染)なので、N95マスクの着⽤が必要になってきます。

※N95マスクは、0.3μmの微粒子を95%以上捕集できることが確認されているマスクです。

新型コロナウイルスとエアロゾル感染

では、新型コロナウイルスの場合は、どう考えたらいいのでしょうか❓

新型コロナウイルスへの感染予防(感染対策)に、市販のマスクは効果があるのでしょうか❓

新型コロナウイルスが飛沫感染であれば、「密閉空間でない限り、咳をしている人から飛沫感染を防げる距離(2m程度)をとれば、マスクが無くとも、感染はしない」という考え方でよさそうですが、、、

この点については、テレビなどでも話題でしたが、先月(3月)になって、こんな情報が報道されていましたね。

▶新型コロナ「エアロゾル」で3時間生存 米研究グループが発表(2020年3月18日)

参照:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200318/k10012337251000.html

≪引用≫
NIHやCDC=アメリカ疾病対策センターなどの研究グループは、新型コロナウイルスについて、空気中や物質の表面などでの生存期間を調べた論文を17日、アメリカの医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に発表しました。
それによりますと液体を噴霧する装置を使って、ウイルスが含まれた液体の粒を5マイクロメートル以下の、いわゆる「エアロゾル」という状態にした場合、3時間が過ぎてもウイルスは生存していました。普通のせきやくしゃみで出る飛沫のほとんどは粒が大きいためすぐに地面に落ちますが、より小さい粒子は長時間、空気中に漂います。
こうした小さい粒子でもウイルスが一定の時間、生存できることが確認されたことから、研究グループでは「『エアロゾル』による感染が起こりうる」と結論づけています。
CDCは、エアロゾルが発生しやすい医療現場で働く人などに対し、専用のマスクを着用するなどしたうえで新型コロナウイルスの感染者に対応するようガイドラインに明記するなど、厳重な対策を求めています。

ここでいうところの「エアロゾル(5マイクロメートル以下)」は、市販のマスクでは、完全には防げません。

市販のマスクは、人混み(至近距離)で飛沫を受け止める程度の効果はあるのですが、エアロゾルについては、完全には防げません(移されるリスクを大きく減らすことはできません)。

十分に感染リスクを下げるためには、N95マスクが必要になります。

ただし、このエアロゾルは、街中では発生しません。

具体的には、

・「通常の呼吸や咳・くしゃみではエアゾルは伴わない」

・「普段の生活ではエアゾルは発生しない」

とのことです。

飛沫は、時間が経てば乾燥して小さくなり、空中に長くは漂えません。

エアロゾルは特定の医療処置で発生するものだそうです。

おそらく吸引操作などで発生するのでしょう。

参照:https://news.yahoo.co.jp/byline/sakamotofumie/20200318-00168478/

以上から、やはり、「密閉空間でない限り、咳をしている人から飛沫感染を防げる距離(2m程度)をとれば、マスクが無くとも、感染はしない」という考え方でよさそうです。

言いかえれば、新型コロナウイルスへの感染の予防という観点では、「周囲に咳をしている人がいない場所で、市販のマスクをしていても、ほとんど意味ない」という結論になるのではないかと思われます。

WHOも、健康な人が過度にマスクを使うことのないように述べていて、この考え方で問題なさそうだと思います。

なお、市販のマスクに予防効果が期待できない理由は、上に書いた、「エアロゾル(5マイクロメートル以下)を完全には防げない」、ということのほかに、普段の生活で、人は1時間に20回以上も顔を触っていることがあるようです。

一時的にマスクで直接の飛沫の吸い込みを防げたとしても、顔や髪、衣服、あらゆる場所に付着しているウイルスを、最後には、経口で取り込んでしまうんですね。

医療従事者でない一般の人は、四六時中、マスクを着けっぱなしにしないと、「手から口へ」を防ぎきれないそうです。

実効性のある予防方法は、こまめに手洗いすること、肩より上へ手を上げないこと、口や顔に触れないことだそうです。

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蚊にさされるリスクは存在する

その昔,「蚊」というPS2のゲームがあったのをご存知でしょうか?

一言でいうと,「蚊になって女の子から吸血できるゲーム」です.

言葉は悪いですが、

クソゲーwww

と思いながら全クリした懐かしのゲームです笑


さて,タイトルに書いた,きちんとした話をしますが,日本で「蚊」に刺されるのは, かゆくなるだけ と思いがちです.


ところが,いまなお,蚊が媒介する日本脳炎の国内感染者は毎年10人前後で推移していると言われ,蚊に刺されるリスクが存在します.

それから,近年のデング熱の国内感染事例にみられるように,蚊による輸入感染症は,簡単に広がります.

また,日本には生息していないネッタイシマカが成田空港で発見されるなど,想定外のリスクも高まっています.

したがって,日頃から蚊対策を行うこと はとても重要です.

手段として,体に塗る蚊よけは,とても大切です.

蚊取り製剤も併用すると,さらに良いでしょう.

