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梅毒の症状、検査、治療

梅毒の概要

梅毒はスピロヘータ目に属する梅毒トレポネーマ Treponema pallidum subsp. pallidum(直径0.1〜0.2μm、長さ10〜20μmのらせん状菌)により生じる性感染症です。

梅毒は、性感染症のひとつですが、まれに接触感染や輸血による感染もあります。

胎児が母体内で経胎盤的に感染する場合があり、これは「先天梅毒」と呼ばれ、妊娠中の女性における積極的な診断と治療は先天梅毒を防ぐために特に重要とされます。

それ以外の感染症は、「後天梅毒」と呼ばれます。

なお、皮膚や臓器での梅毒による症状がみられるものを「顕性梅毒」とし、症状はみられないが梅毒血清反応が陽性であるものを「無症候梅毒」という区別もあります。

感染のメカニズムとしては、皮膚や粘膜の微小な傷から梅毒トレポネーマが侵入して感染し、局所で増殖した後、やがて血行性に全身に散布されて種々の症状を引き起こします。

なお、梅毒は日本の感染症法で5類感染症です。

患者や、無症状であっても病原体を保有する者について、全例を都道府県知事に届け出る必要があります。

臨床像(症状)

後天梅毒では、臨床像は、第一期梅毒(早期の顕症梅毒)、第二期梅毒、無症候性の潜伏期梅毒(第三期梅毒)、第四期梅毒(晩期顕症梅毒)に大別されます。

第一期梅毒

第一期梅毒は、感染後平均3週間で発症します。

早い場合は3〜10日程度、遅い場合は90日程度と幅があります。

男性の陰茎亀頭部や女性の陰唇部に発症します。

トレポネーマの侵入部位である感染局所に無痛の硬結が生じ(初期硬結)、周囲は隆起し中心部に潰瘍を形成して下疽(げかん)となります。

また局所所属リンパ節腫脹が認められます。

第二期梅毒

第二期梅毒は、トレポネーマが血行性に全身播種し、主に上皮表面を障害します。

そのため、皮疹などの身体所見や発熱倦怠感、鼻汁、咽頭痛、筋肉痛、頭痛、圧痛のない全身性リンパ節腫脹などの全身徴候が認められます。

第二期梅毒は、第一期梅毒後2〜12週間、長い場合には6ヶ月後までの問に発症します。

第二期梅毒では、主に皮膚が障害され、大半の事例で、皮疹あるいは粘膜疹が認められます。

初期には全身性の掻痒を伴わない斑状発疹あるいは紅斑が体幹から生じ肩から四肢に広がり2週間程度認められます(通常手掌や足底顔面にはみられない)。

典型的な皮疹は「バラ疹」と呼ばれます。

潜伏期梅毒

第二期梅毒が無治療の場合や、第四期梅毒を発症するまで、ある程度の期間潜在性に無症候で経過をする時期があります。

この期間は「潜伏期梅毒」呼ばれます。

潜伏期梅毒は最初の1年間に粘膜病変が再発し、感染性のリスクが高い状況になります。

第四期梅毒

第四期梅毒は大きく、心血管梅毒と神経梅毒に分かれます。

心血管梅毒のうち、「梅毒性大動脈炎」は未治療梅毒の70~80%に生じると言われています。

また、合併症(大動脈の循環不全や動脈瘤、冠動脈入口部狭窄など)は、初感染の10~20年後、未治療梅毒の10~15%に生じます。

なお、動脈瘤形成は梅毒性大動脈炎の中でも稀であり5~10%に生じると言われます。

多くは単一の動脈瘤であり,紡錘状よりは嚢状のことが多く、50%は上行大動脈に生じ、大動脈弓部の病変は上行大動脈についで頻度が高く30~40%です。

食道、気管、左気管支、左反回神経に接していることから、疾痛、呼吸困難咳、嗅声、嚥下障害などの症状を比較的早期に呈すると言われています。

検査

病原体の培養が不可能なため、診断は臨床症状にくわえて、病理所見、血清所見によります。

すなわち、梅毒を診断する方法には、病変からトレポネーマを顕微鏡などで直接確認する方法と、血清学的な検査方法があります。

顕微鏡検査では、初期硬結や硬性下疽の表面をメスで擦過して得た液体をスライドグラスに採取し、ブルー・ブラックインク(パーカー社製)、ギムザ液、または墨汁を混ぜて薄くのばし、乾燥後に、顕微鏡の油浸で観察または暗視野顕微鏡により観察します。

