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やせた高齢者は死亡率が高い

高齢者の低栄養が問題。

フレイルサイクル

入院患者の場合、感染症や貧血などの合併症、褥瘡の形成、入院期間の長期化などが引き起こされる。

「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書p378より

下図は、

  • BMI=20.0~22.9 kg/m2の群に比較したハザード比
  • 追跡開始時年齢=65~79 歳
  • 平均追跡年数=11.2 年
  • 対象者数(解析者数)=男性 11,230 人、女性 15,517 人
  • 死亡者数(解析者数)=男性 5,292 人、 女性 3,964 人
BMI=20.0~22.9 kg/m2の群に比較したハザード比
BMI=20.0~22.9 kg/m2の群に比較したハザード比

低栄養を見逃さず、見つけた場合は栄養管理を強化して回復させることが大切となる。

三大栄養素とエネルギー

エネルギー摂取量が、エネルギー消費量よりも少ないため(低栄養)、体重減少が引き起こされていると言える。

したがって、エネルギー摂取量が、エネルギー消費量を上回るようにすれば、体重増加が見込める(ただし、過栄養には注意が必要)。

ここで参照すべきが、エネルギー換算係数(Atwater 係数)である。

エネルギー換算係数(Atwater 係数)

  • タンパク質 4kcal/g
  • 脂質 9kcal/g
  • 糖質 4kcal/g

同じ重量の栄養素を摂取するのであれば、脂質がもっとも、効率が良い。

栄養評価に利用できるルーチン検査項目

以下の項目が代表的であるが、栄養評価に用いることができる。

  • アルブミン(ALB)
  • コリンエステラーゼ(ChE)
  • 総コレステロール(TC)
  • 総リンパ球数(TLC)
  • ヘモグロビン(Hb)
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リネゾリド(ザイボックス)と低リン血症

リネゾリド(ザイボックス)の使用により、低リン血症になることがあります。

MRSA感染症(菌血症,感染性心内膜炎,化膿性脊髄炎)などでは、 起炎菌のMRSAに対し、リネゾリド(ザイボックスⓇ:ミトコンドリア蛋白合成阻害)が使われることがあります。

このMRSA感染症は、低栄養の患者に発症しやすいところ、そのような低栄養患者に急速に栄養補給をすると、低リン血症が引き起こされやすいのですが(Refeeding syndrome:リフィーディング症候群)、そこに、リネゾリドの点滴の中止(終了)が加わると、リネゾリドは、投与中止後、速やかに薬効が減衰する薬物動態であるため、ミトコンドリア障害が速やかに改善してTCA 回路が働き出してしまい、解糖系の活発化(急速なグルコース利用の促進)が、リン酸化を亢進させ、血中のリンの欠乏に拍車がかかるというわけです 。

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血漿蛋白の種類と分子量・半減期のまとめ

血漿蛋白の種類と分子量・半減期のまとめです。

電気泳動した時の領域で分類しています。

アルブミン

  • トランスサイレチン(TTR )の分子量(kDa)は,55kDa。
  • トランスサイレチン(TTR )の半減期は,2日。
  • アルブミン(Alb)の分子量(kDa)は,66kDa。
  • アルブミン(Alb)の半減期は,20日

α1グロブリン

  • α1アシッドグリコプロテイン(α1AG)の分子量(kDa)は,40〜42kDa。
  • α1アシッドグリコプロテイン(α1AG)の半減期は,5日。
  • α1 アンチトリプシン(α1AT)の分子量(kDa)は,45〜55kDa。
  • α1 アンチトリプシン(α1AT)の半減期は,3日。
  • α1リポプロテイン(αLP:HDL)の分子量(kDa)は,200〜400kDa。
  • α1リポプロテイン(αLP:HDL)の半減期は,4〜5日。
  • α1ミクログロブリン(α1M)の分子量(kDa)は,30kDa。
  • α1ミクログロブリン(α1M)の半減期は,不明。

α2グロブリン

  • α2ミクログロブリン(α2M)の分子量(kDa)は,720〜820kDa。
  • α2ミクログロブリン(α2M)の半減期は,不明。
  • セルロプラスミン(Cp)の分子量(kDa)は,130〜140kDa。
  • セルロプラスミン(Cp)の半減期は,5日。
  • ハプトグロビン(Hp)の分子量(kDa)は,100〜400kDa。
  • ハプトグロビン(Hp)の半減期は,3〜4日。

Φ

  • フィブリノゲン(Fbg)の分子量(kDa)は,340kDa。
  • フィブリノゲン(Fbg)の半減期は,4日。

βグロブリン

  • βリポプロテイン(βLP:LDL)の分子量(kDa)は,3,000〜5,000kDa。
  • βリポプロテイン(βLP:LDL)の半減期は,3日。
  • β2ミクログロブリン(β2M)の分子量(kDa)は,11.8kDa。
  • β2ミクログロブリン(β2M)の半減期は,0.4日。
  • C3の分子量(kDa)は,185〜190kDa。
  • C3のの半減期は,3日。
  • C4の分子量(kDa)は,210kDa。
  • C4の半減期は,不明。
  • ヘモペキシン(Hpx)の分子量(kDa)は,57kDa。
  • ヘモペキシン(Hpx)の半減期は,不明。
  • プラスミノゲン(Plg)の分子量(kDa)は,83〜88kDa。
  • プラスミノゲン(Plg)の半減期は,2.2日。
  • トランスフェリン(Tf)の分子量(kDa)は,80〜90kDa。
  • トランスフェリン(Tf)の半減期は,8日。

γグロブリン

  • 免疫グロブリンA(IgA)の分子量(kDa)は,160kDa(分泌型は385kDa)。
  • 免疫グロブリンA(IgA)の半減期は,6日。
  • 免疫グロブリンM(IgM)の分子量(kDa)は,970kDa。
  • 免疫グロブリンM(IgM)の半減期は,5日。
  • 免疫グロブリンD(IgD)の分子量は,184kDa。
  • 免疫グロブリンD(IgD)の半減期は,2.8日。
  • 免疫グロブリンE(IgE)の分子量は,188kDa。
  • 疫グロブリンE(IgE)の半減期は,2日。
  • 免疫グロブリンG(IgG)の分子量は,146〜170kDa。
  • 免疫グロブリンG(IgG)の半減期は,19〜24日。
  • C反応性蛋白(CRP)の分子量は,115kDa。
  • C反応性蛋白(CRP)の半減期は,4〜6時間。
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高齢者の誤嚥性肺炎と嚥下評価・治療