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肌のピーリングは老化を早める? この疑問を調べてみた結果…

最近,女性の間で,肌のピーリングが流行しています.

これは,肌の表面の角質を除去して,その下の表皮の細胞分裂を活発にするそうですね.

▶参考:http://www.jsprs.or.jp/member/disease/aesthetic_surgery/aesthetic_surgery_07.html

この話を聞いて,ふと思ったんですが…

人の細胞分裂の回数は,限界がありますよね.

肌のピーリングって,「ターンオーバーを促進…」なんて謳い文句ですが,


実は,限りある細胞分裂の回数を,前借りしている行為なんじゃないか?


長期的に見たら,老化を早めているんじゃないか?

こんなことを思ったんですね.

もちろん,ピーリングの頻度にもよるとは思いますが.

ところが,この件について調べてみると,医学的に「大した影響はない」という意見が大多数でした.

「やめておいたほうがいい」という意見はほんの一部ですね.

たぶん,上記の疑問は杞憂なのでしょう.

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VRの子どもの視機能への影響

最近,話題のVR(Virtual Reality).

ヘッドマウントディスプレイを用いたゲームなどが発売されていますね.

楽しんでやっている人もいるんじゃないでしょうか?

ところが,このVR. 実は,13歳未満の子どもには,VRゴーグルの使用が推奨されていません.

なぜなら,VRは,普段とは違うやり方で立体視するため,発達途中の子どもが,斜視になる危険性などがあるからです.

 

【参考】

VRの普及に立ちふさがる、13歳未満のVR体験を制限する「13歳問題」とは

https://wrap-vr.com/archives/27203

お子さんをお持ちの方などは,子どもにせがまれても,VRをさせないように注意したほうがよいと思われます.

子どもはいったんハマると,手がつけられなくなりますから,要注意です!

以上,ご参考までに.

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無垢な貴方が騙されるハゲタカジャーナル

みなさんは、こんなような情報に接したことはないでしょうか?

「ある食べ物を摂取することで、心身の症状が改善しました。この研究報告は、学術誌に掲載されました。」

…じつは、近年、問題視されているものがあります。

いわゆる “ハゲタカジャーナル” の存在です。

海外では以前から問題視されていましたが、日本でも、近年、ようやく注目されるようになってきました。

ハゲタカジャーナルとは、掲載に審査がある学術誌(査読誌)であることをうたいながら、著者から論文投稿料を得ることのみを目的として、適切な査読を行わない、 低品質のオープンアクセス形式のジャーナルです。

早い話が、

「お金を支払えば掲載される」

そういう学術誌です。

ハゲタカジャーナルは、フェイクニュースのエビデンスとして使われるケースもあり、要注意です。

ハゲタカジャーナルの見極めは、専門家でも難しいようです。

ふだん学術研究に接しない一般人であれば、それがハゲタカジャーナルかどうか判断する材料が少ないので、なおさら、かんたんに信じてしまいます。

では、一般人ができる対策は?という話になるのですが、

ハゲタカジャーナルの見極め方を、京都大学が紹介していましたので、目安として紹介しておきます(参照先)。

・掲載されている論文に不審な点が多い。もしくは対象分野と大きくかけ離れた論文が掲載されている。

・ そのジャーナルの出版社が、短期間に不自然なまでに多くのジャーナルを刊行している。

・ ジャーナルのウェブサイトに、Editorial Officeの住所が記載されていない。

・ ジャーナルのウェブサイトに、無関係で学術的ではない広告が掲載されている。

・ 編集責任者が明確でない。

・ ジャーナルの名称やロゴが、有名なものに酷似している。

・ 査読の時間が極端に短いことを確約している。

・ 論文の著作権の取り扱いが明示されていない。もしくは著作権は出版社が保持すると記載されている。

・ 論文投稿料が明示されていない。

・ 研究不正や利益相反についての方針が明記されていない。

・ ジャーナルが刊行停止になった際、論文へのアクセスがどうなるかが明記されていない。 等

さいごに、ネット上の医療情報についてですが、個人的な意見を言えば、「ネットの情報は鵜呑みにしない」を徹底してほしいと思います。

インターネットで病気について調べるのであれば、大学病院や各種学会の公的なHPに「一般の方へ」という項目を探して、そちらで知識を得るとか、国立感染症研究所や国立がん研究センターなどの公的施設が発信している情報を信じてもらいたいと思います。

その際は、いずれも、統計的裏付けを、ご自身で確認してもらいたいと思います。

この記事は以上です。

お読みいただきありがとうございました。

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医療

がんゲノム医療の話

今回は,情報提供として,「がんゲノム医療」を取り上げます.

がん治療は年々進化しています.

近ごろは,患者のがん組織中の遺伝子変異を調べることができるようになっています.

遺伝子の変化に合わせて,効くであろうがん治療薬を選択できます.

▼詳しくはこちらへ

がん情報サービスhttps://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/genomic_medicine/genmed02.html

具体的には,遺伝子パネルと呼ばれるパネルで調べます(がん遺伝子パネル検査).