血清学的検査は、非トレポネーマ検査と、特異的トレポネーマ検査とが主に用いられます。

非トレポネーマ検査

非トレポネーマ検査はリン脂質のカルジオリピン抗原に対する抗体価を測定するserologic test for syphilis(STS)法で, rapid plasma regain card test(RPR)法とラテックス凝集法が頻用されています。

梅毒感染後2~4週間で陽性となり、通常第二期梅毒から早期潜伏梅毒にかけて最も高くなります。

疾病の活動性と相関することが多いものの、妊婦や高齢者、膠原病、慢性肝疾患、結核、HIV感染などがあると疑陽性となることがあるため(生物学的偽陽性反応:biological false positive:BFP)、結果の解釈に注意が必要です。

STS法は梅毒の治療を開始すると値は低下するが、十分な治療を行っても抗体価が陰性にならない場合もあります(serofast reaction)。

特異的トレポネーマ検査

特異的トレポネーマ検査はT.pallidumの菌体成分に対する反応を測定する方法(TP抗原法)で、Treponema Pallidum Hemagglutination Test(TPHA)法、Fuorescent treponemal antibody absorption test(FTA-ABS)法、ラテックス凝集法、venereal disease research laboratry(VDRL)があります。

特異的トレポネーマ検査は、通常は非トレポネーマ抗体検査が陽性となってから2~3週間後に遅れて陽性となります。

特異的トレポネーマ検査は、非トレポネーマ抗体検査とは異なり疾患特異性が高く、陽性の場合にはこれまでに梅毒に曝露されたことを示します。

ゆえに、特異的トレポネーマ検査は確定診断には必須です

ただし、特異的トレポネーマ検査は、非トレポネーマ抗体検査のように疾患活動性とは相関せず、治療によってT.pallidumが消失した後も陽性が持続しますので、治療効果判定には使用されません。

FTA-ABS抗体のうちIgM抗体は初感染後1週間で産生され約1ヶ月でピークに達し、その頃からIgG抗体が産生されはじめ,3ヶ月頃にピークに達するため、これらを組み合わせることでより正確な診断が可能となります。

RPR、TP抗体ともに陰性は梅毒非感染、RPR陽性/TP抗体陰性およびRPR陰性/TP抗体陽性はガラス板法で再確認を必要とし、RPR陽性/TP抗体陽性例は梅毒感染として解釈できます。

治療

病期にかかわらず、ペニシリンが常に選択されるべき抗菌薬です。

用量・期間・投与経路が病期によって異なります。

国際的には、第一期・第二期梅毒に対し、ベンザチンペニシリン筋注の使用が推奨されています。

心血管梅毒・神経梅毒に対してはベンジルペニシリン静注を用います。

ペニシリン以外の抗菌薬の有効性は、ペニシリンに劣るか、または不明とされています。

可能な限りペニシリンを使用します。

なお、 妊婦の治療は垂直感染の予防を考慮し妊娠週数にかかわらず治療を開始します。

ペニシリン系薬は妊婦にも投与可能である。

ペニシリンアレルギーの場合は脱感作を行って投与を試みることが推奨されます。

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Streptococcus pseudopneumoniaeとは?

概要

Streptococcus pseudopneumoniaeは、2005年に承認された菌です。

グラム陽性のレンサ球菌で、肺炎球菌との鑑別が問題になる菌です。

本菌の病原性は明らかになっていません。

形態

・グラム陽性で、球菌または双球菌状に観察されます。

・Streptococcus pneumoniae(肺炎球菌)が、莢膜を有する場合があるのとは異なり、Streptococcus pseudopneumoniaeは、莢膜を有しません。

培養方法

・好気性で培養し、18~24時間で集落を形成します。

・血液寒天培地で、直径0.5mm前後のα溶血の集落を形成します。

鑑別方法

原則として、Streptococcus pseudopneumoniaeについてのオプトヒンテストは、好気条件で「感性」、CO2条件で「耐性」となります。

これに対して、Streptococcus pneumoniae(肺炎球菌)は、オプトヒンテストは、好気条件でもCO2条件でも「感性」となります。

また、胆汁酸溶解試験では、Streptococcus pseudopneumoniaeのコロニーは溶解しません。

なお、肺炎球菌用の簡易同定検査(抗原検査)の「PASTOREXメニンジャイティス」や、「スライディックスニューモキット」は、Streptococcus pseudopneumoniaeでも陽性を示すと報告されています。

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医療従事者向け

セリンβラクタマーゼとメタロβラクタマーゼの違いとは?