誤嚥性肺炎について、学んだことを書いていきます。

説明用の記事ではないので、内容はごちゃごちゃですが、あしからず。

  • 食物や唾液などが、声帯を超えて気管内に入ることを「誤嚥」という
  • ムセや咳の無い誤嚥もある(不顕性誤嚥と呼ばれる)
  • 日中の嚥下に問題がなくても、夜間睡眠中に、唾液や逆流してきた胃内要物を少量誤嚥している場合もある
  • 口腔内は、温度・湿度・栄養の 3 つの条件が揃っているため、 数百種の細菌が口腔細菌叢(オーラルフローラ)を形成している
  • 唾液 1ml あたり、細菌は 107~ 1010個いると言われている
  • 誤嚥により、食物や唾液を介して、口腔内の細菌が気管に侵入する
  • 全ての誤嚥が肺炎に繋がるわけではなく、肺炎を発症するかどうかは、誤嚥物の量、内容、呼吸・喀出機能、免疫機能のバランスで決まる
  • 感染には、口腔内のレンサ球菌や嫌気性菌など、様々な菌が関与する
  • 日本人は、がん、心筋梗塞(虚血性心疾患)に次いで、肺炎・気管支炎が、死因として多い。
  • 令和元年の日本人の死因第6位(男子22899人,女子17486人)
  • 誤嚥性肺炎による死亡者は,2030年には男子77,000人,女子52,000人程度まで増加する予測があった(東京都健康安全研究センター年報69巻271-277 (2018))
  • 食べ物が入って生じる肺炎は、刺激によって生じる肺炎。広い意味での化学性肺臓炎(誤嚥性肺臓炎とよばれることがある)で、抗菌薬によって治療できる肺炎は細菌性肺炎(誤嚥性肺炎)とよばれる。
  • 高齢者の肺炎は、口の中の細菌(口腔内の常在菌である嫌気性菌が主)が肺に入って発症する「誤嚥性肺炎」の割合が高い。
  • 嚥下性肺疾患研究会が、2004~2005 年まで 1 年間、20 施設の病院で前向き調査を行った結果、全肺炎入院症例の約 7 割が誤嚥性肺炎であった。
  • 誤嚥とは、食物や唾液が誤って咽頭から喉頭・気管に入ってしまう状態。
  • 不潔な唾液中には 1 ml 中に1億の細菌が存在すると言われている。
  • すべての誤嚥が肺炎に繋がるわけではなく、誤嚥に引き続き肺炎が生じるかどうかは、侵襲と抵抗のバランスで決まる。
  • 口腔汚染、乾燥、う歯、歯槽膿漏、無歯顎、義歯不良などがある場合は、誤嚥性肺炎を疑う。
  • 誤嚥に多く見られる症状は、発作的な咳(咳き込み、むせ)。
  • 健常者でも誤嚥してむせることがある(通常は誤嚥物が喀出されるので問題なし)。
  • 誤嚥はとくに夜間では健常人にもしばしばみられる。咳反射や声門閉鎖や喉頭蓋の反転(嚥下)、繊毛などのクリアランス機構により異物は排除される。高齢者ではこれらの機能が低下し、誤嚥性肺炎が増加する。
  • 咳反射や嚥下機能が低下する要因の一つとしてサブスタンスP の減少が知られている。サブスタンスP は、ドパミンにより産生が促されるが、脳血管性
    障害(特に大脳基底核の障害)では、ドパミン産生が減り、迷走神経知覚枝から咽頭や喉頭・気管の粘膜に放出されるサブスタンスP が減少することで、咳反射や嚥下反射が低下すると言われている。
  • 誤嚥性肺炎の場合、食べ物や唾液に、口の中の菌が混ざって、気管に入り、肺に流れ込んだ細菌が繁殖する。
  • 高齢(とくに寝たきり)になったり、脳血管疾患の後遺症があったりして、飲み込む機能(嚥下機能)が衰えると発症しやすい。
  • 誤嚥をきたす疾患には,脳血管障害、神経筋疾患、頭頸部腫瘍、喉頭麻痒、ウ
    イルス感染症、外傷、などが挙げられる。
  • 栄養状態が不良であることや免疫機能の低下なども発症リスク。
  • 他方、嘔吐などで食物と胃液を一度に多く誤嚥して発症する場合もある。
  • 誤嚥には大きく分けて,顕性誤嚥と、気づかないうちに唾液や胃液などが肺に入る、「不顕性誤嚥」に分けられる。
  • 誤嚥性肺炎は、ゆっくりと進行する。
  • 誤嚥性肺炎の症状は,一般の肺炎の症状と同様で咳、痰、発熱、呼吸困難
    がみられる。
  • 高齢者では典型的な症状がないことがある。何となく元気がない、微熱が続く、食欲不振、顔色がすぐれない、のどがゴロゴロする、痰が絡むような咳が出る、食事の後にがらがら声になる (ゼイゼイいう)なども症状と捉える。
  • 高齢者肺炎の特徴として、意識障害を随伴する事から診断が遅れ重症化、死亡率が高くなる傾向にある。
  • 65歳以上の市中肺炎患者48例において、発熱、咳嗽、喀痰など典型的症状を認める症例は56%であったとの報告がある(臨床症状のみでの早期発見が困難ということ;Harper C, Newton P: Clinical aspects of pneumonia in the elderly veteran. J Am Geriatr Soc 1989; 37: 867-872)。
  • 誤嚥性肺炎の予防は、病気に対する抵抗力を高める、飲み込む力を保つ、口腔内を清潔にするなど。
  • 口腔ケアにより特別養護老人ホームに入所している高齢者の,、発熱および肺炎の発生が低下することは実証されている(第42回日本老年医学会学術集会記録<ワークショップIV: 口腔ケアと高齢者のQOL>3. 誤嚥性肺炎予防における口腔ケアの効果米山武義)。
  • 誤嚥をきたしやすい病態には、神経疾患(脳血管性障害、中枢性変性疾患、パーキンソン病、認知症)、寝たきり状態、口腔内の異常(歯の嚙み合わせ障害、口内乾燥、口腔内悪性腫瘍)、胃食道疾患(食道運動異常、悪性腫瘍、胃食道逆流、胃切除)、医原性(鎮静薬、睡眠薬、抗コリン薬などの口内乾燥をきたす薬剤、経管栄養)などがある。
  • 誤嚥性肺炎の比率は、年齢とともに増加する(日本の22病院を対象にした前向き調査(対象は、2歳から101歳までの肺炎入院患者589人。誤嚥性肺炎の発生率は、市中肺炎では60.1%(264/439例)、院内肺炎では86.7%(130/150例)で、誤嚥性肺炎の比率は年齢とともに増加した(下図:High incidence of aspiration pneumonia in community- and hospital-acquired pneumonia in hospitalized patients : a multicenter, prospective study in Japan.  Journal of the American Geriatrics Society 56(3), 577-579, 2008)。
入院肺炎症例の年代別にみた誤嚥性肺炎(ASP)と誤嚥性肺炎以外の肺炎(Non-ASP)との比率
入院肺炎症例の年代別にみた誤嚥性肺炎(ASP)と誤嚥性肺炎以外の肺炎(Non-ASP)との比率-High incidence of aspiration pneumonia in community and hospital acquired pneumonia in hospitalized patients : a multicenter, prospective study in Japan. Journal of the American Geriatrics Society 56(3), 577-579, 2008
  • 誤嚥性肺炎を発症すると、いったん絶食になり、短期的に末梢静脈栄養(PPN)で管理されることが多い。しかし、PPNではエネルギー量が不十分(一日あたり1000kcal程度が限界)。また、絶食によって腸が使われなくなることで腸管粘膜が委縮するうえ、治療のための抗菌薬の投与により多くの腸内細菌が死滅する。唾液の分泌が減って口腔内の自浄作用が低下する結果、栄養状態・口腔環境が悪化しやすい。
  • 誤嚥性肺炎が進行すると肺膿瘍や膿胸を合併することがある。