参考:がんゲノム医療の経緯
2017年に決定された「第3期がん対策推進基本計画」では, ゲノム情報をもとに効果の高い治療法を選択する「ゲノム医療」の推進が盛り込まれました.これに伴い,厚労省は「がんゲノム医療」の中心的な役割を担う全国11施設を「がんゲノム医療中核拠点病院」に指定し,がん関連遺伝子を網羅的に解析できるがん遺伝子パネル検査が先進医療として実施可能となりました.

なお,対象患者は限定されています.

手術ができない進行性の固形がん(あるいは再発した固形がん)で,標準治療がなく(または標準治療が終了している,もしくは終了予定),がん治療薬による治療を検討している患者が対象です.

これまで,この検査は保険適用がなく,全額自己負担でしたが,この6月から,二つのパネルが保険適応になりました(FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」および「OncoGuideTM NCC オンコパネルシステム). 3割負担で16万8千円です.

保険適用ですので,高額療養費制度も使えます.

ちなみに,メーカーの予測では,ピーク時にはそれぞれ年間1万3000人程度の患者が対象になると見込まれています.

遺伝子パネル検査には,保険適用がまだない検査もあります(全額自己負担).

例えばですが,兵庫県立がんセンターでは,オンコプライム検査は税込95万7千円,ガーダント検査は税込41万5千円といった具合です.

なお,今後,これらのパネルも,中医協が了承して保険適用されていく可能性はあります.

注意として,この遺伝子パネル検査は万能ではないことがあります.

最適な治療薬が見つかる可能性は10〜20%程度にとどまると言われています.

今後の研究の発展が期待されるところです.

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医療

アールノート(Ro)と集団免疫

アールノートの定義

感染症の感染性(伝播能力)の指標に,「基本再生産数」と呼ばれるものがあります。

集団にいる全ての人間が感染症にかかる可能性のある(感受性者)状態で、1人の患者が何人に感染させうるかを示す数字です。

この「基本再生産数」は、英訳すると、basic reproduction number となります。

R0で表されます。

Rは、reproduction の頭文字で、0はドイツ語でnull(ヌル)であり、その発音を受けて、アールノートと読まれます。

Roは,Ro≧1であれば,一定の確率で大規模流行が起こりえ、一方、Ro<1であれば、世代を経るごとに感染者数がしだいに減衰するので感染者の発生はごく少数に留まるそうです。

集団免疫

集団において、抗体保有率が高いと、感染症の伝播を防ぐことができます。

これにより、集団感染が防がれます。

この効果を集団免疫といいます。

ちなみに、集団免疫に対する言葉に、個人免疫という言葉があります。

ワクチンによる個人免疫は、予防接種を受けた人を感染から守ります。

なお、ワクチンのスケジュールは、国立感染症研究所のウェブサイトで見ることができます。

日本の予防接種スケジュール

集団免疫閾値(H)とは

集団免疫を獲得するためには、達成すべき、集団内における抗体保有者の割合があります。

それは、Roから求めることができます。

計算式はつぎのとおりです。

H={(Ro−1)/Ro}× 100

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ジェネリック医薬品の市場予測

今回は,ジェネリック医薬品のお話です.

ジェネリック医薬品は,特許が切れた先発医薬品と,基本的な品質,効き目,安全性が同等なお薬です.

「後発医薬品」とも呼ばれています.

近ごろ,社会保障費を抑える観点で,国は,様々な取り組みをし,ジェネリック医薬品の使用割合を高めてきました.

いま,使用割合は60%くらいになっています.

そして,H32年には80%にまで高めようとしています.

 

そんな背景がある中,国内ジェネリック市場は,今後,年率5~7%のペースで市場が拡大していくと見られています.

今後,みなさんがジェネリック医薬品を服用する機会は,ますます増えていくことでしょう.

安全性 ちなみに,ジェネリック医薬品に関して,たびたび「安全性」が話題になります.

その理由は,ジェネリック医薬品は,

  • 先発医薬品と添加剤が異なる場合が多い
  • 先発医薬品とは違って大規模な臨床実験をしていない※

などの事情があるからですね.

※ジェネリック医薬品は,先発医薬品と同一の有効成分を同一量含有していることから,薬物動態が生物学的に同等であれば有効性および安全性も同等であるとみなされます.そのため,ジェネリック医薬品では有効性と安全性を確認するために臨床試験を行う必要はありません.

ここで,安全性に関する国の立場は,「原則としてジェネリック医薬品の安全性には問題がない」というものです.

ただし,ざっと私が調べてみたところ,薬剤に含まれる添加剤によっては,アレルギーをもつ人がアレルギー反応を起こすケースが報告されているのを見つけたので,その点は,注意が必要だろうと思います.

なお,ジェネリック医薬品を適正に使用したにもかかわらず,その副作用により入院治療が必要になるほど重篤な健康被害が生じたときは,「医薬品副作用被害救済制度」という公的な制度が利用できます.

ジェネリック医薬品に不安がある人でも,万が一のときの救済制度があるんだと知っていれば,多少は抵抗感が薄れるかもしれませんね.