βラクタマーゼは、ペニシリンやセファロスポリンなどのβラクタム剤を分解する酵素です。

構造上、下記の二つに分類されます。

セリンβラクタマーゼ

セリンβラクタマーゼは、セリンを中心に持つ酵素です。

Amberの分類によれば、遺伝学的に、クラスA、C、Dに分けられます。

クラスAは、ペニシリナーゼに相当します。とくにセフェム系薬剤をも分解するクラスAのセリンβラクタマーゼはESBLsと呼ばれています。

クラスCは、セファロスポリナーゼに相当します。

クラスDは、オキサシリナーゼに相当します。

メタロβラクタマーゼ

メタロβラクタマーゼは、亜鉛を中心に持つ酵素です。

Amberの分類によれば、遺伝学的には、クラスBに分けられます。

メタロβラクタマーゼは、カルバペネマーゼとして機能します。

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表皮ブドウ球菌について

表皮ブドウ球菌とは

表皮ブドウ球菌とは、ブドウ球菌の一種であり、学名をStaphylococcus epidermidisといいます。

一般に、ブドウ球菌は、コアグラーゼ陽性である黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)と、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase negative Staphylococcus species:CNS) とに大別されます。

十数種あるCNSのうち代表的なものが表皮ブドウ球菌です。

【グラム染色標本のイメージ】

本菌は、皮膚に常在しており、病原性に関しては、黄色ブドウ球菌より弱いものです。

毒素も産生しません。

ただし、従来はその病原性があまり問題とならなかったものの、最近になって、医学の急速な進歩に伴い、易感染患者 compromised host(patient)が急増しています。

このような易感染患者にとっては、表皮ブドウ球菌は大きな問題となります。

培養

・至適発育温度は、37度です。

・好気性で培養し、18~24時間で集落を形成します。

・血液寒天培地で、直径1mm前後の白色の集落を形成します。

・基本的には非溶血の集落ですが、一部の菌株は、血液寒天培地でβ溶血を示します。

感染と治療

日和見感染の原因菌として、尿路感染症、感染性心内膜炎、カテーテル菌血症などを起こします。

皮膚などの常在菌であるため、治療にあたり最も大切なことは、起炎菌であるか汚染菌であるかを、感染部位や症状などから判断することです。

薬としては、β-ラクタム薬などが用いられます。

ただし、メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus epidermidis:MRSE)と呼ばれる耐性菌や、バンコマイシン耐性表皮ブドウ球菌の報告もあるので、抗菌薬の選択は注意すべきです。

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黄色ブドウ球菌について

黄色ブドウ球菌とは

概要

黄色ブドウ球菌は、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)のうち、コアグラーゼ陽性のブドウ球菌です。

通性嫌気性のグラム陽性球菌です。

乾燥や塩分に強い菌で、ヒトの皮膚、鼻腔の粘膜、腸管内に常在しています。

もっとも分離頻度の高い部位は鼻前庭や鼻咽腔で、およそ20~30%のヒトに定着しています。
その他の定着部位としては皮膚、口腔、咽頭、消化管、膣なとがあります。

さまざまな薬に耐性をもつ黄色ブドウ球菌は、特にMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)と呼ばれます。

【グラム染色標本のイメージ】
 

詳細

性状

直径0.5~1.0μmの球菌です。

学名の由来となったギリシャ語のブドウの房(Staphyle)が意味するように、ブドウの房状に配列します

鞭毛や芽胞はなく、一部に、莢膜をもつものがあります。

カタラーゼ試験は陽性、コアグラーゼ試験も陽性です。

また、マンニット分解です。

さらに、5~7.5%の食塩存在下でも発育可能(食塩抵抗性あり)です。

ほかに、ペニシリン分解酵素を産生します。

培養

・通性嫌気性菌
・普通寒天培地によく発育
・淡黄色~黄色の集落を形成
・至適発育温度は、35~37度
・至適発育pHは、7.2~7.4
・血液寒天培地上では、β溶血環を形成

病原因子

代表的なものを紹介します。

・コアグラーゼ
ヒトの血漿を凝固させます。

・溶血毒
赤血球を溶血させる毒素です。
α,β,γ,δの4種類があります。重要なのは、α毒素です。

・エンテロロキシン
耐熱性の毒素です。潜伏期は2~6時間と短く,嘔気,嘔吐,下痢を起こします。

鑑別

グラム染色が黄色ブドウ球菌の像であり、さらに、カタラーゼ試験が陽性、かつ、コアグラーゼ試験が陽性の場合、S.aureusと考えてほぼ間違いありません。

なお、ほかの鑑別ポイントには、クランピング因子(フィブリノゲンに作用してフィブリンを析出させる因子)が陽性、DNase産生性、マンニットおよびキシロースを分解し酸を産生する点などがあります。エンテロトキシンについては、逆受身ラテックス凝集反応を利用した検出キットが利用できます。