誤嚥を示唆する状況

  • 口からよだれや食べ物が垂れている
  • 嚥下開始に時間がかかる
  • 嚥下の前後,嚥下中に咳をしたり窒息したりする
  • 嚥下後に湿性のゴボゴボした声を出す
  • 甲状腺・喉頭の挙上が低下・欠如
  • 一口に対し複数回嚥下する
  • 鼻から食べ物や液体が漏れる
  • 口腔内に食べ物をため込む
  • ゆっくり,または早く食べ物を口に入れる
  • 次の一口を受け入れるまでに時間がかかる
  • 食事を終えるのに時間がかかる
  • 嚥下中の頭部・頸部の位置がおかしい
  • 嚥下時に痛みを伴う
  • 口腔,咽頭の感覚低下

medicina 45101830-1833より

嚥下機能障害をきたしやすい病態

嚥下機能障害をきたしやすい病態-日本呼吸器学会:医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドラインより

胃食道逆流

ちなみに、逆流した消化管内容物も誤嚥性肺炎の原因となる。高齢者では特に就寝時に多くなる。嚥下機能が低下すると、容易に誤嚥し、胃酸を含む消化管内容物が下気道に障害を与える。

食道内逆流や胃食道逆流による肺炎は、食後すぐに臥床することでリスクが高まる(食後少なくとも1 時間程度は車椅子に座っていることが望まれる)。病棟で車椅子に乗車する時間を徐々に増やすことが重要。

リクライニング車椅子やチルトリクライニング車椅子に乗車させ、休憩をとりながら、90 °座位に近い位置で座位をとらせると、座位耐久性が向上する。

食道の蠕動が不良になると、胃食道逆流症が生じやすくなる。

胃酸により障害を受けた肺をベースに肺炎を合併することがある(症状は喘
鳴、咳、呼吸苦、チアノーゼ、肺水腫、低血圧、低酸素、急性呼吸促迫症候群(acute respiratorydistress syndrome:ARDS)など)。

便秘による排便困難から腹圧を上げると胃食道逆流が誘発される。

胃食道逆流症を増悪しやすい薬剤として、カルシウム拮抗薬や、亜硝酸薬、キサンチン製剤、β刺激薬、プロゲステロン製剤、抗コリン薬、抗精神病薬、ベンゾジアゼピン系てんかん薬などがある。

低用量アスピリン内服により胃食道逆流が発症しやすくなったり、喘息治療薬であるキサンチン製剤の投与により胃食道逆流が悪化したりする点に注意。

経管栄養をやりはじめたときから、できるだけ車椅子へ乗車するようにし、覚醒の向上や体幹機能、呼吸機能の向上を図るべき。

夕食後にベッドで臥床するのなら、胃食道逆流が疑われる患者には、夜間就寝時も30 °程度ギャッチアップして寝るように指導する。

欧米では食事を誤嚥して生じる肺炎を antero-grade pneumonia というのに対して、逆流による肺炎をretrograde pneumonia と呼ぶ。胃液の逆流で生じる嚥下性肺炎をMendelson 症候群という。

診断と検査

嚥下性肺疾患診断フローチャート(日本呼吸器学会成人院内肺炎診療ガイドライン)を参考に用いる。

血液検査では白血球数やCRP、酸素分圧などから重症度を評価。胸部単純X線撮影や胸部CTによる肺炎の部位同定も。無気肺や肺水腫、膿胸なども評価する。

  • 炎症に最も敏感に反応するのは白血球数の上昇で、数時間以内に起こる。
  • CRPの増加は半日後から始まり、2~3日目にピークとなる。 ただし、肝疾患患者や、副腎皮質ステロイドなどの免疫抑制剤を用いている患者では CRPは上昇しにくいと言われる。
  • 桿状核好中球の増加も参考になる。白血球目視分類の基準範囲は、桿状核好中球 0.5 ~6.5%、分葉核好中球 38.0~74.0%である。

胸部X線写真やCT 像として、誤嚥性肺炎は、肺胞性陰影(consolidation)、不規則な粒状陰影(右下葉中心)が多区域に出現、横隔膜や心陰影に重なる下葉背側に生じやすい。

血液検査の必須項目としては、T-P(トータルプロテイン)、ALB(血清アル
ブミン)、Hb(ヘモグロビン)、Ht(ヘマトクリット)、BUN(尿素窒素)、Cr(クレアチニン)、血清Na・Cl・K などがある。データの解釈については、発症時には低栄養に脱水を合併している場合が多いことを念頭に置く。

採血と同時に、以下の検査も追加する。

喀痰(グラム染色,培養,感受性)

良い痰が取れれば特徴的なグラム染色像が得られる。

検体の採取は抗菌薬投与前に行う。

検体は、喀痰や吸引痰、気管内吸引痰などが対象になる

喀痰は、肉眼的な品質評価も大切。

Miller & Jones の分類で、P2もしくはP3の喀痰が適する。なお、Geckler分類を用いることは適さない(Geckler分類での良質な喀痰とは、扁平上皮細胞が少ないことであるが、誤嚥性肺炎では、喀痰に扁平上皮細胞が多く混入しているためである)。

そういった痰は、嫌気性菌が繁殖し、悪臭のあることもしばしば。

喀痰のグラム染色(唾液の誤嚥)では、扁平上皮細胞が好中球と一緒にフィブリンに絡まれている像や、多数の好中球に複数種類の口腔内常在菌が貪食されている像が見られる。

喀痰のグラム染色(逆流物の誤嚥)では、食物残渣(低倍率で見える)や、でんぷん顆粒(高倍率で見える)、好中球に捕食された複数種類の口腔内常在菌(高倍率で見える)が確認される。

多菌種貧食像は、特異度が高い(92%)とする報告がある(『誤嚥性肺炎の微生物検査』Medical Technology Vol.40 No.10:1098-1104, 2012)。なお、特異度が高い検査は、一般的には、陽性なら病気を持つ確率が高い(偽陽性が少ない)。

感度と特異度
感度と特異度-日本疫学会WEBサイト参考
  • 感度  =病気を持った人のうち、その所見がある人の割合 = A/(A+C)
  • 特異度=病気を持たない人で、その所見がない人の割合 = D/(B+D)

培養では口腔内常在菌の発育が認められる。

培養で発育する菌種は、たとえば、以下のものが代表的。

ただし、起炎菌なのか、口腔や気道の定着菌の混入に過ぎないのか、培養では判断が難しい(なお、日々のルーチン検査では喀痰はほとんど嫌気培養されないため、嫌気性菌の検出は一般的でない)。

  • 黄色ブドウ球菌(MRSA含む)
  • 緑膿菌
  • Klebsiella pneumoniae
  • Klebsiella oxytoca
  • 大腸菌 ESBL
  • Proteus mirabilis ESBL
  • Klebsiella oxytoca ESBL
  • Enterobacter cloacae
  • Enterobacter aerogenes
  • Citrobacter koseri
  • 肺炎球菌
  • Haemophilus influenzae
  • Moraxella catarrhalis
  • GroupB Streptococcus
  • Group G Streptococcus
  • Group F Streptococcus
  • Stenotrophomonas maltophilia
  • Corynebacterium sp.
  • Enterococcus faecalis
  • Candida albicans
  • Candida glabrata
  • Candida tropicalis
  • Candida krusei
  • Candida parapsilosis

誤嚥性肺炎と輸送容器:嫌気ポーター(ケンキポーター)

誤嚥性肺炎では、嫌気性菌が関与するため、嫌気性菌の検出が必要な場合もあるところ、嫌気性菌を検出するためには、検査室(あるいは外注先ラボ)まで、嫌気状態を保つ必要がある。

そのために、ケンキポーターなどの嫌気専用の輸送容器が必要である。

血液培養2セット

  • 血流感染の有無の確認
  • 陽性の場合は概ね24時間以内に菌が発育

尿中肺炎球菌抗原

  • 肺炎球菌の関与の確認

嚥下評価

誤嚥の原因疾患の診断・治療をし始めるときに、嚥下評価が必要。

嚥下評価ができる医師は、主に気管食道科や耳鼻咽喉科の専門医である。

専門医に評価してもらうことが何よりも重要。

「誤嚥あるいは嚥下性肺炎」イコール「経口摂取禁止が必要」ではないことに注意。

嚥下性肺炎の患者を、絶食にして胃痩を増設しても、嚥下性肺炎を繰り返す患者も存在する。

口頃の口腔衛生の保持や、睡眠時における寝床の工夫の方が重要。

嚥下動態や誤嚥の有無は、時間とともに変化する。たとえば、脳血管障害に伴う誤嚥では、急性期と回復期では、内容が違ってくる。

誤嚥する患者が,すべてムセ症状がある訳ではない。

ベットサイドの診察だけでは、誤嚥を見逃す。

嚥下内視鏡検査は行うべき。また、嚥下造影検査まで、行った方が良い。

検査方法は、スクリーニング法(ベッドサイドでの嚥下機能評価、嚥下時の動脈血酸素飽和度モニタリング、唾液反復嚥下試験、飲水試験、簡易嚥下誘発試験など)および嚥下機能評価法(飲水試験、嚥下造影検査、嚥下内視鏡検査、喉頭鏡による嚥下評価、嚥下圧測定、簡易嚥下機能誘発試験、嚥下誘発試験、インジウムクロライドなど放射性同位元素を用いた口腔内容物の肺内取り込み検査)など。

不顕正誤嚥の検出については、two-step法(simple two-step swallowing-provocation test,STS-SPT)やendoscopic supine swallow-evoking test(ESSET)が有用。

機能評価により嚥ド障害の存在が認められたら、食物を用いない嚥下訓練である間接訓練や、食物を用いた嚥下訓練である直接訓練(代償的アプローチ)を実施する。

QOL

誤嚥するから経口摂取禁止となったら、どうか。

制限付きで食事を口から摂取できる方法を検討するべき。

患者背景や宗教観人生観を考慮しつつ、どのような選択肢が良いの、十分に話しあって決める必要がある。

気管切開が必要な状態が永続的であると見込まれる場合、誤嚥防止手術を検討する(術後は発声機能が失われる)。

治療

肺炎の存在が確認された場合は抗菌薬をすぐ投与する。

少量の誤嚥で肺炎・気管支炎発症にいたらない場合は、抗菌薬を投与せず、その後の厳重な経過観察が望ましい。

胃内容物の嘔吐に伴う誤嚥は、すぐさま抗菌薬を投与すべき(気道バリアを傷害するため)。

急性期の誤嚥性肺炎の抗菌薬投与時は、同時に嚥下反射機能改善薬(ACE阻害薬,アマンタジンなど)を投与することがいいという見解もある。

市中での誤嚥性肺炎であれば,① Peptostreptococcus spp. ② Prevotella melaninogenica ③ Fusobacterium spp. の3グループの口腔内嫌気性菌をカバーする必要があり、クリンダマイシンやアンピシリンナトリウム・スルバクタムを選択する。

院内での誤嚥性肺炎であれば、タゾバクタム・ピペラシリンやセフタジジム,
セフェピムを選択する。

誤嚥性肺炎は、治療を開始して改善傾向を示していても、経過中に再び増悪することがある(誤嚥を繰り返しているのか、菌交代により抗菌薬が効かなくなったのかを判断する)。

なお、鎮咳薬は咳嗽反射の惹起を阻害するため、不顕性誤嚥のリスクを上昇させる。

JAID/JSC 感染症治療ガイドライン―呼吸器感染症によると、入院治療の第一選択薬は、l耐性菌リスクなしの場合、SBT/ABPC 点滴静注 1 回 1.5~3g・1 日 3~4 回。耐性菌リスクありの場合、以下のいずれか。

  • TAZ/PIPC 点滴静注 1 回 4.5g・1 日 3~4 回
  • IPM/CS 点滴静注 1 回 0.5~1g・1 日 2~4 回
  • MEPM 点滴静注 1 回 1g・1 日 2~3 回
  • DRPM 点滴静注 1 回 0.5~1g・1 日 3 回
  • BIPM 点滴静注 1 回 0.3~0.6g・1 日 3~4 回

なお、肺炎治療の効果判定の方法として、喀痰のグラム染色は有用。抗菌薬が効いていれば、菌の数が目に見えて減少したり、細菌の形態が変形したりする現象が観察できる。

予防

誤嚥性肺炎は、嚥下機能訓練、口腔ケア、胃食道逆流の予防、薬物、ワクチン接種(肺炎球菌ワクチン,インフルエンザワクチン)による肺炎予防など、包括的アプローチで発症リスクを低減させ、再燃を減らすことができる。

  • 口腔ケア(義歯の管理も)
  • 食形態の調整
  • 誤嚥を防ぐ食事介助
  • 食後30分程度の上体挙上(ギャッジアップ)
  • 嚥下リハビリテーション
  • 嚥下機能を改善する薬剤の利用
  • 嚥下機能を低下させる薬剤の中止
  • 栄養改善による免疫力の向上
  • 呼吸理学療法
  • ワクチン接種(肺炎球菌,インフルエンザ)
  • 嚥下機能改善手術
  • 誤嚥防止手術(気道・食道の分離)

予防策としての薬物療法に、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬が
ある(サブスタンスP の濃度を上昇させて咳反射を改善)。

脳梗塞後の患者は、抗血小板薬のシロスタゾールが肺炎発症予防に有効であるとの報告がある。

呼吸・喀出機能を保つための呼吸理学療法も有効。

摂食介助では、食塊を形成しやすいものや、液状食品に「とろみ」をつけるための添加剤である増粘剤を使用するとよい。

食事の体位は頚部前屈位30度仰臥した姿勢をとる。逆流を防ぐために食後2時間程度座位を保つなどの工夫が必要。

胃食道逆流によるメンデルソン症候群が疑われる場合は十二指腸EDチューブによる経管栄養を行うこともありえる。

脳の活動を低下させるβブロッカー、鎮咳剤、抗ヒスタミン剤、精神安定剤、抗不整脈薬などは最小限にとどめる。

外科的に腸痩造設や喉頭気管分離術等の誤嚥防止手術の提案もありえる。

手術では、喉頭機能を犠牲にするため術後は発声不能となり、永久気管孔を造設するデメ リットがあるが、誤嚥防止術により、誤嚥・ 肺炎のリスクがなくなるため、全身状態の安定や回復をもた らすし、介護のハードルを低くする。

どのような代替栄養療法によっても、唾液の誤嚥等による誤嚥性肺炎は予防できないと言われている(長期にわたって代替栄養が必要な場合には、胃瘻などの経管栄養により、栄養状態を改善させることが推奨されるが、胃瘻造設自体が肺炎予防に寄与するという報告はない:日本耳鼻咽喉科学会嚥下障害診療ガイドライン2018より抜粋)。

口腔ケアの効果

有名な研究がある(Pharma Medica vol.35 No.82017 p27)。

  • 全国11ヵ所の介護老人福祉施設の入所者を対象に介入研究。
  • 口腔ケアを積極的に行った口腔ケア群と、今までどおりの口腔ケアに委ねた対照群とを比較(25ヵ月間の検討)。
  • 積極的な口腔ケア群は、対象群よりも肺炎の発症率が低かった(p<0.05)。