感染と症状

黄色ブドウ球菌により様々な疾患が引き起こされます。

伝染性膿痂疹(とびひ)、フルンケル、癖(よう)などの皮膚感染症、軟組織感染症、肺炎などの呼吸器感染症、食中毒などの腸炎、骨髄炎、敗血症、心内膜炎などです。

また、毒素によって引き起こされる疾患として、1)Staphylococcal scalded skin syndorome(SSSS)、2)Toxic shock syndrome toxin-1(TSST-1)、3)Toxic shock syndrome(TSS)などがあります。

治療は基本的にセフェム系の抗菌薬(セファゾリンなど)で行います。

なお、疾患によっては長期の治療が必要になります。

たとえば、心内膜炎なら4週間、骨髄炎なら6~8週間程度の治療が必要です。

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)は、mec遺伝子をもつことにより、ペニシリン結合タンパク「PBP2’(PBP2プライム)」を産生するため、メチシリンに代表されるβ-ラクタム薬に耐性を示します。

院内感染を起こす菌として問題になります。

院内で問題となるのは、手術部位関連感染症、カテーテル関連血流感染症、人工呼吸器関連肺炎などです。

治療薬はバンコマイシンVCM,テイコプラニンTEIC,アルベカシンABK、リネゾリドLZDなどに限られます。

ただし、近年,バンコマイシン耐性MRSA(VRSA)が出現していることが問題になっています。

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病気

ビブリオ・バルニフイカスの感染経路、症状

概要

Vibrio vulnificusは、腸炎ビブリオと類似した細菌で、発育に食塩を要求する病原性ビブリオの一種です。主に魚介類を介してヒトへ感染し、特に肝疾患や基礎疾患を持つヒトに敗血症をおこし死亡に至ることから、人食いバクテリアとも呼ばれています。

詳しく

ビブリオ・バルニフイカス(Vibrio vulnificus)は、腸炎ビブリオと類似した性状を持つグラム陰性の桿菌です。

この菌が引き起こす皮膚症状や創傷が名前の由来です。

ビブリオ属の多くは海水中に生息するため好塩性の性質を持ちます。

しかし、この菌は、腸炎ビブリオより若干低い1%くらいの塩濃度でも生息可能です。

したがって、河口や汽水域、海岸付近に分布することが多いです。

海水温度が20°C付近になると,、海水中の甲殻類や魚介類表面、動物性プランクトンなどに付着して活発に増殖するようになります。

夏場の魚介類の水揚げのときに感染する可能性が高まるので十分注意しなければなりません。

感染経路

ビブリオ・バルニフィカスの感染源には、経口感染と経皮感染があります。

経口感染は近海産の魚,貝類,カニ,エビなどの生食や加熱不十分な食事が原因となって発生します。

経口感染によるものが患者数の約75%を占めています。

本菌を予防するのに特別な対策は必要なく、腸炎ビブリオ中毒と同じような対応策をとれば中毒を防止することができます。

ビブリオ・バルニフィカス感染症が発生しやすい時期には、魚介類の生食を避け、十分な加熱調理を行うことが最も重要です。

ただし、水温が15°C以下では菌はほとんど検出されなくなるため、冬場の発生はありません。

他の細菌性食中毒と同様に6~10月に多発しています。

感染力は菌量は、肝臓疾患や免疫力が低下している等の基礎疾患がある人の場合は100個以下でも感染するといわれています。

潜伏期は7~24時間、平均18時間です。

症状

通常、ビブリオ・バルニフィカスに汚染された食品を食べても健康体であれば、軽い下痢や腹痛で済み、重症になることはほとんどありません。

しかし、基礎疾患があるような人は、より強い症状が現れます。胃腸炎症状に加えて、激しい疼痛があり、皮膚に紫斑,紅斑,水雲,血庖,潰瘍など、さまざまな症状を発症します。