プロトンポンプ阻害薬(PPI)と誤嚥性肺炎

  • PPIが、誤嚥性肺炎と関連しているという報告がある。
  • 原因は、胃内のPH低下による、殺菌効果の低下。
  • 胃内容物中の細菌が増加することで、逆流物が気管に入った場合に誤嚥性肺炎になるリスクが高まる。

誤嚥を見つけたときの対処

経過観察

ドレナージ(呼吸理学療法の分野では「体位排痰法」と呼ばれる)

呼気介助(呼吸に合わせて胸郭を圧迫して排誤嚥物を促す)

スクイージング(ドレナージ体位を取り、誤嚥物の貯留する胸郭を呼気時に圧迫し、吸気時に開放する手技)

ハフィング(声門を開いたまま、強制的に呼出をおこなう)

咳嗽介助(咳嗽に合わせて胸部または腹部を徒手的に固定あるいは圧迫する)

気管圧迫法(経皮的に気管を圧迫することで咳嗽反射を誘発する)

経口摂取再開の条件

  1. バイタルサインが安定している
  2. リスク管理がされている
  3. 意識障害がない
  4. 脳血管障害の進行がない
  5. 嚥下反射を認める
  6. 十分な咳ができる

出典:誤嚥性肺炎時の経口摂取の進め方 – 段階的摂食訓練の方法と注意点 – ニュートリションケア 11(5): 474-475, 2018.

誤嚥性肺炎の治療とCDI(CD腸炎)

  • クロストリディオイデス・ディフィシル(旧名クロストリジウム・ディフィシル)が形成する芽胞は、過酷な環境でも安定で、アルコール耐性があり、多くの抗菌薬に対しても抵抗性がある(経口感染するため、院内感染対策上、重要な菌)。
  • 抗菌薬(特に広域抗菌薬)の投与は、腸内細菌叢の多様性を失わせ、腸内にC.difficileが増殖しやすくなる
  • 増殖したC.difficile の産生する毒素が下痢を引き起こす(重症化することも)
  • 抗菌薬の投与後、数日~数週間後に症状が現れる
  • 治療は、抗菌薬の投与を中止し、内服薬で(メトロニタゾール、バンコマイシン、フィダキソマイシン)
  • なお、経腸栄養使用例では嚥下性肺炎を繰り返しやすいことから抗菌薬を使用する機会が多く、C. difficile による偽膜性腸炎が発生しやすい状況にある。
  • 経腸栄養施行時には、下痢の原因が、経腸栄養の投与速度などによるものと誤解されることがあるため、下痢や便秘のときは、CDIに注意すべき。
経腸栄養施行時の注意点-静脈経腸栄養ガイドライン 第3版より
経腸栄養施行時の注意点-静脈経腸栄養ガイドライン 第3版より
  • ちなみに、PPI(ランソプラゾールなど)の添付文書には、「海外における主に入院患者を対象とした複数の観察研究で、プロトンポンプインヒビターを投与した患者においてクロストリジウム・ディフィシルによる胃腸感染のリスク増加が報告されている。」との記載がある。誤嚥性肺炎患者の抗菌薬投与中に、プロトンポンプインヒビターも投与されている患者については、CDIの高リスク患者と捉えてよい。
  • 参考までに、CDI診療ガイドライン(2018年)では、抗菌薬投与中に、CDIの発症予防のためにプロバイオティクス製剤を内服することが弱く推奨されている。プロバイオティクス製剤とは、「宿主に有益な作用をもたらす生きた微生物」と定義される。ミヤBM錠(宮入菌: Clostridium butyricum )が有名である。

入院中の高齢患者に関する留意点

  • 高齢の患者では、ルーチン検査で測る白血球数やCRPの動きに注目。
  • いずれかの上昇をみたら、とりあえず誤嚥性肺炎の可能性を思い浮かべる。
  • アルブミンが低値(3.5未満)、総リンパ球数が低値(1500未満)なら、ハイリスク患者と考えられる。
  • 喀痰の検査歴があればチェック。多菌種の貪食像が報告されていれば誤嚥があった可能性が高い、と言える。
  • 誤嚥性肺炎の患者が抗菌薬治療中に下痢をしたら、CD腸炎を思い浮かべる。CD腸炎は検査しないと分からないので、なるべく検査に出してもらうのがよい(院内感染対策上も重である)。
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抗菌薬の動態

抗菌薬の動態について記します。

薬物動態学(Pharmacokinetics:PK)

抗菌薬の用法・用量と生体内での濃度推移の関係を表す。

過程としては、吸収(Absorption)、分布(Distribution)、代謝(Metabolism)、排泄(Excretion)がある。頭文字をとってADME(アドメ)ということがある。

PKを検討するに当たってはコンパートメントモデル(血液を表す中心コンパートメントと臓器を表す末梢コンパートメントによる2-コンパートメントモデル)で検討されることが多い。

パラメータは、

  • 最高血中濃度(Cmax:点滴終了直後のもっとも高い血中濃度)、分布容積(Vd:薬物が血液以外の組織へも血中濃度と等しい濃度で分布したと仮定したときの体液量を表す指標であり、実際、それだけの体積が体内に存在するというわけではないので、“みかけの分布容積”と呼ばれ、一般的に水溶性の抗菌薬は分布容積が小さく、脂溶性の抗菌薬は大きい)
  • 最高血中薬物濃度到達時間(tmax:実際に測定された血中薬物濃度のなかで最も高いもの(Cmax )の到達時間)
  • クリアランス(CL:排出能を表す指標で、一定時間に薬物を除去するために利用される理論的な血液量(volume/time,L/h))
  • 消失半減期(t1/2:薬物の血中濃度が50%に減少するまでに要する時間)
  • ピーク濃度(Cpeak:血中から組織への分布が完了して血液-組織間濃度が平衡状態となった時点の濃度、すなわちは末梢コンパートメントの組織濃度が最大となる濃度)
  • 血中濃度-時間曲線下面積(AUC:薬物血中濃度の時間経過を表したグラフで、時間軸と血中濃度曲線下に囲まれた面積を指し、薬物の体内への曝露量を表す指標となる)
  • タンパク結合率(薬物は、アルブミンなどのタンパクと結合した結合型薬物と、結合していない非結合型(遊離型)として存在する)

薬力学(Pharmacodynamics:PD)

PDは抗菌薬の濃度とその作用の関係を表す。

パラメータには、MIC(minimum inhibitory concentration:最小発育阻止濃度)、PAE(postantibiotic effect)、MPC(mutant prevention concentration)、MSW(mutant selection window)がある。

PK/PD

%T> MIC(time above MIC)

抗菌薬投与後の血中濃度のうちMICを上回る濃度で推移する時間の比率(%)を定常状態で算出した値。

%T> MICを延長させるには1日投与量が一定の場合は投与回数を増やすことが重要。

Cpeak/MIC

抗菌薬投与後に定常状態で観察されたCpeakをMICで除した値。

Cpeak/MICは1日投与量が同じ場合、1回投与量を増やすことで上昇する。

AUC/MIC

AUC/MICは1日投与量に相関する。

 

病態との関係

腎機能が低下していると、腎排泄型の抗菌薬のクリアランスが関連したPKパラメー
タ(t1/2やAUC)に影響する。

肝機能低下のときの抗菌薬投与法は確立されていない。

低アルブミン血症を呈する重症患者では健康成人と比べてタンパク結合率の高い抗菌薬の分布容積が増加し、目標とするPK/PDパラメータの達成が困難になるという報告がある。

 

抗菌薬の臓器移行性

抗菌薬の選択においてスペクトラムと臓器移行性は非常に重要な因子である。

抗菌薬の臓器移行性は、臓器によって異なる。

肺への移行性が高いのは、マクロライド系薬、ニューキノロン系薬、テトラサイクリン系薬、リンコマイシン系薬である。

肝・胆汁への移行性が高いのは、マクロライド系薬、ニューキノロン系薬、テトラサイクリン系薬、リンコマイシン系薬、ペニシリン系薬(ピペラシリン)、セフェム系薬(セフォペラゾン、セフブペラゾン、セフピラミド、セフトリアキソン)である。

腎・尿路への移行性が高いのは、ペニシリン系薬、セフェム系薬、モノバクタム系薬、カルバペネム系薬、アミノグリコシド系薬、ニューキノロン系薬、グリコペプチド系薬である。

髄液への移行性が高いのは、クロラムフェニコール、ペニシリン系薬、カルバペネム系薬
セフェム系薬(セフトリアキソン、セフォ
タキシム、セフタジジム、ラタモキセフ)、ニューキノロン系薬である。

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抗真菌薬の使い方

病原真菌は顕微鏡的な形態から円形・類円形の酵母(カンジダ属など)、分岐性フィラメント状の糸状菌(アスペルギルス属など)、両者の性質を併せもつ二形性菌(ヒストプラズマなどの地域流行性真菌)に分けられる。

皮膚カンジダ症や口腔カンジダ症などの表在性真菌症は、抗真菌薬の局所投与で治療が可能(口腔カンジダ症は宿主の免疫状態などに応じてフルコナゾールなどの全身投与)。

侵襲性真菌症(血流や深部臓器に生じた真菌感染症)は、抗真菌薬の全身投与の適応となる。

カンジダ

カンジダは、血管内カテーテル関連の血流感染症が最も多い。ほかに、眼内炎(発見・治療が遅れると失明に至る場合がある)、感染性心内膜炎,肝脾カンジダ症など。

アスペルギルス

アスペルギルスが侵襲性感染症を起こす臓器は主に肺である。

副鼻腔、中枢神経の場合もある。

侵襲性アスペルギルス症は、宿主に高度の免疫不全があると発症する。

抗真菌薬

抗真菌薬は大きく分けると、ポリエン系薬(リポソーマルアムホテリシンB)、アゾール系薬(フルコナゾール、ボリコナゾールなど)、キャンディン系薬(ミカファンギン[ファンガード]、カスポファンギン[カンサイダス])、フルシトシンに分けられる。

キャンディン系薬

ミカファンギン[ファンガード]や、カスポファンギン[カンサイダス]がある。

主に肝臓で代謝されるため腎機能低下時の用量調整は不要。

経験的治療の第一選択薬となる。

ただし、眼内移行性が不良。ゆえに眼内炎(特に硝子体炎)が無いことの確認が重要。

副作用として、薬剤性肝障害などを生じることがある。

またカスポファンギンにはCYPを介した免疫抑制薬、抗けいれん薬などとの相互作用があり注意が必要であると言われる。

アゾール系薬

フルコナゾール

フルコナゾール(Fulconazole:FLCZ)耐’は臓器移行性が良好(眼内移行性もよい)で、内服での吸収がよく静注薬とほぼ同等の効果が得られる。

ただし、カンジダ属の一部には感受性がない菌種がある。

なお、Candida glabrataのフルコナゾール感受性は、CLSIでは、SDD(susceptible dose dependent)とR(resistant)に分類されている。

副作用には、嘔気や肝障害、血液毒性がある。抗不整脈薬や降圧薬、脂質異常症薬などとの相互作用がある点に注意。

ボリコナゾール

ボリコナゾールは、侵襲性アスペルギルス症の第一選択薬。

侵襲性カンジダ症については、キャンディン系薬やフルコナゾールが使えない場合に使用される場合がある。

経口吸収が良好。

静注投与はトラフ値の測定が必要(血中濃度モニタリング)。

副作用には肝障害、幻覚、視野障害、嘔気などがある。

添付文書では、Ccr30mL/分未満で静注投与は原則禁忌。

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グラム染色のピットフォール(注意点)など

グラム染色の落とし穴(注意点)を紹介します。

  • 膿性の検体は、スライドガラスに塗りすぎると、十分に広げることができず、結果として脱色不良となりやすく、陰性菌を陽性菌と誤認する原因となる(スライドグラスにのせる検体はごく少量にするとよい)。
  • 染色液は10秒間程度の接触で十分であるが、アルコールとの接触時間は20~30秒間とする。脱色不良では、陰性菌を陽性菌に見誤るリスクが起きる。ちなみに、脱色しすぎたときは、陽性菌を陰性菌に見誤るリスクや、逆に脱色不良であると誤解するリスク(陰性菌を陽性菌に見誤るリスク)が生じる。
  • 検体の厚さが薄すぎるところや、厚すぎるところで観察すると、陽性菌と陰性菌を互いに見誤るリスクがある(白血球の核が紫色に染まっている部分とピンク色に染まっている部分とが混在している場所が最も観察に適している)。
  • 髄液の場合、グラム染色が陰性であっても、細菌性髄膜炎を否定できないことに注意。
  • 急性の細菌性髄膜炎を疑い、髄液中の好中球が優位であるにもかかわらず細菌が見えないときは、リステリアの可能性がある。
  • Gram 染色で全ての微生物が確認できるわけではない。
  • Gram 染色で微生物が確認ができない場合は、次のどれかに該当することが多い。①細胞壁がない微生物による感染症の場合(代表的なのはマイコプラズマ)。②抗菌薬の投与で微生物が消失している場合(抗菌薬投与前に検体採取をすることは,微生物検査の基本)。③感染菌量が少なくい場合(リステリア菌や髄膜炎菌による細菌性髄膜炎では、Gram 染色の感度が低く確認できない場合が多いとされる。
  • 貪食像の情報は、起炎菌推定の参考になるか。①好中球は菌を認識するのみであり、常在菌かどうかは認識することができない。②また、肺炎球菌などの莢膜産生菌は貪食回避されるので、貪食像が少ない。③pHと浸透圧が上がると、好中球の貪食能が落ちる(尿路感染症で注意が必要)。
  • ただし、喀痰で複数の嫌気性菌の貪食像がある場合は、誤嚥性肺炎と診断するのに有用。
  • グラム染色鏡検では、異常形態を示す細菌が認められることがある。
  • β-ラクタム薬投与例ではフィラメント化した細菌がしばしば観察される。
  • 細菌が異常形態を示してもグラム染色で明瞭に染色されるときは、細菌が生存していることがあり、それは抗菌薬が治療に無効であることを意味する場合がある(その場合、抗菌薬の変更が必要)。たとえば、セフェピム投与中の緑膿菌性急性腎盂腎炎患者の尿のグラム染色で、伸展化した緑膿菌が認められる場合は β-ラクタム系抗菌薬をアミノ配糖体系抗菌薬やキノロン系抗菌薬に変更す
    る必要がある。
  • 異常形態はバクテリオファージに感染した細菌や抗菌薬投与のない正常細菌でも観察されるため、異常形態を示す細菌の意味を正しく解釈するには患者情報が不可欠。検体のpH や浸透圧も考慮する必要がある。
  • Hucker 変法では、ルゴール液での媒染が不十分な場合は,脱色ムラの多い標本となる(標本が肉眼で完全に褐色に変わったことを確認してから脱色することが大切)。また、Hucker 変法の純アルコールによる脱色・分別は、厚みが不均一な標本では脱色不足や脱色過多が起きやすい(純アセトンまたはアセトン・アルコール液に代えることが推奨されている)。
  • バーミー法では、フクシンによりグラム陽性菌さえも赤く染まる場合があるため、注意が必要。
  • 細菌が、対数増殖期を過ぎて遅滞期や死滅期になると、グラム陽性菌が、紫に染まりにくくなる。
  • 菌種によっては、メタノール固定をすると、染色性に影響する場合がある。たとえば、Nocardia spp. は,メタノール固定するよりも火炎固定標本に多く菌体が認められる。
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補正eGFRとDu Boisの式(体表面積)