また、悪寒や発熱とともに血圧の低下など、いわゆる敗血症様症状を起こしたりもするので、十分注意が必要となります。

肝硬変、肝臓がんなどの肝疾患者や免疫機能が低下している人などのハイリスク者は重篤となります。

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プロトプラストとスフェロプラストとの違いとは

細菌が細胞壁を取り除かれて球形になっているが生き続けている状態をプロトプラストといいます。

球形のままでいられるのは、外液の浸透圧が高まっているからです。

ちなみに、グラム陰性菌の場合、抗菌薬の作用でペプチドグリカン層が失われても、外膜が残っていることが多く、その状態はスフェロプラストといわれます。

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針刺し事故の後にすべき感染症の検査と投薬

針刺し事故とは

針刺し事故とは、医療従事者が、患者に注射をした後に、注射針を誤って自分や周りの人に刺してしまうことをいいます。

事故後の感染症検査

血液等の媒介で感染し得る病原体の主なものは, B 型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus:HBV)、C 型 肝 炎 ウ イ ル ス(Hepatitis C virus:HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(Human immunode ciency virus:HIV)です。

事故が起きた場合、注射をした患者が、これらHBV、HCV、HIVの感染者か否かを確認する必要があります。

すなわち、患者のHBs抗原、抗HBs抗体、抗HCV抗体、抗HIV抗体の有無を確認します。

また、事故者である医療従事者についても、抗HBs抗体および抗HIV抗体の有無を確認します。可能であれば、抗HCV抗体の有無についても確認します。

B型肝炎ウイルスの検査と薬

B型肝炎ウイルスの場合、1 回の針刺しにおける感染率は、その時のウイルスの感染力にもよりますが、感染力が 高い場合は 20 〜 30%といわれています。

事故者のHBS抗体が陰性の場合、事故から24時間以内に、HBIGすなわち高力価抗HBSヒト免疫グロブリン(静注用ヘブスブリン®IH)と、HBワクチンとを接種します。

HBワクチンは三角筋に投与しす。さらに、HBワクチンと異なる部位にHBIGを接種します。

事故後、1年間は経過観察が必要です。

なお、HBワクチン接種は1クール3回接種(0、1、6ヵ月)が推奨されています。

3回接種後の 抗体獲得率は80 〜 95%で、そのうち約20% の抗体は、数年後に検査で検出されないレベルまで減弱するといわれています。

しかし, この場合はHBVに対する免疫応答は保たれているため、HBワクチンの追加接種は必要ありません。

C型肝炎ウイルスの検査と薬

C型肝炎ウイルスの場合、1 回の針刺しにおける感染率は 2 〜 3%ですが, いったんキャリアになるとその 1/3 が肝細胞癌を引き起こすといわれています。

感染防御できるワクチンが無いため、HCV抗体の投与や、HCV-RNA検査、肝機能検査を継続し、1年間の経過観察のみを行ういます。

観察期間にASTやALTが上昇し, HCV-RNAが陽 性となった場合にはIFN治療を考慮する必要があります。

IFN 投与は、慢性化を防止するためには必須であり、感染後3ヵ月以内にIFNを投与すれ ば,4週間の投与期間でも80%が完治します。

なお、IFN 投与は発熱全身倦怠感などの副作用が強いと言われます。

HIVウイルスの場合の検査と薬

HIVウイルスの場合、1 回の針刺しにおける感染率は 0.2 〜 0.3%です。

HIV感染の危険性は血液の量と傷の深さ、HIVウイルスの量によって影響し,、曝露した血液量が多い、深い傷である、中空針による切創である場合などにリスクが高くなります。

事故から1〜2時間以内に、抗HIV薬(HIV曝露後予防内服(Post-Exposure Prophylaxis; PEP)薬)を2剤以上、4週間継続して予防内服します。

具体的な薬剤は、ウイルス DNA が宿主細胞 DNA に組み込まれる段階の前半に有効な HIV 逆転写酵素阻害剤と、後半に有効な HIV プロテ アーゼ阻害剤です。

基本は、ジドブジン+ラミブジン(AZT+3TC)あるい はテノホビルジソプロキシルフマル酸塩+ エムトリシタビン(TDF+FTC)の核酸系逆転写酵素阻害薬2種の組み合わせが推奨されています。

また、この2種の組み合わせに追加して、プロテアーゼ阻害薬であるロピナビル/リトナビル(LPV/r)などを服用することも推奨されています。

ただし、薬には、副作用が多い、飲みづらい、長期の安全性が確立していないなどのデメリットがあるためメリットとデメリットを考慮して服用を決定する必要があります。

なお、事故後2時間以内で決断がつかない場合は1回目を服用して、次の服用時間までに決めることにしてもかまいません。

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検査

血液培養の注意点などの解説

血液培養とは、血液を培養ボトルに入れ、35℃〜37℃で振盪培養し、菌を検出する検査です。

以下に血液培養の注意点などを解説します。

採取のタイミング

原則として、敗血症を疑う状況で採取します。

菌を検出するためには、抗菌薬を投与する前に採取することが重要です。

採取部位

上肢の静脈からの採取が推奨されています。

下肢からの採血や、カテーテルを経由した採血は、コンタミネーションの危険が増します。

ただし、カテーテル関連血流感染症を疑う場合は、カテーテルからの採取が重要です。

なお、動脈血から採血するメリットは確認されていません。

消毒

消毒には、「アルコール+ポピドンヨード」、「ヨードチンキ」あるいは「クロルヘキシジンアルコール(0.5%以上)」が適しています。

なお、アルコールのみでは、バシラス属やクロストリジウム属が消毒しきれません。

採血量

好気ボトルと嫌気ボトルの2本を組み合わせて「1セット」とします。

1セットあたりの採血量は20~30mlとし、各ボトルに10〜15ml注入します。

ボトルに注入する血液量には、下限と上限があります。

下限を下回ると、検出感度が下がります。

上限を上回ると、偽陽性や偽陰性の発生頻度が高まります。

なお、もし末梢循環不全などで十分量の血液を採取できない場合、血液を好気ボトルのみに注入して培養検査を行います。
これは起因菌の多くが好気ボトルで培養可能だからです。

セット数

望ましくは、24時間以内に2セットないし3セットの採取を実施します。

同時に2セットないし3セットの採取をしても構いません。

典型的には、左右の上肢から採取し、2セットとします。

複数セット採取のメリットとしては、検出感度の向上や、コンタミネーションの判断に有用であること等が挙げられます。
なお、感染性心内膜炎の診断には、時間をずらして3セット採取することが有効です。

培養時間

培養時間は、5日間で充分とされます。

ただし、つぎの菌種は、5日間では発育困難な場合があるので、起炎菌として疑う場合は、5日の時点で陰性でも、延長培養することが薦められます。

・Helicobacter cinaedi
・Francisella spp
・Brucella spp
・Bartonella spp
・Aggregatibacter spp
・Cardiobacterium spp
・Mycobacterium spp
・Nocardia spp
・Campylobacter spp
・Candida glabrata
・Cryptococcus neoformans等。

また、次の菌はボトルでの発育が困難とされます。

Leptospira sppおよびLegionella spp

陽性判定後

機器により陽性判定されたボトルは、転倒混和し、スライドに滴下して染色します。

そして、染色結果をもとに、血液寒天培地を基本に、チョコレート寒天培地、グラム陰性菌用培地、嫌気性菌用培地など、使う培地を選び、また、培養方法を決定します。

その他

血液が固まらないようにするため、ボトルには、抗凝固剤のSPSが含有されています。

抗凝固剤のSPSは、ほかの抗凝固剤に比べ、菌に対する発育を抑制する効果が低いため、血液培養ボトルに含有させるのに適しています。

ただし、SPSは、ナイセリア属や一部の嫌気性菌については、発育を抑制してしまうというデメリットがあります。

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医療従事者向け

栄養要求性連鎖球菌NVSの種類と培養方法

NVSの種類

栄養要求性レンサ球菌(NVS:nutritionally variant streptococci)とは、発育にL-cysteineとpyridoxal hydorochloride(ビタミン B6)を要求する、通常の連鎖球菌とは栄養要求性が異なる菌です。

NVSは、ヒトの口腔内や消化管内に常在する viridans streptococciのグループに属する菌です。

具体的には、下記の4菌種があります。

Abiotrophia defectiva
Granulicatella adiacens
Granulicatella elegans
Granulicatella balaenopterae

NVSは、微好気性のグラム陽性球菌です。
性状は、カタラーゼ陰性、PYR陽性、LAP陽性です

感染性心内膜炎、敗血症、結膜炎、中耳炎、膵膿瘍、創部感染なとの原因菌として知られています。

NVSの培養方法

HIA血液寒天培地(以下、HIA)や、TSA血液寒天培地(以下、TSA)での好気培養では、発育しません。

しかし、HIAやTSAに、pyridoxalあるいはL-cysteine添加した培地では発育が認められます。

また、チョコレート寒天培地、GAM寒天培地、ブルセラHK寒天培地での炭酸ガス培養もしくは嫌気培養でも、発育が認められます。