eGFRについて紹介します。

eGFR(mL/min/1.73m2)は、標準化eGFRと呼ばれるものです。

標準化eGFRは、CKDの重症度分類に使われます。

しかし、標準化eGFRによる腎機能評価は、痩せた人では、数値が高くなってしまう(腎機能を過大評価してしまう)という問題点があります。

例えば、薬物投与設計に用いるには、標準化eGFRを使うのは不適切となります。

薬物投与設計のときは、体表面積補正はせずに(1.73m2を使わない)、Du Boisの式を用いて、個別に体表面積を求め、個別eGFRを推算する必要があります。

個別eGFR=標準化eGFR×体表面積/1.73m2

体表面積 = 0.007184 * 身長0.725 * 体重0.425

出典:

  1. Dubois D, Dubois EF. A formula to estimate the approximate surface area if height and weight be known. Arch Intern Med. 1916; 17:863-871.

 

もっとも、正確に腎機能(GFR)を評価したい場合は、イヌリンクリアランスがコールドスタンダードです。

しかし、イヌリンクリアランスは測定が煩雑なので、代替法として、蓄尿による実測Ccrを測定するか、血清シスタチンC濃度を測定し、個別eGFRを算出するのが良いとされます。

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カテーテル関連感染症の知識

カテ感染について

  • いわゆる「カテ感染」すなわち「血管内カテーテルの感染症」は、正式な医学用語ではない。
  • 概念としては、catheter‒related bloodstream infection(CRBSI)とcentral line‒associated bloodstream infection(CLABSI)がある。
  • CRBSIは、血管内留置カテーテル関連血流感染症のこと。
  • CLABSIは、中心ライン関連血流感染症のこと。中心ラインとは、カテーテルの先端が大動脈,肺動脈,下大静脈,腕頭静脈,内頸静脈,鎖骨下静脈,外腸骨静脈,総腸骨静脈,大腿静脈などに留置されているものをいう。
  • CRBSI の原因は、中心静脈カテーテル以外にも、末梢静脈カテーテル、動脈カテーテルなどもある。
  • 4つの主な汚染経路は、①皮膚細菌叢の挿入部位からの汚染(患者の皮膚および医療従事者の手指)、②カテーテルおよびハブ(接続部)の汚染(医療従事者の手指、汚染された器具との接触、輸液ラインの不適切な取り扱いなど)、③輸液の汚染、④他の感染巣からの血行性播種が挙げられる。
  • 中心静脈に留置されるカテーテルについては、観察研究の結果では、感染発症頻度がもっとも低いのは鎖骨下静脈であり、次いで内頸静脈、もっとも頻度が高いのは大腿静脈とされている。
  • 原因菌で多いのは、CNS,Staphylococcus aureus,Enterococcus species,Candida species,Escherichia coli,Klebsiella species,Pseudomonas aeruginosa,Enterobacter species,Serratia species,Acinetobacter baumanniiなど。
  • CRBSIは、入院期間の延長をもたらし、播種性感染巣(化膿性脊椎炎,腸腰筋膿瘍,化膿性血栓性静脈炎)や細菌性心内膜炎,眼内炎による失明(特にカンジダ・セレウス菌)などの合併症のリスクがある。
  • 熱源不明の発熱、カテーテル刺入部の発赤,圧痛,腫脹,膿の分泌など、白血球数の増加、桿状核好中球の増加、CRP上昇などがあれば、CRBSIを疑う。
  • 感染を疑うときにカテーテルを抜去せず、温存して治療を継続する「抗菌薬ロック療法(antibiotic lock therapy:ALT)」が現在注目を集めている(エビデンスは弱い)。抗菌薬ロック療法では、EDTA,minocycline,エタノールの3 つを使用する。EDTAはフィブリン形成阻害、minocyclineはバイオフィルム透過性が良好、エタノールはカンジダや緑膿菌に有効。
  • カテーテル関連血流感染症(CRBSI)を疑うのは、カテーテル留置中の患者で,① 熱源不明の発熱がある場合、または、②カテーテル刺入部・周囲の炎症徴候(発赤・圧痛・膿の分泌)を認める場合。ただし、CRBSIでは局所の発赤,熱感,腫脹などの所見を伴うものは全体の3% しかなく)、実際には、培養採取
    まで至らずに見逃されている症例も多いと考えられている。
  • CRBSIの診断のための検査では、抜去したカテーテルの先端培養に加えて、血液培養2 セット以上が必須。カテーテルを抜去しない場合は、DTP(differential time to positivity)が有用。
  • DTPは、血液培養の経皮採取(最低1 セット)のほかに、患者に留置されている血管内カテーテル類(中心静脈カテーテル,動脈ライン,ポートなど)から同時に採取する方法であり、後者が前者よりも2 時間以上早く培養陽性反応を示したときに判定が「陽性」となる(DTPは日本版敗血症診療ガイドライン(日本集中治療医学会)においても推奨されている)。血液培養ボトルに分注する血液量を等しくすることに注意が必要。

治療

  • 原因菌が判明するまでの第一選択薬は、empiric 治療(初期治療)として、MRSAのカバー目的でvancomycin が必要。
  • 発症後1時間以内に抗菌薬投与を開始すべきとされている。
  • 基本的には、①ダプトマイシンor バンコマイシン でグラム陽性菌をカバー、②タゾバクタム/ピペラシリンor カルバペネム系 or 第4世代セフェム系でグラム陰性菌をカバー、③免疫低下、長期抗菌薬使用、カンジダ属菌の検出歴がある(喀痰や尿など)、中心静脈カテーテル留置中(とくに鼠径部)などの背景があれば、さらに抗真菌薬も併用でカンジダ属菌をカバー(日本感染症学会/日本化学療法学会の感染症治療ガイドラインなどを参考)。
  • フォローとして、抗菌薬開始から72時間以内に血液培養2 セットを採取し,陰性化が確認できるまで繰り返す。また、菌種によって合併症検索が必要。
  • 合併症は、黄色ブドウ球菌では、感染性心内膜炎や化膿性脊椎炎が多い。黄色ブドウ球菌菌血症では心エコー(72 時間以内に血液培養が陰性化しないときは経食道エコーも)が推奨。経胸壁心エコーの感染性心内膜炎に対する感度
    は十分でなく、確実な検索には経食道心エコーが必要。
  • 黄色ブドウ球菌(MRSAを含む)では、感染性心内膜炎や化膿性脊椎炎が多い(いずれも予後悪い)。検出された場合、発熱持続・血培が陰性化しないとき、心エコーなどを実施。
  • カンジダ属菌では、眼内炎が多い(失明に至るケースも)。検出された場合、眼科受診必須。
  • 感染性心内膜炎(IE)の場合、経胸壁断層心エコーで最も多く認められる異常所見は疵贅であり50~60%の症例で認められる。他には、頻度の低い異常所見として、弁穿孔、腱索断裂、心筋内膿瘍などがある。
  • 感染性心内膜炎(IE)の治療は、殺菌的抗菌薬を長期間投与する(4週間以上)。短期間での投与終了は再発の危険が高くなる。疵贅内の細菌は多数であるうえ、フィブリンに覆われており白血球による貧食が妨げられている。実際の抗菌薬の投与方法は、起炎菌の種類と抗菌薬感受性により細分化されている。なお、抗菌薬療法でコントロールできないときは外科手術を要する場合がある(早期に外科手術を施行したほうが予後良好であるという報告もある)。
  • カンジダ血流感染のリスクが高いと考えられるときは、β-D-グルカン検査の実施を考慮する。
  • 黄色ブドウ球菌の心内膜炎は、全身に播種して(高率に頭蓋内に播種)、予後が悪い(多発脳梗塞、感染性動脈瘤破裂によるくも膜下出血)。化膿性脊椎炎では脊柱管内へ進展すると対麻痺になり予後が悪い。カンジダ眼内炎が見逃され失明になったケースもある。
  • なお、CNS の中でもStaphylococcus lugdunensisは病原性が高く、感染性心内膜炎など血行性播種病変を発症する可能性も高いため注意が必要。IDSA ガイドラインでは、S. aureus と同様、カテーテルの抜去と、最低2 週間の抗菌薬投与を行うように推奨されている。
  • また、腸球菌によるCRBSI でも、感染性心内膜炎は、合併症としてのリスクは比較的低いが、① 新規に心雑音を認める,② 塞栓の所見がある,③ 適切な抗菌薬治療後72 時間経っても解熱しない,④ 人工弁などの人工物を留置している,などの条件があれば、感染性心内膜炎の検索が推奨される。
  • Serratia 属が起因菌の場合は、輸液セットの管理やカテーテル留置部位の管理に問題がある可能性もある。
  • 体内に人工物が挿入されている場合(人工弁,人工血管,人工関節,脊椎固定術後など)は、菌血症を発症後、しばらく経ってから人工物感染をきたすことがある。
  • 菌血症により、感染性塞栓症(septic emboli)になることもある。早期の発症例では虚血(梗塞)を起こすことが多く、それ以降は深部感染(膿瘍)となることが多い。病変は肺,脳,腎臓,脾臓など多岐にわたる。
  • Candida 属や黄色ブドウ球菌以外の起因菌によるCRBSI の場合、血液培養の再検は必須ではない。
  • 眼内炎がある場合は、アムホテリシンB,フルコナゾールなど中枢移行性のある抗真菌薬が必要となる。
  • カテーテルの抜去にもかかわらず72時間以上、菌血症が続く場合や、転移病巣が出現した場合などでは、4~6週間の治療が必要となる場合もある。
  • CRBSIの予防策の詳細については、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の『Guidelines for the Prevention
    of Intravascular Catheter-Related Infections』や、国公立大学附属病院感染対策協議会の『病院感染対策ガイドライン』が参考になる。
  • 血液培養を採取するときは、採取部位の皮膚の汚れを丁寧に拭い取り、消毒は1%クロルヘキシジンアルコール(CHG-AL)で行うことが望ましいとされる(常在菌の混入を最小限にするため)。
  • なお、CRBSI予防を目的として、抗菌薬含浸中心静脈カテーテルが上市されているが、カテーテル培養の偽陰性につながりうるため、結果の解釈に注意が必要である。
  • ちなみに、中心静脈カテーテルを留置する際は、滅菌ガウン、滅菌手袋、キャップ、マスクを着用し、滅菌ドレープを使用して無菌操作で行う(高度バリアプレコーション)。末梢静脈カテーテルの挿入時は、刺入部に触れないのであ
    れば、未滅菌手袋で構わないとされる。
  • カテーテル留置の継続必要性は、毎日評価する(不要なら抜去する)。刺入
    部の感染徴候の有無は毎日評価する。中心静脈カテーテルのドレッシング材は最低でも1 週間に1 回は交換する。末梢静脈カテーテルについては、感染徴候がなければ72~96 時間より頻繁にカテーテルを交換する必要はないとされる。
  • 中心静脈栄養施行時には脂肪乳剤投与が推奨されてるものの、脂肪乳剤は細菌感染の増殖を促進するとのデータがある。他方、適切な静脈カテーテル管理
    下ならば脂肪乳剤投与の有無で血流感染の発生頻度に差はみられなかったとする報告もあり、コンセンサスは得られていない。そもそも、脂肪乳剤を投与する症例は、低アルブミン血症を合併あうるなど免疫機能が低下して感染リスクが上昇していることが多いたり、薬剤の影響があったりして、検証には限界がある。
  • “脂肪乳剤とCRBSI発症についてはいまだ一定のコンセンサスは得られていない。適切な静脈カテーテル管理下では脂肪乳剤投与の有無で血流感染の発生頻度に差はみられなかったとする報告がある一方、脂肪乳剤を投与した人呼吸器管理下の集中治療室の患者では有意にCRBSIが増加するとの報告がある。” 出典:『脂肪乳剤投与に伴うカテーテル関連血流感染の検討』日本医療マネジメント学会雑誌 Vol 21 No2(2020)
  • “脂肪乳剤は、単独でも、アミノ酸や糖と混合した形でも、輸液自体が汚染すると微生物が急速に増殖することが知られている(脂肪乳剤単独の方が増殖しやすい)。したがって、脂肪乳剤を含まないアミノ酸加糖電解質液と同様の輸液ライン交換頻度では感染率が高まるのではないかという危惧があるのである。そのため、脂肪乳剤を含む輸液を投与する場合には24時間毎の輸液ラインの交換が推奨されている。” 出典:静脈経腸栄養ガイドライン第3版より
  • カンジダ属菌によるCRBSI(カンジダ菌血症:侵襲性真菌症)の補助診断に、血中β-D-グルカンの測定(pg/mL)が有用。ただし、偽陽性を引き起こす因子に注意が必要。環境中のβ-D-グルカンによる汚染、セルロース素材の透析膜を用いた血液透析、セルロース膜で精製した血液製剤などの投与、Β-D-グルカン含有の抗悪性腫瘍剤(クレスチン,レンチナン,シゾフィラン)、手術でのガーゼ使用、非特異反応の出現(多発性骨髄腫・高γ-グロブリン血症など) などが偽陽性を引き起こす。

参考に、カテーテルごとの CRBSI 発生割合

カテーテルごとの CRBSI 発生割合
カテーテルごとの CRBSI 発生割合

上図の出典:200件の公開された前向き研究のシステマティックレビュー

Maki DG, Kluger DM, Crnich CJThe risk of bloodstream infection in adults with different intravascular devicesa systematic review of 200 published prospective studies. Mayo Clin Proc 811159-1171, 2006

 

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キムチから腸管出血性大腸菌O-103

キムチから、腸管出血性大腸菌O-103が検出されて話題となっています。

以下参考まで。

腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli ; EHEC)

腸管出血性大腸菌は、ベロ毒素(Verotoxin=VT, またはShiga toxin =Stx と呼ばれている)を産生します。

汚染された食べ物を経口摂取することによっておこる腸管感染が主です。

症状は、無症候性から軽度の下痢、激しい腹痛、頻回の水様便などです。

場合によっては、血便とともに重篤な合併症を起こし死に至ります。